ニューイヤースペシャル ◇ハルト、ダメな大人になる◇
明けましておめでとうございます。
今年もよろしくお願いいたします。
昨日に引き続き、炬燵メインで季節のお話となります。
サブタイトルにあるように、ダメな大人の話です。なので短めです。
昨日から雪。初日の出無理だなぁ、なんて話はしてた。でも俺転移出来るし? 別に去年と同じ場所じゃなくてもいいし? 取り敢えずちょっと寝てから考えようぜなんて話してた。
起きたらほぼ正午。
炬燵で寝たら、新年早々寝過ごした。
俺が土産で持ってきた酒と、グレイが持ってきていた酒、どっちも数が凄かった。確かに夕方からずっと飲んでた。フィンとライアスも一緒にジュリの部屋の炬燵で飲んでさ。
俺が持ってきたブラックホーンブルがフィンの手に掛かってローストブルとして出てきたのには感動したよ、二キロ以上あるサシのキレイに入った肉がまるごとローストブルだぞ? 塩とスパイスが絶妙の具合でちょっと厚めにスライスしたのを口に入れれば旨味と脂がじゅわぁぁ、と溢れて、ソースなんていらないんだから。
それを何回もおかわりしつつ、ブイヤベース風の鍋も酒と相性良くて。あっさりめのトマトスープに魚介たっぷりぶっ込んで、季節の野菜もどっさり入って、銘々にお玉で掬ってさぁ。カリカリに焼かれたニンニクの香りが漂うハードパンを浸せば、それだけで立派なおつまみ。鍋をするためにわざわざトミレア地区にいる陶芸家にお願いして土鍋っぽいのを作ってもらったジュリ、グッジョブ!
トマトスープと具材を何回も足しながら、時々食べるのはカリカリになるまで素揚げされた小エビと小魚。カレー粉に似たスパイシーな味付けが食べては酒で流し込む、のループを引き起こしたよ。
おつまみ的な物でルフィナが特に気に入ってたのは生ハムとフレッシュチーズをカルパッチョみたいにしたやつ。オイルにはニンニクと唐辛子の他にハーブが数種類使われてた。刻んだ生の玉ねぎがいいアクセントでさ、これも酒とのループを引き起こした。
で。
俺はいつも思うんだけど、このバカップルと飯を食うといつも以上に食ってしまうんだよなぁ、と。
グレイもジュリも、どこの大食いタレントだよ?! とツッコミ入れたくなる食いっぷり。
「お前、ホント良く食うよな」
「うん、自覚はあるわね」
「そして相変わらず食う専門かよ?」
「ハルトは蟹の殻でも齧ってな」
なんかこんな会話を去年もした気がする。
なのでつられて俺とルフィナもいつもより食が進む訳で、当然酒も比例して。
そこから今に至る。
あれだけ食えば腹が減って目が覚めることもないだろうし、あれだけ飲めば普通に目覚めるのはちょっと難しいだろうとは、頭を過ってたよ、うん、確かに。
だが、それよりも。
炬燵の威力たるや凄まじいものがある。
「よく寝たね」
ルフィナは平然とそんなこと言ってるけど、俺とジュリとグレイは若干やらかしたなぁって顔で互いに目が合わないよう視線を反らす。
「炬燵、すげぇな」
「睡眠魔法より効果がありそうだ」
「ホントそれな」
寝過ごした罪悪感に苛まれているというのに、この炬燵から出ようとしない俺たちのダメさと言ったら (笑)!!
「今絶対堕落を司る神様がこの真上の屋根の上で笑ってる気がするわ」
うん、それ。そんな感じ。ちなみに余談だけど【堕の神】は実際にいるぞ。名前とは裏腹に真面目で神経質だぞ。
「で、どうする?」
「どうするもなにも、炬燵で再び酒を飲んでる私たちの選択肢はそう広くないだろ」
「あー、ないなぁ」
俺とグレイが不毛なやり取りを交わす。
「雪かきしてよ、それなら」
ジュリが苦笑したので。
「雪かき? 面倒だろ」
「は?」
「溶かせばいいだろ、ほら」
「ん? 何が?!」
「雪かきってさぁ、下手にやると圧縮された雪がなかなか溶けなくてしかも凍って危ないって」
「ちょっ、ハルト?!」
「溶かしゃいいんだよ」
俺の一言にジュリは炬燵から飛び出して窓に向かうと勢いよく開け放つ。
「ぬわあぁ!? 湯気が! 湯気が凄い!!」
「火魔法で溶かしてるから窓閉めろよー。熱風入って来るぞー?」
モクモクと湯気が立ち上ぼり濃霧に包まれているかのような状況にジュリとグレイが唖然とする。そんな中、ルフィナがスッと立ち上がるとジュリの隣に向かい、静かに窓を閉めた。
「寒いから閉めてね」
「恐るべしニートチート」
「だからそのニートチートってやめれ」
「炬燵でダラダラしたまま外の雪を溶かすとか、その水分で地面凍っても困るだろって全部蒸発させるとか、それを風で流すとか、なんなのあんたは。ニートチート以外の何者でもないでしょ」
「だからニートはいらねぇだろうが?! 一応
《本喫茶:暇潰し》のオーナーだけど?! ちゃんと経営してますけど?!」
「それとこれとは別よ」
「別じゃねぇよ!!」
微妙な会話をする俺とジュリを無視でグレイとルフィナは蜜柑食ってる。俺の握りこぶし二つ分はあるこっちの世界のでかくて超甘い蜜柑の皮を剥きながら世間話してるぅっ!!
