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『ハンドメイド・ジュリ』は今日も大変賑やかです 〜元OLはものづくりで異世界を生き延びます!〜  作者: 斎藤 はるき


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2 * 色つきスライム様いらっしゃい

 


 却下されました。

 いえ、語弊。

 禁止されました。

 何を?

 スライムの繁殖。

 珍しいっていうから、捕獲できたらラッキーな訳でしょ? スライムは雑食で、そんなに危険性はなくて、分裂して勝手に増えてくれるなら、繁殖させたら楽じゃない?


「分裂は個体によって、全く違う。大きさが違うんだ。半分に分裂すれば確認がとれやすいが、中には握りこぶしにも満たない大きさのを数体分裂させる個体もいる。小さくてもスライム、なんでも吸収するスライムが隙間などから逃げだしたり、落ちて人間の気づかぬうちに手当たり次第に周囲のものを吸収するかもしれないし、そして何でも吸収するんだぞ? 間違いなく時間はかかるが檻なんて役に立たなくなる。どうしてもというのならば冒険者ギルドにスライムが消化吸収に時間がかかる魔物素材をいくつか討伐依頼をして集めてもらい、それを箱などに加工するしかない。どのみち今すぐは無理だし、用意に手間がかかる」


 という説明を受けました。

 そうかぁ、駄目かぁ、とブツブツ言ってる私は何故か小脇に抱えられたままの姿でしたよ。執事さんも使用人さんも抱えられてる私と普通に喋る。主人であるグレイセル様に『小脇に抱えるのは如何なものでしょう?』とツッコミを入れないのは誉めるべきなのかどうか疑問があるけれど。

 これ恥ずかしいのよ、体勢もだけどこのイケメン貴族に接触されてるから。


 それにしても、何故だろう。

 今後この小脇に抱えるシステムが定着する予感がどうしても拭えない。










 と、いうことがあって。今すぐの繁殖は諦めて数日後再び森へ。

 あ、先日のレッドスライム様はアクセサリーと、大きな板状に変身いたしました。

 板にして、細かく砕いたりカットすれば、透明の疑似レジンに沈めたり出来るし、そのままカットして磨けば天然石やガラスに劣らない見た目なので、用途は無限です。


 それと余談。

 色付きスライム様は大陸全土にいるんだけど、比較的この国は発見率が高いそうで。

 金色と銀色のスライム様の入手は非常に困難、しかも輸送の問題(檻も食べる可能性あるしね)があるので現状としては素材と見なすことは不可能だけど。

 それでも大きな収穫ですよ。

 疑似レジンの硬化を短縮する添加物と色付きスライム様がククマットから近い森で手に入ると判明したんだから。


 ただ、毎回侯爵家の皆さんを連れ回す訳にはいかないので、私がここへ来る手段なり、スライム様とルックの樹液採取を誰かに依頼することを考えなくては。

 ルックの樹液はスライムを硬化させて分裂やその場で死んでしまって地面のものを巻き込んで硬化してしまうのを防ぐために持ち歩く冒険者が多いから、冒険者ギルドでも買えるんだけど、グレイセル様いわく少々お高くつくのだそう。

 そりゃね。生産者→仲買→小売りって人を介せば介すほど、手数料がかかるのと一緒だもの。

 保存状態さえよければ半年持つなら、その間に入手手段を考えよう。


 今はスライム様。

 そう、《ハンドメイド》の素材様。


「えへ、えへへへへへへ」

 不気味な笑い。

 私です。

 そして今日もグレイセル様に小脇に抱えられたままの状態で。

 先日のレッドスライム様の件で、私の奇っ怪な言動になれた様子の侯爵家で働く人々とグレイセル様。

 不気味な笑いよりスライム様を見つける度に走り出す私に肝を冷やすと大騒ぎ。

 ほとんどが無色透明のスライム様なんだけど、今日は紫色、アメジストスライム様を捕獲いたしました。

 幸運です。

 紫というより確かにアメジストの薄い紫に近い色合い。綺麗な色です素晴らしい。ただ何かを吸収している最中のようで、不純物がみえる。これについては数時間から半日で完全に吸収されるので家に帰る頃には綺麗になってる。

 物を消化吸収してるときは他のものをほとんど取り込まないらしいから、疑似レジンになるタイミングを見計らって作業しなくては。

 夜中だとつらいわね。

 硬化を遅らせる添加物もいずれ探そう。


「スライムが素材になる日がくるとは驚きです。ジュリ様にかかればもっと他の素材になる魔物が見つかるかもしれません」

 森へ出かけると一日がかりなので、今日はアメジストスライム様を捕獲、午後になったから早目に引き上げ市場でご飯をご馳走してくれるというグレイセル様のご厚意をありがたく受け、現在みんなで賑やかな酒場でお食事中。

 グレイセル様もこういうところ来るんだ、ってちょっと驚いたけど、王都で騎士団にいた頃は仲間とよく城下町で飲み明かしたそう。それとこうして色んなところに出歩けば自分の目で領地の状態を確認できると。

