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『ハンドメイド・ジュリ』は今日も大変賑やかです 〜元OLはものづくりで異世界を生き延びます!〜  作者: 斎藤 はるき


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ハロウィーンスペシャル ◇ハルト、ハロウィーンを堪能する◇

季節のイベントものになってます。


本編とは連動していない短編扱いでゆるーいお話です。気軽にお読みください。


※次から新章となり区切りも良いのでこの後お休み頂きます。



 日本のハロウィーンと言えば有名なのがあの日本一交通量の多い交差点が歩行者天国になってコスプレした若者が集い、警察が目を光らせ痴漢だ! 喧嘩だ! スリにあった! などの通報に対処しつつ交通整理。もはやハロウィーンの本来の意味がどこにあるのかわからないそんな感じのあのイベント。……俺だけじゃないよね? そう思ってるのは。


 例のごとく。

「ハロウィーンやるよ!!」

 ジュリが手に骨を握りしめて高くかかげて意気揚々と叫んだ。

「お前ね、骨を掲げるのやめろ。怖い」

「これブルさんの骨よ、乾燥剤。今から砕くのよ、在庫少なくなったから」

「ハロウィーンのじゃねえのかよ!!」

 そんなやり取りをする側で超真剣な顔してるのはケイティ。

「どっちの衣装にしようかしら?」

 ……露出度高い。なんだその衣装は。そんなデザインとにらめっこしてるよ。

「ハルトとルフィナも参加ね」

「強制かよ」

「侯爵家のお針子さんたちがはりきってて。コスプレの文化がないから物凄く興味をそそられるんだって」

「なるほど。でもルフィナなら自分で作るぞ?」

「まあね。でもお針子さんたち作りたいらしいから貰うだけ貰ってやって。意欲が凄くて止められなくて。ハロウィーン用に布とか仕入れてるしもう勝手に暴走が始まってるから」

 侯爵家のお針子は何を目指しているんだろう? なんて質問はしない。


「あとね、侯爵家が乗り気。ハロウィーンって元々は季節の変わり目に行うものでしょ。実りに感謝する豊穣祭に合わせて皆で楽しめるものがあるなら是非って」

 なるほど。

「そういえばハロウィーンって俺たちが知ってるイベント要素が強くなったのを取っ払うと結構中身は怖いよな?」

 記憶に間違いなければ、生け贄を捧げる儀式なんだよなぁ。


 古代ケルトの信仰で、一年の始まりは冬の始まりである十一月一日。その前日、つまり十月三十一日は終わりの日に当たる。終わりは始まりとつながっているという意味から祝い事の意味合いが強かったらしい。

 ちょうどその時期は収穫期に重なり、収穫祭の儀式として三十一日の夜から始まったのが起源とかなんとか。

「そんなのどこで聞くのよ?」

「歴史の授業で教師が話してた気がする」

「そんなことまで覚えたの」

 かがり火を焚き、植物、動物の贄を捧げる。太古から火はどこでも神聖なものとして扱われる傾向があった。ケルトも例外ではなくて儀式で使われたかがり火の燃えさしは司祭によって各家庭に配られたのはその燃えさしが悪いものを追い払うと信じられてきたからだ。それを暖炉に入れ、火を灯し、季節の変わり目にやってくるという悪いものを払う。考えようによってはハロウィーンで最も大切なのは儀式とか生け贄よりも火なのかもしれない。

 ちなみにジャックオーランタン。あれ、俺的にはあのカボチャのランタンは火の存在を強調するためにもいい役割を担っている気がしてる。

「ということで、はい」

「ん?!」

「よろしく」

「……まさか」

「まさかも何も見ればわかるでしょ?」

 デカいカボチャが山盛り。グレイの屋敷の一室を占拠してるの気にはなってた。

 なってたよ、俺も。

 でもまさかこれ、全部?