「うちのお店でもシュシュは大人気ですよ、打ち合わせや採寸の時に必ずついでにって買ってくれるんです」
「ロビエラムでもやはり髪の毛を飾るものはまだまだ少ないか?」
「びっくりするくらいには少ないですね、ジュリの登録した特別販売占有権で実際に商品として完成度高めに仕上げられるものが未だに少ないみたいですから。その中でシュシュは布で作れるし簡単ですからね、余裕のある仕立て屋はうちのように占有権を購入して販売を始めるくらいには売れます。カウンターにさりげなく置けるのもいいんですよ、値段も高くないので、試しに買ってみようか? となる人がとても多くて」
「なるほど、うちの店とは違いついでに買ってくれるということもあるのか」
「ジュリの店のは装飾が凝ってて値段も高めのもありますし、なにより 《ハンドメイド・ジュリ》のシュシュが欲しくて買いに行く感じだと思います、うちのは気軽に試せる、という感覚ですかね」
「そうだな、天然石や金属パーツをあしらったものはそれが目的で買いに来る客が多い。ルフィナの店では出さないのか? 服に合わせて作るとか、出来そうだが」
「余った生地でサービスで作ることはあります。でも金属のパーツや天然石がククマットのようには充実してなくて。ククマットでパーツをハルトに定期的に買ってきて貰うことは出来ますが他の店との兼ね合いもあるので、大々的には出来ないのが現状です」
「なるほどな、輸送費等を考えるとハルトが購入して転移で戻るだけで済むルフィナは価格がかなり押さえられるからな。あまり差が出るとトラブルにもなりかねないか」
「そうなんですよ」
って、超真面目に語り合ってる。俺の存在、忘れてる? ちょっと、寂しすぎる。
「ほらほら、拗ねない、男はどんと構えてないと格好悪いんだから」
ジュリが腹立たしい笑顔でドバドバとグラスにワインを注いできた。もうちょっと丁寧にできないのか。そして並々注ぐな。
……やベーな、ずっと酒飲んでる。
炬燵でだらけながら、蜜柑とかつまみとか時々お菓子とか最早酒との相性なんて無視で色々と食いながら、ずっと飲んでる。
ダメな大人の象徴がここにいる。しかも四人。
「これも旨いんだ」
グレイが躊躇いなく新しいワインの栓を開けた。
うん、栓を開けたなら飲むしかない。
フィンとライアスは近くに住むデリアの家に行ってるらしい。
「グレイが大量にお酒持ってきたからそれをお裾分け。あの家の人たちも皆呑兵衛だから今日はあの二人もデリアの家で飲んでるよ」
「そういえば、隣近所も呼んで騒ぐとか言っていたんじゃないか?」
「そうそう、今この近所の人たちは多分デリアの所に集まって呑んだくれてるはず」
「今この区画には酔っぱらいしかいないな」
いいのか、それで。
「いいんじゃない? 新年だし」
適当だな。
「新年は酒を飲んでのんびりするのがジュリたちのいた世界の習慣なのか?」
違うからな。
「そうそう」
違うだろ!!
「良い習慣ね」
だからそうじゃないってば!!
「とか言いながら一番飲んでるのはお前だぞ」
……。
「よし」
「ん?」
「新年とは『酒を飲んでダラダラする日』でいいな!!」
「開き直ったわね」
「言い訳出来ない程には飲んでるだろ俺ら」
「だよね……まあ、新年は『ダメな大人が増える』で良いんじゃない?」
「まさに俺たち」
お節も餅もお年玉もない。門松とか縁起のいい飾りもない。うん。こっちの新年は、それで!!
新年、元旦。
異世界ではダメな大人が量産される日となった。
「この後何する?」
「うん? ……することあるか?」
「……特にねぇな」
「そうだろうとも」
グレイが発泡酒の瓶の蓋を開けた。俺のグラスに傾けてきたのでグラスを持ってそのまま注いでもらった。俺も注ぎ返す。
「今日の俺たちの体は酒で出来ている」
俺の無意味な発言に、グレイが頷いた。
新年早々、なんとも緩いお話となりました。
改めてにゃんクック様、ご提案ありがとうございました。こんなコラボになるとは思わなかったかもしれませんがご了承ください。
そしてこの後少しお休みいただきまして、9日再開予定となります。新章始まりますので引き続きよろしくお願いいたします。




