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『ハンドメイド・ジュリ』は今日も大変賑やかです 〜元OLはものづくりで異世界を生き延びます!〜  作者: 斎藤 はるき


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11 * 長い一日の終わり

本日二話更新となります。


※こちらは本編です。

この後に季節もの単話掲載となります(11時更新)


「ありがとう」

 リンファにぎゅうってされた!! 抱き締められた!! うふふ、幸せー。

「なんだか、吹っ切れたわ」

「そう?」

「こうなったら一人も千人も一緒よね?」

「ん? 何が?」

「邪魔だと思ったら消すわ」

 あれ。

 なんか。

 変な吹っ切れ方をしたような……。


 …………リンファの制御はセイレックさんに任せました!! よろしくお願いいたします!!


「気にするな、元々結構恐い性格してるから」

「ハルト?」

「いててててっ、ちょっ、リンファ? もげる、腕もげる!」

「腕の一本ちぎれてもあなたは死なないでしょ?」

「まじでストップ!! うぎぎぃ!」

 メキメキ音がする。なにこれ恐い。ちょっと、リンファさんや、恐いですよ。

「ま、ハルトの腕が一本ちぎれても世の中は別に何一つ変わらないから無駄なことは止めておくけれど」

 えええぇぇ。そういう理由でやめるの?

「いくら友達とはいえ言葉には気をつけてね? ハルト」

「はい……気を付けます」

 うん、ハルトより恐いのはリンファ。


 私のバールスレイドでのデビューはこれで終了。ただただ文句を言っただけって、冷静に考えると酷い、人として結構酷いことした。でもハルトはそれでいいと決して私をバールスレイドの人たちに接触させなかったし謝罪なんて絶対許さなかった。

 あの直後すぐに広間から退出して、私たちはリンファの私室にやって来た。城の中を見学する間もなくもうククマットに戻ることに。言いたいとこ言って帰る、まさに典型的な例を自分がすることになるとは。

 こんなにバタバタして他所の国を訪問するとは思ってもなかったわ。あ、窓の外だけでも見ておこう。……うん、さすが最北の国、吹雪で全く外が見えないわ、真っ白です(笑)!!


「今度はゆっくり遊びに来て。私はほぼククマットを出ることないからいつでも歓迎よ」

「ええ、そうするわ。当分は今回の後処理でバタバタするかもしれないけれど、落ち着いたらそこから改めて交流させてね。何かお礼が出来たらいいわ、何でも言って? 出来ることはさせてちょうだい」

「あ、それなら」

「なに?」

「ルリアナ様と三人で川の字で寝たい。私が真ん中ね」

 両手に美少女系美女で眠ったら絶対にいい夢しか見ないでしょ!! いい香りしかしないでしょ!! 目覚め最高でしょ!!

「……ちょっとよく分からないわ、ジュリの価値観って」

 そうかな? 疲労回復にどんな回復魔法より体に優しく速く効くと確信あるけど。


「ホントに、ありがとう」

「もういいってば、私は言いたいこと言っただけだから」

「私もあなたの味方だから」

 真っ直ぐと、茶化すこともなく真剣なリンファの瞳が私を捉える。

「何があってもあなたの味方。覚えておいて。私は、この世界の神々を信じていないし、敬いもしない。この世界のありとあらゆるものを決して許したりしない。それでも、感謝しているのはジュリと出会えたこと。召喚されたことじゃないわよ、あなたとこうして出会えたことに感謝してるわ。会いに行って良かった。……きっと会っていなかったら私は、ハルトに甘えてただ隠れて逃げるだけだったのだと思うの。逃げ出して、何もかも嫌気がさして、また憎むものが増えて、孤独のまま一生を終えてたかもしれない。でも今は、あなたという友ができた。セイレックというかけがえのない愛する人が隣にいてくれる。胸のつかえがとれて、新しい世界が……開けたの。あなたがいたから、今、私は、こうして穏やかに明日を迎えられる。だからね。私は、あなたの味方なのよ、誰がなんと言おうと私は死ぬまであなたの味方だということを忘れないで」

