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『ハンドメイド・ジュリ』は今日も大変賑やかです 〜元OLはものづくりで異世界を生き延びます!〜  作者: 斎藤 はるき


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13 * 巻き込めるものは巻き込む

 二人の暴走にストップをかけ、もっと詰める話があるでしょ、と言ったら。

「「なにが?」」

 とハモりやがった。


 女の子用はどうすんだよ!!


「「……ああ」」

 ああ、じゃねえよ!!

 と、キレなかったよ。顔ひきつったけども。


 で、女の子用のはキリアも提案してくれていたので私の案とのいいとこ取りをした。

 女の子用のは穴が開けられていてアクセサリーなどにできる格安パーツの中から数種類を四等にすることに。これも大体一リクルから二リクルなので問題ない。

 三等はパーツでも三リクル以上の螺鈿もどきなどが使われているキラキラ系のもので留め金具がすでに付いているもの。

 二等はキラキラ系バッチ、ヘアピン、三等よりも見映えする留め金具付きのパーツなど。

 そして一等はシュシュなどヘアアクセサリー類。

「いっそのことくじ用に可愛いの作ってもいいかもね、大市限定くじ引きってことで。男の子用も専用で作るんだから」


 採算が取れるかどうかより、このくじ引きは集客を目的にしてしまおう。客層のメインは子供でも、お金を出すのは大人たち。普段ククマットに来ない人やうちのお店に来たことがない人も、子供のためと知ったら興味を持ってくれるかもしれないし。

 それと売れ行き次第では老若男女問わずに興味を惹かれたらなら誰でもやってみてちょうだい、って感じの軽い調子の声掛けもありかな? 大市なら皆それくらいの声掛けで賑やかな雰囲気を出してるし。こんなこと計画する店ってなんなの? と、漠然とした疑問を持ってくれるだけでもこの世界では宣伝としては成功で、それが後のクチコミとして効力を発揮するから。

 よし、お祭り気分を盛り上げるためにはまだ必要なものがあるわね。

「……んじゃ、色々他にも用意しちゃおう」

「「何を?」」

 今日のグレイとキリアはよくハモる。











 こうなったら派手に目立つようにやったもの勝ちよ。

「だからってこれはどうなんだ? 俺は好きだけど」

 ハルトが《本喫茶:暇潰し》の副支配人たちに今日の業務の引き継ぎしていつものごとく転移でサクッとロビエラムに帰る前に、明日ダンジョンに入ってブル様を狩ってくるから肉いるか? と確認にきた。

 そして工房の作業台に作品ではない並ぶものを見て、『どうすんのこれ』と質問をしてきたので答えたら失笑された。

「ククマットの雰囲気に間違いなく合わねぇだろ、法被とハチマキは」

「これもあるよ、ハンドベルのデカイの取り寄せて貰っただけだけど」

「誰がなんと言おうとやる気だな」

「てゆーか、法被とハチマキはなんだかおもしろいって侯爵家の人たちが着たがってる」

「マジかぁ」

 ハルトが何とも言えない笑顔だわ。いいじゃん、似合う似合わないはこの際置いておくんだよ、離れたところに。

 青と赤の鮮やかなそれぞれの法被には背中に 《ハンドメイド・ジュリ》 & 《レースのフィン》と入っている。赤だけでもいいかと思ったんだけど、どうせなら選べたらいいよねぇって二色とも三サイズ作ってみた。

「ハルト似合う」

「俺もそう思った。似合うわ俺、まじで」

 ついでに私も着てみる。ハルトが青、私が赤、ふたりでハチマキも調子に乗って頭に結んでみた。

「あー、これさぁ」

「なんだよ?」

「アイドルオタクの知り合い思い出したわ」

「そこは日本のお祭りの雰囲気思い出してしんみりするとこだと思うぞ」

 なんかごめん……。


「へえぇ、これがハッピィ」

「違う。法被」

「はっぴ」

「そう」

 このやり取り、グレイとキリアとローツさんとフィンと……色んな人とうんざりするくらいさせられて、若干勢いを削がれた気がしないでもないんだけど、なぜか皆の反応はいい。

 派手な感じがいいのかな? それとも物珍しさなのか着たいという人が多い。

「これを着て、一等から三等の時はこのハンドベルを派手に鳴らして、『当たりー!!』って感じを演出するのよ。おめでとー! っていいながら大袈裟な感じで」

 これに食いついたのがおばちゃんトリオ。今日は幹部集めて報告会をする日で彼女たちも来てたんだけど、大市でくじ引きの露店やるならやりたいとか言い出して。あんたらは来シーズンのレースの在庫増やしとか何かとやることぎっしりでしょ? と思うんだけど。

「《レースのフィン》の商品でやろうじゃないか」

「ああ、そうだね」

「いいね、面白いことは好きだよ」

 この後三人の意気込みが凄くて止められずやることになった……。

 法被、追加発注決定。

 あ、ハンドベルもデカイの発注しとかないと。


 なんでこんなにノリノリなのよ?

