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『ハンドメイド・ジュリ』は今日も大変賑やかです 〜元OLはものづくりで異世界を生き延びます!〜  作者: 斎藤 はるき


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12 *抽選結果

忘れてた訳でも、放置してたわけでもありませんが、今さら感が強めのネイリストの学校の話がようやくここで登場です。

 最近【弓使い】が上機嫌でククマットを闊歩している姿をよく見かける。

 ククマットに家買っちゃったからね。てゆうかさ、あんたテルムス国に所属してるのになんで最近拠点がククマットなのよ?

「住みやすいし息子がこっちで友達増えたしネイル出来るし、私も転移できるからべつにどこでもいいし」

 ああ、そうですか、自由でいいですね!!

 という愚痴を吐きつつ、【弓使い】ケイティの爪を見る。

「……派手になったよね」

「でしょ。お陰で百発百中よ、絶好調」

 凄いのよ、最近のケイティの爪。ド派手。ネイリストの講師をするウィニアさんとイサラちゃんとで彼女の爪を磨きそしてネイルアートを施すのは最早日常化していて、二人はケイティが訪ねてくる日の間隔がちょっと空くとソワソワして落ち着かなくなってしまうくらいにはネイルアートで【弓使い】の爪を飾らないと気が済まないという謎の禁断症状が出るので、今や三人はセットの扱いとして私たちは認識することになっているんだから笑うしかない。

 そんな講師二人は。

「弓矢を使う仕事を生業にしている人はネイルアートをすると精度が上がるんですね」

 というとんでもない誤解をしていたことが発覚したので、それは徹底的に全否定してその考えを改めてもらったわ。うん、なんでそうなっちゃったかな……。










 ようやく目処がたったのは、ネイリスト育成専門学校。

『うちの使用人や侍女を入学させてくれ』と届いた手紙の山、しかも何故か大陸中からのそれに心が荒んだ侯爵様たちだったけど、なんとか選出が済んだ。

 というか、済ませた。

「もうさぁ、マイケルにお願いして絶対不正出来ない抽選箱とか作ってもらってそれで抽選しちゃえばいいのに」

 と、軽い気持ちで言ったらそれが採用された。

 それでいいの?! と言おうとしたけど、じゃあ他に何か案はあるのかと問われればない。ないというか考えるのが面倒。なのでそのまま黙って見守ることに。


 専門学校は四ヶ月、十名だけの超少数制。第一期生ということで、試行錯誤ありきになるからね、これくらいが対応しやすいだろうと最初から決まっていたこと。今回は三期生までを募集選考したとのこと。

 そして生徒の基本的な環境についてだけど。

 学校のすぐ近くにある宿に協力要請し、生徒は四ヶ月間そこで寝泊まりしてもらうことになっている。下宿に近いんだけど、元々小さな宿なので、十名入ったら満室ということもあり、そこを寮と呼ぶことになった。なので全寮制といっていいのかな?

 初めは学生の為のそういった建物を作ろうとしてたんだけど、そうなると場所が少し遠くなるという問題が発生。なので無理に建てたりせず、宿に協力要請することに。

 今後学生数を増やす時も近くの宿に要請していくと楽かもしれないね。


 実は領民講座が好評で、近隣どころか、周辺の他領からも時間とお金に少しゆとりがある人は一回限りの講座や短期集中で数日間連続受ける講座を新規で開設したらそこにやって来るようになって、その影響もあり専門学校と領民講座が入る建物の周辺は軒並みどの宿も好調。

 しかもこれに便乗して、筆や紙を扱う雑貨店や帰りに買い食い出来る屋台なども増えて周辺は賑わいが出てきた。


 いいことだね!!