 さすがです。


 そして、執事さんの言うとおり。

「確かに……ジュリの扱うものは日用品や武具、それから食材とは違う感覚で見ることになる」

 ふむ、と納得したのはグレイセル様も同じ。

「我々からすると処分に困るスライムが素材に化けるんだから、他にも可能性がありそうだな」

 そうなの。

 それは私も思ってた。

 だって、毛皮、皮、鱗、牙、爪は武具に非常に向いてる素材が多いし、質が劣る弱い魔物のものでも日用品に変化する。ハルトが持ってきてくれる和牛ことブル系やバード系、他にも食用になる魔物がたくさんいる。

 それを聞いたとき、魔物ってもっとハンドメイドの素材になるんじゃない? って思ったのは事実。

 ただ、意思の疎通がね。


「固まる土のようなものが欲しいと言っていただろ?」

 って以前グレイセル様が持ってきてくれたのは

 煉瓦になる素材。確かに練って乾燥させれば固まるのは一緒だけど。私が欲しいのは紙粘土とか、更なる希望は樹脂粘土のようなきめ細やかな滑らかな素材。出来れば色を入れたいので白がいい。

 この世界にそういったものがないから実は『粘土』の自動翻訳も若干バグった。『紙粘土』と『樹脂粘土』が纏めて『粘土』と聞こえてるらしいことが発覚した時は遠い目をしてしまいグレイセル様が不思議そうにしてたなぁ。


 何とか説明してグレイセル様には色は白が望ましく加工がしやすいもので乾かすと硬化してくれる土とかそれに近いものって覚えてもらったから、グレイセル様は何となく私が求める粘土がどういうものか分かってくれてる。

 因みに、ライアスが提示してきたのは陶器に使われる土。私には陶器を作る技術ありません。


 というわけで、自動翻訳という素晴らしい恩恵になかなかの負荷をかける事態が頻発。

 これはハルトとマイケルも今でも苦労する一例といってたわね。

 そういうわけでわたしにとって必要な新素材の発見は困難を極めている。


 そして私は木の箱の蓋をそっと開け、確認してから今食べた柔らかくジューシーなバード系肉の小骨を入れる。

 とにかく、今はこのスライム様ですよ。

 よしよし、明日作業出来るように今日はゆっくり消化吸収シテクダサイ。










 アメジストスライム様は本当に綺麗な色。

 先日のレッドスライム様も。

 切断と粉砕で表面が白く粉っぽくなるけどそれは疑似レジンを薄く塗るか疑似レジンに沈めてコーティングしてしまえば解決。

 しかもライアスが絶妙なヤスリと紙ヤスリを見つけてきてくれて、それで磨くとね、曇りガラスみたいになる。形を均一にして穴をあければマットな感じのビーズやパーツになるのよ。

 これはこれで良い。


 しかし、本当に綺麗なのよね。

 なんでみんな今までこれの良さに気づかなかったのか不思議。

 厄介モノである反面、土に埋めてしまえば分解されて大地の栄養になり、魔素も他に吸収されるからわざわざ『他の利用方法を模索しよう』とはならなかったのかな。

「あとは緑と青かぁ、これなら期待大だよ」

 そう、スライム様の可能性は期待大。


 赤と紫の疑似レジンを細かく砕いただけのものをふるいにかける。微細なものも無駄にしない。疑似レジンに沈めれば立派なアクセントになるんだから。

 ふるいのなかには不揃いの小さなかけら。それをどうするのか。


 今朝偶然近くの道端に小さいスライムがいたからと近所のおばちゃんが素手で鷲掴みで持ってきた (笑)。

 おばちゃん最強説はここの世界でも有効らしい。

 希に出没するらしいの。魔素を溜め込んで成長するから、実は魔物はどこでも発生可能らしく広大な農地など人の少ない所は発生しやすい。

 ただ、魔素が停滞して集まって時間をかけて成長しないと魔物にはなれないとかで、こういう人がいる場所では弱い魔物のスライム様とかがたまに発生するだけとのこと。


 本当は見つけたら直ぐに穴を掘ってその中で潰して埋めてしまうらしいけど、私が小さくて透明のスライムなら毎日作品作りに勤しむから常時欲しいものなのでいつでも買い取りすると宣言したら、いい小遣い稼ぎになると発見次第持ってきてくれる。

 この地域じゃ今や小さい綺麗なスライム様は小遣い扱い。

 農地を荒らす要因を自発的に探すことで予防にもなるし、小遣い稼ぎになるし、私は素材集めが楽になる。

 最高です。


 で。

 この小さく透明の上質なスライム様から出来たレジンに一気に突入。ライアス特製の長いピンセットで次々引き上げて硝子板にならべていく。

 さざれ石。

 水晶とか、アメジストとか、細かく不揃いな天然石をまとめて売るときの総称だったかな?

 それを今は試しているのです。

 すこし時間がたつと透明疑似レジンはよけいなものが流れおちるから、今度は別の硝子板にうつす。そしてそれが乾くのを待つこと二時間ほど。

 今回はルックの樹液はつかわなかった。あまり速く固まるのは今回の作業では不要ですから。

 硝子に接触していた面はどうしても綺麗な平面になるけど、集めてしまえばそれもほとんどわからない。

「おおっ、いい感じ!」

 小さな艶やかな天然石に負けぬ劣らずのさざれ石が出来た。


 スライム様、いつでもわたしのところへお越しください。

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