クリスマススペシャル ◇ハルトは見た。ジュリのリベンジクリスマス・前編◇
本編とは繋がっていません。クリスマス特別版となります。
全く一話でおさまりませんでした (汗)。本日から一日一話、前編、中編、後編と三話連続更新となります。
ジュリは相変わらず忙しい。いや、日々忙しくなってるような? ベイフェルア国王妃が依頼したとか他の国の奴等もちょっと動きが活発になってきてジュリのとこに手紙送ってるとか、お前らのせいじゃねぇの? 俺にぼこぼこにされたいの? って聞きたくなる、なぁんか気に入らない事が起き始めてたりする。
で。
そういうのはさっさと片付けるに限る、と思ったからお小言で黙らせてきた。当分は静かだろう、と願いたい。
なんで俺がそんなことをしたかというと。
そう。季節は冬。
クリスマス!!
ジュリのクリスマスリベンジ!!
スゲェの。
気合いが。
だから邪魔すんじゃねえよ? ってことで。
「全部私がプロデュースすることにしたわ、そして口出しさせない。してきたら例外なくハルトが全力でビンタするって宣言した」
って。勝手に俺がすることになってる。そして俺の全力のビンタ……ごめん、死人が出る気がする。お祝いムード消し飛ぶ。
「心が病むクリスマスよりよっぽどいいわよ」
……死人が出るのはいいのか、とツッコミそうになって止めておいた。
酷かったからな。侯爵家のクリスマスが。ジュリや俺から聞いたことをなんとか解釈してやってみたらとんでもないことになったからな。ジュリが数日顔がスンとしてしまったくらいに、衝撃的だったからな。
「今年はジュリの全面プロデュースかい? それなら喜んでクリスマスパーティーの招待状をもらうけど?」
うん、マイケルは良い笑顔だ。去年は来なかったもんな、嫌な予感がするとかなんとか言って。今年は、そうか。ちゃんとしたクリスマスって予感がするんだな。
「予算上限なしって言われたから遠慮なく予算は決めずにやるわ」
「さっすが。侯爵家も気合い入ってんじゃん」
「違うぞ」
グレイが真顔。どした。
「父と母が友人を招くことになったんだ。自慢するためにわざわざ招待状から凝って準備している。浮かれて手が付けられなくなっただけのことだ、気合が入っているとか気前がいいとかそういう以前の問題だ」
「あ、マジで?」
「もちろん室内やテーブルの装飾、外のツリーなどは全てジュリがコーディネートするが、料理や催しは父と母がな。もう勢いが過ぎて予算どころではなくなっただけだ。装飾類は使いまわしが利くと聞いてなおさら歯止めが効かなくなり。……そのせいで領の仕事を押し付けられた兄上が機嫌が悪い」
「ルリアナは?」
「ルリアナはその辺逃げるの上手いだろ」
「私の手伝いしてくれてるの、『何でも相談してね』って言ってくれたから欲しいものの仕入れとか室内の装飾で大切な寸法とか聞いたり相談したりしてたら侯爵様がルリアナ様にお金を任せるってクリスマス関連のことをお願いしたんだよね。で、エイジェリン様が出遅れて仕事をみっちり押し付けられた感じ」
「うわ、ルリアナがエイジェリンを見捨てたのか……なんか、哀れだ」
「哀れだよね」
サラッと他人事のように笑うジュリの隣でげんなりした顔をしてるのはグレイだ。八つ当たりされてるんだろうな、頑張れ!!
気合いが入ってる割にはジュリ自身は何かを作っているという訳ではない。至って通常運転でキリアやフィンたちといつものように物を作り店を営業、合間に関連事業のことで動いてる。
「ほら、予算上限なしだからね。この際職人さんたちにクリスマスのオーナメントとか色々作り慣れてて貰おうかなって」
「なんで?」
「今のところクリスマスは侯爵家と私たちだけのイベントだけど、クリスマスのオーナメントって冬の寒い時期を明るくしてくれるものばかりでしょ? クリスマスが根付かなくても冬のイベントや大市の飾りに使うようにしたらいいんじゃないかと思って」
なるほどな。たしかにクリスマスは地球の、本来は宗教が根底にある祭だ。この世界に正しく根付くことはないだろうな。
「そういうこと」
「それならそのオーナメントをククマットから冬のおすすめ装飾品として売り出すのも良いだろうとなってな。ジュリがデザインしたオーナメントは各工房に開発費の上限を設けずに作って貰うことになった。来年からはそれらを基に気軽に買える物を売り出してみようと計画しているところだ」
「おおっ、いいなそれ!!」
「それ僕が一番に買わせてもらうよ」
マイケルも楽しみが増えたな。
わかる。
うん、わかる。
あの雰囲気を味わえるなら、楽しみだよなぁ!
