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『ハンドメイド・ジュリ』は今日も大変賑やかです 〜元OLはものづくりで異世界を生き延びます!〜  作者: 斎藤 はるき


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12 * 待つのも大事な仕事だよ

 


 行動の速い白土商品部門の面々。ウェラとローツさん、ウェラの下で技術を研鑽中の従業員三人とティアズさん。彼らはエプロンして私のデザイン画と立たないガラス瓶、そしてライアスに即席でつくって貰った土台を前に真剣に話し合ってる。

 ……ローツさん、お店と領民講座の経営優先してくれる? え? 昨日までやれることは全部やってきた? だから今日は一日作業出来る? そっか、一日研修棟に籠る気満々か。いや、やることやって周りに迷惑かけないならやっていいんだけどさ、あんた一応重役 (専務的な)なんだから……。

 何言っても聞き流される気がしてならないから今日はもう何も言うまい。


 ウェラ主導で意見が交わされ、一つ決まったことがある。

「わかったわかった、注文ね」

 圧が凄かったのは、球体のガラスは今後も仕入れて欲しいってことと、後は私が深型のボールのような半球体のものだともっと作りやすくて中に拘れるかも、というのをキリアと話してたのを聞き逃さなかったウェラとローツさんの作るよね? という圧でガラス製品の取り扱いが増えること。

 ガラスは試作からお願いするところから始まるので直ぐには作れないよ、ということはしつこく言い聞かせた。……ちゃんと聞いてたよね? 覚えておいてね。


 スノードーム用の中身はウェラが元々キリアと白土でかなり試作をしてたのでサクサク進んだけれど、ダンジョンドームは直ぐに行き詰まる。理由は簡単。

 リアリティーを求めてとても暗い色合いになってしまうのでどうしても可愛さから離れてしまうから。ローツさんとティアズさんが岩とか冒険者っぽい形をしてる人形に着色するんだけど、それが実際の色にこだわろうとしてぜーんぶ暗い色に。パステルカラーを上手く活用しろって言っても聞かない!!

 見ててイラッとしたので手を出さないつもりだったのに私もいつの間にか椅子に座って着色を始めてしまった。


「薄い色でも、いいんだな」

「だから使ってみろって言ったじゃん!」

 岩の色は薄いベージュや薄茶色を重ねて、冒険者っぽい可愛い人形は水色の服、荷物や剣も軒並みパステルカラーや薄い色、そしてビビッドカラーでメリハリを付けるように所々はっきりした色を差し色程度に使うだけに留める。鉱石はリザード様の鱗の細かな欠片。

 ダンジョンの中で見つけた鉱脈から貴重な鉱石を発見して喜ぶ光景がほのぼのとした雰囲気で小さく纏まった。

 我ながら良いの作ったよ?


 ただ、これでも多少は問題がある。

 今の瓶だと、口の幅以上のものは入れられないのでバリエーションが増やせないこと。半球のガラス、そして口広のものが入って来るまでは試作品の域を出ないわね。

 ダンジョンドームはほぼ勢いで生まれたものなので今後はもっと皆と創意工夫していくしかない。

 反対にスノードームは……。

 凄いな、何種あるの?

 うん、今のところ8種類? でもダンジョンドームと違って色々出来るからもっと作れる? 色を変えればさらにもっと? 直ぐに作れるって?

 ちょっと落ち着きな、君たち。

 ウェラ、凄いね。超可愛い白ウサギとか雪だるま、雪を被った家や木、ソリはもちろんダンジョンドームからヒントを得たという冬服を着こんだっぽい人形もある。

「半球のガラスが手に入るなら町並みを作ってもいいね!」

 あ、うん、凄いのできそうだね。











 レフォアさんたちのお陰でアシッドウッドの樹液が使えることが確認された。

 軽いとろみを付ける程度なら、水に溶いた後約二日で毒性はなくなり、変色もしないことがわかったの。

 そして螺鈿もどきに擬似レジンを塗布してカットすれば液体の中であれば振っても砕けて粉になってしまうのをかなり防げるとわかった。しかも一度硬化させた擬似レジンならばスタンラビットの角とも不和反応を起こさないことも分かったので液体のなかで一緒にすることも可能だと。

 そしてアシッドウッドが最も触れあう白土、着色料、そしてリザード様の鱗やスタンラビットの角とも不和反応を起こすこともなく、溶け出したり変色もしないからあとは経年劣化の確認をするだけ。


「「「「え?」」」」


 怖い。

 みんなの目が怖い。なによ?

