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『ハンドメイド・ジュリ』は今日も大変賑やかです 〜元OLはものづくりで異世界を生き延びます!〜  作者: 斎藤 はるき


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2 * 花は優しく扱いましょう

 


 早いもので召喚されて一年が過ぎていた。

 夏は短め、暑いけど湿度の低さが私が生まれ育った日本とはやっぱり違うと実感させられる気候のこの侯爵領には今たくさんの花が咲き誇っている。

 しかし道端の花でも綺麗なのが多いのには驚かされた。実に色彩豊かな世界。


 露店は相変わらず順調です。

 新しいだけでなく、使い方次第で自分の好きに飾れるマクラメ編みは、素材、色、そしてデザイン、大きさ、長さが多彩になったんですよ、凄いですよ働く女たちは (笑)。

「あたしも今から将来の蓄えのために頑張るよ!!」

 って鼻息荒い、主におばちゃんたちが農業、家事の合間をぬって編んでくれるのはもう定着して、その中でも数人は私が許可を出し販売権を得られるだけの技術を身につけて、驚いたことに独自のデザインを生み出すまでに至っている。

 私のチェックを通す形で、私たちが住む区画の隣の区画に住まう女性たちもフィンや販売権を得たおばちゃんたちに教わりながら商品として売り出せるものを作れるようになって、今ではククマットの新しい名物、おみやげとして侯爵領だけでなく他領からも買いに来る人も増えてきた。


 そんなこんなで私はほとんど露店を人任せにして、近々編み物の占有権をフィンに譲ることも考えながら、他のことで悩んでいた。

「うーん、イマイチだねぇ」

 フィンが残念そうに呟く。その手元には押し花がぴったりと紙に張り付いて剥がされるのを待つ状態になっているものがあった。

「あー、ダメだね、これ」

 私もつい声に出した。

 最近の私とフィンといえば専ら押し花に心血を注いでいた。


 コースターを作ってから実感したのは、押し花は今後スライム様から作り出せる擬似レジンとの合わせ技であらゆる小物に応用できること。そのためにも商品として世に出しても恥ずかしくない押し花を確保することはお店を出すにあたって必要不可欠。

 フィンは器用でしかもなんでもきっちりしないと気が済まない性格、押し花も直ぐにコツを覚えて彼女の作ったものなら

「出来たわよ」

 の一言で見なくても使えるもの、と信頼をおける品質だ。

 そこまでのクオリティまで求めていないけど、それでもある程度の期待をしつつこの押し花も外部にお願いしようと思って……。


 なんだろ、異常に完成度が低い。

 え? 手順が書かれたマニュアルとか、道具とか、全部揃えて渡したよね? お花も新鮮なの渡したよね?


 なぜにこの惨状。


 マクラメ編みで少しでも収入を得たいという近隣の女性陣にはあまり押し花をやる余裕がない。

 それで、市場でこういう仕事があるけどやりませんか? って宣伝してもらったり、民事ギルドっていう職業斡旋や、物の売買やお店を開きたい人が相談したりするところでも簡単な仕事をしてくれる人も紹介できるというので、それらを通して近場で物の受け渡しに苦労しない人たち十人をとりあえず確保して『代理』をお願いした。

 内職方式を取り入れたかったけど、『代理』との違いについての説明に時間がかかりそうな気配があったから、今回は面倒だしお試しの意味も含めて『代理』にしたんだけど……。


「うわ、これはひどい」

「……酷いっていうか。なんでこうなったのかな? 私が渡した花じゃないよね」

 もう、フィンと連続でため息ばかりだ。

 十人には毎日決められた数の花を形が綺麗に見えるように紙に並べ、指定の板で挟んでライアス特製の万力に似た器具で挟む。そして同じ工程で次の板を同じように挟む。板は絶対開けずにそのままにしてもらう。それが五枚分、押し花が挟まれたままの板が出来たら市場の露店をしてるおばちゃんたちかうちへ直接持ってきてもらうことにしたのはいいんだけど。


 専用の紙を使わず板にそのまま並べて押したから板にくっついて全滅。

 ただ適当に置いた花を押したから花びらが折れてる、葉っぱで隠れてるで半分が使い物にならない。

 中がどうなってるのか気になったのだろう、明らかに花がズレて他のと重なってたり、紙がよれてそのシワが花にくっきり付いたりで三割が駄目になってる。

 道具のつかい方の説明を明らかに読んでいない (識字率は高いのに)ため、道具を使わず、ただ重ねただけなので、押し花になっていないので全部無意味。

 そして、花を駄目にしてしまったのか、それとも侯爵家の庭から頂いた品質のいい小花だから欲しくなったのかわからないけど、開けてみたら全く違う花が並んでいて、そもそも選定できない除外品。


 こんなのばっかりなのは、なんで?