ここ最近、あえて俺はジュリを避けた。だってクリスマスのオーナメントとかオブジェとか、色々、とにかく色々見本を職人たちが持ってきてる。楽しみは当日までとっておく!! と思ったらあっさりジュリがそれを破ってきた。悲しすぎる。
「ここからやるのが楽しいんでしょ」
「え?」
実は俺はこの存在を知ってはいたけど、現物を見たことはなかった。召喚される前は高校生、こんな所に来るとは思ってもなかっただろ? クリスマスなんて当たり前の当時の俺は特に興味がなかったからな。
アドベントカレンダー。
ええっと、由来、由来……興味がなくて調べたことがなかった。
「クリスマスまでをカウントダウンするカレンダーね。で、その日付それぞれにお菓子やオーナメントが入ってるのが多かったかな? 会社の先輩はオーナメントを入れて娘さんと毎日一個ずつ卓上ツリーに飾って、クリスマスイブにそれが完成したら大きいクリスマスツリーと並べて写真撮ったりしてたみたい。今回のハルトのはクッキーとキャンディね。二個ずつ、ルフィナと毎日カウントダウン出来るように」
それは、木製の小さな引き出しが並ぶもので、一から二十四まで数字が小さく書かれていた。
大きい外枠は真っ白に塗装されて、引き出しは緑と赤に塗装されたものが交互に並んでいて鮮やかな市松模様になっている。立てて置けるように底に板が外枠底よりも一回り大きいのが貼られていて、おなじく真っ白に塗装されているけど、柊と赤いリボンが描かれている。これだけでも結構凝っているけど、なにより引き出しの摘まみだ。
小さくて俺なんてちょっと摘まみにくい大きさだけど、白土を型抜きして星の形になってるんだぞ。これはちょっと感動する。
「今年はみんな同じ形と色になっちゃったけど来年はカラーとか柄の工夫もしたいかな。しかも木製の引き出しのタイプは手間もかかるから結構お高めになるでしょ? 布を使ってクリスマスの靴下の形のものを紐に繋げて壁に飾れる物とか、それこそハンドメイドでその手のサイトに出品されていたのを見たことあるからそういったのを来年は作りたいよね」
お、おお? 話をちょっと聞いてるだけでもジュリの中ではもっと色んなアイデアがありそうだ。なんだか今年を含めていい冬のイベントに発展して今後定着しそうじゃん!
やっぱりさ、楽しいイベントって多いに越したことはないよな。特に冬、家にこもることが多くなって外は人もまばらになりやすい。雪が降ったり風が吹けばなおのこと。クノーマス領を含めてこの国は北寄りに位置する地域が多い。北の国境線沿いの領ともなれば雪で閉ざされる地域を抱える所も少なくない。このククマット地区も今の季節はよく雪が降る。年に二回は確実に大雪に見舞われる。今日だって朝からチラチラとずっと雪が舞っているから雪かきが終わった市場はまたうっすら白く積もっている。
用があって外に出てもその用が済めば皆足早に帰路へ。どんより重たい雲が立ち込める日に賑やかなのは寒さをもろともせず元気に遊ぶ子供だけ。屋台も露店も客足の伸びの悪さを察して早々に片付けに入る。どの店もそれに釣られるように閉店準備。夕方に差し掛かる頃には食堂、酒場、宿屋だけが煌々と明かりを灯して人の気配を教えてくれるだけになる。後は市場の道路に並ぶ街灯の明かりだけしかなくなって日が暮れた途端に寂しさが一帯を支配する。
クリスマスの習慣がある国では考えられないと思う。
日本のあの集客を目的としたイルミネーション満載のクリスマス期間は別として、本場ヨーロッパともなるとクリスマスは当然、新年までその賑わいが続いて、しかもそれに合わせて露店が増えるんじゃなかったかな? クリスマスの飾りが売られて、お菓子が売られて、町がクリスマス一色に染まって。寒くても外出する楽しみ、理由が存在する。
この世界にも、そういう楽しみがあってもいいはずだ。
ルフィナがアドベントカレンダーを毎日楽しそうに見ている。
「クリスマス、早くこないかな」
って、子供みたいな顔して引き出し開けて飴やクッキーを食べる。
「ハルトはもっと子供みたいよ、はしゃいでるでしょ」
はい、ごめんなさい。
本当ならクリスマスツリーも渡したかったとジュリから言われたんだけど、オーナメントの製作がちょっと間に合わないかもという理由で今年は勘弁してと謝られたな。
いや、もう、今年は、それでいい。来年オーナメントをククマットで買いまくるから!! って言ったら笑われた。
そして今年は、サプライズしたいというのもあってルフィナもジュリがしてることを把握してないんだけど、来年はお針子として力を貸して欲しいって言われてるからルフィナもクリスマスパーティーをものすごく楽しみにしてるんだよ。なんたってクノーマス侯爵家が招待客を招いてクリスマスパーティーを開く広間と、泊まる客室、談話室はクリスマス一色にコーディネートして、それを先行して見せてくれるって話だ。そして本宅で招待客のためにパーティーをするからグレイの屋敷で俺たちが気兼ねなくできるパーティーの為にそっちもコーディネートするんだってさ。俺たちはグレイの屋敷に泊まるんだけど、いい歳してワクワクしてる俺がいる。あれかな、ほら、クリスマスの時期になるとホテルとかそういうコーディネートした部屋用意するじゃん? そこにカップルが泊まってコース料理楽しんだりするんだろ? それに近い体験できるってことだろ? テンションあがるって、マジで (笑)。
そして。
ついに。
当日。
天がジュリの頑張りを誉めてるのか? 無風でいい具合に雪が降って。ホワイトクリスマスだ。
……。
あれ、ここ、クノーマス領だよな?