 そんな疑問は、デリアのひどく簡単な言葉で締め括られてしまった。

「面白いならなんでもいいんだよ!! 大市は!!」


 ……いや、違う気がするけど。











 《レースのフィン》はキリアと私の案を参考に大人をターゲットにして一回七もしくは八リクルの予定。

 景品は四等がククマット編みのブレスレットで、ワンポイントにパーツが付いているもの。これがちょうど露店でも六リクルで出ているので用意しやすい。そのパーツをくじ引き専用の物にするらしい。三等はブレスレットか同じくククマット編みのストラップで、どちらもパーツが増えた大体二十リクル前後のもの。二等はククマット編みのネックレス。いいパーツや大きめ天然石をあしらった四十リクル前後のものに。そして一等はなんとフィン編みのドイリー、革ひもを編んだベルト、レース張りの硬貨袋、ブックバンドのどれか。

 この大人向けのくじ引きは女性男性と用意するのがちょっと難しいので当面は一種類のみにして今後どうするかは状況しだいということになった。

「気前いいねぇ」

「ジュリは客寄せと宣伝のためにするんだろ? だったらうちだってこれくらいするさ。大赤字にならないように一等から三等は一日の本数を制限するってのをこっちでは取り入れるよ。毎月出さなくてもいいわけだし、その辺は臨機応変にやってみるさ」

 全くおばちゃんトリオは頼もしい。以前の勢いでなんとかなると思ってるのは相変わらずだけど最近はそこに先を見越した発言も多々見受けられる。特にそういった面で如実に変化したのはメルサ。こうして柔軟に色んな意見を取り入れて対応する。 《レースのフィン》でも富裕層相手に臆することなく、それでいて社交性を身につけて誰よりも会話がスムーズに進められているとエリオンさんも誉めるほど。

「メルサ、大市の企画担当やってみる?」

「は?」

「今後さ、くじ引きだけじゃなく他にもうちが協賛したりする大市の企画って出てくると思うんだよね、その時中心となって皆を引っ張る役、やってみない?」

「はぁ?! あたしがかい?!」

「うん、本筋は私やグレイが決めるけど、例えば大市の組合の話し合いで意見交換する会合に出席したり、大市で企画モノするときに場所の選定や出す商品決めたり、その時働く人たちまとめたり」

「こ、このあたしが?! でき、るかね?!」

「出来るよ、メルサなら」

「ジュリ……」

「最大の理由がある。デリアとナオをコントロール出来るのは私とメルサしかいない。これがいかに大変か」

「……ああ、なるほどそりゃ納得」


 そう。

 おばちゃんトリオ。

 最強だから。

 ホントに。

 暴走の象徴。

 先日も新しい糸が欲しいからと侯爵家の差し入れ持ってきてくれた使用人さん相手に『侯爵様、何かそういう話ないかねぇ』って言ってたらしい。使えるものは使う主義、私より徹底してて怖いから。

 で、それをいつも『えげつない!』『恥を知らないのかい!』って喧嘩腰で止められるのがメルサ。彼女も基本一緒になって悪巧みするけども、それでもあの二人をコントロール出来るのはさすが。

「今回もこの調子だからねぇ」

「でしょ」

 私とメルサ、そしてグレイたちは暴走している二人を見つめる。

「面白い企画ならなんでもアリだよ!」

「そりゃそうさ、いっそのこと一回五十リクル位のくじ引きもやるのはどうだい?!」

「いいねぇ! 一等はなんにする?! あたしは大物一枚紛れ込ませてもいいと思うよ!」

「デリア、それじゃつまらないだろ。そこは一点物、しかも新作さ」

「ああ、それはいいね!」

 この後、メルサにしっかり止めてもらい、そして大市企画担当になってもらうことが決定した。












 ブツクサと何やら不満を漏らしていたデリアとナオはグレイに任せ、私とキリア、そしてメルサでククマット市場の組合の会合に出席。

 くじ引きは確定として、子供向けのイベントも小規模で試験的でもいいので出来ないかと提案したら意外な人が食いついた。

 その人は組合の中でも私のやることにいつも否定的なことを言ってくる人。今までの落ち着いた雰囲気のククマットが最近騒がしいと、あまり人を巻き込んでイベントするな、という人。でも今回は、企画書見ながら説明を聞いて、『質問のある方どうぞ』って言ったらね。

