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『ハンドメイド・ジュリ』は今日も大変賑やかです 〜元OLはものづくりで異世界を生き延びます!〜  作者: 斎藤 はるき


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大晦日スペシャル ◇ハルト、歓喜する◇

今年一年、こちらの作品を読んで下さいました読者の皆様に心より感謝申し上げます。

『自粛』が叫ばれ我慢を強いられる日々で、少しでもそのストレスを忘れられるよう貢献出来ていたらいいなぁと思いながら書いた一年でありました。まだまだこの我慢は続くと思われます。来年も同じ気持ちで書き続けようと思いますので引き続き読んで頂ければ幸いです。


そして、こちら。大晦日の話です。本編とは繋がっておりません。


そして突然ですが『読者様コラボ作品』となります。

 





 単刀直入に言う。


 炬燵があった。


 ジュリの部屋に。

 そんなに広くない部屋にドドーンと、主張激しく。炬燵のために他の家具はベッド以外無くなってる。


 そういえばジュリはハンドメイドのパーツとか買い込んだのをどっさりテーブルに乗せた状態でいっしょに召喚されたんだ。

 それは知ってた。うん、知ってたよ?! 炬燵使えんの?! この家!!

「使えるわけないでしょ、電気ないんだから」

 冷ややかな声で『こいつなにバカなこといってんの?』って顔したけどさぁ?!

 目の前で炬燵に入ってるヤツがいる。

 グレイ。

「今日は雪も降ってて寒かっただろ?」

 腰の辺りまで炬燵に入ってて横になったまま、肘を付いて頭を支えて。なんだよおい!! やけに慣れてる感じだな?! 寛ぐその姿、ちょっと違和感あるからな!!


「これ、こっちに来てから新調したローテーブルね。一緒に召喚されたのをモデルに大きく作ってもらったのよ、脚も高めでこうしてグレイが横になっても大丈夫よ」

 こっちに召喚されて初めて迎えた冬に、既にジュリはこの構想を練っていたらしい。ただ再現まで時間がかかったのだと。

 この世界に炬燵はない。ローテーブルはあってもそれは南の常夏の国のもので基本ヨーロッパに類似したものがあふれるこの世界ではローテーブル自体が珍しい。

「炬燵で寝るの好きなのよ、こっちで冬にそれが出来ないのが苦痛で苦痛で。でも電気ないじゃん? 防災上火鉢や七輪系は危ないじゃん? それなら一から作るしかないじゃん? みたいなね」

 で、作ったと。


 それは六人用の大きい炬燵。多分日本の一般的なものよりも一回りはデカい。お誕生日席の所にグレイが横になってても窮屈そうにしてないしな。立派な木目が綺麗な濃い色の一枚板の天板の下には見るからにフカフカで軽そうな炬燵布団が掛けられている。ジュリの趣味だろうか、濃い紺色に大柄の花が至るところに見えるデザインだ。

 いや、見た目よりも!!

「寒かっただろ? ルフィナも入ったらいい、温まるぞ」

「じゃあ遠慮なくー」

「ああ、『座布団』も使うといい」

「ありがとうございます。わっ!! あったかーい!!」

 ちょっと待てルフィナ、入ってすぐその顔。だらしないぞ、ふやけてる!! そして即効炬燵に馴染むとかどうなんだ?!


 ……ふぁぁぁぁぁ。

 ……至福ぅ。

「やだ、気持ち悪い声出さないでよ」

 ジュリ、気持ち悪いはないだろ。仕方ないじゃん、炬燵だし。

「ヤバい、炬燵だ、マジで炬燵だぁ」

 俺が一人感動している側でグレイはようやく体を起こしてクックッと笑い出す。

「その顔。ニヤニヤして気持ち悪いな」

「うるせぇなぁ。仕方ねぇだろぉ? だって炬燵だぞ?」

「ならばジュリとマイケルに感謝しろよ?」

 ん?

 なんでそこでマイケルが?


 この炬燵、実は熱源は下にある。

 掘り炬燵ではない。フラットな普通の床のままだ。ホットカーペットの上にテーブルがある感じだな。だから正式には炬燵ではない、とジュリが言ってるけどこれは炬燵でいい。そう、異世界版炬燵は下が温かいでいいじゃん。

 寝そべってもいいようにフカフカの毛が密集している絨毯の上にテーブルがある。座蒲団無しで座っても尻があったかいから、絨毯と同じ面積の熱源があるんだろう。

「ところで……この熱源。おいおい、マジかよ」

 俺がふとあることに気がついてそう声を出せば、ジュリとグレイが面白そうに笑い出したぞ。

「気づいた?」

「気づくもなにも、こんな高度な『付与』はマイケルだろ」

 そう。

 この絨毯の下から『魔法付与』特有の魔力の漏れを感じる。魔法付与されたものは、隠蔽魔法で覆うなどしないと必ず微量の魔力が常に漏れるんだけど、それがこの下から数個、いや、十を超える魔法付与された魔石の存在とその漏れを感じるんだよな。

