表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
『ハンドメイド・ジュリ』は今日も大変賑やかです 〜元OLはものづくりで異世界を生き延びます!〜  作者: 斎藤 はるき


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

128/637

10 * 小金持ちババアVS小金持ちジジイ

お待たせ致しました!!


読者様御提案作品の登場です。


改めて御協力頂きました皆様に感謝申し上げます。

 アベルさんから後日正式な謝罪が記された手紙が魔導具で転送されてきて。

「本日休みなので買いにきました!! そして妻と娘です!! どうぞ!!」

 と翌朝朝一で一番客として三人で素晴らしい笑顔で入ってきて。もちろん、昼休憩にモフモフ、モフモフ……不気味な笑いが止まらない時間を過ごさせてもらい。

「本日昼過ぎからの勤めなので買いにきました!」

 と四日後再び現れて。ああ、この人間違いなく常連になるなぁ、簡単に転移してくるよなぁ、近所に住んでるみたいになってきたわ、なんて思いながら数日を過ごして。

 平和だわぁ、なんて暢気な雰囲気に浸ってたんだけど。


 常々お世話になっているククマットやその周辺の職人さんたちとは顔を合わせる機会が多くて顔馴染みも増えた。何か頼み事や提案があると私から会いに行って、その後は私が忙しいだろうって皆気を使って来てくれるとっても優しい人たちでホント助かってる。

 今日も二人、ライアスとも親しい金物職人さんであるマロウさんとそのお弟子さんのタルツァさんがあるものの試作を持ってきてくれて、早速現物を見せてもらい打ち合わせ。

 打ち合わせ、なんだけど……。

 なんだ、この険悪な雰囲気。平和はどこに行っちゃった。

 私の隣にはメルサとナオが座っていて、何故かマロウさんとタルツァさんと視線を合わせる度に睨み合う。バチバチと本物の火花が飛んできそう。

「あのぉ? ちょっとストップ。気になるんだけど、喧嘩でもしたの?」


 この、その場の雰囲気をなんとか修正したいと思っての発言に非常に後悔しました。


「いつまで試作をしてるんだい!」

 と、メルサ。

「全くだよ、ライアスなんてすぐに作れたっていうのに」

 と、ナオ。

「うるせえ! いままで無かったものを作るってのは大変なんだぞ!」

 と、マロウさん。

「こっちの苦労も察して欲しいですね!」

 と、タルツァさん。

 そこから、おばちゃん二人とおっさん二人の言葉の応酬が。激戦が。

 書類を抱えて入ってきたグレイはそれを見て無言で一階に戻って行った。逃げたわ。


 彼らの話は、今開発中のまさに目の前にあるものでこんな状況になっていることが発覚。


 なぜ、喧嘩に発展する。


 先日、召喚された時に一緒にこっちに飛ばされた物が並ぶ家の作業部屋の棚を見て、ライアスが手にしたものがある。


それが『がま口』。


私のがま口は印鑑や通帳が入れられるちょっと横長の作りで、私はそれを半端な数になったTピンや丸カンなどを小分けの袋にいれて保管するものとして使っていた。あの召喚された日はちょうど大量買いした直後でそのがま口も中身を確認しようと出していたから一緒に飛ばされてたのよ。

 ライアスがその形と開け方を知ってかなり興味を抱いて、それなら作ってよ、とお願いしたら。恩恵と本人の実力でたった一回の試作で良い感じの留め具合のがま口の本体とも言うべき『口金』ができたのよね!!


