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『ハンドメイド・ジュリ』は今日も大変賑やかです 〜元OLはものづくりで異世界を生き延びます!〜  作者: 斎藤 はるき


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13 * 額縁と『侯爵家の額縁』






 人員はね、簡単に確保できたの。

 何故なら、『ジュリ監修』ということで、指定されたデザインを使うこと、規格化されたサイズを守ること、そしてトミレアで売り出す価格と同じで販売することを条件に売っていいよと言ったので、色んな工房から若い職人見習いさんたちを『使ってやってくれ!!』と送り出して貰えたから。

 取り敢えず話し合って、当面はトミレア地区の大市に出すものを優先してもらい、その後それぞれ職人の工房で生産が安定したら余剰分を売って貰うことで折り合いがついた。

 自分でいうのもなんだけど、生産が安定するまで各工房で売るのは難しいと思うよ。

 だって今までなかった額縁だからね。木材を白くした訳じゃない、真っ白な額縁って無かったから。

 売れると思うよかなり。頑張って作り手を増やしてね (笑)。


 レフォアさんたちは今いる研修棟で擬似レジンや他の素材の扱いを学んでいるフォンロンから来ているギルド職員二人を交えて五人で話し合ったそうで。

「これ、本当に『特別販売占有権』に登録しないんですか?」

 と改めて質問され。

「しないしない。額縁なら他に考えてて、それを 《ハンドメイド・ジュリ》の正規の商品として売るのをキリアと考えてるから。額縁は日常に根付いてるものだからそれを独占して売るようなことはしたくないしね」

 と答えて再度安心してもらった。

「では、先日見せて頂いた『マリン風』『シンプル』『花柄』額縁ですが、フォンロンからさらに人を呼びますので、その者たちに伝授してもらってもいいでしょうか?」

「伝授は私やりませんよぉ?」

「えっ?!」

「言ったじゃない、私以外でも教えられる人がいるんだから、その人たちに教わってねって。あのね、私は教える人を増やせるほど今は時間がない」

「ああっ、そうですよね!」

「その為の『監修』。そして、私はフレームの監修役ってティアズさんがやれるとみてるけど」

「えっ?」

「ほら、ティアズさんの白土の扱い、ローツさんやウェラと同じ。限定的な、白土を扱う時に恩恵発動してるやつ、あれ、指導するときも発動するはずだし」

 そう私に言われて

「ああ?! そうか!!」

 って、ティアズさんが一番驚いてた。

 そう、白土に絵を描いて子供向けバッチをティアズさんは作ってくれるんだけど、それが異常に速い。しかも絵を失敗しないんだよ、一回で描き上げる。スイーツデコもサクサク作れちゃうんだよね。ウェラが。

「ライバルがいた! 負けないよ!」

 って奮起するくらいにティアズさんは白土に対する恩恵が出てるの。


「ティアズさんが作り方マスターして教えた方が速いわよ、私の都合に合わせなくていいんだから」


 フォンロンの五人は、小躍りしそうな勢いで喜んでた。

 うん、よかったよかった。











 レフォアさんたちと私とキリア、そしてグレイとローツさんとで取り決めしたことがある。

 まずはフォンロンで売り出す時も当面は私とキリアでデザインしたものだけにしてもらうこと。

 素材も同じものを使い価格も同じにすること。

 押し花のクオリティを下げることはしたくないので、押し花はうちの内職さんの作ったものを使用すること。

 これらは期間を決めるけれど必ず守って貰うことにした。

 そうしないと『監修』の意味がないし、完成度に差が出たら買う人の不満に繋がる。

「むしろ、助かります」

 そう言ったのはティアズさん。

「デザインなんてそう簡単には思い浮かびません、作っていれば慣れてくると思いますけど、その見本になるものはいくつあっても無駄になりませんし」

 と。ホッとしていたのは、ティアズさんはあくまでも冒険者ギルドの職員であって、デザインするためにいるわけじゃないからね。

「それと、フォンロンも一番先に港で売りだそうと思います」

 マノアさんが考えてたのは、トミレアの大市でしか手に入らないなら、フォンロンでもそうすれば港の宣伝になるんじゃないか、ということだった。

「フォンロンで一番大きな港にはこれといった特産はありません、『マリン風』や『シンプル』中心に大々的に売り出せる体制を先に整えれば珍しさから人気を得ます。それに伴って自ずと白土以外の額縁を製作する技術も上がるはずです。トミレア同様港なので色々な素材が入ってきます、いずれはそれらを活用した額縁やその技術を使った工芸品が生まれるかもしれません。そうすれば職の幅も広がり、無職者を減らす力になるかもしれません」


 素晴らしい模範解答 (笑)!!

