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『ハンドメイド・ジュリ』は今日も大変賑やかです 〜元OLはものづくりで異世界を生き延びます!〜  作者: 斎藤 はるき


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13 * 色々取り揃えましたよ

GWスペシャルの連続更新はここまでです。

 白土の仕入れはローツさんの実家の子爵領からなので、どうしても届くまで時間がかかる。だから二ヶ月後と組合長さんに言ったの。固まるまで時間がかかるしね。

 でもウェラに任せている白土部門で取り扱う白土の確保は常にしているから見本をいくつか作るには問題なし。


「まず基本の枠から作って行こうか」

 私とキリアが作業する傍ら、グレイとローツさん、そしてレフォアさん達が見学。ちなみに、この『ジュリ監修』の額縁がレフォアさんたちでも簡単に作れるならフォンロンでもやらせてくれと言われている。

 うんいいよぉ、と返事すればとても喜んでた。『特別販売占有権』にこの額縁の作り方はあえて登録しないことにしたのよ、『監修』との併用は難しいからね。だからこの作り方はいずれ大陸中で当たり前になるかもしれない。それでいいよ、可愛いものが増えるならね。もちろん、『ジュリ監修』の名前は許可した人にしか使わせないけど。ほかのデザインや材料で作るなら好きにしてちょうだいって感じ。それにギルドに詳細を先に提出して大々的に売り出したものは占有権に登録しなくてもうちが一番最初というレッテルは貰える。そうしてしまえば利益を得るため独占しようと後から誰かが占有権に登録しようとしてもギルドからストップがかかる仕組みがあるので、その辺も心配ない。


 ちなみにローツさんも子爵領で作れるよう『ジュリ監修』の技術を欲しがるかな? と思ったんだけど。

「いや、ジュリ管轄の監修品を買いたいな。下手にアレンジして変なものを大量生産されるよりはずっといい。監修品が量産出来るようになった時点で買い付けするよ。その契約を結びたいな。それに白土を買い取って貰える、涌き出るゴーレムを狩るのに慣れてる奴等ばかりだろ? そっちの方が儲かる」

 だって。なるほど、そういう考えもあるか。

「ということで量産体制よろしくな」

 はいはい。


 今回事前に用意しておいたものは。


 押し花を張り付ける『花柄』フレーム


 貝殻と山クラゲを埋め込む『マリン風』フレーム


 金属パーツのみを埋め込む『シンプル』フレーム


 螺鈿擬きを全面に張り付ける『シェルパール』フレーム


 基本のパーツの特徴を捉えやすいものを揃えた。


 擬似レジンパーツと天然石を今回使わないのは、お店の在庫に影響を及ぼす可能性があるのと、天然石はどうしても価格が割高になるから。いずれはやりたいね。


 まず、フレームの土台となる木枠よりも一回り大きな型があるのでそこに温めた白土を入れる。そして暖かいうちに木枠をその上に乗せて軽く押し込んだら、専用の板をその上に乗せて、押す。常温になるまで待ってからひっくり返して、静かに型枠をはずせば、板の上には白土で覆われた真っ白の枠が。注意点として、お湯の温度を上げすぎると柔らかくなりすぎて常温に戻って型を外すまで時間を要すること。なので量産する場合はその温度を一定に保つ、流れ作業による効率的な製作とかちょっと工夫が必要かな。

「この柔らかいうちに、埋め込むものは埋め込んでいくのよ、キリアよろしく」

「おっけー」

 そしてキリアは用意した図面どおりに、シーグラスのような艶消しガラスのような色とりどりの山クラゲの魔石と貝殻の裏に接着剤を慣れた手つきで塗ってから柔らかな白土の上に置いて軽く指で押し込んでいく。

「はい、以上」

 と、キリアの宣言が出て、グレイたちが覗きこむ。

「おもしろいな、これ」

「これは海を連想させますね! トミレアで売るなら打ってつけですよ!」

 ローツさんとレフォアさんたちの反応は非常によい。でも一人。

「このはみ出した部分はどうするんだ?」

 さすがグレイ。枠の外側、中板を押し込んで、裏を平らにするために板で押し付けると出来るはみ出た白土の『耳』が目についたのね。

「ここはね、固まってからヤスリで削れば問題ないから。はみ出した白土も少ないでしょ? これは骨組みになる中板のサイズと型、白土の使う量もちゃんと計って計算してあるしヤスリで削る時間もかからないわよ。量産品だから、サイズや重さ、量を徹底して管理することに重きを置くのよ、そうすることで『作り手の裁量』を必要としないし、仕上げの行程も少なくて済むのよね」

