2 * 添加物の採取先には
本日二話更新しました。
今日はククマットを離れ再びダンジョンのあるイルマの森に来ていた。
理由はとあるものの採取。
スライム様? ああ、スライム様は数匹定期的に自警団さんが捕獲してくれる約束をしてくれた(グレイセル様のおかげだね)ので問題ないのです。
今日は。
「あれだ、ジュリのほしいものは」
「へー、あれが、『添加物』になるルックの木ですか……」
最近、スライム疑似レジンを活用したパーツで色々作り貯めしてるんですよ、ペンダント、イヤリング、リングに嵌め込むためのルースなどのアクセサリー類。それからバレッタにチャーム付きヘアゴムにカチューシャといったヘアアクセサリー。他にも小物を考案中。ライアスや他の職人さんが実に優秀な方ばかりで、次々パーツを作り出してくれるので非常に捗ってます。
他にもレースを活用した小物入れに最適な袋や髪をまとめた後にサッと飾れるシュシュとかも。裁縫が得意な近隣女性陣に作り方を教えて材料渡して日々作って貰ってます。
でも、こう手広くやりはじめるとそれに比例して入手したくなるものが増える。
私と一緒に異世界に飛ばされた召喚パーツたちは代用品がどんどん増えてる反面、それでは対応できない消耗品は怖くて使えないままだ。
例えば伸縮性のある透明なテグスはこちらでは存在しない。ゴムとちがって透明だから天然石のブレスレットとかそれで作れたらいいなと思っても、なかなか踏み切れない。そんなに使う機会がないと思って二つしか購入してなかったんですねぇ。劣化して使えなくなる前に消費するつもりだけど、その前にサンプルとして残しておかないと素材探しの時に役に立つかも知れないから悩み所ですよ。
そして、スライム様なんですが。
使い慣れてくると人間というのはもっと便利にー!! ってなるわけで。
代用品なんですよ、スライム様は。疑似レジン。元いた世界のレジンじゃない。
レジンって、紫外線で硬化するまでの時間が凄く短縮されるんですが、スライム様は、どうしたって数時間。試しに太陽に当ててみました、はい、一応ね。当然無意味な行為なわけで、グレイセル様がうちひしがれてる私を不思議そうに見ていたのは記憶に新しく。
恨み節的な愚痴を溢していたら
「スライムが唯一捕食しないものがある、それを与えるとスライムが速く硬化して死んでしまうんだよ。それでは代用にならないだろうか?」
ですって!!
なにこの知恵袋的なイケメン!!
目をキラキラさせたので、察したイケメンはこうして私を再び護衛してくれてます。もちろん先日の執事さんと使用人さんたちも。
グレイセル様の指示で、大柄な力持ちそうな使用人さんが背の高い木の枝を一本引き寄せると細い枝を剪定ハサミで切ってそれをグレイセル様に渡す。そしてグレイセル様はその枝の切り口を見せてくれた。
切ったばかりのその枝の断面からは透明な樹液がすでに滲み、小さな水玉をいくつもつくっている。傾けて数秒でポタポタと滴を成して落ちるほど水分の多い種類の木なんだね。
「この樹液だ、匂いがわかる?」
「あ、はい。なんだろ、独特の甘い香りがしますね」
砂糖を焦がすとカラメルが出来るでしょ? あれに近い、香ばしいような甘い香り。でも生木だから若干の青臭さもする。
「このルックにそっくりな木があるんだ、だから判別するときはこうして切って断面の香りを確かめることが多い。今はこの木が水分を多く含んでいるから断面を見るだけでわかるが、冬から春先は匂いで判別することになる」
「なるほど。ということはこの樹液が集めやすい時期もある程度決まってるんですね?」
「ああ、これは保存も効くから冒険者もまとめて採取して携帯している者も多いだろうな。スライムは子供でも倒せる弱い魔物だが、放っておくと分裂を繰り返して増殖する。しかも死ぬと周囲のものを巻き込んで硬化するから処理が面倒臭い」
「あー、それらを上手く処理するのが、ルックの樹液ということですね? かけるだけでも硬化するんですよね? それなら、生きてるまま硬化させて土に埋めれば分裂しない、他を巻き込まないから」
「その通り」
枝を傾けたグレイセル様は自分の手のひらに樹液を垂らす。
「人間には害は全くない。皮膚に触れても大丈夫だ」
「それは助かります」
「一般的なスライムなら……」
そこまで言ってグレイセル様は執事さんに目配せ。すると執事さんがポケットから直径二センチくらいで、高さが十センチくらいの瓶を取り出してグレイセル様に渡す。
「この瓶半分の量でかなり硬化を速めるはずだ、たくさん入れたからといって直ぐに固まるということはないが、量の調整で硬化する時間を調整することは可能だろう」
ほんとに、この人何者?!
