10 * 男性小物は肩身が狭い?
本日 話数調整のため二話更新となります。
この前書きを入れ忘れそのまま二話更新してしまいました、申し訳ございません。
《レースのフィン》も無事軌道にのり、これを機に 《ハンドメイド・ジュリ》の店内の陳列を見直すことになった。
元々《レースのフィン》が開店するときに合わせて殆どのレースを露店三店舗を含めたそちらに移動することは決定していたので、うちで扱うのは小さなレースだけになった。新作が出来れば宣伝を兼ねて販売することもあるけど、あくまで期間限定でスペースを無理に確保し続ける必要もなくなったしね。
さて、どのようにしようかとキリアと共に頭を悩ませる。
最近の商品を見てもスイーツデコの小物入れや透かし彫りのコースター、そしてノーマちゃん人形とそのミニチュアシリーズは結構場所を必要とする。
あ、ノーマちゃんとミニチュア、そして透かし彫りに関してはククマット全体で売り出していくことにしたの。
そこそこ場所を必要とするものだし、何より工房ごとに得意とするミニチュアがあって、それならばいっそのことククマット全体で大々的にやっちゃおうとなってね。
各工房で得意とするものが買えるだけでなく、木工品を売るお店があるのでそこでは全種類買えるよう取り扱いしてもらえることになり、 《ハンドメイド・ジュリ》ではノーマちゃん人形をメインに、おままごと用品の大半は工房同様その木工品店に販売を委託することにした。うちでは定番のキッチンセットとお茶会セット、新作が出たらそのセットだけを置くようにする。さすがに全部を置けないことは分かっていたからこの案はキリアとグレイとローツさんとで早い段階で詰めていたのよ。その案を市場の定期的な会合で提案して、あっという間に承諾されたときはその勢いに笑ってしまったけどね。そして透かし彫りもコースターや小物類は原則うちのオリジナル商品として、それ以外の大きさのものは私にデザインと大きさなど確認と許可を取ればどの工房でも製造販売出来るように個人ではなく地域一体で売り出す契約をした。
この手の技術は秘匿とか独占するより広めた方がきっと良いものが出来るしね。
今後は、まだ販売ができない状態だけど螺鈿もどき細工と万華鏡も共にこのククマットの至る所で買えるようになったら嬉しいね。『職人の都』に一歩ずつ近づいてる。
で、話は戻り。
「スイーツデコ小物入れはもう少し増やしたいよね。ストラップとキーホルダーは豊富だから現状維持でいいけど」
「個数限定販売はまだ続けて、一種類だけ増やすならいいかな。なんだかんだと場所を取るんだよねぇ」
「あー、確かに。ジュリ的には何を置きたいの?」
「んー、コースターはそんなに場所を取らないから配置を変えるだけでいいと思ってて、ノーマちゃん達はレースを下げた一角そのまま使えるよね。他の大きいものといえばリザード鱗のランプシェードだから他は……アクセサリーとか小さいものでしょ? そんなにスペースを気にすることないよね。補充する時の種類のバランスを考えればなんとかなるし。なんて事を色々考えて、総合的な我が儘をいうとね、男性小物、増やしていきたいのよ」
「あー……それねぇ」
キリアと二人、つい唸る。
実はグレイとローツさんに何度か言われてるのよ。
男性小物をもっと置けないか、って。
うん、分かるよ。言いたいことは。すっごく分かるのよ。
だって売れるから!!