 しかもこれ、火魔法でも特に付与が難しい『熱のみ』の火魔法だ。攻撃魔法を含めて、火魔法は火起こし等の発火とランプの光などの発光がメインだ。共通しているのは見た目。目に見えて炎や光が確認できること。火魔法はこれから切り離せない。理窟はどうあれ目視で確認できない、熱のみの火魔法は非常に扱いが難しくて付与しても不安定で数時間で無効化したり、だからといって安定優先の付与をしようとすると素手では決して触れない、近くのものが自然発火してしまうような高温のものが高確率で出来てしまうとか、とにかく扱いが難しくてこれを好んで活用するヤツなんて見たことないってくらいマニアックな魔法だ。

「マイケルだからね、余裕綽々の笑顔で数分で全部付与したわよ」

「だろうな!!」


 抜群の安定さを感じる魔法付与された魔石も良いものを使ってるな、これ。

「魔石だよな? いいやつだろこの感じ」

「一粒千二百リクルのレッドリザードの魔石だからな」

「マジか!」

「えっ! この下にいくつあるんですか?!」

「十六粒」

 ……約二万リクルか。マジですか。

「うちは可愛い方だよ? マイケルたちのククマットの屋敷行ってごらんよ、あの二人の寝室とジェイル君の部屋とリビングとキッチンとお風呂の床全面にこれ入ってるからね?」

「全部レッドリザードの魔石か?!」

「うん、お陰でテルムス公国でレッドリザードの魔石が品薄になって一時価格高騰しちゃったらしいわよ、冗談抜きで」

 なんだそりゃ!!

 レッドリザードの魔石は火魔法と相性いいからな、熱のみの難しい付与をするなら確かに最適だけど、価格高騰させるまで買うんじゃねえよ、レッドリザードはテルムスじゃあんまり発生しないんだから……。


 マイケルたちの屋敷は一体どれだけ床暖房のためだけに金をつぎ込んだんだろうかと遠い目になりかけながらも、俺はもうひとつ気になることが。

「なぁ、熱の伝わりが良いのはなんでだ?」

「凄いでしょ? それがこの異世界版炬燵の特徴よ。魔法の熱を通しやすい媒体を見つけるのに苦労したんだから」

「媒体か、熱なら……火魔法だからわりとなんでも大丈夫だろうけど、熱伝導考えると……」

俺が少し思案するとグレイが苦笑しながら肩を竦めた。

「そう。これがいざやってみるとかなり大変だったわけだ。魔石から出る熱を均一に伝えること、魔石が発する熱を蓄積しすぎないこと、床として使える硬さと強度があること、熱によって変形しないこと。これを満たすものがなかなかなくてな」

 そういえばそうだな? 金属板ならいいんじゃないか? と思う奴もいるだろうけど、熱といっても魔法によるものだ、魔力が必ず影響する。金属によっては魔力を通さないものもあるし、反発し合って魔石か金属が損傷するものもある。

「一点だけ熱くなったり、熱の伝わり方が不安定で諦めかけた時にそれなら鉱石はどうなの? ってケイティの一声よね。『切り出しただけの金属が含まれる鉱石はどうなの?』って」

 そして俺とルフィナはグレイがめくった絨毯の下を見て目を見開いた。

「あ、これ見たことあります!!」

「これ、マーブル鉱石か」

 この世界には面白いものが多々あるけれど、俺たちが今見ているものもそうだ。

 白っぽい石に灰色の筋が不規則に、マーブル状に走る石。それがマーブル鉱石だ。金属の含有率が高い岩石はこの世界だとなぜかこうしてマーブル状になるそうで、このマーブルが少しでも確認出来たら山を一つ掘り返すよりその周辺を数十メートル掘るだけでいいと言われるくらい金属の含有率が高いそうだ。

「このマーブル鉱石の為に、マイケルは山の権利も買ったからな」

「……なにその情熱、引くんだけど」

「全ては妻と息子の快適な暮らしのためだって。床暖房で喜ぶ二人の為なら山の一つや二つ地図から消えてもいいとか超無責任なこと言ってたわ」

 あいつのことだ、笑顔で言ったに違いない。


 火魔法と相性がいい金属が含まれるマーブル鉱石を薄く切り出し、マーブル部分に魔石を嵌め込むと、そのマーブルに沿って熱が通るっていう仕組みだ。石は厚み七センチほどで、深めに穴を開けてそこに魔石を入れて同じ石で穴をふさげば魔石に直接絨毯が触れることもないから安全だ。マーブルに沿って熱が伝わり石全体も暖まる。これでムラなく石板全部が暖かくなってるからこの上ならどこでも暖かい。