「全部。【スキル】でなんとかなるでしょハルトなら」

「【英雄剣士】の能力をこんな風に使おうとするのお前だけだからな」

「でしょうね」

「マジか」

「マジよ」

「俺一人?!」

「昨日グレイに半分やってもらったわよ」

「はっ?! じゃあこれで残り半分! すげぇな!」

「侯爵家一家から圧力が。あの家でヒエラルキー最下層なので逆らえないのよグレイって。今日もハロウィーンのことで急遽呼び出しくらってね」

「……そういうの聞くとあいつも人の子だなって思う」

「同感しかないわ」

 頑張った。途中でっかいスプーン持ってきたジュリとコスプレが決まったケイティが中の種を出すのをやってくれた。

 しかし、この世界のカボチャはカラフルだな。

 ……美味しそうに見えない。












 ある意味ケイティはぶれない。

「寒さは気合いでなんとかするもの」

 って、己のコスプレに満足しているから寒さは気にならないらしい。あ、マイケルが魔法で寒くならないようにしてやってるのか、そうか。

「似合うね! サキュバス!」

「ありがと。ジュリの魔法使いもかわいいわよ」

 聞いたか? サキュバスだよ。

 その衣装はご想像にお任せする。言えるのは一言。露出が多い。

「マイケルは死神か、結構似合うじゃん」

「そうかい? グレイセルとエイジェリンには負けるよ」

「……あの兄弟はもちろんジュリのプロデュースだよな」

「それ以外ないだろうね」

 クノーマス兄弟は、吸血鬼だ。恐ろしく本格的だ。

「ジュリ、この牙が違和感が凄くて外したいんだが」

「それないと吸血鬼じゃないからね」

「ジュリ、口が……乾く」

「お祭り終わるまで我慢でお願いします」

 あ、取るという選択はジュリの中ではないんだな。頑張れ吸血鬼兄弟。


 ククマット市場はコスプレしたヤツらで賑わっている。俺とグレイが頑張ったジャックオーランタンは市場の至るところに置かれて雰囲気を高めるのに一役買っている。うん、俺いい仕事をしたよ。

 収穫祭に合わせて催すと発表したら、なんでか知らないけど食いついた。みんなが食いついた。ジュリとケイティが提案したコスプレのデザイン画の一例とハロウィーンの説明を掲示板とかギルドで出したら毎日人だかりができたらしい。

 あのさ、一言いい?

 カオス。

 コスプレの見本デザイン画に『結局は何でもアリなので創意工夫で楽しめればオッケー! 魔物とか伝説の生き物とかもいいよね!』とジュリが書いたせいだ。

 魔物を模してるらしいのが多い。多いんだけど。

 真っ黒な細い布でもっさりと全身覆い尽くして、前見えてる? っていうやつとか、たぶんユニコーンだろう角のある馬面の被り物っぽいのを被ってるのに服は奇抜な色の布を巻いてるだけでそれ何? っていうのとか、蛇とか体の長いのを表現したかったんだろうけど、長い布を引きずる衣装ゆえに踏まれる度に転んでるとか、空の酒瓶を紐でくくって頭に乗せて普通の服で歩いててお前は何がしたい!! ってツッコミ入れたくなるのとか。

 怖いよ、これ。

「あははは! なにあれ! ウケる!!」

「コスプレじゃないわね、何かしらねあれは!!」

 ジュリとケイティが笑ってる。笑えるのか、マジか。鋼の心だな。


「それにしても、着ぐるみっぽいの多いな?」

 感想を言ったとたん、睨まれた。

「誰のせいよ」

「あ、もしかして俺?」

 俺も色々考えたわけよ、ゾンビとか、骸骨とか、ジュリみたいに魔法使いとか色々。その中で寒さ対策どうしようかと頭を過って、その時に思い付いたのが着ぐるみ。犬とか猫とかの。それをルフィナに説明して、デザイン画に起こしてもらってアドバイスして、面白いからってルフィナが何着か作った。それを持ち込んだわけ、侯爵家に。俺は他に思い付いたのがあるからこれ着ないし、欲しければルフィナの店で作ってくれるって宣伝したら……。