「手軽で簡単にお金になると勘違いしたのかもよ。ざっくり言えば、花に重石を乗せて平らにするだけでしょ。そうすればいいって思って、中身の出来なんてお金にならなかったら止めるか次に改善すればいいくらいの意識じゃないかい? 簡単な『代理』はそういうことが多いんだよ」


 ここでも『代理』の弊害が。

 本当に厄介だよね。そして『代理』はこういったことをしてお金を稼ぐ人たちの意識も向上させないし、商品の質の向上とか多様化の弊害にもなってる気がする。

 この変な働き方についてはグレイセル様が来たらちょっと相談してみよう。せめて私が依頼する人たちだけでも『代理』とは違う働き方を推奨して問題ないかとか。

「あら、これ」

 しかめっ面で唸っていた私の隣で、フィンが声を弾ませた。


 五組の板に、挟まれていた紙を見ただけでその完成度が高いことを匂わせた。透けてみえる花が均等に並べられている。紙にも余計なシワがなく、綺麗。静かに五組の板を外して、紙が並んだ下板を全部並べて、二人でそっと紙を剥がしていく。

「すごい、出来てる理想通り!!」

「ちゃんとしてくれる人もいたじゃない」

「うん、この人は合格。どれどれ次は? ……あ、この人も良さそうだね!!」

「あら、綺麗だね、並べ方から丁寧にしようとしてるのがわかるからいいねぇ」

 綺麗に薄く押された花。選別の必要がない完成度の高いちゃんと説明書通りに押された押し花を作れたのは十人のなかで二人だけだった。

 他の八人は残念だけど今回は採用を見送る。

 また説明して、確認して、のこの手間がすごいのよ。電話もインターネットもないこの世界では、簡単な連絡も手紙か伝言、直接伝えるんだから。魔道具で電話みたいなのと、手紙を転送できる道具? があるけど、一回で十リクル(千円くらいかな)以上取られるんだよ?!しかもギルドと自警団の各部署、金持ちの家にしかないんだから。


 でも、二人仕事が丁寧な人を確保出来たことを良しとしよう。

 本人と会って、仕事が丁寧でこれから定期的にお願いしたい、むしろできるだけやってほしい、『代理』ではなく、一ついくらと値段を決めて商品として価値のあるものを買い取る方法を取り入れると説明したらすごく喜んでた。

 そりゃね。

 私の知る内職ってそうでしょ? 仕事が疎かな物しか作れない人には少ない額、仕事が丁寧で正確な人には出来た分だけ高い額が渡る。単純明快。

 喜ぶよね、マクラメ編みの女性陣もそうだけど、何が駄目で何がいいか明確にしてもらえれば次の失敗を減らせて、それがダイレクトに収入になるんだから。


「押し花くらい、手順を覚えたからあたしがやってもいいんだよ?」

「ん? フィンは唯一カギ編みを教えた人だからカギ編み極めちゃって。そしてほかの人にカギ編み広めるの手伝って」

「……なに企んでるの」

「ククマット編み物天国!!」

「はあ?」

「ここをマクラメ編みカギ編みの職人が住む土地として世界に発信するのよ!!」

「はぁぁ!?」

「みんなでがっぽり稼ぐよ! マクラメ編みもカギ編みも私の許可を必要とするからね。そのシステムフル活用するわよぉ。ここで許可を得た職人を中心に専門の店を開く、冬限定の店よ。そこで買えるものは露店では買えない大物や手の込んだものばかりにするの。行列とか完売が目的じゃないよのね、顧客の獲得を狙うの、上層階級の、金持ち。ここにしかない、ここでしか買えないものとなれば……クックックックッ。期間限定、数も限られてるとなれば貴族が飛び付くでしょ、シルフィ様とルリアナ様は広告塔になってもらって、バンバン身につけて貰うよう話をするわ。ふ、ふふふふふ! フィン、糸は良いの用意するからお二人にスッゴいの編んでちょうだいね。……売るよぉ? そして資金が貯まったら、くふふふふっ」

「ジュリ、顔が悪どいよ」











「動き出すようね」

【その方】はにっこり微笑んだ。

「ただ作りたいものを作るのではなく、誰にでも買えるもの、少ない特別なもの、幅広い価値観を使い分けて人々にその人の求める『幸福をもたらす』。ジュリ、それがあなたよ。……時には悩むこともあるでしょう、それでもあなたなら解決策を見つけ突破していく。【変革】はあなたが思うままに動けば自ずと生まれる。気負うことなくやってごらんなさい」


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