 ……これ、いい。

 欲しい。


「言うと思って、マイケルに石板カットお願いしてあるわよ」

「マジで?!」

「ただし魔石の調達と付与は自分でやってよ? これ以上テルムスのレッドリザードの魔石品薄は避けてあげて」

 それな。

「テーブルと炬燵布団は私に言ってね、ライアスとフィンに作ってもらうから。あ! ちなみにこの異世界版炬燵については機密扱いで! 魔石といい魔法付与といい金額のトータルの桁がヤバくなるし、そもそも材料が手に入りにくいのと魔法付与が特殊過ぎて広めて混乱を招いても責任とれない!!」

 ははは。炬燵が機密扱い。

 すげぇな。


 本日、日本なら大晦日。

 外は雪が降り続いていて、止みそうもない。こりゃ今年の初日の出は拝めないかな。

「初日の出無理っぽいな?」

「だねぇ、そういうこともあるよ」

 俺とジュリが呑気にそんな会話をしたとたん。

 ガッ!! と、両手でルフィナがいきなり天板を掴んだ。流石にグレイも驚いてるし、俺もビビった。

「私はいかないからね! 初日の出なんて見なくて結構! 私は炬燵から出ない、今からこの炬燵に住む、明日帰るまで炬燵が私の家!」

 ああ、ルフィナは初日の出を見る意味と価値がわからないからな、今日ジュリの所に来たのもこれからご馳走食べてのんびりしてていいって事で連れてきたしな。

 というかな、ルフィナ。炬燵に住むってなんだ? 言葉がおかしいぞ。そして炬燵気に入ったんだな。その手を離しなさい、誰も奪わないから。そしてルフィナの視線が『欲しい』と訴えてくる。

「……このサイズと一緒でいいから早速ローテーブルと炬燵布団注文させていただきます」

「かしこまりました」

その場で売買契約成立した。


 いやぁ、炬燵。

 素晴らしい。

 しかもジュリのこだわりで座椅子も作ったとかで用意されて。リクライニング機能はないけど俺やグレイが座ってもすっぽりと収まる大きさで、お一人様用のお値段高めの座椅子、あれに近くて座り心地も最高。座布団も厚みがあってしっかりした作りで、座ってもよし、枕にしてもよし。

 あぁぁぁ、ヌクヌクで気持ちいい……。


 ガッ!!


「……グレイさんや、邪魔だぞ?」

「ああ、すまない、足が長いから」

「お客様に少し気を使ったらどうだい?」

「炬燵に埋もれている奴を客とは思えない」


 ドカ!!


 ルフィナとジュリが炬燵を覗き込んだ。

「外でやってこい。勝った方に炬燵で寝る権利をくれてやる」

 というジュリの言葉で俺たちは勢いよく立ち上がり外へ。


 一時間後。

 雪まみれになり息を切らして意気揚々と戻ってみれば。

 女二人が炬燵で伸びきって爆睡していた。

「わかってた、わかってたけど!!」

 俺の叫びなど聞かない二人なのでグレイに暖炉の部屋に行こうと声をかけ……って、あれ? いない? あいつどこいった?!

「グレイセル様なら戻ってすぐ風呂に行ったぞ。外に出る前に沸かしておいてくれって言われてたからな」

 ライアスから告げられた事実に。

「色々とひどくないか!!」


 今年の叫び納めとなった。


 ちなみに、ライアスとフィンの寝室にもこの異世界版炬燵があるそうだ。

「よく寝落ちしてるらしいわよ? 朝までそのままでびっくりすることあるって」

 そしてグレイの屋敷にも近日お目見えするらしい。

「家族に知られるわけにはいかないから寝室に用意するつもりだ」

「ちなみにグレイのは丸テーブル。なかなかいいよ」

 後でちょっと見せてもらおう。


 大晦日、炬燵でダラダラ。


 最高である。





大晦日&コラボいかがでしたでしょうか?

ご提案頂きましたにゃんクック様ありがとうございます。

炬燵ネタは初期のころから考えていたのですがにゃんクック様の疑問にもありましたようにこの世界ではローテーブルは珍しい、床に座る習慣が殆どない設定にしていたのでどのような扱いにすべきか悩んでいました。そこで季節の単話に組み込み、貴重な素材や特殊な加工で『世に出せない』ものにしてしまおうと片付けた次第です(笑)。

いやぁ、登場させられてすっきりしました。正確には炬燵ではないんですけどね‥‥。


明日更新の元旦スペシャルと繋がっております。

なので明日も炬燵メインです。そしてダメな大人たちのお話で、緩めです。



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― 新着の感想 ―
[一言] もっと安価で安全なこたつが作れればいいのにねぇ
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