クリスマススペシャル ◇ハルトは見た。ジュリのリベンジクリスマス・中編◇
クリスマスのお話中編です。
お話に緩急はありません、ただひたすらハルトが内装の案内してるだけです(笑)。
ごめん、訂正。屋敷の扉からして既に拘りが。
扉の取っ手にさりげなくリボンが飾られたベルが取り付けられているし、ドアマンをする執事の着ているコートの胸元には銀の糸で雪の結晶が刺繍されたハンカチーフ。扉は観音開きだからリースはつけられなかったんだな、と思ったらその上にあった。もみの木の葉がふんだんに施されたそこに、やっぱり丸いオーナメントが飾られた、大きなリボンが印象的なクリスマスリースが飾られてた。
そして扉の向こう。ふわりと暖かな空気に触れて一瞬心も体もほっこりと緩んだ。緩んで、ルフィナと二人、目をぱちくりさせてしまった。
「いらっしゃーい」
場違いなジュリの陽気なお出迎え。
「先行公開、『ジュリの本気出したクリスマス』だよぉ」
「お、おお」
つい声が裏返った。
「おまねきありがとうございまひゅ!」
あ、ルフィナが噛んだ。しかもなんで畏まったんだ。気が動転してるな、これは。
「ようこそクノーマス侯爵家のクリスマスへ」
「いらっしゃい、ハルト、ルフィナ。マイケルたちはもう来てるわよ?」
続けてエイジェリンとルリアナがにこやかに出迎える。その後ろでグレイが噛んだルフィナを笑わないように我慢してる姿が。
「ありがとう!」
だから動転しすぎ。なんでこの二人にタメ口なんだよ? ほら、グレイがついに顔を背けて笑い出したじゃねえか。
城のようなこの屋敷の、だだっ広いエントランス。外にある二本の圧巻な存在感を放つツリーとは全く違うツリーが中央で出迎える。クリスマスの雰囲気を演出したんだろう、そのツリーの下には大小様々なプレゼントのオブジェが置かれている。カラフルな布にカラフルなリボン。大きな靴下もあって、その中からもプレゼントが見える。ツリーには、雪の結晶やろうそく、キャンディーステッキにプレゼント、様々な形のオーナメントが飾られていて、一番上の星はこちらはよく知る定番の形だ。でも、全部透明で、キラキラしている。
「スライム様とかじり貝様のご活躍よ。これは型さえあれば量産出来るから楽よね。しかも侯爵家のオーナメントだから贅沢に金粉も少しだけ入ってて輝きが違うでしょ?」
「おおおっ、透明もいいなぁ。てゆーか、外のあのオーナメント、結構なデカさあるよな? あれだと重くなりそうなのにそんなに枝に負担掛かってるように見えなくて。あれどうやって作ってるんだよ?」
「透明のは見た? 光る魔石が入ってるやつ」
「あれはスライムだろ? 半球を合わせた繋ぎ目が見えた。薄く型どって合わせたんだろうなって」
「正解。で、他の大きなオーナメントはそのスライム様の扱いに困って生まれたものなのよ」
「あ、そうなの?」
「どうしてもスライム様だけだと、重くなるんだよね、この室内のオーナメントサイズならそのまま型どるだけでいいんだけど、薄く半球にするのがとにかく大変で。それでなんとか出来ないかなぁ、って色々考えてるうちに、透明以外のものはどうせ中は見えないんだから軽いものを使ったらどうだろうってふと閃いて」
「軽いものを、か。軽いもの、なんかあったっけ?」
「見るか?」
グレイが最初から用意してたらしい。さっと何かを俺に差し出してきた。
「ん? これって」
あれ、これ、見覚えあるような。
「木屑と接着剤を混ぜたのよ」
硬質繊維板だ。接着剤などの添加物を加えて圧縮して板にしたものなどを言う、あれだ!!
「言っておくけど強度はないからね? 木屑を纏められて型どれる限界ギリギリしか接着剤を入れてないの、圧縮技術もないから当然手作業だし。だから力加減によるけど結構簡単に割れちゃうんだよね。でもこれを型に押し付けて落とした程度では割れない限界の薄さにして固まったのを合わせて球体にしたあと、外側の塗料を二度厚塗りすると細かい凸凹も隠れてあの通り、綺麗なオーナメントが出来たわけ」
なるほどなぁ!!!