 いいんだよ、利益が出れば!! と言ってくれて。

 なんてツッコミして笑いが起きたりして。


「で、最大の問題に結局戻る。あはは!! どうしよっか!!」


 皆で唸った。

 場所がない。と。











「ということでお借りしました!!」

「ということでってなにが?! なんで?!」

 わははっ! と笑った私の肩を掴み、キリアが力一杯揺さぶってくる。首痛いから止めて。

「なんで侯爵家にあたしがいるの?!」

「広い部屋がいくつもあるので借りました!! 侯爵様が快諾してくれました!! ふははは、ラッキー!! 庭も使っていいって!」

「頭おかしい! あんた絶対頭おかしい! 侯爵家をなんだと思ってんのよ?!」

 いい場所見つかったから下見にいくよー、ってグレイとローツさんと四人で向かった先はグレイの実家。

 うん、広い部屋が沢山と広いお庭がある。

 いいねぇ、晴れてれば外にテント立てて作業出来るよ。今月は来客の予定を入れてないそうだからお部屋も沢山使えるよ。今回は特例だよ、いいのいいの。

「信じらんない、ホントにあんたのその図太さ信じらんない。図々しいにも程があるでしょ」

「グレイから提案してくれたのよ」

 って言ったらものすごい勢いでキリアがグレイに向き直って。

「侯爵家をなんだと思ってるんですか?!」

「うん? 生家、いわゆる実家だな」

 至極真っ当な、これ以上ないシンプルな返答をサラッと吐いたグレイ。キリアが唖然とし、ローツさんは遠い目。

「提案するグレイセル様もだけど、承諾する侯爵様も大概だよなぁ……」

 うん、それはね、私もちゃんと思ったよ。良いのか?! と、一応驚いたよ。

 でもね、キリア。ローツさん。

 クノーマス侯爵家は色々な部分が破綻してるから。何て言うか、一般でも貴族の間でも通用しない価値観を持ってる人たちばっかりだから。

 面白ければ何でもアリ、だからさ、この家の人たちは。

 悩むだけ無駄だよ、諦めて。


 もちろん、タダでは承諾しないよ侯爵様だって。その事で、私一人だけ別室に呼ばれたから。グレイはキリアとローツさんを連れてどの部屋をどれだけ使うか下見に行ってくれたわよ。

 グレイも聞いていないみたい、私が一人呼ばれたことをひどく気にしてた。

「【選択の自由】が発動したらどうするんだ。ジュリはそれを望まないだろう、悪いことが起こる可能性をわざわざ引き寄せる必要はない」

 って、すごく心配してくれて。

 でも侯爵様がそんなお願いなんてしないと思うよ。

 ただ、なんで私だけ呼ばれたのかはわからないけど。


 そして、侯爵様の書斎に呼ばれ、執事さんが御茶を出してくれて、二人きりになってから切り出されたのは。


「侯爵家のための、額縁……ですか」











 今年結婚三十五周年のお祝いがあるのは聞いていた。五年ごとに大きなお祝いをするのがこの世界の貴族の嗜み、らしい。それに合わせて、作って欲しい、と。


「検討してくれないか。どうしても、君に作って欲しい、作って貰いたい」

「……決断するまで、猶予は?」

「出来るだけ早く、とだけ。我が家は代々数種類ある額縁を使い回しているから無理だというならばそれで結構。ただ、もし承諾してくれるならば、ジュリの作るものとなると壁に飾るにも保管するにも専用の工具や部品、道具が必要となるだろう、そう言ったものを用意することも同時に進めなければならないから壁に飾られ、祝賀会を迎える冬までの期間であればあと半年、と」


