11 * 思ったのと違う展開になってきた?
はぁぁぁぁっ可愛い。リンファさん可愛いよぉぉぉぉ!!
女優さんみたい、モデルさんみたい、うぁぁぁぁ可愛い。顔ちっちゃくてアジアンビューティーなお顔!! 少し童顔な所がとても良い!!
眼に良い、これは眼の癒し、眼精疲労がぶっ飛びます。
これで今二十九歳って、嘘でしょ? ねぇ、前世は妖精さんかなにかでしょ? はっ! ルリアナ様と並べたい。かわいいパジャマ着せて並べたい。そしてその間に私が入って川の字で一緒に寝たい。両手に美少女系美女を侍らせて眠りにつきたい!
なんて頭の中がお花畑になってポヤポヤしちゃったんだけど。
ジリッとグレイが前に歩みを進めると、ジリッとハルトが後ろに下がったことに我に返り。
「ハルト」
「なんだい、グレイさんや」
「説明してもらおうか」
「何をですかね?」
「どうにも……聞いていた話と違う気がしてならないんだが?」
「なんのことだいグレイさん」
「とぼけるのか?」
「だから何をですか?」
「……ほう? あくまでも、言い逃れするつもりか?」
「言い逃れというより、実際に逃亡しようかと思ってます」
「そうか、逃亡か……なるほど?」
お互いにジリジリと、緊迫した動きをしてて、リンファさんがとても困った顔でその間に割って入ろうとした。
「御説明いただけますか? ハルト様」
セイレックさんが参戦してきた!! スッとグレイの隣に並んで、笑顔で。目が笑ってないなぁ、声が冷たいなぁ。
「だそうだ、ハルト。どうやらお前の行動に不信感を募らせているのは私だけではないらしいぞ?」
「御説明を。この大事な時期になぜこのようなことをなさったのかどうか御説明を。礼皇様がこのようなことを進んでなさるとは思えませんので」
「待って、話をさせて」
リンファさんがハルトの前に立った。
こらハルト、リンファさんの後ろにマジで隠れるんじゃない。そして肩掴むな、盾にするな。しかもそんな説得力ない行動しておきながらなんでそんなにセイレックさんを睨んでるのよ。明らかにハルトの分が悪いと思うけど。
……あれ?
ハルトの手は、彼女の肩に。わざとらしく隠れるような動きだったけど、ハルトがそんなことする意味はないよね? マズイと思えばすぐ逃げられるよね? なのに今、リンファさんの肩に手を乗せてるしさっき間違いなく『逃亡する気』がある発言したよね。
これ、もしかして、『リンファさんを連れて』転移で逃げられる態勢じゃない? 一人で逃げるのにこんなことをする必要はないよね?
つまりこれって、何らかの理由がある。
ハルトがリンファさんを誰かが探して追いかけて来ると分かっていて、それでもハルトはこの人を、行方不明は大袈裟にしても逃亡することを望んでいるってことじゃないの?