「で、噂の抽選箱がこれ?」

「ああ、だそうだ」

「ただの箱に見えるんだけど」

「見た目だけはただの箱だな」

 マイケルご自慢の抽選箱が気になる、と言ったら抽選会を行ったという王都からわざわざ抽選会の主催を務めて下さった侯爵夫人シルフィ様のお兄さんから厳重に梱包されて使用した三箱全て届いた。一箱でいいのに、『そのままそちらで保管して』という手紙付きで。

 仕組みは簡単なものなのよ。当選の証である赤い木札と、外れの白い木札が入ったその箱に手を突っ込んで札を一枚引くだけ。

 引くだけ、なんだけど。

「あ、不正しようとすると、微力な魔力でも察知して呪いが発動するようにしてあるんだ」

 素敵な笑顔でマイケルが言った。手を突っ込んでみたグレイがそのままの体勢で固まった。

 私たちが『あ、それ、デシャブ……』という顔をしたのをマイケルが無視しやがったよ。

「ちなみになんだが、どういった呪いだ?」

「手が腐るんだ」

 だからその笑顔怖いよ。マイケル。というか、先日の鍵同様マイケルは精神的にきつすぎる手が腐る呪いを平気で使用するのがなんとも……。

 なるほど、こんなものを家に置いて起きたくないというシルフィ様のお兄さんは私の申し出をこれ幸いと利用して送りつけて来たんだね。

 ……グレイの屋敷におかせて貰うわ。うん。

 別に木札は入ってなかったんだけど、グレイが静かに腕を抜いて、蓋を閉め、布で包んで再び厳重に保管。それが正しい反応で正しい処理。


「で、今回はどんなメンバーが当選したんだい?」

「あ、それがね、結構意外な結果というか」

 そう。

 実は、今回想定外な事が起きた。

 なんと他国の有力者、富裕層のところの侍女さんや使用人、そしてなんとその家の夫人や娘さんたちが狭き門を通過した割合が高く。

 この結果には裏があった。

 ベイフェルアの貴族が圧力をかけてた。

 侯爵家にではなく、侍女を受講させたい抽選会に申し込みしていた貴族や商家に。その数なんと数十に及んでいた事をグレイやローツさん、そして侯爵家の調べで分かった。この圧力をかけた家というのは侯爵家の一つ、フィグラン家。この家は穏健派と言われる派閥の家なんだけど、以前この家の侍女がうちの店で他のお客さんと揉め事を起こして一度抗議している。

 それがねぇ。

 他のお客さんを追い出そうとしたのよ、『庶民と一緒に買い物したくない』って。じゃあ侍女のあんたは貴族なのか? と問いただされて言葉に詰まってたんだけど!

 でもね、そういって追い出そうとした人がですね、お忍びでいらっしゃってたお貴族様で。庶民の服着てたから分からなかったんだろうけど、その人が身分明かしたら『うそだ』とか『あり得ない』とか騒ぎだして。収拾つかなくてグレイとローツさんがその侍女さんを摘まみ出したのよ。しかもそのお貴族様ってのが爵位の同じツィーダム侯爵様。

 ……ある意味、いい経験だったよ。

 中にはかなり気合い入れてノリノリで変装する人もいると聞いてたけど、ホントに徹底した変装で高貴な人がお忍びでくるんだな、とか。

 摘まみ出すってよく言うけどあの二人がやるとホントに摘まんで出す、に近いくらい簡単にやれちゃうんだな、とか。

 勉強になったよ。うん。


 ツィーダム侯爵様というのは、クノーマス家と同じく中立派なんだけど特に仲良くしてるわけでもないそうで、何かあれば中立派として意見を合わせるというお付き合いらしい。エイジェリン様に言わせると非常に理想的な距離感を保てていると。それって、よく言う微妙ってやつじゃ? と庶民の私は勘ぐったりしてしまうけど実はこの理想的な距離感というのは出来るようで出来ないらしく、お互いがそれでいいと割りきって信頼しているから出来ることなんだって。

