11 * 《回復師》リンファ
お待たせ致しました。
新章開始です。
新キャラ登場となります。
《回復師》のリンファさん。
ずっと会いたいなぁと思ってる人。
それはこのラクタラール大陸の最北に位置する大国、バールスレイド国に住む【彼方からの使い】。私たちと同じ地球から召喚された中国出身のアラサー女子とのこと。ハルト、ケイティ、そしてマイケルが口を揃えて
「ジュリの好みの顔」
と。てゆーか、私の好みの顔ってなんだよ? と問えば。
「女だと美少女系すきだろ?」
という評価。なぜ、いつの間にそんな評価を、しかも一様に同じ事を言われるのだろう? という疑問は私がルリアナ様に会うたびにニヤニヤしながらその美少女っぷりを堪能していることを説明されて。私はどうやら美少女好きという認識が定着している模様。ちなみにそれはグレイやローツさんたちの間でも。
そんな私が好きそうな顔をしているというリンファさん。アジアンビューティーな美少女……か。うん、うへへ、へへへへっ、ますます会いたい。
話がおかしな方向進みかけた。
《回復師》と呼ばれているけど、これは【称号】じゃないんだって。類い稀な能力から世間でそう呼ばれるようになって定着した彼女特有のものらしい。
聞いたらすごい。回復系魔法を『全て』使える魔導師であり、【技術と知識】を持っていて、それが『整体師』と『鍼灸師』の資格から来るものだっていうのよ。ていうか、回復魔法全て、ってハルトと一緒じゃん、凄い!
一般的な治癒魔法やポーションではどうにもならない古傷の痛み。これを治すには実は、上級ポーションと呼ばれるたった数種類しか存在しない特別なものの中の一種類だけ。しかも一本買うだけで豪邸が立つほど高額。
使ってしまったら次いつそれが世に出てくるかわからない、作れるか分からないレアな素材ばかり必要なポーション。それを実際に古傷の痛みを取るために使う人はほぼおらず、ましてや使おうとも思わないわけで。だからこの世界、古傷は基本放置するしかない。
そこに現れたのがリンファさん。
最早治療のしようがない体の一部と化した古傷による痛みの緩和に、整体と鍼灸の資格をフルに活用してたくさんの人を癒しているし、同時に人材育成もしていてバールスレイド皇国では皇帝に次ぐ『礼皇』という、この国でいう王子や王女と変わらない地位を与えられてるんだって。
おまけに魔力が多いことと優れた操作性を活かして攻撃魔法なんかも属性無視でかなりの種類を使いこなすし時代と共に失われてしまった古代魔法の復元にも携わっていて、『自然魔法』と呼ばれる樹木などの植物に効く魔法を復元したんだとか。それでバールスレイド皇国では『国宝』なんて呼ばれてたりもしてるそう。
凄すぎる!!
その能力と見た目に惚れ込まれて、以前変な貴族から求婚されて困ってたってハルトが教えてくれた人でもある。
私と同じ、【変革する力】を持っている。
それだけで親近感が沸くよ、《回復師》リンファさんの方が明らかにチートだけど (笑)。
で、なんでそんなこと突然? ってことなんだけど。その《回復師》さんは現在逃亡中。一昨日から行方不明、ということになってるらしい。なぜにその話を私が知っているかというと、もちろん聞いてもいないことをペラペラと喋るハルトが。
「たぶん行方不明になるから!!」
と、笑顔で先日宣言をしに来たから。それ、行方不明っていうの? という疑問はあるけれど、事情があるようなのでツッコミは入れずに『ああ、そうなんだ』とだけ返しておいたのよ。
閉店後、二階で売り上げの確認とかしながらグレイとその話で何がどうなってそんなことになってるのか、という話をしてたら一階で帰り支度をしていたフィンが上がってきた。
「ジュリ、ちょっといいかい?」
「なにー?」
「《ハンドメイド・ジュリ》を訪ねてきたって男が来てるんだけど、なんだか様子がおかしいんだよ」
困った顔をしているフィンを見て、グレイがすぐに椅子から立ち上がる。
「私が対応した方がよさそうか?」
「もしかするとそうかもしれません、なんだか言ってることが良くわからなくて……」
フィンいわく。
その人はこの 《ハンドメイド・ジュリ》を訪ねて来て、今日は閉店してしまったと言ったらそれでいいのだと言う。しかも、差し支えなければ決して邪魔をしないので店内に入れて欲しいと。その理由がここにある人が来る可能性が極めて高いからと。じゃあその人はこの 《ハンドメイド・ジュリ》の関係者か、もしくはクノーマス侯爵家の関係者かと問えば、違うと。この店には一度も来たことがないし、この店の関係者もクノーマス侯爵家の関係者も会ったことはない人だと。
なんじゃそりゃ? だよね。どう考えても店に入れたくないんだけど。
「はあ? なんだその男は」
珍しいわ! グレイの『はあ?』 (笑)!!
