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『ハンドメイド・ジュリ』は今日も大変賑やかです 〜元OLはものづくりで異世界を生き延びます!〜  作者: 斎藤 はるき


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13 * 大市前に盛り上がった

13章はここまでです。

 エド薬店が出す 《子供のお薬相談所》とのコラボがあっという間に決まったことでお手伝いをお願いしたらやる気に満ちてるのは何故か領民講座の講師たち。

 特に元執事のエリオンさんと、グレイたち兄弟の元家庭教師だったターニアさん。

「「何事も経験です」」

 とえらい真面目なお言葉言った割にはウキウキしてる、顔が。


本日備品が揃いくじの試験運用 (?)日。

「いやぁ、だってくじ引き体験させてもらえるんですよね! ちょっとワクワクしますよ!! 童心に返るってこの事ですよね!!」

 とサラッと心の内を暴露された二人に睨まれ『ひっ!』っと声をあげたのはカイくん。

 あ、くじ引き経験したかったのね。

「私も楽しみだ」

 あ、グレイも。

「俺もー」

 ローツさんは何となく分かる。

「僕も楽しみにしてたんだよ」

 マイケルがウキウキしてるのは珍しいわ。

「ふふっ、いい大人が皆で子供みたいな顔してるわぁ」

ケイティ、こういう時の皆の制御よろしくね。

「僕も!! 今日呼んでくれてありがとうジュリ!!」

 うん、ジェイル君はもちろんやってみてね!

「楽しいこと考えたじゃない!」

 ……あれ、なんでリンファ?

「お恥ずかしながら楽しみです」

 うん、リンファがいるならセイレックさんいるよね。

「ドキドキしますね!」

 ちょっと待て、普通にアベルさん混じってるのはおかしい。

「これ、特別販売占有権に登録しますか?」

 レフォアさんよ。

「面白い事業ですね」

 ティアズさんよ。

「登録されたらすぐ版権買うように陛下に進言しましょう」

 マノアさんよ、あんたたちまでどうしている? 今日はフォンロンギルドへの報告書を纏める日じゃなかったか?

「おおっ、皆そろったな!」

お前か、ハルトお前だな、リンファたちに喋ったのは。

「これ、大市の手伝いをやる気じゃなくて、くじ引きやる気満々なだけね」

「そうとも言うわ、でもほら一応大市の日は講座休みじゃん、手伝ってくれたらくじ引きさせてあげるって言ったじゃん、そこはやる気になったってことにしてあげた方がいいのかと」

「ものは言い様だわ、さすが商長」

 キリアと二人、布に景品を包みながらそんな会話をした。

「くじ引きいえーい!!」

 ハルトがハイテンションだ。あんたがそんなだから釣られてるんだわ皆が。勝手にまた着てる法被とハチマキ汚すんじゃないよ。


 さて、早速木工品店から届いた小さな引き出しが沢山のくじ専用箱とくじ引き本体を御披露目。目立つように紅白に塗ってもらったから存在感あるわ。

 今回せっかくなので新作の男の子用バッチを見てもらうためにも『武具バッチ』だけを用意。

 デザインについてはライアスに一任したの、グレイやローツさんたちにお願いしようとしたんだけど、これが見事に意見が割れまして。何が割れたかって? あのね、一等のバッチよ。何をモチーフにするかで揉めに揉めて、イラッとしたからライアスに任せたわ。

 なので、一等だけはここにいる人で私とキリア以外はまだ見てない。他は白土が土台のものだからね、うちの店の人たちはみんな知ってるけど、全貌は把握してないからほぼ初お目見え。

 どうやら見たくて仕方ないらしい。

 というか、ターニアさんが見かけとは裏腹に非常に高揚してる。

「私、武具マニアです。本物は所有できませんので本を集めています」

 あ、なるほど。◯◯女子とかそっち系の人か。こっちの世界もいるんだね。


 まず、やっぱりこういう時は子供が優先だよね!

「イルバ! 頑張るんだよ!!」

 何を頑張るの? と聞きたいとこだけど、裏手の託児所からキリアが息子のイルバ君を連れてきたのはくじを引かせるため。ま、作り手の特権ということで許可しました。託児所で体験させても良かったけど、今回はあくまで体験、バッチとして使えるピンがまだ全部付いている訳じゃないし、女の子用のくじ専用パーツも完成してないからね、あげるわけにはいかないから。

 くじ引き第一号になったイルバ君は、大きなくじの筒を抱えてくじの棒が入ったそれを体を使って振ったあと、キリアに手助けされながらひっくり返した。

「あ! 青だ!」

 そして、ハルトがハンドベルを大きく振った。

「おめでとー!! 二等でーす!! やったじゃんイルバ!!」

 おおっ! と歓声が上がったわ (笑)。キリアが何故かガッツポーズだ、やっぱり良いのが当たると嬉しいんだろうね。しかもいきなり良いのが当たったからテンションは上がるよね。

