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『ハンドメイド・ジュリ』は今日も大変賑やかです 〜元OLはものづくりで異世界を生き延びます!〜  作者: 斎藤 はるき


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10 * 小雨の降る日の大惨事

新キャラ登場です。


 


 この世界に来て気分がアガる、興奮する出来事に遭遇することは多々あったけど、中でもそれを初めて見たとき硬直して、そして数秒後に二度見した最たる衝撃を与えたものがまず魔法。これは今でも慣れない。私魔力ないから手品にしか見えない (笑)。

 そして。

「お、珍しい。『ハーフ』がいるな」

 と、誰かの言葉に私が勢い良く振り向く、気分がアガる理由が。


『ハーフ』。

 私が生まれ育った地球、というか日本だと、日本人と他の国の人の間に生まれた場合をハーフと呼ぶ、ていう認識で私はいる。

 でもこっちはちがう。そういう人たちをハーフと呼ぶことはない。

 では、何をハーフと呼ぶのか?


 獣人。

 私の知識をまとめると、そうなる。


 そう。

 リアルモフモフ人がいらっしゃる!!


 これは驚いた。ホントに驚いた。

 このベイフェルア国はその人口は皆無に等しい。獣人ことハーフは大陸西部や北部に極端に偏り住んでいて、その理由は今回は省くけど、とにかく彼らはこの世界の住人として当たり前に存在していてほとんどの国で『人間』とされている。この国は違うけどね。

 ハルトいわく、地球のようにもし種を詳細に区分するとしたら『人間科の獣人属』とかそんな表現になるのではないか? という確かに人間という括りにされるそう。そこにはまだ出会った事のないエルフや人魚も含まれるとのこと。いつか会いたいわ。

 余談になるけど、他には妖精や精霊という存在もいて、それらは人間ではなく『精位体』と呼ばれて別の存在に分類されるとのこと。そしてあくまでも個人の考察だけど、としてマイケルが言っていたのは、【彼方からの使い】も『精位体』に分類されるはずと。なにせ私たちは神さまによって召喚された存在、神さまの干渉をモロに受けていることがはっきりしている。ネルビア首長国が【彼方からの使い】を崇拝する背景にその事が少なからずあるんじゃないかと。逆にベイフェルアは場合によって物扱いするのも『人間として見なしていない』という根底にある価値観に類似性があるからじゃないかってね。

 なんとも、極端な例だけど。


 で、話は戻って。

 私がはじめて見たのは『猫属性』。こちらではそういう言い方が一般的らしい。

 パッと見、人間。全身毛深いとかそういうこともない。違いは。

 耳と尻尾。あれは長毛種のメインクーンとかノルウェージャンフォレストキャット系だった。あ、私は、猫派です。実家には猫が三匹おりました。帰省すると顔を埋めて匂いを嗅ぐのが習わし? でしたから!


 ……これがかわいかった。

 ピコピコ動く耳、フワンフワンと歩くに合わせて揺れる尻尾。顔を埋め、匂いを嗅ぎたい衝動に襲われた。ヤバい人になりかけた。

『外見で人を蕩けさせるもの』に認定されても私は文句言わないよ。それくらいの破壊力があった。

 でもこの国はその人口がほぼ皆無だし、特に海岸線、東端に位置するクノーマス領で見かけることは稀。

 ここに来て結構なるけど実際私が見たことがあるのは二回だけ。トミレアの港で船に乗り込む所を見かけただけよ。

 ああ、切ないわ。もっとあのモフモフを見せて。











 ある日。

 お店も閉店時間になり、今日のシフトで午後の店頭担当として入ってくれていた友人のスレインと他の女性二人、そしてお店の前で交通整理を兼ねて警備をしてくれる自警団の若者二人に私を入れた計六人。今日は天気も良くなくて悪化しても困るからと作品作りは早めに切り上げることになっていたからすでにキリアや製作補助の人たちは帰っている。

 最後のお客さんをお見送りして、さて、周囲を確認して扉に鍵を、と思ったら。

 人影が。スッと現れた人影。扉を閉める前にはいなかったはずの人影に、自警団の若者二人が警戒して、私を下がらせて前に立つ。

「なんだ? こいつ」

「気付かなかったな」

 そう、確かに周囲にいなかった。ギリギリで走って来てくれるお客さんもたまにいて、そういう人はなるべく入ってもらうようにしているから、私と自警団の二人が最後にそんな雰囲気を出して走ってくる人がいないか確認して『本日閉店』の札を下げて中に入るのがいつもの流れだけど、今日はそんな気配がなかった。朝から小雨の降る、しかも風も少し吹く天候午後になって雨粒が大きくなってきて、市場全体が寂しく感じた日。外を歩く人は(まば)らな、確認がとてもしやすい日。