「木屑を使ってるから厚みはあるからそこそこの重さはあるけど、スライム様だけで作る手間と、重さ考えれば断然こっちだったのよ。しかも木屑は職人さんの所からいくらでも安く買い取り出来るし、さらには木材のお陰で塗料も乗りやすくなるから。まだまだ改良の余地はあるかもしれないけど、今年の私的には満足よ」
俺も満足!! いや、俺なにもしてないけど。
ツリーのオーナメントやジュリの説明に気を取られてたけど、ルフィナがいない。
「ああ、ルフィナなら兄上とルリアナに付いていったな。布で作ったクリスマスオーナメントで統一した部屋もあるって教えられて」
あ、暴走始まった。まあいっか、二人がついてるなら。
しかし、このエントランスだけでもすごい。燭台は柊やベルで装飾されて、所々にクリスマスを連想させるオブジェがある。しかも小粋なことしてるなぁって感心したのは飾られている花瓶に、落ちそうになってしがみついてる小人とそれを助けようとする小人の人形がいたり、毛糸の帽子や手袋をしたクマがソファーに腰かけてたり、かごの中にオーナメントやリボンが入っててさりげなくチェストの上にあったり。
「ここでパーティー出来るじゃん」
「まだまだ。メインはパーティー会場だからね?」
まじか。
「いやぁ、圧巻」
「凄いでしょ」
「凄い」
「侯爵様とシルフィ様はここを見て変な声だしてたわよ」
「人様には聞かせられない声だったな」
そして登場。陽気な二人。
「ほんと凄いよね」
「最高よ!」
てか、マイケルとケイティ。酒飲んでるのかよ?! ここでパーティーしねぇだろ?! いつもより浮かれてるな?!
「出されたものは飲むし食べるわよ。おいしいもの」
「一足先にクリスマス堪能させてもらってたよ」
この感動が半減する酒臭い夫婦に出迎えられたパーティー会場。
こっちのツリーは赤と緑の二色、しかも木製のオーナメントで統一されててほっこり可愛い感じでこれまたいいけどさ、一軒にツリーが四本って。
「客は十組呼ぶが、その客室全てに小さいながらもツリーとリースがあるぞ? 部屋ごとにテーマも違って、装飾も違う」
「マジですか」
「ついでにお供でやってくる侍女や執事たちの部屋にもリースやオブジェが飾られている。もちろんこの家で働く者たちの部屋もな」
「オブジェやオーナメントだけでどれだけあるんだよ?!」
「部屋二つが埋まるから今専用の倉庫を建築中だ」
「ええぇぇぇ……」
いったい総額いくら使ったのかなんて野暮なことは聞かない。
この会場のツリーが可愛い感じなのがちょっと意外な気もするけど、重厚な濃い色の家具で統一されてるこの部屋をパーティー会場にした理由がツリーからよく分かる。濃い茶色の中では明るい緑と赤がよく映えるんだな。差し色の白と金、銀色が良い仕事してるよ。布や木製のオーナメントが殆どで、アットホーム? カントリー風? そんな雰囲気がよく出ている。テーブルクロスには柊の刺繍がされて、椅子の背もたれに掛けられている布にも同じ刺繍がされている。テーブルに乗る燭台は背が低めのシンプルなものばかりなのは、その燭台の周りに雪だるまや家のある風景や小人がそり遊びする風景など、それぞれ小さなオブジェで小さな世界が作られているからだな。可愛らしい装飾でも燭台が馴染むように配慮されてる。
お、しかも壁には以前ジュリが言っていた布製のアドベントカレンダーが。小さな靴下がぶら下がってるのは可愛い反面、ちょっと笑ってしまうほっこりさがある。
「中にちゃんとキャンディー入ってるよ。カウントダウンは出来ないけど見本としてね。シルフィ様から遊び心が欲しいから必ずこれはしてくれって言われてて、反対の壁にはほら、雪だるまがズラリと」
「おおっ?! あっちは雪だるまのアドベントカレンダーか!」
「あっちはクッキーを入れるって。ちなみに招待客は明日から来るからそれまでに色々と立て込んでてこの家の厨房は今大戦争。仕込みの佳境に入ってるよ」
「あ、なんか可哀想な予感が」
「あのね、見てられないよ、料理人さんたちの殺気が凄くて。初めての試みだから料理も趣向を凝らすらしいんだけど盛り付けとかまだ迷ってるとかでピリピリしてた」
「一人嬉々として場違いな奴もいるがな」
「パティシエのゼストさんね。あの人はほら、食べたくなるシリーズでブッシュ・ド・ノエルとか作ってもらったことあって本物も作ったことあるし、可愛いお菓子はなんでもクリスマスに合うから苦労してないっていうね」
そういう奴必ず一人はいるよな (笑)。
「本当は金と銀、そこに透明のオーナメントでこの会場は統一するつもりだったんだけど、このアットホームな感じが新鮮なのか、侯爵家の全員がこっちが良いってなっちゃって。うちでフィンが時間見つけて作ってたのが布のオーナメントとかオブジェ、ぬいぐるみなんだけど、それを飾って一般家庭ならクリスマスはこんな感じにするといいかもって見本として見せるだけのつもりだったのに凄い食いつかれて慌ててコーディネート変えたわ」
