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『ハンドメイド・ジュリ』は今日も大変賑やかです 〜元OLはものづくりで異世界を生き延びます!〜  作者: 斎藤 はるき


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11 * 不得意な物は他人任せで

本日更新分より読者様ご提案作品第二弾です。

予定では一月中のつもりだったのですが、更新ちょっと遅くなりました。

 この世界であるようでなかったものを以前から見つけてはいたんだけど。どうにも私の意欲が湧かなかったものがあるんだよね。

 人には得手不得手というものがあって、もちろん私にもあって、そしてそれについてはフィンもライアスも初めから理解していてちょっと意外だと言われてる。


 子供の頃から手先が器用だと誉められ、そして絵もそこそこ上手いと言われてきたんだけど、何故かそれだけは私の創作意欲を掻き立てないし、そのせいか上達もせず、作ると普通のものしか出来ない。素人の域を出ず決してハンドメイド作品を出展できるサイトに出せないレベルのものしか出来上がらないというね。


 裁縫。


 なーんでか、これだけは『それなり』から上達しないし、する気配すらない。

 だからお店で出してるシュシュとか硬貨袋などの布製品は全て私が一つ『こんな感じー』と作ったものをフィンかキリアが綺麗に作ってそれが見本になるか、描いたデザインをみて二人が作りつつ、私が口を挟みつつ、見本が完成していく。最近は作り手が増えて、さらに直接布を扱う機会が私から遠退いている。

 つまり、布と糸を使う物になると私の【技術と知識】はそれなりに出来る凡人、その位置から微動だにしないのよねぇ。

 ある意味それは凄いとたまに思う。だって本当にここに来て裁縫だけは以前のままで気持ちも技術も全く向上しないんだから。


「布製品がもっと多かったらいいなぁ」

 と言ったのは友達のシーラ。

 シュシュと硬貨袋だけでも今かなりの種類を出してるんだよね。だからその勢いで他にも沢山のものが出たらなぁ、ということらしいんだけど、どうにもこうにも私の気持ちが (笑)。提案できる物はあるんだけど、その分時間を割くことになるから勿体ないと思ってしまう………。

「がま口とかノーマちゃんシリーズとか出したから勘弁してよ。 《レースのフィン》でもクッションカバーとか結構色々出てるし」

「……ホントにジュリって布になるとダメなのね。レースなら今でも編んだりするしデザイン浮かんだりするのよね?」

「あれは裁縫じゃないし」

「針と糸を使うじゃない」

「ジャンルが違うし 《レースのフィン》に人材揃ってるし」

「……要するに裁縫は管轄外にしておきたいわけね?」

「そういうこと」

 シーラが遠い目をしたわ。ごめん。


 と、のらりくらりといい具合に目をそらしていたんだけれど。

 ある日、シュシュとか布製品を作ってくれている女性陣が集まるお宅に新しい布や備品を届けに行って、そのまま打ち合わせしていた時。

「結構残ってる布あるわね」

「人気の柄や色はあっという間になくなるんですけどね。黒や紺色は余り気味です」

 やっぱり価値観が違うのか、こちらの世界でシュシュを売り出した時から人気なのは色のはっきりしたもの。私の感覚で使いやすい黒や紺の布をつい多めに用意してしまうんだけど、これがまぁ見事に減りがゆっくりで。赤とか黄色とか派手な色だったり花柄とかチェックは飛ぶように売れるんだよね。

 あとから色々調査したら衣服が地味な色が多いからせめてヘアアクセは明るいものに、っていう理由が。コーディネートとして合う合わない関係なしよ、お洒落してるよっていう主張が全面に出せればいいらしい。

 黒や紺でも可愛く仕上げたのもあるんだけどねぇ。

 濃い色のものだと、差し色に金や銀のパーツを付けたりすると実にシックで上品になる。これはルリアナ様やシルフィ様が好んで使ってくれてることからもその組み合わせは間違いないはずなんだけど、ヘアアクセとして世の中に定着するまでは華やかな色合いや珍しい柄が目につくし明るく見えるから当分の間はこの状況が続きそう。