 一気に三十着注文入っててんてこ舞い。さらに追加しようとするからデザイン画と型紙渡すからそっちで何とかしろって押し付けてやった。

 そしたらその話が広まって、着ぐるみの型紙があるならと皆が真似して、予算的に厳しい奴等は帽子とか服にアレンジ出来るのを急遽ジュリが提案してそれも一気に広まってさ。

 魔物を模した着ぐるみまで見かける。あとは猫耳やしっぽを付けた帽子やズボン。かなりの人数いる。

 まさかここまでとは。

「温かいって評判いいみたいよ、ちなみにルリアナ様がウサギの着ぐるみ風パジャマをお気に召して最近着てるらしい」

「……それ、いいのか? ハロウィーンも関係ねえし? 次期侯爵夫人だろ」

「あれ見て」

「おう、妖精だ」

「そう、妖精。気合い入ってるでしょ」

 ピンクと白のドレスに近いワンピースに、羽を背負ったルリアナが吸血鬼二人と喋ってる。

「あの羽どうやって作ったんだよ?」

「極細の針金を枠にして絹を貼ったのよ。あのキラキラは螺鈿もどき。来年は妖精の羽の半透明な特徴を何とかして表現するって意気込んでたわよ」

「やる気満々だな!!」

 ルリアナが何かの扉を開いた気がする……。


「というあんたも気合い凄いの気のせい?」

「気のせいじゃない」

「俺の衣装はいらないっていうからルフィナが作るのは分かってたけど。それ、分かる人が私だけだからね」

「おう、今日着てきて俺も気づいた。これ誰も知らねえわ! そりゃ『それなに?』って皆に聞かれるっつーの!」

 どうせやるなら本格的に着てみたいのをと思って。そしたら俺を見る人全員、ジュリ以外、首を傾げる。

「それ、何の真似してるの?」

 って。


 海賊王目指す少年の仲間の剣三本持ってる人。マイケル知ってるかな? って期待したらマンガ読まないからわからないって即答された時は地味にショックだったよ。

「こっちの世界でマンガのコスプレしても誉める人がいないからね、気をつけてね」

「お前は誉めてくれ」

「有名なマンガのキャラなら気づいて褒められるけど、知らないのは無理」

 へこたれてしまった。

 来年は別のに……いや、拘るならとことん、だよな。











 普段なら子供なんて見かけない時間。

 市場は親と手を繋ぎ各所に設けられた『ハロウィーン・ポイント』を回る姿が至るところで見られる。

 ククマットに住む十歳以下の子供がいる家庭に配られたのはスタンプラリーの紙。裏にかかれた地図にあるポイントを巡り、『トリックオアトリート!』を言うと紙にスタンプを押してもらえてお菓子も貰える。全部で七つのスタンプを貰えたら中央市場に行って、最後だ。

「トリックオアトリート!」

「はーい、お疲れ様! よく頑張りました!!」

 自警団のコスプレしたおっさんたちが出迎えて、子供とその親に熱々のスープを手渡し、家族で分け合えるようにと小さなクッキーがたくさん入った袋をスタンプラリーの紙と引き換えに渡す。すでに七つのお菓子を手にしている子供は最後に渡された一番大きな袋にびっくりしつつ嬉しそうだ。親も嬉しそうにそんな子供と笑い合う。

 今日は大市とも違う賑わいだ。

 当然だけど貧困層の家庭にも配られたスタンプラリー。必要な経費はジュリと俺とマイケルが出した。

 このククマットにも貧困区画がある。これは簡単には解決出来ない大陸全土の問題の一つ。それでもこのクノーマス領の貧困区画はどの地区もマトモだ。常に掃除がされ、定期的な見回りで家のない路上でそのまま寝るヤツがいれば直ぐに保護されて集団にはなるけど屋根がありベッドで寝られる場所に行く。ゴミ拾い、道端の清掃などを含めた簡単な職を斡旋され、日銭を稼ぐ訓練なども行われる。炊き出しの回数が極端に少ない代わりに、生活の質の向上を目指すサポートに力を入れているクノーマス領ならではだし、そのおかげだ、こういう場にそこで生活する人々も出てこれるのは。


 分け隔てなく、笑い合う人々。


 この環境の中、自分も当たり前の存在になりたいと今回のことをジュリが企画した。


 生まれや生活環境で差別されることをなるべくなくしたい。


 この世界の情勢とか、身分制度とか。それに振り回され気味なジュリならではの発想なのかもしれない。

「良かった、結構来てくれてるよね」

「ああ、そうだな」

「イベントは人を集める力になるから、また来年もしたいなぁ」

「おお、しろしろ。俺は来年ロビエラムでやるよ。こういうイベントなら積極的に広めたいしな」

「楽しいこと増えるといいよね」

「ああ」

 自分を含めた人々が少しでも楽しく、面白く、この世界を生きられたらと思う。

 賑やかで、熱を感じさせる夜だ。

 今回のスタンプラリーに一部の奴等は『偽善者だ』『そんなことをしたら貧困層の奴等が増える』『楽を覚えて働かなくなる』って騒ぎ立てた。

 俺はそれは違う、と断言する。

 年に一回のハロウィーンに参加して働かなくなるだろうか? お菓子を貰えるのは子供だけなのに、大人が働かなくなるだろうか?

