2 * 【魔導師】マイケルさんと作業部屋
2026/02/02アーススタールナ様より『ハンドメイド・ジュリは今日も大変賑やかです』①が発売となりました。
エピローグ、番外編、SSは書き下ろし、本編は僅かですが変更もしています。
ここでは会えないジュリ達が書籍にいますので是非そちらもお手に取ってお楽しみ下さると幸いです。
「ちょっと見ないうちに、なんかすげーことになってたのな」
ハルトの登場。『和牛』ことブル系の魔物肉をお裾分けしに来てくれた。自由人なので神出鬼没な男だよ、最近はこの辺に宿を取ってウロウロしてるらしい。『和牛』はそこそこいい値段が付くとかで、冒険者ギルドにも定期的に卸しているからこの辺は便利とか。【英雄剣士】の肩書きが無駄だよね……。
「君がジュリか。はじめまして、マイケルだ。同郷の人にあえて嬉しいよ」
「!! 地球人?!」
「あはは、そうそう」
「はじめまして!! ジュリです!! 」
ハルトの後ろに知らない人がいると思ったら地球人ですよ!!
聞けば生まれはアメリカで、召喚されて七年ほど。ちょっと稀な召喚で、奥さまと二人でまとめてこの異世界にやって来たって言うから衝撃よね。マイケルは【魔導師】の称号持ちで、今はとある国の魔物討伐後の休息を兼ねて旅行中なんだとか。元々知り合いだったハルトが最近長くククマットにいると聞いて訪ねてきたそう。
そして約一年前召喚された私のことを聞き、会いに来たわけ。
もー、嬉しいよね! 同じ地球生まれって言うだけで。
ハルトのパーティーとは別の人たちとパーティーを組んでいたけど今はハルトのように自由に大陸を渡り歩いて奥さまと二人で人助けを主にしてるとか。それ聞いただけでいい人って分かるよねぇ。
「なぁ、いつになったら話が終わるんだよ」
ハルトの呆れたこえにハッとした。
ごめん、忘れてた。
「へえ! 本当に凄いね! この世界じゃなかったよこういうの。カッコいいじゃないか」
マクラメ編みをみて、マイケルが興味津々だ。
「良かったら好きなの一つどうですか?」
「えっ?! いいのかい?!」
「あ、俺にも新しいの頂戴」
「うん、お肉のお礼にいいよー。その辺新しいデザインのだよ、おばちゃんたちも張り切ってくれてるから色も大きさも充実してるでしょ」
マクラメ編みの新作を三人でひっくり返すようにこれがいいとか、きれいだとかワイワイ騒ぎながら二人が気に入った物を選んで。
「だからさ。最初に言ったけど、凄いことになってるな、ここ」
ハルトがそういうのは無理もない。
実は今回ハルトが入ってきたのはライアスの工房ではない。
工房は元々ライアスの仕事場だし、春になって修理やリメイクで金物を持ち込む人がぐっと増えた上に私もいろいろお願いしてるから結構忙しくしてる。そんな職人の工房をむやみに出入りするのは良くないと思ってたら、空き部屋になっていた息子さんたちの一室を『思いきって潰す!』と、ライアスが私とフィンの作業場にしてくれた。テーブルと椅子、糸がずらりと並ぶ棚、さらにはスライム様で作る疑似レジンの試作専用のテーブル、そして私と一緒に召喚された、作品となるべく私に買い漁られたパーツたちや消耗品が並ぶ棚。
ほんと、立派な作業場になりました。
「へえ! これは凄いんじゃないかな?」
「おお、これが前に言ってたなんちゃってレジン作品か。すげえじゃんまじで」
二人に見せたのはグレイセル様に一番に見せた試作品の四種のコースター。
庭先に咲いていた花を押し花にして、花びらをちりばめたもの。コースターにサイズを合わせて編んだカギ編みの繊細なレースが入ってるもの。アクセサリー作りに便利な小さな金属製の蝶と花の、糸や金具を取り付けるための通し穴をニッパーで切断したものを散りばめたもの。合わせ技で押し花の花びらと金属パーツの蝶をワンポイントで入れたもの。この試作品四種もこの作業場で作ったのよ。
そして今は固まって丁寧に梱包されるのを待つだけの、侯爵家のための改めてパーツなどを新調してから作成したコースターがずらりと並べられている。
あの日あのあと大変だった……。
グレイセル様に、これ一歩間違ったら誘拐ですよ? ってツッコミ入れたくなることされた。
いきなり私のことを小脇に荷物みたいに抱えて飛び出して、馬車に乗せられたわけ。で、そのまま侯爵家直行。フィンとライアスに何も言わず出て来てしまって、侯爵家から使いを出してもらったわ。
そこからも大変よ。
歓喜と言っていいものか。侯爵家の人々がグレイセル様を除いて皆変なテンションでコースターを見て喜んでね。貴族ってもっとこう、したたかに優雅に笑うものじゃない? って勝手な妄想を見事に砕かれた私。
