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『ハンドメイド・ジュリ』は今日も大変賑やかです 〜元OLはものづくりで異世界を生き延びます!〜  作者: 斎藤 はるき


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13 * お祭りでこんなのやりたい。

お祭り気分? が続きます。

 額縁の素材や場所の確保 (自警団の訓練所を定期的に借ります!)も出来て生産体制が整って『監修作品』がトミレアの大市にお目見えするのが楽しみな中、ククマットでも『監修作品』を出そうか、それとも()()()()をするべきかとグレイと呑気にお酒を飲みながら語って、他の人ともそんなことを世間話程度に話していて、私の心に引っ掛かったことが。

 母親ならではの言葉だなぁ、と感心したのはキリアの一言。


「子供でも気軽に買えるといいんだけどね」


 私は別に子供の入店制限をしているわけではない。でもうちのお店に子供を連れてくる人は珍しい。

 なぜなら。

 まず、行列。店内に最大五人までという入場制限をかけているので店に入るだけでも時間はかかる。お陰さまで未だに待つことなく入店出来るのはかなりの幸運、酷いと奇跡とまで言われている店だから、どれくらい並ぶか分からないから子供を連れてこようとは思わないらしい。

 そして、店内。狭さもさることながら親にしてみると子供が触って汚したり壊したりするのでは? とかなり心配になるらしい。実はキリアも息子のイルバ君を客として連れて来たことはない。工房までしか入れないの。

「騒いで走ってぶつかって壊すのが目に見えている」

 って、真顔で言ってた。


 子供向けのブローチやヘアピンだって売ってるのに、子どもが入れない。


 なんかモヤっとしてね。


 なんとかできないかな?













「……やっぱり、あれかな」

「何が?」

「お祭り」

「お祭り? 建国記念日にやる?」

「あ、ごめん、それとは、違ってね」

 この世界にもお祭りはあって、それは多種多様で、それぞれ特徴があり楽しいと思う。文化の象徴でもあるよね、お祭りは。

 でも、キリアの母親ならではのちょっと寂しいボヤキを聞いてから気づいたことがある。


(そういえば、子供向けの屋台とか露店って見かけないかも)


 キリアの話を聞いてからまもなくククマット大市でも規模の大きい、春の大市を試しにしっかり見てみようと思い祭りを楽しみつつ市場を歩いた。歩いてすぐに気づいた。


 ない。


 子供が楽しめる屋台や露店が。


 金魚すくいに射的、わたあめ、りんご飴、キャラ物お面にくじ引き水風船つりなどなど。


 ない。


 子供が『買って!!』『欲しい!!』と駄々こねるものが、全くない。


「なにそれ、あんたのいた世界ってお祭りは親がお金を散財するためのものなの?!」

 キリアがそう誤解するのも当然かぁ。

「いや、違うからね」

 と、一応訂正しておくけども。

 そう、ない。

 びっくりするくらいない。

 去年の春、大市に合わせて鯉のぼり作りを体験する 《ハンドメイド・ジュリ》の大市限定企画をしたとき、単に物珍しさから子供を連れた親が集まったのかと思った。


 今さらだけど、あれは子供が参加出来たからと思い知らされた。


「ああ、うん、それで間違いないよ。あの時風邪引いて熱を出してなければイルバ連れていってあげようと思ってたから」

「そうなんだ」

「だって子供を集めるための露店なんて聞いたことないし。親としては、楽しんでもらえるなら行かせてみようかなって思ったわよ」


 この世界に来て結構何でも理解して知ったつもりになってたけど、身近なことでもまだ知らないことがあったなぁ、とちょっと反省。そして鯉のぼり作り体験は今年もやるんだけどそういうことならもっと用意して沢山の人に体験してもらえるようにしないとね。


 ならば、次の大市ではさらに別のをやってみようかな。楽しいことは多くて困ることはないんだから。

 うん、思い付いたことがあるし。

 でも私が全部企画しちゃうのはちょっとつまらない。

 ここは子を持つ母のアイデアを貰いましょう。

「で、いきなりあたしが企画しろって?!」

「ヒントは出すよ」

「ヒント?!」

「うん、それをキリアならどう子供向けにするか興味あるのよ」

「興味のためにあたしが利用される!!」

「私は使えるものは使うよ」

「ああ、そういう人だった……」











 期限を三日間にしてみた。

 キリアの発想力なら私の少ないヒントからたどり着くと確信がある。

 そしてそこに恩恵が加わればそれを忠実にデザインしてくる。

「ちょっとあたし頑張った! 採用になるならデザイン料割り増ししてよ?!」

 ほらね。

 ちゃんと三日で仕上げてきた。

「割り増しオッケー、商長権限で五割増し」

「なんの話だ」

 勢いがスゴいキリアの発言に軽々しく私が答えたのでさすがにグレイが数字とにらめっこしていたテーブルから離れて近づいて来て、キリアが突き出してきた紙を手にする私の隣に立つ。