「……リンファ?」

「バールスレイドの礼皇として、何があっても私はあなたを支持する」


 その言葉に、セイレックさんが目を見開いて体を強ばらせた。彼女の宣言は今この場にいる私たちだけが知るものだとしても、非常に政治的効力が今後出てくる。もし、彼女が今の言葉を政治の場で、バールスレイドで宣言したならば、間違いなく私の後ろ楯という立場になる。セイレックさんの反応は、この国の人ならば当然の反応だと思う。この国の人ではなく、他所の国の人を支持するということは、非常に厄介な宣言なはず。

 それでもリンファは迷いのないその瞳を私に真っ直ぐ向けたまま。

「礼皇なんてなんの役にも立たないと思ってたわ、でもこれからは違う。私はこの地位を手放したりしないわ、そしてこの地位を活かしてこれからは確立された存在になってみせる。バールスレイドの中央にリンファ有りと知らしめてみせる。私の持つ地球での知識を余すことなく私の武器にする。この世界で自分の望むように生きるためにこれから私はこの国で、この国歴代最強の【彼方からの使い】として名を残すわ」

 そこには、揺るぎない信念を得た一人の女がいる。

「その私があなたの味方だということを忘れないで。いいわね、あなたはこれからも今のままでいて。離れていても私があなたを守るから、好きに生きて。私も好きに生きるわ、自分のために。ジュリも自分のために生きるのよ、自由に、生きるの。あなたの後ろは私が守るから前だけ見ていて」


 ……男前発言、惚れちゃうわ。

 ふざけてる場合じゃない。


「ありがとう」

 ただその一言しか言えなかった。

 他に言葉が見つからなくて。

 この人にとって、私のイライラして黙っていられなかった感情任せの言葉がそれほどまでに力になったのなら、それでいい。この人のために放った言葉が本当にこの人を救ったのなら私はそれで満足。

 後悔もしない。誰に咎められようと、私のしたことでリンファを縛る、苦しめるものから解き放つことが出来たなら胸を張って言える。


「私は間違ったことをしていない」


 と。


【彼方からの使い】なんて大層な呼び名は、時としてこの世界の人々に都合のいい道具にされることは自分が一番よくわかっている。

 今回、地位を得ていても辛い目にあったリンファを見て、普段からハルトが尊大な態度の理由がよく分かった。

 少しでも従う素振りを見せれば私たちは『人間』として見なされない。『金の成る木』でしかなくなる。神様がどんなに私たちを護ろうと、人間の欲望が神様という存在を意図して遠ざけ、そして都合よく解釈するために意味を湾曲し、私たちを利用しようとする。だからハルトは決して下手にでない。

 最強と言われるハルトが下手に出るということは、その人がハルトよりも上であることになる。それがどれだけこの世界の情勢に影響するのか。

 そしてこれからはリンファも同じようにしていくだろうと伺える。冷静に考えればマイケルやケイティもテルムス公国の大公とは仲良くはしているけれど従っているという感じではない。恐らく、背景は一緒だ。あくまでも人として対等でいることが、【彼方からの使い】が手を貸す、力を貸す、その条件になっている関係性を保てなければ彼らは簡単にその国を見捨てて自由を選ぶというものが。


 少なからず私もその影響力を持ってしまっている自覚が今日出来た。皇帝がありのままの私を受け入れたのはハルトのせいだけではない。


 やっぱり。

【彼方からの使い】なの、私も。

 その事実は、変わらないし、曲がらない。

 なにより逃げられない。

 影響力のあるリンファと出会い、友と認めた瞬間、間違いなく私も踏み込んだ。


 権力というものに。


「リンファ、私も出来ることをするからね、またリンファが辛い目にあったら、その時も必ず私が出来ることをする」

「ありがとう」


 いつかその権力というものに振り回されるかもしれない。

 それでも、リンファとこうして会えたこと、彼女が愛する人と並んで笑って私を見送ってくれたこと、これだけは、後悔しない。









 暫しの別れを惜しみながら私はハルトと共にククマットに戻る。グレイがお店に戻ってきていたので事の顛末を語ればほっとした様子を見せる。そりゃねぇ、ホントにリンファがうちで働くなんてことになったら大変よ。マイケルとケイティのように夫婦でもないのに同じ場所に【彼方からの使い】がいることはほぼあり得ないらしいから。神様によって適材適所で召喚されるもんね、そりゃ当然のことよ。


「ん? なぁに?」

 二人きりになった途端。グレイに抱き締められた。ぎゅうぎゅうに、結構強めに。

「グレイ?」

「私は、何があってもジュリの味方だし、どこまでも一緒だ。……辛いことがあったら、話してくれ。些細なことでもいい、必ず、話してくれ。私がジュリを悩ますもの全てを取り除くから」

「……ありがとう」

 リンファの今回の行動が私に重なって見えたのだろうか?

