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『ハンドメイド・ジュリ』は今日も大変賑やかです 〜元OLはものづくりで異世界を生き延びます!〜  作者: 斎藤 はるき


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13 * 監修商品

GW連日更新の二日目(二話目)です。


 


 ククマット市場では月一のペースで大市が開かれる。

 いつもよりちょっと安くしたり、普段は扱わないものを仕入れて並べたり。露店も増えて賑やかに。

 特に草木が青々と繁りはじめて気温の上昇を肌に感じる今頃と、秋が深まり冬の準備に追いたてられる雪の降りだす前の季節はクノーマス領のその時期の気候の良さからどこでも軒並み大市は人出が増える。

 その大市の規模として最も大きく集客があるのは港のあるクノーマス最大の地区、トミレア地区での大市。

 一度だけ行ったことがあるのよ、グレイと二人で。

 人が凄い凄い。船で近隣からもわんさか人が来るから乗り合い馬車が走れなくていつもとは違う臨時の乗り合い所を通って運行しないと危ないってくらいに人が溢れる。


 その大市でうちでは昨年からククマット編みとフィン編みを在庫に余裕があれば露店を出して販売してる。その数も人材の確保が安定してきたので少しずつ増やせている。それでもね、余裕があれば、の程度。

 毎回二時間で売り切れるそうな。

 トミレアの大市は偶数月に行われて日程は三日から五日間とその時によって違う。うちでは販売経験の長くなった女性六人に二人ずつ交代で期間に合わせて行って貰うんだけど。

「日帰り出来るからいいね!!」

 と、言われるほど。護衛を依頼する冒険者さんたちにも。

「往復の護衛が一日で終わるのなんてジュリさんの依頼くらいだな!」

 と言われる。


 つまり、そんだけ大好評なわけ。

「他に出せませんかぁ!!」

 と、トミレアの市場組合長さんが泣きついてくるくらいには大好評よ。


 グレイが青筋立てて腕組んでふんぞり返ってるよ。

「そちらに回せるほど暇に見えるか? よく見て言え」

 と一蹴。

 それでも食い下がる市場組合長さん。

「グレイセル様! 分かっていて言ってるんです!! グレイセル様だって 《ハンドメイド・ジュリ》の商品が少ないせいで喧嘩が頻発するなんて嫌でしょう!!」


 ん?

 喧嘩が頻発?!


 なんですと!!


「買えた者と買えなかった者とで喧嘩になるし、買えた者同士でもどっちが良いものを買えたか自慢し合ってそれが喧嘩になったり。酷いと買えなかった者たちが不幸自慢して喧嘩になるんです!!」


 ……うわぁ。

 うちの商品大人気。

 いや、違う。

 まさかの迷惑発生源。

 チラとグレイに視線を向けて、『どうする?』と問うつもりが。あれ、目を逸らされたぞ?

「もしかして、このこと知ってた?」

 無言を貫く彼氏。知ってたなコイツ!! 知ってて放置してたな?!

「……喧嘩の仲裁や鎮静化は自警団の仕事だろ? いい経験になる。無理に解決策を講じる必要性を感じない」

 えぇ……。とんでもない理由で放置してたよ。

 訓練のために? いろんな人が可哀想すぎる。

「いや、これが若い自警団員にはいい経験になるんですよ、ホントに」

 と、自警団のお偉いさんのルビンさんも笑顔で言いやがった。しかも自慢気に鼻高々なのはなんでよ。あ、分かった、放置して自警団の若者に丸投げ案はルビンさん提案だね? そしてそれを軽く採用した彼氏含む侯爵家の面々の顔が浮かばれる。まあ、それで治安が守られているならいいんだけど。……いいのかな?


そんな事情を抱えて無理だと断られてもいい、ダメ元でいいからと泣きついてきた組合長を連れてきたのがルビンさん。幼なじみなんだって。ルビンさんはグレイが私に護衛が必要な時に自分の代行をさせるくらいには信頼厚い人物で、しかも非常に私の仕事に理解のある人なので、組合長さんには連れてきただけで助け船を出す気配一切なし。むしろグレイと同じ意見なので『喧嘩したければさせとけよ』と顔に書いてあるようにも見える。

 憐れだ、若者たち。そして組合長さん。












 自警団の若者が可哀想なのもだけど。

「せっかく来たのに買えないのはねぇ」

 ククマットまで来ればいいじゃん、という簡単なことでもないんだよね。

 移動には乗り合い馬車、しかもうまく早朝の便に乗れればお昼に到着出来て買い物できるけど、遅れればうちは閉店時間迎えるからね。その馬車だってタダじゃない。乗り合い馬車に空きがなければ、ほとんどの人が護衛を雇うことになる。魔物に出くわす可能性があるから腕に自信がなければ絶対無視出来ないのが移動手段の選択。それには当然お金がかかる。