「なるほど、その時点で直す手間をかなり省けるのか」

「そうそう、型と中板、白土の量をしっかり計算すれば楕円形や円の額縁も安定生産が可能だね。他の素材とくっつきにくい白土も、中板は埋め込んでしまえば問題ないし、飾りも貼り付ける接着剤だけで不安なら表面を擬似レジンか透明な塗料を塗れば剥がれ防止力が上がるわよ。あとは板の上にこうして並べて固まるのを待つだけ、擬似レジンでは出来ない加工のしやすさが白土の利点よ」

 そう説明すればグレイも納得してくれた。


 次に金属パーツのみを埋め込んだ物を作って見せる。

 金色と銀色それぞれ一色ずつのものを、シンプルに。

 ひとつは金色の花柄パーツだけを全体に散りばめたもの。

 もうひとつは左下と右上だけに銀色の花や蝶のパーツを寄せるようにしたもの。

 全体と、部分的の印象の違いを見て貰うため。これもキリアが手際よくやってくれた。

「シンプルだけど、綺麗だな」

「ぼくこれ好きだなぁ」

 ティアズさんとマノアさんが感想述べながらうんうんと頷いてくれている。

「ちなみにこれが仕上げに固まってからスライム様を塗って艶だししたものでーす」

 と、作業台の下からデリアたちが試作してくれた完成品を取り出して見せた。

 貝殻と山クラゲの魔石のものも、金属パーツのものも、私が手書きで起こした図面を元にパーツを張り付けてもらったもので、私がその場で指示したものではないことを伝えれば皆がびっくりする。

「額縁の大きさだけじゃなく、パーツやその置く位置もちゃんと実寸の図面に書かれてるからね、それにちゃんと従って張り付ければあたしやデリアたちじゃなくても、せいぜい誤差は数ミリじゃない? 埋め込み過ぎないようにする感覚は何回かこなせば慣れるはずよ。そうなればそれなりの量産は可能よね、やれるわよ」

 キリアがそうはっきりと言えば、なぜかレフォアさんが拍手してた (笑)。


 作り方は基本これ。

 あとはパーツの丁寧な埋め込みと塗装次第。

 そして。

 固まってから、押し花をあしらったのがこれ。といいながらまた作業台の下からジャジャジャーンとだして見せた。

「……陶器の額縁のようだな」

 グレイがぽつり。そうそう、これが実は個人的に一番いいと思ったの。アクセサリーで既に白土に押し花を張り付けてから擬似レジンを塗装した、花柄の陶器っぽいペンダントトップは売り出してて、かなり人気を得ているの。しかも陶器の額縁って売ってるけど高い!! 庶民は買わないよ。

 だから押し花をあしらった真っ白の白土額縁は陶器製の代用品として人気の一品になるはず。

 以前ネルビア首長国へ非公式に万華鏡を献上した時ケイティがお気に召した螺鈿もどき細工に使われる塗料の特漆黒と押し花の組み合わせもそうだけど、この世界の花の特異性として押し花にしても鮮やかで劣化しにくい性質が非常にいい仕事をしてくれる。

 全く質は異なるけど、白地に繊細かつ鮮やかな花ってドイツの老舗ブランドのティーセットとかを思い出すのよね、めっちゃ高級品だったけど。それに通ずる華やかさが身近にあるって得した気分。

 そう考えると、ゴーレム様と押し花の組み合わせって安価で気軽に楽しめるんだからそんな素敵なものを世に送り出す私、偉い。うん、誉めておく。


 押し花の内職さんは既に最初からやってくれてる人たちを含めて最低でも十人は常時仕事を依頼できる人たち。今後さらなる需要が見込めれば、人員も増やして押し花工房を作っても良いくらいだね。

 そして擬似レジンで塗装をすれば、劣化による変色もかなりの期間抑えられる。これも異世界ならではの長所だよね。

 花によって表情は違うし、とても脆いので貼り間違ったらそれを剥がす時に高い確率で欠けたりしてしまう。貼る人のセンスと器用さが求められるので、素材自体は安くても価格に他のフレームと差は出ないと思う。まあ、やってみるしかないよね。