 否。

 それで働かなくなる大人はただの阿呆だ。

 救いようのない、愚図だ。

 そんなの、分かってるはずだ。

 だから結局反対した奴等がいいたいのは、ジュリが何か企画するたびに他の賛同者が盛り上がって、客足やら売上やら懐が温まる事に恵まれ、自分達は除け者にされていると思っていることだ。


 ジュリが儲けているのを妬み、頼られているのを妬み、人脈をどんどん広げていることを妬み。

 無い物ねだりの成れの果ての感情だ。

 嫉妬するからジュリを避け、そしてそれを察してジュリは無理に巻き込もうとしない。だから自ずと距離は広がり、ちょっとプライドを抑え込めば転がり込む商機を逃す。それをジュリのせいにする。


 馬鹿馬鹿しい。


「グレイ、あれ、どう思う?」

「どうと聞かれてもな、そもそもあれは、感想を述べにくい」

「多分、なんとなく、漠然と、非常にあいまいだけど」

「ずいぶん控えめな前置きだ」

「そうしないと申し訳ないわよ。……鯉のぼりを着てるのかな?」

「鯉ではなく、あれはシーサーペントのぼりだな。シーサーペントに喰われているのを表現したかったのかもしれないな」

「うん、そうだね、そういうことにしておこう。斬新でよろしい」

 二人はまたも現れた奇抜な仮装になぜか真剣に評価を与えている。


 そんな二人も分かってる。

 全てのククマットの人間が味方ではないことを。

 それでもそれらの存在をなんとかしようと無理に動くことはない。

「そんなの当たり前。自分が正しいって全ての人に意見を押し付けるほど図々しくないよ」

 と、ジュリが言っていた事がある。それをグレイはただ黙して受け入れていた。

「それでいい。だからこそ、いつでも何かをする度に気を引き締めることに繋がる。必要な力だと思えばいいだけだ、問題事になっても私がなんとかするさ」

 グレイがこういう男だから、ジュリも信頼している。誰よりも自分を見ていてくれていると安心して背中を預けている。


 この二人が、この先ククマットを率いてくれるといいなと願う。

 クノーマス侯爵家とは別の力として、ここで二人が成長していくことを望むのは俺だけの我が儘だろうか?


 この二人の底力を見てみたい。

 もっと。


「あーあ」

「なによ?」

「なんか、俺来年もここに来そうな気がする」

「ロビエラムでするんじゃなかったの?」

「んー、まあ、そこは要検討ってことで」

「そう? ところで、ルフィナが『想像力が掻き立てられる!!』って飛び出して行ったきり戻らないけどいいの?」

「ああ、うん、あの状態はある意味無敵だから放置でいいんだ。今ククマットにヤバそうな気配もないし、大丈夫」

「何気にルフィナもちょっとヤバいキャラだよね?」

「ヤバくねえよ!」


 日本にいた頃当たり前だった熱気と喧騒が恋しいと思ったことが何度もある。


 でもここには、それに似たものがある。


 ジュリとグレイ。


 我が道を行くジュリと、それを隣で支え共に歩くグレイ。


 この二人が、チクリと刺さる心のトゲを抜いてくれる。


 うん。


 俺は。


 やっぱりこの二人がいい。


 この熱気と喧騒をこれからもこの土地に起こすために。


 ばか騒ぎして笑って、その日の夜はいい夢を見るために。


 そんな日が来るのをひっそり願う。












「なぁ、なんで頭に物を乗せてるヤツが結構いるんだろうな?」

「たぶん『被り物』ってのを誤解してると思うのよね」

「『被り物』と『なんでもアリ』が融合し行き着いた結果ではないか?」

「確かにな。ある意味正しい解釈」

「『なんでもアリ』の可能性を感じたわね」

「あれらに可能性を見い出さないで欲しいんだが」

 こんなシュールな会話をしつつ、こっちの世界の初ハロウィーン。


 楽しかったよ。


 ルフィナが戻って来ない。

 明日店普通に開けるだろ? そろそろ帰るぞ。楽しいことはズルズル引きずらないのがいいんだ、名残惜しいくらいがちょうどいい。


来年も楽しもうな、ハロウィーン。


※次回更新は11月10日を予定しています。

それまで暫くお待ち下さい。

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― 新着の感想 ―
[良い点]  いつか侯爵家のお針子さん達に、型紙やリメイクの恩恵付かないかなーと妄想しています。発現しても身内以外には内緒にしそうですけど(笑)  幼児向けのお遊戯会やハロウィン衣装の本を読むのが本当…
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