 庶民が移動にだけお金をかけていられないわけで。

 そうなると、トミレア地区の大市で買えるなら買った方がいいわけで。


 でもなぁ。

 アクセサリー類はまだまだ無理。作業行程が多く、細かい作業ばかりなので作れる人が限られていて量産不可。

 ククマット編み、フィン編みも 《レースのフィン》が休業中でもその分露店に人が集まっているので低価格帯の増産、しかも次のシーズンまでの在庫確保に新デザインの開発、そして 《ハンドメイド・ジュリ》の手伝いをしてもらい作れるだけ作って在庫を増やす期間でもあるから限界がある。

 となると、他のもの。

 他のもの、というより他の『手段』を講じるべきかな?


「組合長さん、二ヶ月後の露店からで良ければ、解決できなくもないかな、と」

「え!! 本当に?!」

「たぶん。ククマット編みやフィン編みじゃなくてもいい?」

「もちろんです!!」

「じゃあ、出せると思うわ」


 組合長さんが半泣きの笑顔で帰ったあと、グレイが怪訝そうな顔をする。

「元々喧嘩は多かったんだ。それを理由にジュリの作品を売り出して客集めしたいだけだろう」

「そうですよ、ジュリさんの負担になることはしないでください。そんなことになるくらいなら大市に露店だって出さなくても」

「……要は、私とその関連の作り手の負担にならなければいいのよね?」


 作業行程が少なく、いざとなったら修正しやすいもの。


 そういったものなら、私やお店の作り手じゃなくてもいいわけで。

 格安で委託、もしくは内職で作れるものなら大丈夫でしょ。

 となれば、数ある試作品の中にキリア、フィン、そしてウェラ、おばちゃんトリオとも既に今後の販売についてどうしようかと話し合っていた物はある。


「そろそろ、『監修商品』を出そうと思うのよ」


 私の言葉に、二人は首をかしげた。

 コンビニでよく見かけた『○○監修』のプリンとかケーキ。ラーメンとかもあるよね。

 有名なパティシエさんとのコラボ商品よね。レシピを提供もしくは共同開発してもらい、それを売り出す。そのパティシエさんのお店にはないオリジナルか期間限定品、もしくは類似品を提供する手段の一つ。


『ジュリ監修』の商品よ。


「一日の指導で作れるはずよ。しかも、素材さえ確保出来れば供給もそれなりに出来るものに絞り込んでしまえば出来るよ。『ジュリ監修』商品が」












【変革を開始します】











 お?! 来たよ!!

『監修』で来た。

 なるほど、今までは無かったのかな『監修作品』って。

 素材の加工でもなく、部品製造や組み立ての委託でもなく。完全に製作を任せる。私の名前で、私の素材管理や完成度の基準を満たすものを作って貰う。

 技術を秘匿しそこから利益を得るか、特別販売占有権に登録して世の中に広めつつ利益を得ることが多いこの世界で、名前だけ貸して完全に任せる、という作り方はなかったんだろうね。

 でも、秘匿し利益を追及するあまり高額になり、商品が品薄で手が届かないものになってしまったり、人気を得て売れても作り方が難しい、材料の入手が不安定で提供が追い付かないのでは話にならない。


 そしてククマットで大々的に売り出している透かし彫りやノーマ・シリーズだけど、これはある程度基本を提案だけしてあとは各工房に任せっきりでそこから次々独自に新作が生まれているし、ククマット全体で売り出しているから特産品。技術的には秘匿はしないけど経験浅い人が作って販売できるレベルのものではないから、地区全体で売り出しているけど量産品ではない。だから価格も日用品として買うような安価なものではなく、買おうかどうしようかと悩むもの。目についてすぐ『あ、これ買っちゃおう!』となるほど気軽には手が出せない。値段もピンキリで値札を確認しつつ買うものばかり。


 なるべく分け隔てなく、誰でも買える物であるものを増やすことは私の常なる挑戦すべき目標。


 そのためにも、私のものつくりは前進すべき時期に突入したと思う。


『監修作品』を世に送り出しますか!


「あぁぁぁぁっ」

 ん? ルビンさんが変な声だした。

「【神の声】ですか!! これが噂の!!」

 ああ、そういうことね。

「ありがたい、ありがたいぃ!! 」

 うわっ、おじさんが涙流し始めた!!

