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『ハンドメイド・ジュリ』は今日も大変賑やかです 〜元OLはものづくりで異世界を生き延びます!〜  作者: 斎藤 はるき


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11 * 言いたいことは言う

 もぉぉぉぉぉっ!!

 この空気!!

 ハルトどうしてくれる!!


 ほらっ、リンファもまさかハルトがここまで言うとは思ってなかったのかオロオロして皇帝陛下とハルトを何度も交互に見ているし、セイレックさんもリンファを心配して肩を抱いて。ああ、うん、スッゴくお似合い、素敵、美男美女カップル万歳。結婚披露宴するなら会場のコーディネートさせてね、絶対二人にぴったりのにしてみせる。この世界のただただ過剰に花を飾ったりゴテゴテの燭台置きまくる貴族の結婚式後のパーティーにはしないからね。

 あ、現実逃避してしまった。

 ごめんなさい。


 ただ、ハルトの怒りは理解できる。

 分かっていたなら確認をすべきだった。それをしなかったってことは、ハルトの言った通り。リンファが黙っていることで皇太子と結婚するならそれでよし、ってこと。そしてこうして突然乗り込んできたハルトと私が失礼極まりない、礼儀も何もなってないこの謁見が叶っているのは今ここにいる人達は事情を知っていてそれがハルトの耳に届いてしまったことに怯えていて、これ以上怒らせたら間違いなくハルトがこの国にとって不都合なことをしてくるだろうと知っていて、すぐさま対応することになったということ。

 ハルトの影響力は絶大。それは所属するロビエラムという国が大陸中の権力者が集まる場所で強い発言力を得るほどのもの。

 敵にしてはならないヤバい奴よ。

 それを怒らせてるんだよね。

 ……これ、このままだと。

 バールスレイドそのものがヤバい気がしてきた。この国、消し飛ぶ?


「あのぅ」

 おうっ?! 皆の視線が集中したっ!!

 いや、でも、一応乗り込んだ責任として私も発言しておこう。

「発言、許される?」

 ハルトに確認。ここは多分バールスレイド皇帝陛下じゃない。今ここを支配してるのは雰囲気と本人の態度から間違いなくハルト。

 そのハルトはちょっとびっくりした顔をしつつも頷いた。

「こんな形で申し訳ありません。ベイフェルア、クノーマス領から来ましたジュリです。ハルトからも紹介ありましたが、一応、【彼方からの使い】で、リンファとは今日会ったばかりですが、それでも同じ世界から来た者として、私は彼女の味方です。それを踏まえて、ちょっと、お話してもよろしいでしょうか?」

 私は、皇帝陛下に向かってそう挨拶と問いかけを。不躾なのはホンット許して!! 今それどころじゃないんだから! すると、皇帝陛下は立ち上がり、玉座からゆっくりと降りてくる。

 あれ、こっちに来る?

 慌ててルリアナ様から習ったこういう場での礼? カーテシーってやつ? を思い出したのでぎこちないながらもやってみた瞬間。

「しなくていい。誰がおまえにそんなこと教えた? 頭を下げる必要なんてねぇからな」

 えぇぇぇ……。ハルトさんや、それはちょっと。

「それと、握手もするなよ。おい、それ以上ジュリに近づくな」

 ハルトの発言に困惑してたら今度は皇帝陛下に噛みついた!

「何もしない」

「俺はお前ら権力者はダルちゃん以外信用していない。ジュリが魔力無しなの知ってるだろ? 触った瞬間拘束魔法とかかけられて人質になんてされたらたまらない」

「信用してくれ、頼む」

「しない。とにかく近づくな、触れるな。破った瞬間、ジュリとリンファとセイレック以外殺す。それでいいなら進め、俺はこういう時に冗談は言わない。お前が死のうが生きようが俺には関係ないし、リンファやジュリが平和に生きれるならそれが最良のことでこの国がどうなろうと俺は興味ない。皇子があと二人いるだろ、あいつらがいれば血は残る、ここにいる奴等が死んでも血だけは絶やさずに存続出来るんだから安心だな。という事で俺の言うことが気に入らない、無礼だと言うなら来い、責任もってその首切ってやる。腕はいいからな、綺麗にその頭残してやれるぞ?」

 あぁ……。

 こいつ、こういうこと言っちゃうのね。

 ハッタリかどうかは置いといて、恐怖政治敷くのやめて欲しい。なぜなら、皇太子が悲惨なことに。ブルブル震えて腰抜かしちゃって格好悪く尻餅ついて。見たくないよこれは。それを見下ろすリンファの軽蔑するような視線が相まって……。私の中のこの国の皇太子像というものが落ちるところまで落ちたわ。せめて毅然とした態度で立ち向かう勇気は持ち合わせていて欲しかった、滅茶苦茶なことしてリンファと結婚しようとしていたくせに、幻滅してしまう。

 うん、無視する。この皇太子は無視する。気にすると話が進まなくなりそうだし。


「私は自己防衛の手段を持ち合わせていないので、ハルトに従いたいと思います。それでこの男がある程度納得してくれるし、なんというか、被害は最小限に抑えられる、的な?」