「クオリティが凄い、さすがキリア」

「……これ、は? ……『くじびき』?」


 私がキリアに与えた情報。

 まずひとつ。

 私のいた世界には抽選会に似た仕組みの子供でも楽しめる『くじ引き』なるものがあったこと。

 二つ目。

 その抽選に似たものは紙に一等、二等などと隠されて書かれたものを引き、その等数によって貰えるものが違うこと。

 三つ目。

 紙でなくてもよくて、棒の先の色を変えるとか、木札に等数を書くでもなんでもいいし、他のやり方もあるのでアイデア次第。

 四つ目。

 子供でも楽しめるように一リクル、二リクルで出来るのが望ましい。

「ざっくり過ぎるわ!!」

 と、クレームがその場で入ったけど、彼女からは色々質問をされて、その時点で私から聞き出せたこととヒントを照らし合わせて三日で仕上げられたわけ。


 キリアが考えた『くじ引き』は。

「……今回は使い回しが利くように、木の棒を使う。その棒が逆さにすると一本だけ出てくる筒型を採用……?」

 グレイがキリアが書いた企画書とデザイン画を見比べならがら読み始めた。

「木の棒は全部で五十本、それぞれ一から五十までの数字が書かれている」

「数字が書き込まれるのは、片方の先端だけね。なるべく見えにくくするのがいいから」

 私が補足するとキリアはそうそう、と頷く。

「なるほど……で、一本出てきた数字と同じ数字が書き込まれた引き出しに入っている商品が貰える……引き出し?」

「そう、これ。かなり小さい引き出しだらけのタンスみたいなものね。キリア、最後に聞き出した案にしたんだね」

 グレイに説明したあと、キリアにそう問えば。

「引き出し開けるのもなんか楽しそうじゃない? あたしはドキドキする! 楽しいと思う!」


 キリアの『くじ引き』は、色々質問をされている時にふと思い出して説明した神社のおみくじを参考にしたもの。

 私が生まれ育った土地にあった神社は、筒に入っている棒に書かれた番号と同じところに入っている棚からおみくじを貰うことになっていた。この説明をしたとき、『中身が見えないように引き出しにしてもいいかもね』と私が何気なしに言ったことをキリアは覚えていて、そしてこの世界ではそれが『おもしろい』に繋がると思ったみたい。


 確かに、もし紙に書かれたくじを直接引くとなると、それだけの紙が必要になるし、そして用意も大変。それがくじそのものが決まった本数で使い回しが出来るなら無駄もなく、コストもかからない。紙が安いとはいえないこの世界では、『紙を使うのはもったいない』という意識が根強いので、当然の判断かな。

「一回二リクル (未定)でくじが引ける。一等は一本のみ、八~十リクル程度のもの、二等は三本で六~七リクル前後のもの、三等は五本で四~五リクル程度のもの。ほか四十一本は全て四等として、一~二リクル内のものにする。一~三等が出た場合、引き出しに商品を補てんするとき見えてしまうとワクワク感が減るので紙や布で事前に包んだものを補てん。……面白いな」

「面白いですよね、ジュリの話を聞いてこれなら子供が楽しめるって思って」

「大人でも楽しいと思うが?」

「ですよね。大人なら一回五リクルから十リクルでもいけるんじゃないかと」

「いけるな」

 おっと、私がいらない感じで二人で盛り上がり始めたぞ (笑)?