 ……じゃあ仲良いよね? とツッコミ入れたくなるけど、彼らからするとそうでもないというんだからなんとも不思議な世界よ。


 で、とにかく侯爵様に対し、たかが侍女が喰ってかかるなんてあってはならないこと。名乗られた時点でまずは確認するべきだった。だってグレイやローツさんが出て来てたんだから。それなのに騒いだから摘まみ出されたんだけど、性格の問題かそれともフィグラン侯爵家の教育なのか、『屈辱を受けた! 訴える!』と吐き捨ててね。

 それでそのあとフィグラン家に当然ツィーダム侯爵家、クノーマス侯爵家どちらからも『大変失礼な侍女が騒ぎを起こした、教育し直せ。二度と店に行かせるな』というニュアンスの抗議文を送り付けたという。


「おそらくその仕返しってことだろう。国内の貴族が専門学校に人を出さなければクノーマス家が困ると思って。それとうちがこうして声をかければこれだけの貴族や商家が動くんだぞってのを見せたかったんだろうな」

「困らないけどね。倍率何倍って話よね?」

 ローツさんの説明にこっちは軽く肩を竦める。

 だってねぇ。圧力をかけられた家が数十減ったお陰で、むしろ倍率下がって喜んだ人がどれだけいたか!!

 それに、国内の貴族が減ったとしても、【彼方の使い】繋がりで抽選会に来た他国の貴族は多い。だってあのネルビア首長国からも四人代表して来てたんだよ?! ネルビアですら出してきたんだから、他なんてもっと遠慮なく出して来るわけで。ハルトの所属してるロビエラム国なんて王妃付きの侍女の他になんと五十人近く送り込んできた。しかも北の大国バールスレイドや、複数の小国からも複数人ずつ、抽選会にそれぞれの代理が来ていたっていうのよ。

「フォンロンでは陛下が抽選会に参加できる者を選出することになりましたからね」

 レフォアさんたちフォンロンメンバーが笑ってるけど、フォンロンも大変だったらしいから。絞りにしぼって、ようやく三十人に決まったのを送り込むから、と手紙が来たとき三人が苦笑してたからね。『相当頭を悩ませたでしょうね』って。


 まあ、抽選会前からそんな状態だったので、蓋を開けてみればなんと三期生までの合計三十名の枠を掴み取ろうと約六百人が集まったとかで。

 木札どうしたんだろうと疑問に思ったけど、事前に抽選会の参加は必ず侯爵家からの招待状がないとダメってことになってたので最初から人数は分かっていたから、会場入口で一から六の数字が振られた玉を引いてもらい、まず集まった人たちを約百人ずつに振り分けて一回の抽選で五名が選ばれるようにしたとのこと。一、四が第一期生、二、五が二期生、そして三、六が三期生というように最初に分割するという手間をかけたんだね。


 ああ、なるほど。招待状準備の他に、会場で抽選会がスムーズに進むように計画する必要があったから時間がかかったんだね。そして皆がちゃんと集まれるように抽選会の日も招待状が届いた後余裕を持たせたんだろうし。ここまで延びたのは当然といえば当然なんだね。

 六百通の招待状。しかも茶会や夜会ではなく、抽選会のため。なんか切ない。


 話がそれたけど、その高倍率を見事射止めた人たちは、私の予想をいい意味で裏切った人たちばかり。


 一期生はなんと十名中八名が他国。フォンロンの貴族の侍女と豪商の娘、ロビエラム王妃の縁戚の侍女、テルムスの貴族の侍女、バールスレイドの高官家の使用人、南の小国カッセル国の大臣の夫人、そしてネルビア西部の首長の娘と北部の首長の妹。そしてこの国の子爵家、伯爵家のそれぞれ侍女。

 ……ネルビア、くじ運強いな? レッツィ大首長が【スキル】で細工でもした? と疑問を持っちゃったよ。

「レッツィの魔法関連の【スキル】は僕に通用しないから不正は働いてないよ。というか僕がそんなの許さないし」

 だからマイケル、笑顔が怖いと何度も思わせないで。


 二期生はベイフェルアの伯爵家の侍女、豪商の使用人そして別の豪商の娘と、なんとツィーダム侯爵様の所の侍女が食い込んだ。ロビエラムは貴族二家からそれぞれ侍女、フォンロンの大臣家の侍女、テルムスの王妃付き侍女長、北の小国であるメデイセン国王女付き侍女、もう一つ北の小国からサラファ国宰相家の娘。