「ざまぁみろ! ヤック (組合長さんの名前)! 都合の良いこと考えてるお前には聞こえない声だぁ!!」

 あ、うん、幼なじみだからね、これくらいの事は平気で言えるよね。


「ジュリさんが考えたものを完全に他の工房や人に任せる、というものですか」

「確かにそれならジュリ達の負担はないな」

「考えてるものなら私やキリアだけじゃなくフィン、ウェラ、それからデリアたちでも監督出来るものだからね、交代で作業確認しに行くのも楽だしその場で作業の見直しや修正もかけられる。細かくて細部の確認が大変ってこともないものだから検品も簡単だと思うよ」

「で、その商品はなんなんだ?」

「額縁よ」


 そう。時間を見つけてはキリアとデザインを考えてたもの。

 冒険者のエンザさんパーティーからもたらされた山クラゲの魔石の入手が確立出来そうだと分かってからずっと。

 作っていなかったのは、試作にもそう時間を必要としない簡単さだから。とにかく、デザインだけはしっかり考えてた。

 擬似レジン、螺鈿擬き、白土、金属パーツ、押し花、リザードの鱗。これに山クラゲの魔石と貝殻や天然石。

 白土をフレームに、今ある素材たちをちりばめた額縁を作ろうと思う。


 白土だけでかなり重くなる。白土最大のこの欠点を補うのに木製の木枠を使えばいい。

 白土自体の接着能力は粘土と変わらない。白土のパーツに軽く乗せる程度ではほとんどくっつかないけれど、螺鈿擬きや押し花以外のものは擬似レジンや接着剤を塗布してからパーツを押し込めばいいだけ。

 デザインもしっかり決め、パーツも統一されていれば完成品の出来映えに差はほぼ生まれないし、白土は固まるまで数日かかるので作り直しも可能、作り直しで無駄になるのは押し花と螺鈿擬きくらいで済む。


 よく売っている、定番の額縁のサイズよりも一回り小さい木枠をライアスに作ってもらい、それと共に白土などの材料を渡しておばちゃんトリオに作ってもらったの。私の書いた作り方と図解が載った説明書を見るだけでどこまで出来るか。

 三人共に私の恩恵を受けている分だけ意図を汲み取る能力は高い。だから、説明書と材料一式で、私が望む完成度のものを作ってくれていた。

 これなら、他の人の場合でも。

「あたしらじゃなくても、何度か指導するだけで作れるよ、これなら」

 とナオが言ってくれた。

「螺鈿もどきと押し花を使う場合は作ってくれる人たちの中から器用な人に限定してやってもらえばいいしね」

 メルサも私が気になったことを解決してくれそうな意見をくれて。

「ま、なんとかなるよ!!」

 デリアの大雑把で根拠はないけど何故か頼もしい一言で気持ちは固まっていたのよ。

 そして、それを実行に移す時が来た。


 作りましょう。

『ジュリ監修:額縁』を!!









 


そして、そういえば『移動販売馬車』で【変革】来なかったわ。

似てるものがあるのか、それともまだ何か付加価値がないとダメなのかな? でもそれだと【変革のたまご】が来そうな気もするし。

まあ、『移動販売馬車』については今考えても仕方ないわね。


ということで、先に『ジュリ監修』を成功させるためにがんばりますか。


「なんか面白いことするみたいじゃん! 俺に声をかけろよ!!」

と、ニートチートが騒いでたけど、あんたそもそもうちの従業員じゃないし 《本喫茶:暇潰し》が大盛況なんだからトミレア地区辺りにもう一店出すとかしろ、そしてブルさんの肉、頂戴。


『監修』については正しい定義があるようですが、あくまでジュリの中ではこんな感じ、という曖昧な感覚でのことだとご了承下さい。


本当は本の編纂などに対して使う言葉らしいですね。でもコンビニで監修系のものってよく見かけるからここでも使えるだろ!! と組み込んだ次第です。

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― 新着の感想 ―
[良い点]  >擬似レジン、螺鈿擬き、白土、金属パーツ、押し花、リザードの鱗。  ジュリが知識を元に現地で育てたそれぞれの専門家(恩恵)チームが一丸となって作り上げる夢のプロジェクト! 何度読んでも…
[一言] 監修商品を出すのか~( ˘ω˘ ) ニートチートと言う言葉を見た直後に本喫茶:暇潰しを見ると暇潰しが一瞬穀潰しに見えてしまったw
[良い点]  『監修』、手を離れていきつつも地元密着になっていく感が凄くします! 現代日本なら軽い感覚でも、異世界なら新鮮さとワクワクが感じられるものになりそうです。
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