 グレイの幼馴染であるダッパスさんに啖呵を切ったことをふと思い出す。

 あのとき、私は何もかも捨てる覚悟があった。そしてその覚悟は、今もある。

 心の底にある私の闇。

 闇は、全てを捨て去るという覚悟をがんじがらめにして心に縛り付けている。この目の前の男は、その闇をどれだけ知っているだろう。私を捕らえて離さない元いた世界への未練が生む闇を、どれだけ……。

「グレイ、私は、グレイといたいわよ。これからもずっとね」

「そうか……」

「一緒にいるための努力は、グレイ一人ですることじゃないでしょ? 二人で努力すればいいのよ、ずっと一緒にね」

「あぁ」

 安堵した声だった。

 その声に安堵した私がいる。

 今の言葉で、確かに私は、()()()()()


 一緒にいたいと思う。ずっとこの男と一緒に生きていきたいと。


 でも。


 未練が消えない。

 どうしても。


『帰りたい』という強烈な未練。

 たった一瞬でもいいから、もう一度家族に会いたいと。一目でいい、その姿を今一度この目で確かめたい。その代償に魂が失われるというならば、それでも構わないという思いが今なお私を捕らえている。

 もし、それが叶うならばこの男との離別が待っている。

 未だ、私には『生への執着のなさ』が残っている。この男と一緒にいたいと思いながら、帰れるならば死を厭わない思い。


 矛盾した思い。


 それをこの男が知ったならどうするのだろうと、どうなるのだろうと、不安が過る。

 私の手に負えない感情を抱えるグレイセル・クノーマス。

 私への執着は異質だ。

 自惚れでもなんでもなく、私への愛情が振り切れているとしか言いようがなくて。厄介なのはそれを本人が自覚していて冷静に受け止めているということ。そういう感情はおかしいのではないか? という疑問すら持っていない。自分はこういう人間だと割りきっているから誰がどんなにそれを指摘しても一切堪えない。


 結婚は当面の間考えられないという私の考えに不平不満を抱くわけでもなく、『私が望むならそれが最良のこと』と本気で思っていて、私の言動がこの男にとって正義であり、正解であり、そして自分の意思にもなってしまう。

 だから言えない。

 闇を。

 時々人知れず振り向いて、その振り向いた先に帰れる扉があるのではと期待している自分がいることを。そこには決して死とは切り離せない事実と感情があることを。


 それを知ったとき、グレイはどうするのだろう。


 そして、私はこの誤魔化しを後悔することになる。

 自分ですらもて余す矛盾した感情があることを打ち明けず、抱え込んでいる私はのちに自分とグレイどちらも傷つけることになるなんて、このときは思いもよらず、ただなんとかなるだろうと安易な言葉で自分自身を納得させるだけだった。


 リンファとの出会い、そして彼女の生き方と価値観は、間違いなくこれからの私に影響を与えることになって、私は()()()この世界でどう生きたいのか、ようやく答えを見つけることになるけれど、それはグレイと私の間に隔たる見えない壁を浮き彫りにさせることにもなる。

 それが、【彼方からの使い】としてこの世界でどう生きるのかという、最も根本的な問題へと繋がる騒動へと発展することすら、知るよしもなく。


 こうして、長い長い一日が終わった。

ようやく、ようやくリンファのお話区切りがつきました。

この人なくして今回のお話の最後にあるジュリの話に繋がらないため、こうなった次第です。そのへんはまだまだ先の話なので、こんなことあったなぁ、程度でよかったのかなと思うのですが、まあ、ないよりはいいでしょうと割り切り長々と執筆させていただきました。


本日はこの後もう一話、季節の単話。緩めのお話です。


そして次回の更新は久々に素材のお話です。役に立つのかどうかはわかりませんが。


その後、読者様限定作品登場です! こちらのお話までで11章です。

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― 新着の感想 ―
[良い点] リンファさん吹っ切れると強い(゜ω゜) [気になる点] 何やら二人の関係に不吉な陰が…… 最終的には幸せになってほしいものです
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