 それなのに、扉を閉めた瞬間現れた人影。


『転移』しかない。

 直感でそう思って、私も警戒した。


 魔力の多い、その扱いに長けた人の中には一瞬で目的の場所に移動できる『転移』が出来る人がいる。ハルトやマイケルがそう。彼らは国の一つや二つ、簡単にその『転移』で移動出来てしまう。ケイティとグレイも実は短い距離なら出来るし、よくお世話になってるけど、知り合いに複数人も『転移』出来る人がいることは珍しい、と言われる程にはこの国では高度な魔力操作を必要とするもの。私には一生縁のないものだけど。

 そしてもし、この『転移』を使ってここに来たのなら警戒しなければならない。それは『魔力がかなり多い』ことを示し、さらには私の回りを警戒してくれているグレイやローツさんが直ぐ様対応できない可能性があるから。そういう人物が、人目を避けて、転移してくるならそれなりの理由、しかも私にはあまり宜しくない理由を念頭に置いておけとハルトに出会って直ぐのころに忠告されている。


 当時は、魔力のない私が魔法で拘束される可能性を案じての忠告だった。でも今その状況はガラリと変わった。

【選択の自由】がある。

 些細でも悪意や負の感情を含んだ人が私に魔法をかけようとしたら、危害を加えようとしたら、【選択の自由】が発動する。ハルトは最近そっちを警戒しろと言ってきた。【隠密】レイビスの話は最近、一部の国の中枢にももたらされてはいるけれど、それが正しく詳細に伝わっているわけではないらしいのよ。だから私の【選択の自由】は都市伝説的な扱いになっているようで、信憑性がないと断じる所もあるみたい。

 そんな国が何らかの悪意を含んだ理由で私に接触してみなさいよ、発動するでしょ。

 そしてその国と私は揉めるでしょ。『聞いてない!』とかイチャモン付けられそう。それならまだマシ? ヘタすれば私のその【神の守護】がどういうものか調べて利用出来ないかと近づいてくる可能性だってある。


 それ絶対嫌でしょ!

 国が絡むとかマジで迷惑!、

 私には不可抗力!

 しかも理不尽!


 断固拒否!!


「ジュリさん、グレイセル様は?」

「今侯爵家に行ってる」

「げ、まじすか?!」

「ヤバい、転移なんてするやつ相手に出来ねえっすよ俺ら」

 その時。

「おい、なんでこんな事になってんだよ?!」

 びっくりした!!

 あ、ハルト。転移して来てくれたみたい。後ろに突如現れて心臓飛び出ると思ったけど。

 転移には多量の魔力が必要なので、魔力の流れを感知しやすいらしくハルトはすぐに気づくと言ってたわ、そういえば。というかあんたはどこにいてそれを察知した? やっぱりチートだわ。

 そして。

「ハルトか。済まない気付くのが遅れた。それと助かる。強力な魔導師となると私では対応仕切れない可能性もある」

 グレイが間を置かず工房から姿を現した。彼も察知して転移してきてくれたんだね。

 グレイの姿を確認できただけで、私は少し冷静さを取り戻せた。この人は私の精神安定剤。なくてはならない人よ。


 自警団の二人も一気に安堵しつつ、なんだなんだと不安げに工房から顔を出すスレイン達の近くまで下がる。

 そして直ぐ様グレイとハルトが扉の前に立ち二人共に剣を携えていて、手をかけている。それを見た瞬間、これが普通の世界なのだと、防衛のために人を殺めることが許されているのが常識なのだと改めて思い知らされて足がすくんでしまった。

 そしてその世界で生きていく私には、もう他人事、物語の世界、そんな言葉では済まされないことになったのだと。

 無力な私には無縁の力。それを今目の前で見ることになるかもしれないと思うけれど、心はそれを拒絶している。


 こわい。


「ジュリ? 大丈夫?」

 気付かなかった。

 手が小刻みに震えていて、唇を知らず知らず噛んで。スレインが手を握ってくれて、グレイとハルトが振り向いた。

「すまないハルト、頼む」

「ああ、任せろ。お前はジュリの側にいてやれ」

 剣から手を離したグレイは足早に私のところへ来てくれた。スレインが私の手を離すと、その震える手をグレイは握って、そして持ち上げて優しく指にキスをしてくれた。

「大丈夫だ、何があっても守る」

 優しい声と視線。指から伝わるよく知る体温。その心地よさに、顔のこわばりが緩むのを感じる。

「……うん」

 スウッと、震えが引いて、唇を噛む歯が緩んで、私は頷き扉を見据えた。うん、大丈夫。この人がいてくれるから。何が起きても受け止める。それがこの世界で生きるための条件だというのなら。背筋を伸ばし、グレイの隣に立てば、彼は優しく手を撫でてくれた。

 よし、ドンと来い!