 たかが額縁、されど額縁。

 このタイミングで言われたのは、侯爵様は私が額縁を作ることになったと聞いて直感が働いたからだという。

 今年の額縁はどれを使おうかと考え始めていたとき私が『ジュリ監修』額縁に着手した。

 グレイが屋敷の空いている部屋や庭を貸して欲しいと打診したその時に、その量産しやすい物を作るために必要な場所の広さや作り手の数、そして流れ作業で分担して完成していく工程など、新しい試みを間近で見られるのもいい経験だな、と侯爵様はそんなことを思いながら『額縁か、それなら依頼してみようか?』と、ふと頭を過ったと教えてくれた。

「侯爵家所有の額縁ともなると君の素材選びから悩ませることになるだろう、君の提案を退け高価な素材を使うことを要求するかもしれない。しかし、それは折り合いがつかない場合と思ってくれていい。こちらはムリを承知でお願いしているから出来る限りの尽力も譲歩もする。まずは君が思う通りにデザインし素材など必要な物を全て言って欲しい。その価格や稀少性などが私の想定している予算の最低額を下回らないならば完成までの期限以外は全て思う通りにやってもらって構わない」


 これは『縁』だ。

 直感よ。

 侯爵様と私が額縁という一つの共通点での繋がった縁。


「作ります」

「えっ?」

「作らせて頂きます」

「本当か!!」

「はい。巡り合わせを信じます」

「巡り合わせ?」

「侯爵様は額縁をどうしようか悩んでいた、そして私は新しい形の、今までなかった額縁を世に送り出すと決めた。そこに侯爵様は何かを感じ取って、私に依頼しようとしてくれたんですよ。それを断る気にはなれません。私には私にしか出来ないことがあると自負しています。それでもって、作りたいと思います。たったひとつの、侯爵家のための額縁を」

「ジュリ……ありがとう」

 侯爵様が感極まった顔をしたけれど、私は、穏やかで、でも何かに満たされた気持ち。


 この人は私なら出来ると信じてくれているから依頼しようとしてくれた。

 侯爵家とは、ネイリストの補助員の件から少しだけ距離が出来ていた。それはこの家の人たちと、その一員であるはずのグレイとの間に私のことで大きなズレがあったことが原因。そしてグレイは私側に常にいる。それは多分お互いの立ち位置やここまでくる過程の違いがそうさせてしまっているから仕方ないと最近思うようになった。

 でもさ、ちょっと寂しいわけよ私は。ここに召喚されてからずっと寄り添ってくれてた人たちがたった一つのことをきっかけに、こっちはもう済んだことと割り切ったのにまだ気にして距離を取って気遣っていることが。嬉しいような嬉しくないような、複雑な気分にさせられる。

 それを意識しているのに、侯爵様は踏み込んだ。


 ―――ジュリなら。ジュリならばきっと。――――


 その気持ちが嬉しい。

 認められているんだと自信がつく。


 だから、やってみせる。

 ジュリ監修も、侯爵家のための額縁も。











 まだ、エイジェリン様たちにも話していないからここだけで留めて、ということを前置きにグレイにその事を話すと、ホッとした安堵の表情を見せた。

「……そうか」

「なに?」

「やりたいと思うことをやるなら、それでいい」


 ただその一言だった。


 やりたいことをやる。


 私のそのちょっと傍若無人にもとられかねない姿勢はきっと誰かを困らせるし、悩ませる。でもこの人は、そうではない。

 安堵して、応援してくれる。

【彼方からの使い】の仲間意識が強い関係から生まれる応援ではなく、この人独自の感覚で私を支えてくれる。


 うん、やっぱり嬉しい。

 だから、好きにやってみる。楽しんでやってみる。

 私がものつくりをすることを喜んでくれる人が目の前にいるから。











 そして後日談を言うわ。

 次のトミレアの大市で初お目見えとなる額縁たちだけど。

 ありがたいことに大人気商品となる。

 それはフォンロンの港も一緒で、後にフォンロンは額縁以外にもお土産が充実する起爆剤になったとかで、観光地としても人気を博し発展していくことになる。

 あとね、なんだかんだと販売できる数には限りがあるので暫くの間は客同士の喧嘩も絶えないというなんの解決にもならなかったあげくフォンロンでも同じ現象が起こったので、なんでも増やせばいいってもんじゃない、という教訓を得ることになる。


ブクマ&評価、感想そして誤字報告ありがとうございます。


《ハンドメイド・ジュリ》の額縁はまた別の機会に出てきます。あしからず。





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― 新着の感想 ―
[一言] どんな額縁を作るか気になるところですねぇ
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