この男のこういう行動に、意味がないなんてあり得ないんだよね。普段はヘラヘラして理解不能なことも多いけど、いざというときこのハルトという男は無駄なことはしない。必ず意味がある。
「はい! 一旦休戦といきましょうか!」
逃げられても困る。うん、ここできっちり話を聞かないと後で大変なことになりそうな予感がある。なんたってハルトが絡んでるからね。
フィンがそりゃもう挙動不審にお茶を淹れてくれたわ。
「いつも飲んでるやっすいお茶でいいのかい?! 本当にいいのかい?!」
って何度も確認された。美味しいからいいじゃんって言ってもしつこく聞き返されたわ。でもグレイが『美味しいから大丈夫だ』って言ったら、はいはいじゃあ出しますってすんなりお湯を注いで準備を始めたのは解せぬ。
「まず、お詫びをさせてください。お騒がせしたうえに、突然の訪問で驚かせてしまって。本当にごめんなさい」
リンファさんが謝罪をしてきた。
それはそれは、本当に心から反省してるしょんぼりした顔で。
「大丈夫ですよ、もっと騒がしく突然の訪問をして仕事の邪魔をする人がいるので」
私とグレイの目ががっつりハルトに向けられて、その視線を追ったリンファさんと、その後ろに立って控えるセイレックさんの目もハルトに向けられて、向けられて本人はちょっと離れた所でだらしなく椅子に座ったまま
「あははは、それはダレノコトデスカネ」
と、白々しく片言で言ったわよ。
私とグレイがハルトに聞かされていた話はこうだ。
「その能力を囲い込みされて、今は王宮に住んでるんだけどさ、自由がなくていつでも人が側にいて、外で 《回復師》として働きたいのにそれも許されない。しかも最近妙な動きを周りがしてるからなおのこと窮屈な思いをしてるんだ」
って。
【彼方からの使い】なのに、どうにも権力者に利用されてるっぽくて、しかも理不尽な思いをさせられてるって率直に私は思ったのよ。それなら逃げ出していいと思うし、好きに生きて何が悪いんだって応援すらしたくなって。この話をされたとき、ハルトにもその事を言った気がする。
「最近のリンファ、不自由してるじゃん。そのこと見てみぬフリしてるじゃんお前ら」
「確かに、我々は礼皇様に難しいお願いをして城に籠られる状況を作ってしまうこともあります。しかし礼皇様の持つお力を考慮し、皇帝陛下が城にてその身の安全を保証、礼皇様には自由に外出していただくことも許されていますし、時には丸一日戻らずとも我々はそれを決して咎めることは致しませんしそれを理由に礼皇様を理不尽に城に縛り付けることなどもしておりません。【彼方からの使い】である礼皇様には自由にしていただくことで国への恩恵があるのです、礼皇様を支配するなど大罪に値します」
「ふぅん、なら今のリンファの状況をお前は幸せだと言い切れるのか? 幸せなら俺に唆されてついてくると思うか? 合意があるない関係なく、今のリンファが幸せ絶頂に見えるか?」
「それは……」
リンファさんは私たちには不明な点が多いハルトとセイレックさんの会話をただ苦笑するだけで口を挟むことをしない。
でね? 気になるのが、リンファさんがハルトの言動を真っ向から否定しないこと。普通自分のことで騒ぎにされちゃったら怒らない? なのに全然そんな気配はない。むしろハルトに気遣ってるようにも見える。
……気になる。
「あのぉ、色々質問しても?」
リンファさんとセイレックさんに視線を送れば、ふたりが同じように同意として頷いてくれたので遠慮なく。
「単刀直入に。ハルトとセイレックさんの話が食い違ってるように思います、でも、それをリンファさんがどちらも訂正しない理由が知りたいってことと、あとなぜここに来たのか? が知りたいです」
「では……ハルトとセイレックの話が食い違っているのに、私がそれをどちらも否定しないことからお話しますね」
彼女らようやく自ら話そうと姿勢を正した。
「どちらも正しくてどちらも違う部分があるからです」
リンファさんの言葉に、ハルトは不服そうな顔をした。一方セイレックさんは少しうつむいて悔しそうな……。なにこの違い。
「私がとある事情でバールスレイド国内を転々としていた時偶然知り合ったのがハルトです。困っていた私を皇帝陛下に引き合わせてくれて、私はそれをきっかけに浮わついた生活から開放されました」
あれだね、厄介な貴族に気に入られちゃって、追いかけ回されたって話。あれは皇帝陛下に保護されることになって解決したことは知ってたよ、国一番の権力者に保護されれば貴族なんて手出しが出来なくなるからそれはよかったことだよね。
「私の能力を高く評価して、魔法にとても興味があった私に自由に研究させてくれる環境まで与えてくれて、しかも住まいは安全が保証されている城で、感謝してます。その恩に報いるために私は皇帝陛下の側で自分の力を使おうと、たくさんの人を癒そうと、今までやってきたつもりだし、これからもその気持ちは変わらないつもりです。でも、息苦しいことも増えました。『礼皇』という身分になってからは一人での外出はほとんど許されなくなって、最近は顔を知る人が増えたという理由で城を囲うようにある地区でさえ護衛が付くようになって。……これでも魔法は得意です、自分の身は自分で守れる自信があります、伊達に二年も放浪していません。それでも、一人になることは許してもらえず。……しかも城でも皆の態度が変わってしまい、友達だと思ってた人が、頭を垂れるんですよ? ……それがどれだけ居心地が悪くて、窮屈で、寂しいか」
そうか、リンファさんがふたりを否定しない理由がなんとなくわかった。どっちも確かに、リンファさんのために動いているんだから。セイレックさんはリンファさんの安全のために、ハルトはリンファさんの自由のために。
「何となく、事情はわかりました。……で、もう一つなんですが」
「ああ、それは」
リンファさんがとても恥ずかしそうにはにかんだ。
「私が一度、この《ハンドメイド・ジュリ》に来てみたいと言ったのが原因です、間違いなく」
え、そうなの?