 そして、キリアと二人でこれは他より高く売ることになると話になったものが。

 それは螺鈿擬きを全体に張り付けたシェルパールフレームと私たちが呼んでいるもの。

 これまた作業台の下から出して見せたら、すっごく、すっごく、反応よかった。

 でもね。

 これは量産は不可能。

「えっ、そうなんですか?!」

 レフォアさんが悲しそうだぁ。

「初めからわかってたことではあるんだけど、接着剤か擬似レジンを全体に塗布してから貼る時、シワを寄せないようにするのも、亀裂を入れないようにするのも凄い大変なのよ。量産は全くもって無理。私とキリアで苦戦するから、これは細工を得意とする職人さんにお願いするしかないよって話に」

「そうそう。螺鈿もどき細工の工芸品を今ククマットで職人が試行錯誤してるでしょ? その人たちに任せた方が確実だね、これは。その代わりジュリが教えてくれた螺鈿擬きの使い方をやって見せてあげるわよ」

 がっかりした人たちに、キリアもジャジャジャーン! といいながら作業台の下から出したのは。

「螺鈿擬きだな」

 グレイがキリアの手にある小皿の中でキラキラしているものをしばし観察。

「これは、裁断したものだな」

「せいかーい」

 私はそれをピンセットで摘まんで見せた。

「ネイルアートのパーツとして開発してたものなんだけどね、その過程で生まれたものなのよ」

 それは、一センチ四方の正方形にカットされた螺鈿擬きと、同じくらいの大きさの菱形の螺鈿擬き。

「もっと小さく裁断するための試行錯誤してるうちに、この大きさと厚みのものなら結構綺麗に出来るってことがわかってね。厚みはラメに使う完全に層を分離したものじゃないのよ、かじり貝様の外側を割った後、軽く加圧しただけで層になる分を刃物を差し込んで剥がしただけのものを規格の決まった形と大きさに裁断しただけよ」

 そして私は、固まっていない白土にそれを一枚乗せて、ピンセットで軽く押し込む。

「全面貼りは精密な作業を必要とするけど、ポイント使いで裁断したものならこうして乗せられるんだよね」

「で、こちらが押し花と裁断螺鈿擬きの組み合わせ額縁でーす」

 一体どれだけ隠してるんだと、作業台の下をグレイが覗いたわ。だめよ、お楽しみを覗いちゃ。なんかテレビの通販みたいになってるよね、下から出て来てそれを紹介するスタイルが(笑)。


「これは、綺麗ですね」

 マノアさんが『うちの奥さんに……』と付け加えて呟いてた。

 うん、プレゼントしたいんだね。後で先行して売ってあげるからね。

 綺麗なのよ。押し花の色彩に負けて目立たないかな? と思ったんだけどそんなことはなくて、螺鈿擬きは光を浴びる度にキラキラとオーロラカラーに乱反射してやっぱり綺麗。押し花の周りにバランスを考えて散りばめられた螺鈿擬きはいいアクセントに。

 今まではネイルアートのために作られてきた極小のラメパーツを使ってきたけど、大きめラメパーツとして有用性が期待できるね。


 完成した額縁には、裏面に同じ形、サイズの薄い板を接着して、見映えを良くして壁掛け出来るように金具もつけてある。填め込む絵によって紙だったりキャンバスだったりと違うので絵の裏につける裏板もちゃんと用意した。実は格安の額縁には裏板がなかったりするので、これはキリアと話し合ってうちの商品なら必ず付いている状態の物を売ろうと決めたの。

 デリアたちが事前に作った完成品の額縁を見て、手にとって、男性陣は非常に興味深げな顔をしている。


 貝殻と山クラゲの、海をイメージさせる額縁は簡単に出来るはず。金属パーツだけのものも。螺鈿擬きと押し花はその脆さからちょっと扱いに注意が必要とされるからマリン風フレームとシンプルフレームほど数は用意できない、それでも、アクセサリーやレースよりはずっと作りやすく数は用意出来る。


「これでいこう」

 グレイが笑顔で言ってくれた。

 皆も笑顔。

「よし! じゃあジュリ、最大の問題解決しないとね!」

「だね!!」

 私たちの会話に、グレイたちが首を傾げた。

「これを大量に作って、動かさないで数日保管できる場所がない」


「「「「「ああ」」」」」

 男達よ、そんなに残念そうな顔をするんじゃない。



他にもデザインは浮かんだんですけどね、布張りとか小さなタイル張りとか。でも技術的未熟さが色濃いこの世界では一気に作ることは出来ないだろうなぁと思い、白土だけにしました。いつか『これも追加になったよー』程度で出てくるかもしれません。


次話、通常更新に戻ります。

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― 新着の感想 ―
[一言] シンプルに真っ白な額縁もアリだと思います!
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