「じゃあ二等は三ヶ所、好きなところ一ヶ所だけ開けてみて」

「うん!」

 イルバ君が青い引き出しの取っ手がついた一ヶ所を開けて、そこから私が布に包まれたそれを取り出す。

「はい、どうぞ」

「なんだろうねぇ、イルバ」

「えーっとね、えっと、あ、盾だ!!」

 イルバ君が当てたのは丸い形の盾が描かれたもの。その上に薄く剥いだ螺鈿擬きを貼ってあるのでオーロラカラーに輝いている。バッチは四角で縁取りは銀色で塗装されている。二等は他にも丸、六角形の三種類の形があって、絵柄は拘ってハルトやグレイが所有しているものを見せてもらったりもしたから多種多様。そして結構細かく描かれているから大人が見ても楽しいかも。

 ちなみに三等は螺鈿擬きなし、そして金銀以外の色の縁付き。絵は二等と同じで、形も丸、四角、六角形のどれかになっている。

 四等は全て丸で、絵柄も簡素化された可愛い感じになっている。それでもデザインは剣だけでも数種類あるので、連続して同じものが当りにくいような工夫を凝らしてある。

 というか、この武具のデザインを男達に『良さげなの提案よろしく』と言ったら凄いことになってしまい、ティアズさんや絵の上手な従業員達がドン引きしてたんだけどね……。


 続いてはジェイル君。

「マイケル、魔法とか【スキル】での不正はダメだからね」

「……」

 そこ、黙るんじゃない。

 ということで、【英雄剣士】と 《回復師》に息子のために不正をしようとするマイケルを見張っててもらい、ジェイル君がくじの筒を振って、そして逆さにすると。

「ああー! 四等でしたー! 残念!」

 そう言ったハルトがケイティに蹴られた。普通に可哀想だった。

「ローブだ!」

 でも当の本人は、沢山の引き出しから何処を選ぶか迷ったり、包まれたそれを手にして中身がなんだろうとドキドキした様子でかなり楽しそう。そしてバッチがローブだったと分かったら結構いい反応。ま、本人が【称号:魔導師見習い】持ってるからね、ローブは嬉しかったみたい。

「絵の感じ可愛いー。私これなら四等だけ集めたいかも」

 ジェイル君の手元を覗き込んでそう言ってくれたのはリンファ。

「かわいいでしょ? 色も明るくしてあるから、女の子でも楽しめるかも」

「鞄にいくつか付けたら可愛いわよこれ」

「あ、実際にいたよ日本でも。バッチをリュックとかに沢山付けてた子」

「帽子に付けたりもするわよね?」

「うんいたいた」

 その話を聞いていた母親二人の目がキラリ。あ、これ後で息子たちに真似させるね。


 当然、五十の引き出しに対して一等は一つだけなのでなかなか一等は出ない。二巡やってエリオンさんが二等、マノアさんが三等を当てた以外は全員が四等という結果に。このじれったさが良くも悪くも『もう一回!』とさせるんだろうね。

「ではご好評につき三巡目いってみよー!!」

 ハルトが勝手に三回目のくじ引き宣言。というかノリノリだわ、こいつ。

 そして。

 四等が連発する最中、アベルさんが三等を当てて、そしてついに。

「あ?!」

 棒の先が金色。それは引き出しの取っ手の色が金色のたった一ヶ所を開けられるくじの棒。

 引いたのはローツさん。

「まさかのローツさん!!」

「出た! さりげなくいいとこ持ってく男!」

 私とキリアのそんな叫びもかき消される歓声が。あれ、歓声があがるようなことしてる訳じゃないんだけどな。

「ローツ様みせて!」

「みたい、みたい!」

 ジェイルくんとイルバくんが目を輝かせながら催促してくるのをちょっと照れ臭そうにしながらローツさんは小さな布袋の紐をほどく。

 一等は特別に専用の袋付きにしてみたよ。

「ああ! かっこいい!」

「わぁっ! 斧だ! すごいすごい!」

 子供らしい明るくちょっと高めの声。

 これのデザインの改良、ライアスがんばったなぁとしみじみ思う。

 一等は金属製で、形は楕円と丸の二種類になった。初めは武具の形そのものにしようとしたんだけどさすがに手間がかかりすぎるということで、安全性も考慮して丸と楕円の金属にそれらしい凹凸を打ち出してから上に金属にも使える塗料で絵を描くことに。

 そして金物職人の修行になるとライアスが工房を引き継がせたお弟子さんの所に持ち込んで作らせたものなのよ。

「金属打ってればいいわけじゃなくてな、絵を描くのも作りたいものをデザインするのに必要な技術だ、それの練習にもなる」

 って言ってたんだよね。そして出来上がってきたのが銀色の金属に、立体的に描かれている剣、斧、盾、兜の四種。他はデザインがまだ仕上がってないということで今回は四種類だけになったとは言ってたんだけど。


 ……男達の反応が凄い。そこにターニアさんが混じってなお凄い。異様だ。

「ローツさん、それ返してね」

「え!!」

「まだピン付いてないし、実際にくじの景品になるやつだからあげないよ」

 泣きそうな顔をするんじゃない!! あ、ジェイルくんとイルバ君は全部持って帰っていいからね。そして四等なら全員持って帰ってよし。そして大人たち、あんた達が当てた二等、三等は返しなさい。 そんな顔してもあげないよ!!