「経年劣化の確認をしないと売らないの?!」

「そりゃそうでしょ。うちの店の規模にもなればもうそれくらいしてからじゃないと売れないよ? 今まで即販売出来てたのはそれなりに今まで素材の情報があったからよ。今度のは新しい組合わせばっかりだし何より中身は水、水漏れとかそういうのだってちゃんと確認をしないと。売り出すのは冬のつもり。それでも早いと思うんだからそれで納得してちょうだい」

 なにその絶望した顔。

 そしてもうひとつ、彼らを絶望させたのは。


 サンドワーム。


 死ぬと砂になる摩訶不思議なあの魔物の、カラフルな色になる場合が多い内臓部分。あれ、使えなくてねぇ。アシッドウッドと不和反応を起こすの。レフォアさんたちの実験で、アシッドウッドが付着すると変色することが分かって。例えばこれが漂白されて白くなるとか、変色して茶色くなるとか、決まった色になるならまだ使い途はあるけど、なんと茶色だったり灰色だったり、くすんだ黄色だったりと、何色になるか分からないというね。毒素が抜けてもその反応は起こしてしまうからカラフルな地面部分やポイントととして使えず、却下よ。サンドアートに使えることだけでも良しとしましょうかね。


 それでもめげないで作る彼らに感謝と感心をしつつ、私は一つだけ、特別仕様のものを手掛ける。

 これはシルフィ様からの依頼、特注ね。


 シルフィ様は王都にある豪商の娘で、雪がほぼ降らない土地で育った。

 結婚するときに侯爵家にご家族が招待されて滞在したとき、雪景色をとても感動しながら眺めていたらしい。旅行で見ることは可能だけど、ご家族が見たのは侯爵家の窓から。

 美しい庭園に降り積もった雪は芸術的。そして一歩屋敷を出れば農地が広がっているので、一面の銀世界。

 そんな景色を堪能できる場所は世の中そう多くない。それをご両親に少しでも感じられる物を贈りたいと、過去何度かクノーマス領の冬景色の絵を贈ったことがあるそう。ご両親はもう長旅を何度もするような歳ではないし、綺麗な景色はもう絵にし尽くした。そんなとき、雪景色を表現するオブジェを作ると聞いていてもたってもいられず、ということに。


 先日の件で、侯爵様とシルフィ様は店に来なくなった。いつもの前触れもなく突撃してきてワクワクした顔で店の裏口から声を掛けてくる光景はお店の風物詩化していて、従業員たちももう慣れっこになったほど。ていうか、私自身が『今日あたり来そうだな?』とお茶とお菓子を皆に準備してもらって、事業への出資の相談とか開発中のククマットの土地の活用についてとか、そういう話をする準備とかしてたわよ。

 それがちょっとね。

 ピタッとなくなった。

 だから、スノードームの特注をお願いしたい旨もわざわざグレイを介して手紙が届いて。内容も期限は決めないしデザインも任せるし、好きにしてもらって構わないというもの。

 さすがに苦笑してしまった。私が警戒しているのは王家の動向とそれにどう侯爵家が関与していくかであって、侯爵家と私の今の関係性じゃない。それこそ、本来はそんな動向を警戒してることすら、失礼なことなんだと思う。でも、【彼方からの使い】である私はそうも言っていられないから警戒する必要があるだけで、口出しする気はないし、してはいけない立場だと弁えているつもり。

 それを侯爵家の皆さんが混同しないようにしてほしいなぁ、と思う。グレイは正直どうでもいいって顔してるけどね。それはそれでちょっと驚いたけれど。












「まあ、まあ」

 シルフィ様にデザイン画を見せたら少女のように目を輝かせて。

 半球のガラスのドームの中にあるのは、侯爵家の屋敷を簡素化した建物がなだらかな広陵地にあり、その屋敷を目指して馬車が一台進む光景。本当はないんだけど周囲に背の高い木を何本か配置して、他にも雪だるまを作ったりそり遊びをする子供たち、雪かきをする大人もいる。

「屋敷はそれなりに再現が出来るので、それを中心にククマットの冬の光景をここに閉じ込めた感じですね。ここには描いてないですが、ちいさな家を置いたり、乗り合い馬車をおいてもいいかと思います」