 あ、これは売れると。


 即決 (笑)。


 当然そうなるとライアス一人では無理な話で、量産なんて出来るわけがない。

 ということで、マロウさんの工房に相談に行ったらそこにエリーナさんといううちで働いている主婦と遭遇。マロウさん一家と家族ぐるみの付き合いがあってたまたまお茶しに来ていたのよ。そしてそのエリーナさんが発端と言えば発端なのかな? 私とライアスが何やら作ろうとしていることが翌日には 《ハンドメイド・ジュリ》と 《レースのフィン》、そして何故か領民講座の講師たちの間に広まってて。


 お金を入れるものはこの世界では硬貨袋と呼ばれる丈夫な布で二本の紐が通してある縛って使うものしかない。

 お金は硬貨しかないからお財布が進化しなかったのかなと推測は出来る。

 だからライアスは衝撃を受けたんだよね、がま口は勿論、地球ではお金を入れるお財布というものが多種多様に存在してること。

 そして何より、このがま口はお金を入れるだけでなく使い道が多岐に渡ること。それがライアスの職人魂に火をつけて、ちゃっちゃと作り上げる迄に至った。これは素晴らしいこと。ホント尊敬するわ。


 しかし。


 それよりある意味尊敬するのは女の情報網と伝達の速さ、そして集団の怖さ。


 メルサとナオは女性代表でここにいると宣言してました。

 さっさと量産できる体制を整えろと無理を仰るのです。

 職人相手に喧嘩上等の姿勢が怖いです。

 いや、その前にどうしてあなたたちはそんなに圧が凄いのでしょう。


「そりゃあんた、儲けの匂いがするからだよ!」

 ナオ、身を乗り出さなくていいから。

「布商品でも儲けようじゃないか! 新規顧客の開拓さ!」

 はいはい、メルサ落ち着いて。

「小金持ち物ババアへの近道はないんだ!」

 わかったから、ナオも落ち着いて。

「そうだよ小金持ちババアになるには儲けるしかないんだからね!」

 メルサ、声がいつもより通るね。


「とっくにババアじゃないですか」


 あ。

 タルツァさん、火に油を……。











 あの二人の猛攻に負けないマロウさんとタルツァさん凄いなと感心しつつ、今回の試作が良い具合のものばかりだったので早速数は指定せず出来る限り作ってもらう契約が出来たのでその感謝もしつつ。

「今までのものと食い付きが違うのはなんでだろうか?」

「使ってみると分かるわよ」

 ローツさんは女性陣の食い付きが凄いことに首を傾げたから、私はライアスが既に完成させていたがま口の金属部分に自分好みの布で完成品に仕上げたがま口を渡す。

「一行程で開けられるのよ」

「……あ、なるほど」

 開けたローツさんは納得した顔をする。

「硬貨袋は紐をほどいて口を開ける、二行程だけど、その違いは大きいよね」

 パチン! と心地よいがま口の閉まる音、いい音だよね。

「それとね、皆はおそらく硬貨袋だけじゃなく、他の用途を考えてるよ?」

「そうなのか?」

「メルサが言うには、肩掛けのバッグをこれで作ったらいいって。子持ちのお母さんたちは重宝するはずって」

「そうか、そういうことか」

 グレイは『肩掛け』で理解してくれた。硬貨袋のように紐で縛る物は両手を必要とする。ボタンで留めるものも物によっては片手では難しいものもあるし、デザインによっては必ず両手を使う。背負うものは咄嗟に物を取り出したいときでもまず降ろすという手間が掛かる。なら、開ける手間をなくした口が開いたものならばと思うけれどそれだと防犯上問題が。

 小さな子連れの親にしてみれば、カバン一つ開ける手間でも時として負担になることもある。

 それが肩掛け、ショルダーバッグでしかも片手で出来たなら?

 片方の手は子供と手を繋いでいても開けられたら?