リザード様の鱗を扱うようになってから特に、頻繁に、度々、言われてる。
あのですね、カフスボタンが大人気。
凄い人気で。
調子乗ってお揃いのスカーフを留めるピンも作ったらそっちも人気。
こりゃ売れると更にキリアと二人で調子に乗ってブックバンドの留め具のポイントとして付けたもの、台座に張り付けてからそれを黒や茶色の革に縫い付けたブレスレット。
売れる売れる。
笑っちゃう位売れる。
男性小物って庶民のものはシンプルという名の質素、富裕層のものは豪華という名の無駄に華美。
そこに初期から男性小物を売っていた、しかも人気があって売り切れが続く中で出したのがリザード様の鱗を使った男性小物。
これの最大の利点はその値段。色つきスライム様や天然石、魔石に比べてかなり安い。それでいて緑や青と言った男性が持ちやすい色合い。男性用小物の幅を広げてくれた、しかも客層を選ばない価格で提供できる優良素材に投資すべきと思うのは当然かもね。
買ってくれるのよ、皆が嬉しそうに。
それを同性のグレイとローツさんがとても感慨深げに見ていたことがあって。
「男性小物専門店を出さないか?」
と言って来るほどには二人は世の男性たちの喜びを間近で感じ取っていたの。
でも、現状新店舗を出すのは無理。夜間営業所を開店以降、こちらは緩やかでも売上を伸ばしている。自ずと扱う作品の数も比例して増えていて、最近作品作りを任せられる人が増えてきたとはいえ余裕があるわけではない。そんな中で、例え営業日を限定し出す作品も限定したとしても長期に渡って維持していくだけの力が今の私たちには無いわけで。
しかもがま口がここに加わる。仕事で使えるシザーバッグとお洒落優先のウエストポーチとしてうちの店でも販売が決まったし。本当は革専門の工房に製作を一手に依頼したのでそのまま委託販売をお願いしようとしたんだけどそこは店頭販売はほとんどしていないから販売ノウハウがないので遠慮したいと工房主さんに断られてしまって。
ポーションバッグをギルドの売店で置かせてもらうついでに……と頼もうとしたら、グレイとローツさんから待ったが掛かってしまったのよ。
「冒険者に関わる物以外で利益を出させるのはよくない」
「え、なんで?!」
「そうそう、ジュリはどうせ利益のほとんどがうちに入ってくるから気にするほどのことでもないって思ってるだろ? でも他のギルドからしたらそうは見えない。数パーセントだろうが数リクルだろうが利益が出ればそれだけ 《ギルド・タワー》に還元する額はでかくなるし、そういうものを提供してくれる地元民と友好関係が築けている証しにもなる。そして冒険者や地元民に貢献している支所として評価が上がる。それがどれだけそこにいる人間の出世に関わるかってことだ」
「なるほど。というか、私すでに結構ギリギリなことしてる?」
グレイがはっきりと頷いて。
「冒険者ギルドには上質なブルの干し肉を格安で提供して、時には無償で。民事ギルドでは素材や新作のレシピを登録し続けて手数料をかなり稼がせている。ククマット支部はクノーマス領どころかこの国でも特異な状態だ。これだけ外部に稼がせて貰っているところなんてない。だからククマット支部は冒険者・民事共に次の支部長の座を狙おうとする者が増えているとこちらの調べで簡単にわかる程だ」
と言われてしまい。
そこで頭を悩ませて、じゃあやっぱり 《レースのフィン》で、と。
しかしねぇ。店の雰囲気に合わないんだよね、どうしても。一部コーディネートしやすいようにベルトや帽子も革製品を置いてるんだけど女性用だからね。
そこにちょっと武骨な男物……合わないんだよ、悲しいくらい。
となると、こっちのお店で扱う種類も数も増やすしかないとなるわけで。
「……また苦情来てもやだよね」
キリアが遠い目をした。
「てゆーか、そんな苦情寄越すな!! だけどね!!」
つい吐き捨てちゃった。
以前、男性小物のスペースを広げたことがあるの。
そしたらですね。
苦情がきた。
しかも一件二件じゃなく。
「男性ものなんて増やさなくていいですよ!!」
って、女性から多々苦情が。結構本気の苦情だよ? そんなので苦情言うの?! って。
……。
男たちはあんたたちの為に、行列ならんで真剣に選んで緊張しながらラッピングをお願いしてきてそして大事そうに抱えて帰るんだけど。
と、何度言いそうになったか。
女って非情だよ (笑)。
新しい陳列にするため、店内の所々空いた空間を眺めながら暫し考える。