すっごい顔してる、人をバカにするようなあからさまに軽蔑する顔してる! すごいわ、こんな顔させる人って滅多にいないんだけど?!
「どうしたらいいですかねぇ? 一応許可が取れるまでは外で待ってるって本当に外にいるんですよ、身なりもかなりいいし、話し方や物腰も柔らかくてとても丁寧で。それなりの身分だと思うんですけど……」
グレイが少しだけ考えて、そしてため息。
「やっぱり私が対応しよう」
「私は?」
「一応来てくれ、ただ、後ろでいい。素性がわからない限りジュリは関わるべきではない、下手な関わりをして【選択の自由】が発動しても困るだろ?」
うん、それは困る。
任せた彼氏。
びっくりした。
フィンの言った通りで。確かに『それなりの身分』だと一目で分かったわ。
服装はグレイが貴族の方々と会ったりするときに着るようなかっちりとした上下お揃いであつらえた上等な生地の服。履いてるのは革のブーツっぽい靴で、磨き込まれて傷一つない。明らかに金持ち。そしてその立ち姿。背筋をピンと伸ばして足も揃えて、片腕には羽織ってきたであろうマントを掛けているけれど、その腕はしっかり胸の下辺りで固定されたかのように動かずだらしなさという言葉と無縁な感じ。間違いなく紳士の嗜みをしっかり習ってそれが身に付いている身分だわ。
そしてね。
顔面偏差値。
高い!!
『甘いマスク』って言葉がぴったり来る顔よ。
優しそうな目元が印象的で、とにかく全体が整っていて、無駄がない。男臭さを全く匂わせない柔らかな雰囲気があるんだけど、金色の長く伸ばした髪を前髪以外は後ろでしっかり縛っていて品行方正、世間の殺伐さとは無縁そうな、そんな上品さを感じる。そのせいか背が高い割には威圧的な雰囲気がないの。
グレイのイケメンっぷりとは真逆のイケメン。いわゆるタイプが違う、というやつね。グレイは健康的な肌で髪の毛は明るい茶色。キリッとした目付きの精悍な顔立ちだから『甘い』という感じではない。その容姿は時と場合によって本人が至って通常運転でも『威圧的』と思わせることもある。しかも背は高いし体も鍛えているからその体格も災い? して無意味に彼氏が怖がられるという現象に遭遇したことあるわよ。
グレイも貴族で着るもの一つ変われば上品で間違いなく『あ、貴族さま』って感じになるけどこの彼氏含めクノーマス家の男性人は『やんちゃだろ、こいつ』の空気までは消せない (笑)。
いやぁ、驚くほど対照的な二人だわ。
「突然の訪問申し訳ございません」
その人はフィンの声掛けで中に入るなりすぐに私に礼をしてきた。そしてその後にグレイへ。
この人。私が何者か知ってるね。そして、『ここでは』誰がトップなのかをちゃんと理解している。
《ハンドメイド・ジュリ》に来る人のほとんどは、私とグレイが一緒に出るとまずグレイに挨拶をする。クノーマス侯爵家の人だからね。貴族の、しかも上位の家の息子ならば当然それくらいされるのが常識なんだけど、グレイやエイジェリン様に言わせるとそれは違うのだそう。
「大切なのは爵位じゃない。その場で誰が頂点なのか、誰を一番敬うべきなのか、それが分からないようでは出世もしないし世渡りも出来ない」
と。
ここでは私が権力者でトップだ。
常々グレイはこのことを念頭において人と会う。なので私と会って交渉などをしたい人はまずこのグレイにほとんど門前払いをくらう。私を一番に扱えない人は会わなくていい、会う価値はないというのよ。
そういう意味で、目の前の人はグレイの重要な試験を通過したことになる。だからこそ、グレイは更に歩み寄った。門前払いを食う人は例外なくグレイに『お帰り下さい、こちらは忙しいんです』と、笑顔で言われて背を向けられるから。
「お待たせしたようだ」
「とんでもない、押し掛けたのはこちらです。むしろこうして面会を許されない非礼をしている自覚はあります。お目通し頂き誠にありがとうございます」
「……では、差し支えなければ、名前を頂戴しても?」
「はい、もちろん。申し遅れました、私はバールスレイド皇国の」
え?