 その場でキリアは悩んだ所に私の補足、修正をいれて欲しいというのでデザイン画を中心に見ながら書き込んでいく。

「一等から三等は引き出しの場所が固定されてて他は好きなところが開けられる、でもいいね。そうするとくじの棒は数字じゃなく色で区別するだけで良くなるから。あと、キリアのこの『希望』ってところ、これいいわよ」

 それはキリアが出来ればこうなってたらいいなということを端に書き込んでいたもの。

「男の子と女の子でくじ引きを別に出来るといいっていうの賛成」

「ホント?! うちの商品って女の子向けがほとんどだから、無理かと思ったんだけど」

「それについては私がちょっと思い付いてたことがあってね」

「それはなに!!」

 キリアの圧が凄い……。痛い痛い、肩を掴んで揺さぶらないで。


「えぇぇぇっ、なにこれ!!」

 キリアが悶絶する。

「面白い!! イルバにやらせる、絶対くじ引きさせるぅ!」

 テンションヤバイな、キリア。

 そして、彼氏。

「……子供の頃に経験したかったな」

 なんかしんみりとしてる (笑)。

 キリアの懸念は私がくじ引きを思い付いていた時点で同じく感じていたこと。

 うちの店、間違いなく女の子向けだからね。

 小さい男の子でも楽しめるものって、それこそキリアが発案したティアズさんの趣味である白土で作るバッチくらい。

 これだと、くじ引きを楽しめるのは圧倒的に女の子ばかりになる。それをなんとか出来ないかと考えた。

 それはね。


「なにこれ、ホントに! 男の子の憧れじゃん、『武具』なんて!」

 そう。武器や防具といったもの。

 冒険者と騎士は男たちの憧れ。『武具』を纏い、魔物や敵に立ち向かう姿は昔も今も伝説や伝承としてしっかり残る程に強く惹き付けてやまない。

 私が見せた紙に二人は釘付け。


 お祭り用くじの商品として専用に作るものなので色んな種類を用意するのは難しいかも。なのでそこは申し訳ないけどあえてバッチだけに限定する。

 でもそのバッチに工夫を凝らす。

 まずキリアのくじ引きを採用するなら、四等はお店でも売られている白土に絵が描かれた簡単なバッチ。これはお店で子供へのおみやげにもなるように一.半リクルで販売しているから価格的に問題もない。

 そしてその絵柄は全て武具。武器は剣、斧、槍、弓矢、杖などで、防具は兜、胸当て、ローブ、すね当てなど多岐に渡るのでグレイやローツさん、それからエンザさんやうちのゲイルさんに案を出してもらうつもり。

 そして一等から三等だけど。

 まず三等は白土のバッチでも型を六角形や八角形なども用意して、絵も少し凝った細かい物にしてもらい、着色料に銀色や金色も使って見映えを四等とは違うものにする。

 二等は三等と同じ型を使うんだけど、一工夫し、螺鈿もどきを使用してキラキラ感を演出するのと、武具も強そうな物に絞りこむ。さらには縁取りをして三等との差が分かりやすくするのもいいかもしれない。

 あれよ、お菓子の中に入ってるシールとかカード。あれを参考にしたの。

 レアなカードって絶対キラキラしてるよね? そしてあれが出るとテンション上がる (笑)。

 あの特別感を演出に取り入れるのよ。

 そして一等は。

 おそらく種類は限定されてしまう。私がこんなのどう? と描いたものは剣、杖、楯、の三種類なんだけど、これを型どったバッチにしてしまうの。白土にするか、それともライアスに相談して金属で型抜き出来そうか試作はそれなりに必要だけど、一等だからね。それくらいはしたい。


「ちょっと、これ普通に売れそう」

「価格とデザインは早めに決めたいな」

「ライアスとウェラに早めに相談ですね、大きさも結構重要ですよ、バッチなのであまり大きくできませんから」

「そうだな、この二等、三等は通常のものより一回り大きくてもいいんじゃないか?」

「それいいです! 絵も細かくなりますし!」


 あれ。

 なんか二人で話を進めてる。

 もうちょっと話を詰めようよ、修正しなきゃならないこともあるでしょ。

 おーい、私の話きいてよー。



この13章はものつくりというよりイベントに力を入れてる感じのジュリになってしまいました。


このご時世、昔ながらのお祭り自体が減少傾向にあるのにそこへコロナの追い討ち。露店が立ち並ぶ光景が珍しいものになってしまって寂しいなぁと思う今日この頃です。

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― 新着の感想 ―
[良い点]  時期的に母の日エピソードを耳にすることが多く、キリアも知ったらそういう交流欲しかっただろうかと妄想しました。
[一言] 現代日本だとジェンダー教育だなんだで、男の子用女の子用で分けずに本人に選ばせろとか言われそう。 私の幼少時はその辺問答無用だったな
[一言] ガチャだ( ˘ω˘ )
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