「ま、それは建前で新しいものを作って自分が欲しい気持ちが先行してるだろうけど、『子供が小さかった時に欲しかった』という言葉は彼女たちの本心だと思うよ」


 今回マロウさんの工房にお願いしたのは小銭入れに適した小さめのもの、幅十八センチの大きめの二種類。鞄にしたいのでもっと大きいものをと女性陣からせがまれたけどこれ以上大きいのはマロウさんはもう少し試作の時間が欲しいというので後回し。歪みなどが出やすくなるので強度を保つため素材から見直したいとのこと。もう一人懇意にしている金物職人のマレートさんにもお願いしたのでそちらと相談をしながら進めてくれるらしい。

 そして。


「革もいいよね、十二から十五センチくらいの口を使って縦長にして。 ほら、腰に着けて道具を入れるやつとか」

「ああ、シザーバッグのこと?」

「そうそれ。あれって普通口塞がれてないけど、細かいものとか軽いものを入れる人は開閉出来たら便利だし普段使いするならそのまま硬貨袋にも出来るよね?」

「私がいた世界では実際そういう用途にデザインされたものもかなりあったわよ」

「あ、やっぱり。そんな気がしたのよ。うちの旦那バッグ持つの面倒に思う人でさ、硬貨とかポケットに直接入れちゃうんだよね。だから腰に付けられて手が空く、開閉できるのは男ウケが良さそうだけど?」

 というキリアの発言が、嵐を呼んでしまった。

「欲しい」

 まずライアスが真顔で。

「それいいな」

 ローツさんがニコニコと。

「あのー、『がまぐち:革ばーじょん』っていうのを作るって聞きました!」

 何故かカイくんがとびきりの笑顔で。

「ジュリさん、新しく腰に下げられる物入れ作るって聞いたんだけど」

 ゲイルさんがソワソワしながら。

「革製の新作を作るというのは本当ですか?」

 あれぇ、普段は物腰柔らかいエリオンさんまでなんだか前のめり。

「濃い色だけではなく、明るい色合いもあるといいな」

グレイ、まだ作るとは言ってないけど?


「急に押し掛けてくるんじゃないよ!!」

 小金持ちババア改め、間違いなく金持ちババアになったフィンがキレた。

「なんか、ごめん」

 微妙な顔して目を反らしたキリア。

「「「「「「金ならある」」」」」」

 男達がフィンの怒りにもろともせずきっぱり真顔で言い切った。

 ……小金持ちジジイ候補、そしてホントに小金持ちジジイ、既に金持ちが。遠慮しなくなったな。良いことなんだけど、変に気前よくなって出し惜しみしなくなったから厄介。

 そして。


「ん?」

 手紙などを転送できる魔導具は、このククマットだとクノーマス侯爵家、グレイの屋敷、ローツさんの屋敷、そして冒険者・民事ギルドの五ヶ所。

 私宛は一度侯爵家で内容が確認されてから手元に届くんだけど、今日はやたらと多い。嫌な予感。

「お前たちもか!!」

 叫んだよ、つい。

 ローツさんの実家に始まり、ルリアナ様の実家の伯爵家、シルフィ様の実家の豪商家、御隠居のナグレイズ家、螺鈿もどき細工で共同開発をしている貴族の二家は勿論、フォンロン、ロビエラムの王家の紋章入の手紙もある。しかも地味に怖いのがあの厄介な大首長が治める国の紋章も。他にも侯爵家の人々の知人たちまであるんだけど。


 ―――新しい皮製品の開発が進んでいると聞きました。お金は惜しみませんので是非ともいち早く手に入れたいです―――


 どいつもこいつも!!

「ええぃ! こっちが忙しいの知っててこんな手紙寄越すとはいい度胸してるじゃん?! こうなったらやってやるわ!!」

「えっ、本気?!」

「こいつら全員定価の三倍で売り付ける!」

「ぼったくり!!」

「ぼったくり結構、金ならあるって言ってるんだから無茶を聞いてやる手数料としてもらってやる」

「適正価格と平等はどこにいったの」

「時と場合によることにするわ。そう、これからは私の平和なハンドメイド生活のためにぼったくりも時には正義になる」

「……やっぱり、なんかごめん」

 キリアがまた微妙な顔をしたわ。


 しかしこの情報の広まる速さは一体なんなの。スパイ? やっぱりスパイが情報を拾って主たちに届けてる? だとしたら凄い。凄いけど、まだデザインも出来ていないのに伝えるのは止めて欲しい。ほらぁ、『もう作るだけだろ?!』って顔した男達が。鬱陶しい。