 いや、嘘です。なるべく穏便に。


 私の隣に立ったグレイの後ろ、不安げなスレイン達がグレイ越しにハルトの背中を見つめる。

 私とグレイが並び立ち、スレインたちがその後ろにいることを確認してハルトが扉に向かって、正確にはさっきから微動だにしない人影に向かって問いかける。

 窓ガラスに映る人影がちょっと怖く感じるのは、扉の向こうにいるその人が濃い灰色のフードを目深に被っているからだ。

「何の用だ。閉店後を狙って転移してくるなんて穏やかなことじゃないな。【彼方からの使い】が経営している店と知っての行動か? クノーマス侯爵家の保護があると知っての行動か? 返答次第では即刻切るぞ、その首を誰に送りつければいいか言え。クソッタレ、ご丁寧に認識阻害魔法なんて纏いやがって。さっさと解除しろ」

「……心から非礼を詫びます。しかし、この行いにも深い事情があるゆえ、何とぞお許しくださいませんか、【英雄剣士】ハルト様。決して悪意はございません、害を及ぼすなど無論のこと。主がそのような無礼と蛮行をお許しになるはずもなく、そして私もそのような事を望むことはありません。立場上姿を不用意に晒すなとの主からの命令もありますので。ハルト様ならば阻害魔法を突破することも簡単なことでしょう、しかしそれは御遠慮いただきたいのです」

「だったらさっさと名乗れ、偽名や二つ名は必要ない、本名だ」

 緊迫した空気に、私たちは息を飲む。


「ありがとうございます。そしてお久しぶりでございますハルト様。バミス法国枢機卿、アベル・ミシュレイにございます」

「は? えっ?! アベル?!」

 ハルトの声がひっくり返った。


 そしてわずか三秒の間に色々な大惨事が起きた。


 扉を勢い良く開けたハルト。当然その前に立ってた人影にヒットするわけで。しかも【英雄剣士】、臨戦態勢に入ってたもんだからその威力たるや想像を絶するもので、ドン!!! っという鈍く重く大きな音と共にその人影が斜めお向かいさんのお茶屋さんの壁に飛ばされ衝突。それとほぼ同時に扉が蝶番の限界を超えて開かれて壁にぶち当たって、当たった側の窓ガラスと扉のガラスが【英雄剣士】の繰り出したエネルギーによる風圧と振動でもって物凄く甲高い割れる効果音と共に粉砕されまして。と、同時に窓辺に並べてた商品がその勢いでガチャガチャガッシャー!! と散乱しまして。そして扉がドゴン!!と、ひしゃげて外れて道端に倒れたんですよ……。


 大惨事。


 私と後ろの五人が悲鳴を上げたのは当然でしょ。

 グレイは頭抱えてる。

「……なんでこんなことに」

 いやいやいや! そこ落ち着いてる場合じゃないからね!!

「えええ! えええええええ!! なんなの?!なんなのよこの大惨事は!!」

「あは、ごめーん」

 笑い事じゃないハルト!

 しかもあんたの知り合いっぽいし?! その人お茶屋さんの壁にもたれたままピクリとも動かないし?! 何事かとお茶屋さんだけじゃなく近隣が外に出て来てるし?!


 嫌だぁぁぁぁ!!!

 どうしてこうなったぁ!!!


 騒ぎを聞いて駆けつけた研修棟にいたライアス。滅茶苦茶になった片方のショーウインドウと散乱したガラスと商品、そしてそれに巻き込まれた店内の一部の棚、どうしたらそんなにひしゃげるのかと問いたくなる無残な姿と成り果てた扉、そして一部が崩れ、陥没し、ヒビ入りまくりの外壁を見て失神しそうになってた。

 私は、本気で失神して倒れたいと思ったよ。

 見なかったことにシタイデス。


 あぁ……なんでこうなったの。


 殺生ごとにならなかっただけマシ?


 これが、マシ?


 んなバカな!!

登場したけど、人物像がいまいちはっきりしなくて申し訳ないです。

次話でわかると思います。




そして先日ブックマーク登録が1000件に到達しました。

連載を始めた頃、正直こういったことを意識もせず、好き勝手書ければいいや、くらいの気持ちでした。

でも最近、数が増えていくにつれ、読んでくださる人が確実に増えている実感が出来るようになり、それも執筆の糧になっていきました。

地味に確実に更新を続けて、登録してくださった方はもちろん、読んでくださる全ての人に読み続けたいと思えるものを書けるよう努力していきますのでこれからもよろしくお願いし致します。


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― 新着の感想 ―
[気になる点] そういえば、スライム様を板状に固めたらガラス代わりに使えないんだろうか? [一言] 宗教はめんどくさい予感しかしない( ˘ω˘ )
[一言] ガラスの後始末は当然ハルトにやってもらわないと(笑)
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