マジか。
スゲェ。
あ、ルフィナがぽかんとして立ち尽くしちゃったよ。
転移で来るな、必ず馬車で来いと念を押された意味が分かった。ククマット地区の外れを出て、一気に何もない農地が広がる光景のなか、ぽつんとクノーマス侯爵邸の光だけが見えるのはいつもと変わらなかった。けど、馬車で近づけばその光の様子が違うことがはっきりしていった。途中から、点々と道に沿ってランタンがさげられていて、そのランタンが緑と赤のリザードの鱗で作られたものだ。ただ下げられているわけじゃなく、この世界の柊が、地球のものよりデカイ柊がランタンが下がる柱に飾り付けられて、赤に金のラインがはいったリボンが結ばれている。もうそれだけでルフィナは『可愛い』を連発。なんでもいいけどなんで女は可愛いを連発するんだろう。あ、ごめん、空気読まない発言許して。
そして。
門の前、降りたら馬車の馭者も暫く呆けて帰るの忘れてた。
門が。門の上のアーチ部分が。
もみの木の葉の部分だけをふんだんに使ってアーチを覆っている。そしてそこには。金や銀の丸いオーナメントが!! つやつやの赤いオーナメントが!! ついでに中央には大きな金のベルが。全体には細い金のリボンが巻かれて。門のアーチ部分が大きなクリスマスリースになってて。
「お待ちしておりました」
門番がにこやかに門を開けてくれた。
え、ちょっとまって、帽子になんか小さい柊とベルが刺繍されてて、手に持ってる槍にもリボンが付いてる!!
もう、それだけで拘りがひしひし伝わってきた。
そして、門の向こう。庭。広大な庭。
はぁぁぁぁっ、ジュリ、がんばった!! いや、作ったのは、職人たちだし飾ったのはここの使用人たちだろうけど、ここまでするためのデザインとか、コーディネート、本当にジュリ、頑張ったな!!
まっすぐ、正面の玄関に向かうまで伸びる手入れが行き届いたレンガ畳の道に沿って、やっぱりランタンが並ぶ。こちらは普通のガラスで侯爵家のオリジナルの小さなランタンだけど。その一つ一つは低い柱に下げられて、人が安心して歩けるように光を遮らないようにするためかリボンが結ばれているだけだ。なのにランタンの下や横、後ろにさりげなく冬を連想させるオブジェが置かれている! 雪だるま、ソリ、雪を被った家、マフラーをした熊やウサギ。他にはなんだこれ、お笑いネタか? シチューの入った鍋とかローストチキンのオブジェまであるぞ、しかもリアルな作り (笑)!!
我に返ったルフィナが大変だったよ。何気によく見ると玄関まで何十本あるんだよ? っていうランタン側にあるそのオブジェ、全部違うんだから。それ一個ずつ見て立ち止まるから全然進まない!! 寒い!! え? ちゃんと見せろって? わかりました、はい。
そして普段は異質な、グレイが去年のクリスマスにどっかの山から抜いてきて植えたもみの木二本。
圧巻。
予算の上限なしでジュリに依頼するとこうなる。
大小様々な丸いオーナメントは、金と銀、そして赤で統一されている。大きいものは俺の握り拳二つ分はある。そこにはオーナメント本体と違う色で雪の結晶やストライプ、ドット、幾何学模様にハート柄など様々な模様が入れられている。
そして驚いたのは透明な丸いオーナメントがあること。その中には魔法付与で発光するようになっている魔石が入っていて、周囲のオーナメントの輝きを際立たせているぞ!
そして、てっぺん。
立体的に見えるように、何枚かの金属板を同じ形に切りだしたものを放射状に繋げてある。しかも簡単な星の形じゃない。星の輝きを表現するために細かな細工が施されているのが遠目で分かる。
良かった、ドラゴンじゃない!!
正真正銘クリスマスツリー!! 豪華な映えるツリー!!
これだよ。これ!!
あれ。待てよ?
ツリーが二本?
……去年、グレイがどっかから抜いてきたのは、一本じゃなかったか? あれ? この前この家来たとき、一本だったような?
……今年も抜いてきたのか。そっか。
とにかく。家に入る前でこれ。家の中はどうなってることか。
ブクマ&評価、そして誤字報告ありがとうございます。
次話、どのようにオーナメントなどが作られたかジュリがちょっとだけ語ります。
そして侯爵家の装飾とグレイセルの屋敷の装飾。どのようにコーディネートしたのか? 明日もひきつづきお楽しみください。
※特にお話に緩急ありません。こんな感じが続くだけです。