 男達の反応から冷静に状況判断をすると、なるほど納得。

 男性物って未だに一辺倒なんだよね。

 うちで販売しているリザード様の鱗を使ったカフスボタンや濃い色の天然石を使った男性用アクセサリーが種類が少ないにも関わらず毎日毎日並べるだけ売れるのは、それだけ世の中に出回ってないんだよね、男性のおしゃれに繋がるものが。

 富裕層は良いよね、オーダーメイド出来るし、最新の物を簡単に手に入れられるから。

 でも一般人はそうはいかない。だからうちの店の商品は売れるの。他ではまだまだ手に入らないデザインでありながら比較的低価格設定だから。


 皮製品の男性物の一辺倒さは普段から目にしている。

 あのね、うちの店で出してるストラップや金具がしっかりしているキーホルダーの、カラフルで可愛い食べたくなるシリーズ (スイーツデコ)が男性によく売れる。

 理由は二つ。

 一つは恋人、妻、家族の女性たちへのお土産として。

 もう一つがなんと。

 自分の荷物に付けて目印にするため。特に冒険者や土木事業関連の労働者さんに人気。うちの食べたくなるシリーズはとても目立つので荷物の見分けがしやすいというのよ。

 それだけ、リュックやショルダーや手提げなど、男性物は似たり寄ったりの物が溢れていて、選択肢が乏しい。

 そういうことで、がま口で革を使った男性も使える丈夫な物の製作も決定。


「こっちは頑張って量産してんだ!! 革製のがま口も作れや!」

「あぁっ?! なんであんたらのものを優先しなきゃならないんだい! 絹を贅沢に使ったシャレオツなのが先だよ!」

「売れるから作ってくれてもいいだろ?! 半分革製にしてくれよ! 新しい男性小物、絶対売れるって!」

「そんなの後だよ後! 可愛い柄の硬貨入れの方が売れるよ!」


 ちょっ……またですか。

 様々な年齢が入り乱れ女VS男……いや、小金持ちババアVS小金持ちジジイたちの喧嘩。

「金ならあるって言っただろうが! そこらのケチな野郎とは違うんだよ!」

「はん! 金で釣られるほど安くないね! はした金に興味はない!」

 うわ、生々しいやり取りだ (笑)。


 というわけで、ここ最近こうして毎日喧嘩。

 ククマットの人達って、こんなだったっけ?

 まあいいや。

 「あ、うるさいから喧嘩なら外でね。はいさっさと工房から出てって」

「……軽々しくあしらえるあんたを尊敬するわ」

 キリア、あの人たちを宥めるのが面倒なだけだからね。


 それと、デリア。『シャレオツ』って私が以前ふざけて使った言葉。意味を聞いてきたから教えたけど、それ使わないで。なんかすっごく恥ずかしい。

今回、『にぃな』様から御提案の『がま口』採用させて頂きました。


採用させて頂いた理由は複数あり、それを全てここで述べることは遠慮させて頂きますが、一つ言えるのはククマットの物を作り出す人たちと富裕層も巻き込んで大騒ぎさせられる、という構想がしやすかった事があります。


ジュリの個人プレイが目立つ話のなかで、いつもは巻き込む側なのに気づいたら収拾するのが面倒になる騒ぎになってしまう話は執筆していて作者も楽しめました。


という事で、『がま口』のお話、引き続きお楽しみ下さい。あと二話更新予定です。






評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
 がま口の金属部分て、小さな引き出しとかにも使ってるよな、日本だと。
[一言] 食べたくなるシリーズで思い出したけど、この世界って食品サンプルとか出したらすごそう。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