 だとすると、他の消費も考えないと勿体ない。暗い色と言っても質や柄、微細な色合いに拘った物を仕入れているからね。それらを活かす手が必ずあるはず。

 服は除外。そもそも服屋じゃないので現在 《レースのフィン》で扱っているもの以外増やす気は今のところ無し。

 それでも消費しやすさに注目すると、やっぱりクッションカバーとかベッドカバーなどになるのかな。

 で、あれば。

 どうにも作ることに乗り気しない私に代わり、皆にはアレを試作してもらおうじゃないの。


「『パッチワーク』で消費しよっか」


「「「「「え?」」」」」


 うおっ、全員が首傾げたわ。


 そう、あるようでなかったのがパッチワーク。


 古着が普通に流通しているこの世界でなんでないわけ? 繕い物をよくするんだから布と布を縫い合わせるところから思い付きそうだけど? とずっと思ってた。以前フィンにも『つくってー』とおねだりしたら『それなに?』って顔をされ。

 ちょうどマクラメ編み改めククマット編みで忙しくなった時期で結局お願い出来ずそのままになってたんだよね。


 それがパッチワーク。


 ……ムダにしたくないよねぇ。地味な色合いでも花柄とかドット柄、ストライプにチェック、いい柄揃えたからさぁ、活用しないなんてあり得ないよ。


 よし、やろう!

 私はやらないけども。










「で、あんたは本当にやらないと」

「やらないよ、実力が分かりきってるから。布をムダにするよりいいでしょ」

「まぁ、適材適所って言葉もあるし、やりたい人、できる人がやればいいしね」

「そういうこと」

 キリアは私の指示に従って、慣れた手つきで布を裁断していく。

「色んな柄や色を使うのね」

「今回の色は合わせやすいよ、黒と紺だからね。慣れてくればもっといろんな組み合わせで華やかなのも作れると思うよ」


 キリアには家に来てもらって試作してもらうことに。工房はさすがに道具や素材を簡単に移動出来るほど場所の確保が出来るわけではなく、二階の多目的スペースもそんなに広くないしグレイやローツさんが経営のことで話し合うのにも使うからあんまり作業に使えない。なにより、落ち着いて説明するとなると必ず二人きりになる必要があるからごくたまにこうして家の私室で作業する。この家にある作業場にも絶えず人が来るけど流石に私室には誰も来ないから案外落ち着いて出来たりするのよ。


「作りやすいから今回は正方形を繋げていくだけにするけど、アレンジは無限大だよ」

「そうよね、型紙と裁縫に自信があれば曲線だっていけるよね」

 私が見たことあるパッチワークで、小さい布を使い曲線を駆使して作られてた風景画の特大モノには感動させられた過去が。色んな布の柄や色を一つ一つそのデザインに合わせて選んだのかな、遠目に一瞬見るだけなら絵画のそういうタッチの絵なの? と思わせる精巧さで、さすがの私も布製品も小さいものからチャレンジしてみるべき? と気持ちが動かされるだけの感動を貰った記憶がある。


「基本は縫い合わせるだけなんだけど、布ごとに質感も厚みも違うから縫いやすさには相性があるかもよ」

「確かに。厚ぼったいのは向かないわ、あとほつれやすいのもダメじゃない?」

「そうだね、その辺は都度カットして確認していくしかないね」

 といいつつ、キリアはサクサクと縫い合わせていく。

「大きめのパーツで直線ならミシンで量産できそうだわこれ。ミシン使えないの?」

「ミシンはフィンの部屋だから今日は勘弁して」

「ああ、なるほど」

「布持って帰っていいよ、キリアならベッドカバーくらい簡単につくりそうだわ」

「……いま、何て?」

「ん? ……ああ、ベッドカバー?」

「作る、絶対作る!!」

 おお、なんだかキリアの創作意欲に火がついたわね。


 確かにね。

 この世界のベッドカバーは可愛いのが少ない。凝ってるものだと刺繍が入って高額になるし、柄の入った布はその染め技術がまだ未発達だからどうしても数が少ないしやっぱりお高め。プリント技術に似たものはあるけど、量産できる工場的な場所は少なくてそれがそのまま影響していて当然の如く種類も量も少ない。

「なるほど、これは面白いわ」

 今回作ったのは正方形の九枚の布を縫い合わせたもので、クッションカバーに。試作だから裏面は一枚布だし、裏地も着けず。丈夫さや形の維持を考えると裏地を着けて縫い合わせるのがきっといいよね。もちろん、厚みが出るしその分重くなるから一部の布はパッチワークに向かないと除外されてしまうものも出てくる。それに小物類にはこの手間を考えると向かないかな。手間の分価格が上がってしまうし。