「素晴らしいわ! なんてこと! これ程感動したのはいつぶりかしらぁ!」
って侯爵夫人が感動して悶えてる姿はちょっと貴重なものを見れたなぁなんて思いはしたけども。
スライム様の疑似レジン、想像以上に優れものだったのよ。
何も入れないで固めてみたんだけど、透明度はガラスと遜色なく、無色透明。多少の色は覚悟してたから、凄くうれしかった。
一緒にこの世界に転移してきたパーツにも問題なく使えた。元は生き物だからね、魔物というファンタジーものですよ。変な化学反応とか起きたらどうしようってびくびくしながらやりました。冗談抜きで結構腰引けてたから。
それと、結構相性がはっきりしてたのは驚いた。
金属や木製、あと紙類はムラも出ずにしっかり接着されるの。下手な接着より優れものだと思う。でもガラスだけは全くダメだった。テフロン加工の物ってセロハンテープとかくっ付かないんだけど、あんな感じ。だからって硬化したあとのスライムの表面はテフロン加工のような手触りになるわけじゃないのに、ガラスの器に固めると何もしなくてもひっくり返すだけでポコンとはずれて落ちるんだから、不思議。さすが異世界モノ。
それと、実際に使ってみると液状の時はレジンより水っぽいことがわかった。レジンだと型にうまく流し込めばこんもりと表面が丸みを帯びるけど、スライム疑似レジンはそれがちょっと難しい。出来たとしてもちょっとした振動で流れてしまう。丸みをつけたかったら硬化したあとに重ねるしかないから今後練習していく必要はある。あとはガラス製の型とかも検討していかないとね。
それでも、それらの性質のお陰でコースターは最初に考えてたものよりずっと幅広いデザインが可能になったから良かった。
提案していたのは、金属製の縁のある台座にパーツを入れて疑似レジンで固める方法。元いた世界ではアクセサリーとかストラップとして主流だった物を大きくした感じだね。
でもガラスと相性が悪いって判明してから、すぐにグレイセル様に取り次いでもらって用意してもらったのが品質のいいガラス板。
こちらのガラスは地球のものに比べて品質が劣るものが圧倒的に多い。薄くて凹凸のないワイングラスは高級品。庶民の家にあるガラス窓やガラスの器は表面に凹凸があるし、気泡が入ってるのが当たり前。
でも、侯爵家の窓は地球で当然のように溢れていたガラス窓と遜色なくて驚いたことを思い出した。
届けられたガラス板の上に、金属の丸型をライアスに作ってもらったのでそれを置いて製作することにした。まずは固定と流れ出るのを防止するために薄く伸ばした擬似レジンに丸型を並べる。硬化したのを確認したらレースや花びら、パーツをいれて、そこに気泡が入らないように流し込んで待つこと数時間。持ち上げてみると、薄い擬似レジンに連なる丸型たちがとても気持ちよくガラス板から剥がれた。
ガラス以外はくっつくと外すのに苦労するから刃物の登場です。小刀のような加工用刃を丸型とその外側の余分な薄い擬似レジンとの境目に当ててハンマーで叩くとレジンが薄いから簡単に刃がめり込んでパキリと割れる。結構強めにやっても周囲までひび割れることがなく大丈夫そうだから、思いきって切断していく。これだけの衝撃があってもガラスのように全面がパリっと割れたり砕けたりしないと分かったときはうれしかった。そうと分かれば仕事は速い。躊躇いなく全部外しました。
刃物で切り落とせる柔らかさがあれば、作品の幅は広がるでしょ?
研磨機なんてものは宝石を磨くもので高価な機械っていうから円形にするにはとても手間がかかるけど、直線の四角、六角なんかはわりと手間をかけずに出来そうだよね。ヤスリさえうまく活用すればいいものが作れそう。
それに、表面を削って白く粉を吹いたようになったところは筆で手早く擬似レジンを薄く塗れば細かい凹凸が無くなるから綺麗に無色透明に戻ってくれる。
量産は難しいけど、やり方は工夫しだいだと思うのでじっくり色々試したい。
そんな手間隙かけて試行錯誤して出来た四種のコースターだからね。
確かにそれなりに自信はあったの。この世界では透明のものになにかを閉じ込めるとなるとガラスしかないから素材は本当に限られてたわけで。
そこへこのスライム様が登場です。レジンのような扱いが出来るスライム様。
自分でもこの手法はこの世界で画期的なものになると確信してた。
喜んでもらえるだろうって。
それが、想像を上回る喜びだったので嬉しい反面ちょっと引いた。
そういうわけ。