「第十七期魔導師団総帥を務めております」
え?
「ルージュ伯爵家三男、セイレック・ルージュと申します」
最近話題になったばっかりの、国が出てきた。
「……あの、なにか?」
あ、ヤバい。私とグレイが驚きすぎて固まってしまったのを不審がってる。ニコニコ笑顔だけど『なにその顔?』って訴えてくる。
どうしようか?
「ええと、ルージュ殿、まず確認させて頂きたい。なぜここに?」
「ああ、それでしたら直ぐに理由がわかりますので」
「どういうことだ?」
「それはですね。ここに来たいと言っていたことと、僅かですが魔力の流れがベイフェルアで感じられたので」
その時だった。
「やっほー!!」
場違いなほど明るい元気な声で閉店の掛け札も気にせず入って来たのはハルト。その後ろには人影が見える。
「ジュリ、グレイ、客連れてきたぜ!! って、あれ?」
ハルトは一瞬で激変。
「なんでいるんだよ?」
ハルトが顔をひきつらせ、真顔に。扉に手を掛けたままの体勢で固まって、そして視線を動かした。その先には、壁に阻まれ姿が見えない人影が。
「お久しぶりですハルト様」
その人は、甘いマスクに笑顔を張り付けて、でも声は冷ややかに言い放つ。
「やはりあなたでしたか。そそのかしたのは」
……ん?
私とグレイは顔を見合わせた。
「礼皇様、お迎えに上がりました」
その人は、急に真顔になったハルトの後ろ、未だ姿が見えない人影に向かってそう声をかけた。
「……セイレック?」
弱々しい、女性の不安げな声。
それを聞いたその人は、表情を和らげて、安堵の息を吐いて。
「お帰り頂けませんか、私と共に。……大事な時期です、どうか」
その人は、とても優しく、まるでなだめるような気遣いが滲む声をやはり姿が見えない人影に向けた。
これちょっと。
ハルトがトラブルを持ち込んだ予感がするのは気のせい?
「……すみません、口出ししますね」
「はい?」
「セイレックさん? ですよね?」
「はい、なんでしょうか」
「ちょっとここで待機して貰えます?」
「はい?」
「そしてグレイ」
「ああ、わかってる」
「ハルト捕獲。そして尋問でしょ」
「ああ、そのつもりだ」
「そして……」
私は、目一杯息を吸い込んだ。
「初めまして! ようこそ 《ハンドメイド・ジュリ》へ! 《回復師》さん、中へお入りくださーい!! 」
私の声にセイレックさんがびっくりして、そして、人影もビクッとしてたわ。ごめん、びっくりさせるつもりはなかったのよ (笑)。
でも、『なんでだよ?』って顔してるハルトと『説明しろ』って顔してるグレイが無言でにらみ合いを始めてすぐ、ソロリ、と遠慮がちに、体を傾けてその人は店内を覗き込んできた。
「……こんにちは」
ぎこちない、少し申し訳なさそうなそんな顔をした女性。
彼女こそ、バールスレイド皇国の『国宝』とよばれる【彼方からの使い】であり、《回復師》その人。
リンファ。
カッワイイぞ!!!
先にお断りしておきますと、この新キャラリンファのお話がこの後数話続きます。重要な人なので執筆に力が入ってしまいました(汗)。
主人公、その間は全然ハンドメイドしません。リンファさんのお話が一段落したらがんばる予定なのでご了承くださいませ。