「それはうちの店でも参加できるのか?」

 って。

 すかさず反応したのはなんとメルサ。

「そりゃもちろん。むしろ参加して欲しいね」

 だって。こういうところが凄いのよね。


 その人は、お店を経営している。ククマットではなくてはならない店。それは薬屋さん。

「あんたの店の薬はうちの孫も飲んでるけど、慣れるまで大変なんだよ」

「ん? なんで?」

「子供ってのは薬が嫌い、大体苦いだろ? 飲ませるのに苦労するのさ」

「丸薬もあるが、子供はそれを安全に飲み込めるようになるまでは粉のままか、水に溶いて飲むしかない。……買う人に薬の上手な飲ませ方を教えてはいるが、それが広まってる訳じゃない。それを大市でイベントに参加することで広められたらなと思ってな」

「そいつはいいね、世の中の母親達が喜ぶよ」


 ほう、なるほど。

 良いこと聞いた。

 私のやることに巻き込まれるの嫌いなこの人、巻き込めること思い付いた。

「うへへへへへっ」

「ジュリ、声出てるよ」

 ジト目でキリアに睨まれ、メルサは何て事ない顔して『ああ、なんかいいこと思い付いたね』って呟いた。

 組合の人たちがドン引きしてるのは、気にしない。


 ハロウィーンの時にもやったけど、『参加賞』を取り入れたらどうだろう? と提案する。

 あのときはスタンプカードに各所にいる自警団の人たちからスタンプを捺してもらい、全て貯まるとお菓子と引き換えになった。ハロウィーンに参加してもらうための手段として、『参加賞』を。

「俺のところは、どうすればいいんだ?」

「エドさんの場合、うちと共同企画ですね。例えば、その場で薬の飲み方を保護者と聞いて、実際に飲んでも問題のない薬を飲み切った子供たちに、くじ引きが出来る引き換え券をあげるんですよ、説明会への参加と薬を飲めたご褒美に」

「……なるほどな、それなら、確かに。けどそのくじ引き代をうちで全部支払うわけにはいかないぞ? それにあんたのとこの商品となれば子供よりも大人がそれをやりたがるんじゃないのか?」

「それは制限をかけます。あくまで薬が苦手な子供、年齢制限をかけてお子さん対象に券を発行するんです。お子さん一人につき一回のみ、そして当日限りの縛りをつけて。くじ引きは宣伝目的でもあるので最初の数回は採算度外視でやるつもりです、だからエドさんがもし大々的にそれをやってくれるなら、くじ代は全額うちで出します。もちろん薬代はエドさんですが。要は互いに宣伝を目的とした出店ですね。エドさんもその場でついでに薬草とか売るのもいいかと。『ついで』って結構侮れないですよ、普段買わない人も買ってくれたりするので」

「なるほどな、そういうやり方もあるのか」


 こういうのって、勢いと押しが大事よね。

 もちろん、リスクも伝える。

「ただ、大市は天候にかなり左右されます。雨だと人出は半分、さらに子連れはもっと減る。だから用意した薬が想定以上に余ることもあります。うちの商品にはない、使用期限がある薬は余った場合のその後も計画しないといけないのでどれを使うのかよく考えるべきですね」

「そうだな、よし、わかった。色々検討してみる。後で相談に行くかもしれないが構わないか?」

「ええ、もちろん。こちらもそうしてもらえると助かります」


 ふふふふふふっ。

 巻き込み成功。


「あんたもついにジュリに陥落したね」

 メルサ、余計なこと言わない。キリア、不敵な笑みを浮かべない。

 ほら、エドさんが睨んでるから。

「ジュリの顔が一番ヤバイよ」

 うるさいよ、キリア。

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― 新着の感想 ―
[良い点] 相変わらすカオスなことになってんなぁw [一言] 一回50リクルのクジ、一番クジ感ある
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