食いついたからこその拘りがまだまだ。
「これ、俺も欲しい」
「ランチョンマット? かわいいでしょ。緑と赤を交互に並べてるからクリスマスって感じするよね。それぞれ白い糸でベルや柊の刺繍がいいでしょ? ランチョンマットとお揃いのナプキンリングもお薦め」
赤のランチョンマットには赤の、緑のランチョンマットには緑のナプキンリング。こちらも白で細かくベルと柊が描かれている。
「芸が細かいな!」
「そりゃ、去年のクリスマスが心の傷になった反動というかなんというか。作れる物、時間的に間に合うものは全部デザインを手掛けたつもり。職人さんたちをブラック体制にしないことに一番気をつかったからね、他はもう遠慮なく作りたい放題やらせてもらったわよ」
「反動がスゲー」
思わず感心してしまった。そしてふと視線を移せば、今度目に飛び込んで来たのは。
「いるじゃん、サンタ」
そう、いた。会場の隅っこ、しかもいくつかあるテーブルに隠れて見えなかっただけでいた。
「作っちゃった!! 実際に縫ったのお針子さんたちだけど!! 太っててひげ生やしてて可愛いおっさんが赤いモコモコの服着てるのが何故かウケた」
ウケたのか (笑)。
「いい子にプレゼントをくれる人ってのも良かったみたいよ、縁起がいい感じするんじゃない? 侯爵様が会場に置きたいって言うからデザインいくつか渡したらこんなことに」
サンタが……十五人いる。三十センチ位の愛嬌ある顔と体のひげのじいさんが並んでる。そりに乗ってたり、プレゼントの袋かついでたり、何故か肩組んでるのもいる。寝てるのもいるな、そしてなぜ正座をしてるのまでいるんだ。
「これ、愛嬌ありすぎの顔がなんとなく……雰囲気が違うような」
「合わなくはない、でも、うん、若干暑苦しいのとデザイン全部渡したことをちょっとだけ後悔してる」
部屋の一角を陣取るサンタたち。なんかちょっと違う。可愛いけど。
客室も見せられた。ホントに全部違った!!
赤メイン、緑メイン、赤と緑、赤と金、緑と金、赤と銀、緑と銀、変わり種だと黒と白と金、そして最も豪華な金と銀、レア? な青と銀という十の趣向が凝らされた部屋。
赤や緑が多用されている部屋もちゃんと差し色で金と銀が使われているから不思議と格差は感じない。そして共通して凄いのはベッドカバーと枕カバー、そしてクッションだな。部屋の雰囲気を担うそれ全部が一部屋ずつカラーにあったデザインで統一されてて、これ、作るのにどれだけの時間と金が掛かってるのかと怖くなるぞ? そして《レースのフィン》ご自慢のレースもこれでもかってくらいに使われてて華を添える。
「俺、この青と銀の部屋好きだわぁ」
「ふふふふふっ」
「なんだよ?」
「じゃあこの後、グレイの屋敷でパーティーするの正解だったね」
「まさか」
「あっちに行ってからのお楽しみってやつよ」
おおおおっ、もしかしてグレイの屋敷のクリスマスは青と銀でコーディネートされてるのか!
楽しみだ!!
そして。
おーい、ルフィナ、どこだぁ? あ、いた。明日のパーティーが楽しみで仕方ないエイジェリンとルリアナにめっちゃ捕まってるじゃん (笑)。長々と連れ回されてるじゃん。え、それでいいって? まだ見たいって? ああ、そう? けどこの後グレイの屋敷行くからな、この家もルリアナ達も明日の準備があるから長居はしないからな。って、俺を睨むな!
「あ、ハルト頼みがあるんだけど」
「ああ、そうだな、重要な任務だ」
ジュリとグレイが突然。
「この後のグレイの屋敷でのパーティーにマイケルとケイティも転移させてね?」
「俺が?! なんでだよ?!」
「あの二人、前に酔っぱらって二人で転移で帰った時に座標狂って川に落ちた前科があるからよ」
「凍える川に抱えてたジェイルごと落ちたらしい」
「よくジェイル無事だったな?!」
「というか、二人を救出したのジェイル君だからね。自分も落ちたのに偉いよね」
「ジェイルがいなかったら凍死か溺死していたんじゃないか?」
「その優秀な息子はどうしてるんだよ?」
「また変な所に落ちても困るからって先にグレイの屋敷に行ってるよ。これで安心とか言ってたから二人で転移する気満々なのよ」
「どう考えても、ろくなことにならないだろう?」
「ろくなことにならない予感しかねぇわ」
なので酔っぱらいを二人、転移させることになった。
そしてルフィナ!! いい加減にしろぉぉぉ!!
行くぞ!!
いざ、グレイの屋敷へ!!
オーナメントって基本軽いものが多いのでどうするか一番悩みました。
プラスチックがあり、ガラス製品、金属製品が多種多様に存在し、工場生産当たり前の地球の技術から頭を切り離すのって結構苦労します。
次話いざグレイセルの屋敷へ! ですがそちらもハルトが案内人になり、ジュリの執念を説明するだけです。