 ハルトに余計な事を言わせないように私がそう話すと、その場が僅かに張り詰めた気配を緩めるのが分かった。

「だそうだ、どうする?」

「望むようにするがいい。私は、【彼方からの使い】を己の権力で支配する気はない」

「ふっ」

 ハルトが鼻で笑った。思いっきり、バカにした笑いだったわ……。皇帝陛下がグッと息を飲むのが見えた。また空気が張り詰める。

 なんというか……ハルトがわざとこの場の空気を悪くしようとしているように感じてきた。悪くではないのかな? 試している、というべき? とにかく、この場を和ませる気はなくて、許す気もないことは分かる。


 それを踏まえて、話そう。下手に飾った言葉では伝わらないかもしれないし、意味を湾曲して都合よく解釈されても困るし。

 私は、リンファに言ったようにリンファの味方。【彼方からの使い】としてではなく、女として、今回のことはどうしても許せない。その思いを、ハルトの存在を借りて伝えられるなら、伝えなければ。

「突然の訪問、無礼を承知で参りました。この事で咎められても私は文句を言うつもりはありませんが、リンファのことでどうしても言いたいことがありました」


 改めて言葉を口にしようとすると、込み上げる。


 怒りが。


 冷静に言葉を紡ごうと思っても、その怒りが先行してしまう。


「【彼方からの使い】は物ではありません、道具ではありません。意志があって、感情がある人間です。リンファもこの世界に召喚されて色んな感情を抱えつつも彼女は専門学校や、単位制というこの世界になかった学びの形、この国に【変革】を起こしましたよね? 国の発展に繋がる種を撒いた、良いことをした彼女が結婚を強要されていると知ってどうしてすぐに助けなかったんですか? 自分の息子が皇太子だから『許される』とか『仕方ない』ってことですか? 権力はリンファとの共生のために使うのではなく都合よく利用するためのものなんですか? 疑問と怒りしか沸き起こりません。この感覚は私だけですか? ……さっき認めましたよね? リンファが脅されて結婚を強要されてるかもしれないと知ってたこと。正直に答えてください、皇帝陛下。あなたは、リンファが泣き寝入りしていたら、自分の息子とリンファを結婚させましたか? 『人殺し』というレッテルで縛り付けた信頼関係の全くない、互いに信用できない皇帝妃をあなたは、望んでいたんですか? それがこの国の繁栄につながると疑いを持たなかったんですか?」


 沈黙。


 空気が一気に張り詰めた。分かってる。この返答次第でハルトの怒りが頂点に達することを。分かっていて、私も質問している。

 でも、避けては通れない。ここで有耶無耶にしたらまたリンファは、この国で同じ目にあうかもしれない。

 はっきり問わなくてはならなかった。

 よくさ、はっきりさせないほうが幸せとか都合がいいこともあるっていうでしょ? でもね、私たち、この世界に召喚された【彼方からの使い】にとってそれは危険なこと。

 有耶無耶にすることで、物と変わらない、傀儡に成り下がることもあると今回のことではっきりした気がする。これは私たちの一生を左右するのよ。【神の干渉がある、人間として見なされない別の生き物】という価値観がこの世界のどこかにある限り、永遠に。ベイフェルアに限ったことではないはずなのよ。人間って、都合の良いことに傾倒しやすい生き物だと私は思うからね。


「……わからぬ」


 重苦しい空気を纏って、その一言が発せられた。この返答も、何となく予測はしていた。肯定も否定もできない、はぐらかすことも出来ない、だとしたら、『逃げ道』は一つしかない。

 分からないという答え。

「そうですか」

 あっさりとした私の相づちに皇帝陛下だけでなくハルトやリンファも驚いている。

「答えは、それでいいのかもしれませんよ? 結婚は回避されましたから」

「おい、いいのか?」

「いいんじゃない? 問題は結局その先だし」

「その先?」

「今の答えでリンファのこの国への信用はがた落ちしたから問題でしょ。バールスレイドはこれから、長い時間をかけて信用を取り戻す必要があるのよ。でも、今回の件って、取り戻すには相当な時間と努力が必要だけどね。下手すると一生取り戻せないかもしれないわよ、それだけ、今回のことは重く受け止めなきゃいけない。私だったら、そんな事する国のために尽力なんてしないよ。それこそまた同じ事をするかもって警戒してしまって必要以上に接するのも嫌だと思う」

「確かにな」

 ハルトが納得した顔をした。

「女ってね、望んで手に入れた愛を犠牲にしてでも選ぶものってそうそうないからね。中にはお金や権力を選ぶ人もいるだろうけど、少なくともリンファはそういう女じゃないから。間違いなく、セイレックさんを選ぶ。彼がいるなら、どこにだって行けると言うと思うよ。それを女の甘ったれた理想なんて笑っちゃいけない。リンファにはこの国を出て自立して生きていける力があるんだから」