侯爵家の次男なのに、スマホ片手に分からないことがあれば検索だー、並みに便利なんですけど。
瓶に密閉して冷暗所に置けば、半年は効果が続くというので、グレイセル様たちが持ってきてくれていた(至れり尽くせりで怖いわー)瓶十本無駄にすることなく集めることにした。
水分の多い木だけど、ドバドバ出るわけじゃないので、それなりに時間はかかったの。
一本集めるのに約二十分。地味なその作業を世間話で過ごしていた時。
「あれ、珍しい」
使用人さんの一人が急にちょっと大きい声を出してびっくり。
「ああ、久しぶりだな」
グレイセル様が同じ方向を見て言ったのよ。
「レッドスライムだ」
それは、宝石のルビーよりも明るく薄い色をした、透明なプルンプルンの美しい、神々しい物体。
きたーーーーー!!!
色付き疑似レジン様!!!
気づけば、瓶をグレイセル様に押し付けて私は一直線にその神々しいボディに向かって猛然と走っていました。
そして後ろから追いかけてきたグレイセル様に腕を引っ張られ、小脇に抱えられました。
スライムを捕獲する前に私が捕獲されるという。なんだこれ、さすがに恥ずかしい。
「言っただろう、絶対先頭に立つなと。小さくても素早く攻撃力のある魔物がこの森には生息している、ジュリでは回避が難しい」
「……ごめんなさい」
「分かればいい」
小脇に抱えられたままの私の横を執事さんが追い越して、その先でもぞもぞと雑草を取り込み中だったスライムをそっと抱えて戻ってくる。
「あぁぁぁぁぁっ! 美人! 神々しい!! お美しいお姿を拝見出来て感激です!!」
私の頭のおかしな発言に目が点になっている。
全員、何言ってんの? 的な空気。
いいのよ、本心だから!!
「こ、この色付きスライム様って何色存在するんですか?!」
「赤、青、緑、紫、ならこの森でも今日のように希に見つかる。それ以外だと……隣国になるが、金色と銀色の超希少スライムが出現するダンジョンもある」
ハルトが来たら要確認事項だ。
「薄い色のスライムとかいないんですか? あと、黄色は?」
「生まれたてや分裂したての色付きはみんな薄い色だ。そういえば黄色はこの国ではほとんど見かけない。他ではいるようだが」
おう、ここに来てスライム様の知識が増えたわね。やっぱりゲームとか小説の中の異世界とは違うのねと感心。
黄色がいないのは残念だけど、そのうちスライム様を着色するのに適した染料も見つけるつもりだったから、問題なし。むしろけっこう色にバリエーションがあるのに驚いたし、金色と銀色は是非ともお会いして入手してみたいものですねぇ。
ふふふ、疑似レジン作品のバリエーションが広がるわ。侯爵家のコースターも、色付きスライム様の入手次第でちょっとデザイン変えたものをサプライズで用意してもいいわね。
あ、そうだ。
その際だからもう一つ質問しよう。
「ちなみになんですけど、色付きは珍しいんですよね?」
「ああ、スライムを百体集めたら五体混じっているかどうか、といったところだな」
「それならこれ、繁殖させます!!」
透明の赤いスライムを目を輝かせながら見つめる私が放った言葉に。
全員ドン引きしました。
グレイセル様まで。
基本何をしても話しても平気な顔してた人なんだけどね。
え、ダメなの?
ダメなのねその顔。
なぜだ。