「それ、全部出来るのかしら?」

「出来ますよ」

 ぱぁっ! と頬を紅潮させて、嬉しそうなシルフィ様。

「あの、ただ一つ問題がありまして」

「え?」

「このサイズになります」

「え」

「このデザイン画とほぼ同じサイズです」

「……」

 シルフィ様はもちろん、興味深げに黙って見ていた侯爵様も固まった。

 デカいんだぁ。

 直径なんと四十センチ。

 私としては二十センチくらいのを想定してデザインしてたんだけど口出ししてくる人がいるのよ。ものすごく口出ししてくる人たちが。

 白土部門。ウェラとローツさんという二大巨頭と共に、フォンロンギルドのティアズさんや他白土部門に配属されてる人たちね。

 もっと屋敷を忠実にとか、雰囲気のために木を入れろとか、もっと人形を増やせとか……。無視するとずっと隣で熱弁されるから。

 で、それに対応すると四十センチ。

「……時間、貰えますか」

 と、泣きそうな顔をしたのはガラス工房の職人さん。私が懇意にしてるアンデルさんの工房は今手一杯なので、最近は近隣含めていろんなとこにお願いしてるんだけど、その一ヶ所、薄くて透明なガラスを最近安定的に作れるようになってきた工房があるので、そこの主にこのガラスドームを発注するかも、と言ったらシルフィ様たちみたいに固まって、そして泣きそうな顔をされ、『直ぐは絶対無理』という意味で言われたわ。

 デカいよね。

 そもそも二十センチでもデカいよね?! とグレイと話してたんだけど、白土部門が『侯爵家のものならば!!』とテンションがおかしなことになり。いや、これ、発注が侯爵家というだけで、所有する人は違うからね、と何度も言ったけど聞いちゃいない。そしてこんなことになる。

「えっとですね、中身が液体、しかも器がガラス、白土なので重量もあり、大きさは当然のごとく、デカいな?! というもので。安全に届けるためにはこれのお値段よりも数十倍かかる転送魔導具を使うことになるとグレイが言うんですけど、どうしますか? 運輸商さんも、冒険者パーティーも、これを運ぶ依頼は受けないんじゃないかって言ってるので……」


 庶民の家が一軒、新築しかも家具付きで買える転送費かかるなら私なら絶対買わない。その前にこんなデカいドームいらない。置く場所ない。

「シルフィ、お義父上たちの屋敷はこういうものを飾れる場所はあるか?」

「大丈夫かと」

 この会話だけで購入決定するあたり、太っ腹というか価値観違うというか。

 でもまぁ、完成品は私も期待している。

 白土部門のあの雰囲気から、私が想像したものよりかなり精巧な作りになる予感があって、ジオラマに近いものになるかなと思ってる。サンドワームの砂でサンドアートの話をして以降、 白土部門のスイーツデコ以外の作品の幅が広がるその期待感たるや、尋常ではない。針金や薄い板を駆使して細かな風景や人形を作る模索も始めたからね。

「うん、好きにして。がんばれー」

 とだけ言っておいたわよ。もちろんローツさんはその輪から引きずり出しておいたけど。


 大きくなると中に入れるスノーフレークやラメを簡単には振って楽しむことは出来ないですよ、と言ったら。

「両手でこう、下を持ち上げて上下させれば」

 と、侯爵様とシルフィ様が真顔で真面目にその動きをして見せてくれたので、『いっかぁ、それで』と納得しておくことにしつつ、あとはそのスノーフレークの代用品として艶とオーロラカラーの弱いパールカラーのかじり貝様の内側の層でも十分綺麗なので、もろくて崩れやすいその性質は擬似レジンの塗装で補強し試作を始めるつもり。


 まあ、どうせ直ぐには販売できないので、珍しくこのスノードームに関してはのんびり進めていこうかなぁと悠長に構えてみる。


「……ダンジョンドーム」

 ただその一言で、圧を掛けてくる男たちは無視するよ。次の冬まで待て。


ブクマ&評価、感想ありがとうございます。

総合ポイントや感想が増えていくのを見るたび嬉しくなります! そして勢いで書いて空回りして書き直す日々です!!

感想まではちょっと、と思う方は評価していただくだけでも良いのでよろしければお願い致します。




そして次回、3月30日は本編と季節モノの二話更新です。


そのあと4月3日、6日、(もしかすると10日も)通常の更新はお休みさせていただきます。


4月4日に季節もの単話の更新、4月10日以降本編再開を予定しています。変則更新になりますのでご注意下さい。





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― 新着の感想 ―
 マイケルに上向きに水流を起こすような魔石を発注して仕込んだらどうかと。間欠泉みたいに一定間隔で吹き上げられないかな。
内部に小さなプロペラ仕込んで魔力でクルクルするようにしとけば……?
[一言] そこまで大きくなったらいっそのことひっくり返す為の台も作ってそれに固定した方が利便性が高い説ある
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