「実は、その。ハルトに貰ったんです、これ」
そういって、リンファさんがスカートのポケットから取り出したのは。
「「あ」」
グレイと私、同時に声出てた。
それはね、初めて色つきスライム様を、レッドスライム様を見つけて加工した記念に作ったもの。
「これを貰ったときから、絶対この店に来たいと思ってて」
レッドスライム様を板状に固めて、それを私は試作を兼ねてたくさんのアクセサリーに加工した。
そのうちの一つ。
赤い疑似レジンを雫型に加工して、雪の結晶をモチーフにした金属パーツと一緒にチェーンに繋げた、ロングタイプのイヤリング。
ハルトが知り合いにプレゼントしたいって持っていったうちの一つ。そっか、これリンファさんに届いてたんだ。
「最近、息抜きもままならなくて、ちょっと愚痴を溢してしまって。そうしたらハルトが『気分転換に外出しようぜ』って言ってくれて。時期が悪いとわかっていたけれど、ここに連れてきてくれると言われてしまって、つい」
「来て、良かっただろ?」
ハルトがとても優しい目で、笑顔でリンファさんにそう問いかけた。リンファさんは頷いて笑顔で答えたけれど、すぐに後ろを振り向いて申し訳なさそうな顔で微笑んだ。
「セイレック、心配をかけてごめんなさい。ハルトを責めないで、お願い。私が軽々しく外に出たいと言ったのが悪いんだから。ハルトはそんな私を気遣ってくれただけだから」
「しかし」
「なんで謝るんだよ」
ハルトだった。
そりゃもう、納得いかない顔して、セイレックさんを睨み付けて。
「忙しいとか大事な時期とか王宮の身勝手極まりない都合だろうが」
「ハルト、もういいの」
「リンファ、ちょっと黙ってろ」
あれ。
なんだか話が。
こじれる気配がある。
マイケルが言ってた。ハルトは同じ境遇である【彼方からの使い】のことになると過剰に反応するって。しかも怖いのは、過剰に反応するわりにはやけに冷静沈着に物事を見ていて分析してその対処をするって。
このリンファさんへの反応をみる限り、その過剰な反応が明らかに出ている。
つまりやっぱり、ハルトは騒ぎになろうが構わずに、むしろそれを狙ってリンファさんを連れ出したってことよね。『行方不明』という大袈裟な表現は、大袈裟じゃなく、する気になればハルトはそれが出来てしまうし、リンファさんのためにやるってこと。
私の所へ来て宣言をしたのは、確実にその行動がハルトにとって正しいこと、最善のことだからよ。それにいちいち口出ししないでくれ、俺は間違ったことしてないってことよ。
となると。
ハルトがリンファさんを『行方不明』にさせたいその理由って、なんだろう。
ハルトの価値観は特殊ですよね。
男と女に友情は存在するのか? という疑問は彼には理解出来ないと思います。男だろうが女だろうが友と認めた人には執着するのがハルトです。その人のためになら全力でその手を貸します。
そういう彼に友と認められた人たちの恋人や伴侶はそれをどう思っているのかもいつか書きたいですね。十人十色で面白そうです。