「一等、二等、三等に拘るなら四等のバッチ頂戴?」

 リンファ、皆の隙に付け込むようなことはやめなさい。セイレックさんので我慢しな。


「ちなみになんだが」

「うん?」

「一人、何回までくじを引いていいんだ?」

 引いていいか、聞くのね、グレイが。

「……金に物言わせて大人買いは禁止」

 いたよね、ガチャガチャとか、空になるまでやる人。大人の特権みたいになってるあれ。百円大量に用意してただひたすらに回し続ける人、見たことある。

「というか、基本子供対象のくじなんだからそこは遠慮して欲しいわね」

「子供とは、何歳までだ」

「そりゃ、十五でしょ、十六で成人なんだから」

「なら十五歳以下は何回でも出来るのか?」

 面倒臭いわ!!


 年齢制限はかけず、その代わり一回やったら並び直して引いて貰うのはオッケーにする。それでも一日で最大三回まで。

 そして、あまりにも人気の場合は年齢制限含めてその都度制限をかける。

 で、落ち着いた。なんだこれ。


 下らない制限をせずに済むよう、大人たちよ、良識の範囲内で楽しみなさい。


「まさかの大人のあの反応。特にグレイとローツさんね」

「あははは! 見たかったねぇ!」

 夕飯を食べながら私がため息混じりに話すとライアスもフィンも面白そうに笑う。

「いいじゃねぇか、楽しみが増えたってことさ」

「そうだけど」

「案外貴族の方々がはしゃぐってのは分かる気がするよ」

「そう?」

「あの人たちは子供のころから厳しくしつけられるからね。人前ではしゃぐなんて子供時代は送ってないんじゃないかい?」

「そうだな、俺たちみたいな庶民は大声で騒いでバカやって好き勝手しても笑い話で済んだけどな、あの人たちはそんなことしたら周りから何を言われるか分からねぇ、紳士淑女の嗜みから外れることすりゃ、子供だって批判の的さ」

「あー、確かに」

「そう考えれば、グレイセル様やローツ様があのお歳ではしゃいじまっても仕方ねぇさ。俺たちより、ずっと我慢を強いられた子供時代だったろうからな」

 そうか、と妙に納得してしまった。

 グレイとローツさんの 《ハンドメイド・ジュリ》への愛着はそういう子供時代が影響しているのかもしれない。可愛いもの、キラキラしたものなんでも目を輝かせて見るのは歳も性別も関係なくて、新しいもの、知らなかったものが次々生み出される環境に刺激されているから。

 やっぱり、『価値』はお金では解決できないどうにもならないものはあるんだなと思う。


 今、この環境に必要なのは高級で希少価値の高いものじゃなく、大人も子供も楽しめる、はしゃいでしまう環境なのよ。

 それは物でもいいし、イベントでもいい。なんでもいいのよ。

 必要なのは、好奇心を刺激するワクワクする環境。


 大市でのくじ引き。

 薬屋さんとのコラボ。

 大人も子供もワクワクする何か。


「俺も並んでくじ引きしてみるか」

「ライアスってくじ運強そう。一等をいきなり引きそう。そして子供たちに恨めしそうに睨まれそう」

 三人で笑って、次の大市を待つ。


 そうだね。

 こうして楽しみがあるのって、大事だ。












 そういえば、グレイって【スキル】とか魔力関係なくくじ運すごく強いはずなんだけど。

「……ハルトに、掛けてもらっていた」

「え、なにを?」

「【スキル】で『運低下』を。私が良いのを引いてしまったら子供達が可哀想だろ……」

「グレイ素敵! かっこいい! 大好き!!」

「まさか、ローツが引くとは思わなかったがな」

「ああ……」

 それはね、仕方ないね。


 ちなみに、 《ハンドメイド・ジュリ》の出勤する従業員が必ず確認する日報と、定期的に発行している副業や内職をしてくれるひとたちも含めた全員に回される回覧板には大市でくじ引きをする場合『大人買い』ならぬ『大人引き』を禁止する事項をライアスの厳つい喧嘩腰に見える字でしっかり書いて貰ったんだけど、不服そうな顔をした人が結構いたとかなんとか。

 そこは気づかぬフリでかわしておいた。




ブクマ&評価、そして誤字報告に感想ありがとうございます。


次回新章突入です。


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― 新着の感想 ―
[一言] 子供の時にゲームを禁止された人が大人になってドハマリするような( ˘ω˘ )
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