人気の商品、しかも男性用小物。どうせなら新たな客層を掴むためにも店頭にもっと並べて目に付くようにしたい。
しかし、それをやれば女性たちからクレームが来る。その対応が面倒くさい。
「ねえ、レジカウンター回りで下げられる物ってあるかな?」
「うん? あるんじゃない? あたしはほとんどレジやらないからあんまり分からないけど……補充しやすいようにって置いてる単品売りのパーツなら工房に移してもいいんじゃない?」
キリアが言っているのはお店で数が最も多くそして最も売れる小さなパーツたち。ビーズのように穴を開けただけの擬似レジン品に天然石、金属パーツや極小レース。小さな皿や瓶に入れてずらりと並べているもので、補充のしやすさと棚卸しのしやすさを追及して、小さな袋にそれぞれ個数を決めて入れて、レジ下のスペースに置いている。小さいパーツ、されど小さいパーツ。それが百を超える種類揃っていればその予備在庫の小袋の量もかなりのもので、レジ下を堂々と占拠している。
「……ここに置くかぁ」
「何を?」
「男性用小物」
店頭に置くのは、『見本』のみ。
特に場所を取るブックバンド、そして今後発売するがま口は見本に番号を付け、それと同じ番号札を持ってきてもらいレジで商品を受けとるようにすることを思い付いた。家電量販店やデパートのお中元やお歳暮の催事場でよく見かけるアレ。『こちらは見本です。ご希望の商品と同じ番号札を会計までお持ちください』の説明を用意すればいいよね。
「おおっ! それ便利だね?!」
キリアが目を輝かせて賛同してくれた。
こうなると同じ方法で販売出来るものがいくつかあるわけで、色合いやサイズをしっかり規格化してあるベルトや硬貨袋 (財布みたいなもの)は男性用に限らず女性用にも活用できる。
今まではデザインが複数ある商品は期間を決めて交互に出していたけど、これなら全種類置くことが出来るしなにより店頭のスペース確保も出来る。そしてランプシェードもそうすることで在庫を増やして保管しておけばいい。さらにはランタンもそれで一気に増やせるかな。天井から見本を吊るして、番号札を垂らしておけばいい。札は近くに置くか、もしくは番号を言って貰えば出せるようにしておくことも可能。
まあ、その分在庫をどこに置くか頭を悩ませることにはなるけど、工房や研修棟をこれを機に一回整理して場所を確保するものありだね。
「これはいいな」
グレイとローツさんがご満悦。
番号札での販売にすることで可能になるディスプレイを試しにやってみたらブックバンド、ベルトの全種類を出せるのはもちろん、ブレスレットと硬貨袋も全種類並べられた。女性用のものも一部そうすることで新作も定番もゆとりを持ってディスプレイできた。
うん、我ながらいいアイデアだと思う。
「しかし、札と交換なんてよく思い付いたな」
ローツさんが酷く感心してくれてるけど、私は肩を竦める。
「私のいた世界の方法をそのまま取り入れただけよ」
「それでも凄いだろ」
「あはは、思い出したことは自分でも誉めておく」
「それにこれって他の利点もあるよね?」
キリアが並べた見本のブックバンドを手に、わざとそれを両手でグニュグニュと握りしめる。
「こうして人がなで回したものじゃなく、極力触らないままの商品を買える訳でしょ? それ、あたしはかなり嬉しいなぁ」
「ああ?! そうか、そうだよな!!」
「確かに、そうだな」
「お、キリアいい所に気づいたね。そう、この見本のみ置く利点は新品を一番に手にできるって所。一つ一つ微妙に見た目や雰囲気が違うアクセサリーだと見比べてじっくり選ぶのがいいけど、こういった規格化されたものならできるよね。会計の時に品物を出して、汚れや壊れている所がないか確認してもらう手間を入れればなおよし。ちなみに見本は期間を決めて交換して、下げた方は『訳あり:見本に使用したため』って夜間販売に回して格安販売もいいと思うよ」
「それなら無駄にならないし、懐寂しい人にも優しいわね」
「そういうこと」
こうして新商品も男性用小物も、ちょっと大きいものも心おきなく販売出来るようになった。
ただ一つ。
「場所が確保できたならもっと沢山置けるのに」
と、残念がる発言をする女性客、結構な人数、しかもしばらくの間居続けたのには項垂れるしかなかった。
この売り方って日本ならではなんでしょうか?
土地の狭さ、建物の狭さを工夫して限界まで沢山の物を見て貰おう、会計までの流れを良くして無駄を減らそうとする感じは日本人の感性ゆえの気がします。