 セイレックさんは、瞬きを繰り返した後、リンファに視線を向けた。

 リンファは、そんな彼にとてもやさしい瞳を向けて、微笑んだ。


 それが答えよ。リンファの。


「どうしますか?」

「え?」

「セイレックさん、あなたは、リンファがこの国を出ると言ったら、何もかも捨てて、リンファを選びますか? 共にいることを、選びますか?」

「はい」

 迷うことなく、彼は頷き、リンファの肩を抱いた。

「もう、失うかもしれないと、怯えたくありません。この人を、もう離したりしません」

「セイレック……」

 リンファが泣きそうな、嬉しそうな、複雑な表情をして、彼を見上げる。セイレックさんは、そんな彼女と見つめ合って、優しく微笑む。

「と、言う事ですよ」

 そして私は、やっぱり性格上黙っていられないんだなぁと自分に呆れた感情を持ちながら、ハルトがいるからいいやぁ、と投げやりな、いや、気持ちが大きくなってしまっていたせいで、言ってしまうわけよ。

「分かりました? いいですか? この二人はどう見てもラブラブなんですよ、怖いもの無しなんですよ、つまりね、平気でこの国を捨てられるんですよ。だいたいね、ハルトが知り合いの時点でバレたらヤバいことくらいわかるでしょうが。この男はね、自分が凄く頭がよくて強いことをちゃんと理解してるんですよ、そんなヤツを敵に回そうとするとか自殺行為でしょ、どう考えても。【彼方からの使い】を敬うって公言するならその教育を国の未来を担う人こそ徹底すべきじゃないですか? リンファは美人だから弱ってるときに惚れ込んだのも仕方ない気もするけど、それにしたってやり方が酷い、酷すぎる。皇太子がやることじゃない、もうとにかく腹立つ。それを放置してきた周りもありえない。それで公的な場では格好いい言葉を並べ立てて、時には有耶無耶なこと言って事を収めようとするあたり、ほんと権力者って嫌だなって思いますよ。こんなのリンファが逃げて当たり前、ハルトがキレて当たり前。私に魔力か【スキル】のひとつでもあったらここにいる奴ら皆殴ってますから」

そして。

これも言っておく。


「そして『人殺し』という言葉で人を貶める権利は、この世界に生きてる人間は誰も持ってない」


ハルトとリンファは目を見開いた。

「政治的な思惑で、それを大義名分に平民を戦場に送り込んで使い捨ての物のように扱う。平民の豊かになりたいという気持ちに漬け込んで金をばら蒔いて集めてそして死んだら死んだ人間が悪いと残された家族のことも僅かな金で解決してやったと言ってロクな責任を持たない権力者が、リンファのことを責める権利はない。なんでも都合のいいようにコロコロと意見を変えてそれを押し付けてくる権力者に、リンファの過去を含めて理解してそして寄り添うことなんて出来ない。そんなだからリンファは信用しないしこれからもずっとこの国のあらゆるものをきっと信用しない、そして心も開かない。それでも自分の出来ることをしてきたし、これからもセイレックさんの隣で、彼の生まれたこの国のために尽力していく。そんな彼女を、『人殺し』と呼ぶなら、私は、今ここにいる人たちをこれから同じように人殺しと思うことにする。国家権力が同じ事をして国を守り発展してきたなら、リンファを利用したいというなら、それくらい言われても文句言わせない。互いに利用しあって、安定した生活が保てるなら信頼なんてそこには必要ないんだからそれでいいでしょ。だからもうリンファの人生そのものを左右するようなことは止めて。人殺しという言葉で縛らないで。私を含めてこの世界の人たちは全員がそう呼ばれる可能性を持っているんだから、権力という鎧を纏って正当化するようなことは止めて」


ハルトが穏やかな顔をした。不思議な表情だ。こんなことを言った私の隣で、なんでこんな顔をするんだろう。

「そうだよな」

「なにが?」

「全員が、そう言われる可能性がある世界だ」

なるほど、そこね。

この男も生きるためにここまでくる過程で人を殺してきたに違いない。生きるために、生き残るために。

「よぉし!」

ん? どした?

にこぉ……と笑顔を浮かべたハルト。

「さっき殴る宣言してたよな。代わりに殴ろう! この俺が!! 何人かあの世に行くかもだけどそこは自己責任と自己管理の問題! 生き残れない奴が悪いってことで。 掃除係呼べよ、血の海になるからな!」

 ハルトの軽い口調で放った言葉に、全員が声にならない声で悲鳴を上げた。

「……判断は任せる!」

 ふんぞり返っておく。

 これくらい許されると思っておく。だって【英雄剣士】が平然としてるので。私が不敬罪で訴えられることもなさそうだし。

「何人生き残るかなぁ」

 すっごく恐ろしい笑顔でハルトが呟いた。

 あ、皇太子が失神した。

 ねぇ、ホントにこんな人が次の皇帝なの?

 ちょっとバールスレイド、ヤバくない?


 とりあえず、【英雄剣士】の権力をフルに使わせてもらって強制的に問題解決!


「俺に殴られたい奴は挙手!!」

 ハルトが意気揚々と言い放った。もちろん、誰も挙手などしなかった。






ブクマ&評価、そして感想と誤字報告ありがとうございます。


リンファのお話は次話までとなります。今後ちょいちょい出てくる人なのでまた彼女が主軸になる話を書くこともあるかもしれません。

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