 そして、三期生の結果。

 ベイフェルアは男爵家の侍女。テルムス国の貴族の侍女、大臣家の使用人。ロビエラムの王宮務めの髪結い師。フォンロンの貴族の侍女、官僚家の娘、そして大国バールスレイドから一気に貴族から二家それぞれ侍女、豪商の家の夫人、別の豪商の家の娘の計四人。


 申し込みが一番多かったベイフェルアと、かなりの人数送り込んできたロビエラムが意外と少ない、惨敗(笑)。対して北と南のそれぞれ小国群やネルビアが数人ずつしか送り込んで来なかったのに食い込んで来たのには驚いた。

「もしかすると抽選会に【スキル:幸運】とか【スキル:危機回避】持ちを送り込んできたかな、これは魔力関係なく発動することが多いから。抽選会は本人もしくは代理による抽選どちらでもいいことにしてあったし、魔法による不正禁止という縛りだけだったから、そこを上手くついてきたんだろう。バールスレイドなんてリンファがいるからね、僕の作った抽選箱のことを聞いて送り込む人材を彼女が選出したと思うよ」

 おお、そういう【スキル】もあるんだね?! 面白い。そしてやはりリンファ、可愛い顔をしていて侮れない。

「次回からはその対策をする必要があるかな」

 そうね、それは要検討だね。

「魔力の影響がなくても【スキル】発動させたら一分間呼吸出来なくなるとか。パニックになってすぐ不正したこと分かるよ」

 あー、マイケルが怖いよー。誰かこの笑顔なんとかしてー。


 そして気になるのは、なんだかいいところのお嬢さんや奥さんが直接来るパターンがあったこと。大丈夫? 寮になる宿は評判よくて綺麗な所だけど狭いよ? こっちも差別しないし厳しくするよ? と心配が。

「その辺は全て詳細を記した書面を招待状と共に送ってるだろ? 分かっていてそれでも本人たちが来たい理由は一つだ」

 グレイが笑う。

「ジュリとケイティと知り合いたい」

「は?」

「少なくとも、侯爵家や私、マイケルたち【彼方からの使い】を介するより会って話せるチャンスはある。ジュリに接触する人はこちらで制限しているのが現状だからな。ケイティだって不必要に権力のある者と今以上に接点を増やす気はないだろうし。それが専門学校なら会う機会もあるし、何よりククマットでは 《ハンドメイド・ジュリ》に客として来店する機会もあり、そこで会えるかもしれないだろう?」

「ははぁ、なるほど。会ったからって私は依怙贔屓したりしないけどね?」

「顔を知って覚えて貰えるだけでも価値があるってことだ」

「そんなもの?」

 イマイチその価値が分からない私を、グレイとマイケル、ローツさんたちが笑った。



抽選箱のその後。


「そういえばあの恐ろしい抽選箱どこに片付けたの?」

「宝物庫」

「この屋敷に宝物庫ないよね?」

「宝物庫のある家が私の実家だからな」

「ああ、なるほど」

「どうせ専門学校のことは実家の仕事だ、責任持って管理してもらうさ」

「それがいいかもね」


後日、『抽選会を行うのは王都だから』の理由で侯爵様とシルフィ様によって宝物庫から出されエンザさんたちパーティーによってバニア家に運ばれて行った。


「そういえば俺たち何運ばされたんですかね? 軽くて楽だったのに、報酬がすこぶる良かったんですよ」

この質問に誰も答えなかった。


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― 新着の感想 ―
[良い点]  ネイルアート、百均でも見かけるネイルスタンプが気になります。あれの大きいバージョンで陶磁器の内側に転写するパット印刷というのもあるのですが、あのぷるんとした装置が、スライムで再現出来ない…
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