 今後商品化をするとなれば、そういうことを考慮して種類は絞る必要があるわ。


 そして、クッションをいれて仕上げてみるとキリアが非常に満足げよ。

「黒や紺の地味な柄でもこれなら」

 そういってクッションを撫でてる。気に入ったらしい。

「人気のない布はこうしてパッチワークで消費するのどうかと思って」

「無駄にならないしね。むしろ暗い色が好みの人に人気がでるかもよ? あたしこれ好きだわ」

 はい、重役の『好きだわ』が出ました。

 商品化決定 (笑)。










 毎度毎度感心するのが『恩恵』というもので。

 いるんだよねぇ、今回もこのパッチワークにはまっていきなり頭角を現した人が二人ほど。

 毎回、新しいものを思い付いて試作してからそれをデザイン画と作り方、注意事項をまとめたレシピと呼ぶ特別販売占有権登録後のものを 《ハンドメイド・ジュリ》と 《レースのフィン》の従業員に配布するようにしてる。

 興味があれば作るための材料と場所の提供をして、作ってもらって、出来そう、好み、と思えばそれに移行出来るようにしているんだけど。


 一人は 《レースのフィン》で主にドイリーを製作している人でメーナさん。ちっちゃくてとっても可愛いおばあちゃんでなんと八十歳。恩恵に年齢制限はないらしい。おばちゃんトリオのメルサの叔母さんでもあるんだけど、その見た目とは裏腹にかなり過激な発言をする時がある。息子さんが酒場で泥酔して知人に家まで送ってもらったときに。

「人様に迷惑掛ける息子はいらない、その辺で死んでおいでよ」

 とか、やんちゃな孫が無断で朝帰りしたら、玄関前で仁王立ちで待ち構えて手に鉈を持ち。

「自慢のその長髪、剃り落とそうかねぇ」

 いや、鉈では無理でしょ……そしてニコニコ笑顔が怖すぎる。という人でして。近所では有名な肝の据わったおっかさんキャラ。 《レースのフィン》の新人さんたちはもちろんおばちゃんトリオも何かと人生相談する相談役もこなす。

 そしてもう一人。

 ぐぐーんと年齢が下がって十六歳。チェイルちゃん。

 大人しくて人付き合いを苦手としている。十六歳はこちらでは準成人と呼ばれる大人と見なされて、この人見知りな性格を心配した両親が人生経験豊富な女が揃う 《レースのフィン》で雑用でもいいから雇ってほしいと連れてきて。フィン編み、ククマット編み、そしてうちの花形とも言える制服を纏って店頭の接客をするスタッフの応募倍率はいつでもとても高いけど、雑用枠はそうでもないのと、ちょうど募集していたときに来た一人で採用したんだよね。

 掃除や商品の整理、 なんでも丁寧にしてくれるので周囲の従業員から評判よくて可愛がられてる。元々手先が器用だったのと、どんな切れ端でもパッチワークで作品になる可能性があることに興味を持ったことが良かったのかもしれない。

 メーナさんとチェイルちゃん、正方形だけでなく三角、長方形、台形を組み合わせて見事なパッチワークでクッションカバーをたった一日でお互い十枚以上仕上げてきた。

 いくらミシンを持っていたとしても、裁断から一枚一枚組み合わせてデザインやズレ等を確認したり、細かければ仮縫いしたり、そんなことしてたらそんなに量産出来ないはずなんだけどねぇ。

 まあ、恩恵万歳!! ってことにしておく。


「……あんたの恩恵って、『ま、そういうこともあるでしょ!』って言葉で強引に納得させるものが多い気がする」

「キリア」

「ん?」

「私が一番そう思ってるわよ」

「……だよね」


 恩恵は素晴らしい。うん、それだけでいいんだよ。






まずは御提案頂きました『ネコにゃあ』様、誠にありがとうございます。


今回、このパッチワークを採用させて頂いたその一番の理由ですが、『ジュリの不得意なものをどう物語に組み込むか?』というのに作者がずうっと悩まされておりまして、それを解決してくれるものだった、というのがあります。

不得意だけど、説明なら出来るもの、という設定自体がまず難しいのですが(笑)。

そこにパッチワークの提案が。はい、これ使うよ! となりました次第です。


という訳で、パッチワークのお話お楽しみ下さい。3話構成となっています。後半新素材も一緒に登場しますよー!



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― 新着の感想 ―
 そうだっ、母親やってたのパッチワークだッ!!(笑) ……トートバッグとかベッドカバー、壁掛け(タペストリー)とかつくってた(笑)
[良い点]  洋裁、ジュリが日本から着てきた服はどうなったのか問題。型紙や縫い目を見るために、フィンに解体されてやしないだろうか?  というか異世界服の記述がほとんど無いのでどの時代どの地方のなんちゃ…
[一言] パッチワーク、可能性は無限大
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