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『ハンドメイド・ジュリ』は今日も大変賑やかです 〜元OLはものづくりで異世界を生き延びます!〜  作者: 斎藤 はるき


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9 * 駄々漏れだった

先日お知らせしましたが『読者様提案作品募集』なるものを期間限定で行っています。詳細は前頁にありますので御興味ある方はご覧頂き、ぜひご参加くださいませ。


こちらは本編の更新です。

 《レースのフィン》のプレオープンは特に目立ったトラブルもなく無事終えた。

 ご隠居からのありがたい御言葉はもちろん、いろんな人たちから開店祝いと今後に期待する言葉をもらい、益々やる気になった私。


 しかしまぁ、プレオープンの招待客に限り、購入制限を通常の五点から大物は三点、ほかのサイズは十点の計十三点まで購入可能に特別に引き上げたから皆限界まで買ってくれてありがたい反面、売れた品物一覧が書かれたノートを見せられて、商品足りなくなるんじゃないですか? という不安が。


 しかし。

 フィンを筆頭に皆が余裕な顔。

 入場制限なく、一般販売が開始される四日目の朝。

「一体どこに隠してたの」

 呆気にとられてついそんな言葉を漏らしたのは、三日間でほとんど売れてしまったと思っていた大物や一点物レースがどっさりと出て来たから。

「うはははっ、どうだい、凄いだろ?」

「うん、凄い。これは予想だにしてなかった」

 胸を張って大袈裟に自慢するのはおばちゃんトリオと彼女たちが直接指導して現在フィン編みの主軸となっている女性陣。


 ……これ、恩恵が発動してる。

 芸術性の高いデザインなのに、均一で精密な編み目。これを一枚仕上げるのに相当の時間がかかるはず、っていう大物と一点ものが山とある。

「これ、フィンとおばちゃんトリオとその直属だけで編んだ?」

「当たり前だよ、その辺は厳しく制限してるからね。下手な技術で仕上げられるものじゃないよこの辺のものは」

「あー……そっか」

 私の反応にデリアが首を傾げた。

「なんだい?」

「デリアたちだけじゃなく、これ手掛けた人たちにも恩恵出てるね」

「「「「は?」」」」

 うん、皆がきょとんとした。


 そりゃそうよね。

 だって、恩恵の範囲はそんなに広いものではないと今までは思ってたから。

 実際に強い恩恵は私に近く接する機会が多い人に目に見えて影響している。

 それ以外にも多少作業が速く出来るとか、そういう恩恵は結構広範囲に影響していることもわかってるけど、あくまで多少の範囲。しかも私が近くにいるときに起こりやすい。


 でも、おばちゃんトリオの直属との接点は私はほとんどない。

 私は 《レースのフィン》のことは経営やルール決めといった部分で主に動いた。商品についてはフィンとおばちゃんトリオ、そして侯爵家のお針子さんたちに任せていた。

 なのにこれよ。

 編む速さと正確さ。

 これは素人とプロの違いなんてレベルじゃない、そういう域を越えている。間違いなくおばちゃんトリオに追随する、常識外れの速さ。


「うーん、恩恵の範囲の基準ってなんだろ?」

 恩恵という言葉に動揺して騒ぎになった《レースのフィン》はそのまま放置。うん、頑張って良いもの編んでくれれば問題ないよ、好きに騒いで。開店準備は怠らないようにね。


 《ハンドメイド・ジュリ》での範囲はわりとはっきりしている。

 元々手先が器用で物を作ることに向いている、ものつくりを心から楽しみ真剣に取り組む人に強い恩恵が。

 これの代表がフィン、ライアス、そしてキリア。

 実はこの三人は、何をやらせても確実にこなしてくれる。初めて扱うものだろうがなんだろうが関係なしよ。もちろん若干苦手とする分野があったりするけれど、それは私が裁縫に興味なく凡人の域を出ないのと一緒で人間だから当たり前の事だよね。

 それでも、まず間違いなく私が作るものに関連しているものをやらせるとこの三人は満点に近い合格点を叩き出す。

 他にはウェラのように白土の扱いに特化した、部分的な恩恵が出ている人もちらほら増えてきた。その人たちは研修棟兼夜間営業所でちょくちょく顔を合わせるし、《ハンドメイド・ジュリ》の作品作りの主軸となっている。そこにフォンロンから来ているマノアさんとティアズさんも含まれ、だいたい今は二十名程が恩恵の影響を受けていることは把握している。

 彼らの特徴として主に作る速さと正確さに恩恵が働いてるんだよね。工場生産のような均一な出来なのよ。


 変わり種としてレフォアさん。彼は物を作るのも丁寧だし上手だけど、まあそれは数をこなせばこれくらいは……という至って普通の成長。でも、とある部分で彼には恩恵が出ている。

 それは、『鑑定能力』。

 元々冒険者ギルド内で素材研究などをしていたレフォアさん。その彼は【スキル:鑑定】を持っている。それでもってよい素材や性質の違いを見極めて研究を効率的に進めていたらしい。

 でも。

 ここに来て、《ハンドメイド・ジュリ》で派遣員として働いているうちに、その【スキル】に変化があった。

【スキル:鑑定+】

 となった。私には見えないけど、ハルトの鑑定だから確かよ。

 その『+』だけどね。加工された完成品の、目に見えない傷や脆弱な部分が分かるというもの。例えば、ペンダントトップを鑑定した時今までは『若干の不具合あり』というざっくりとした鑑定だったのに今は『右側面近くに亀裂が入る可能性あり』などと見えるようになったのよ。

 本来【スキル】は『成長型』や『変質型』と呼ばれる変化を起こす種類のものしか成長も変化もしないのに。

 ハルトは。

「まあ、ジュリといればそれくらいは起こるだろ」

 って、なんとも気の抜ける返しをしてきたわ。


 あとはやっぱり、ローツさんよね。

 白土扱ってるときは障害がある左手が普通に動くんだから。

 これはもう恩恵以外の何物でもない。


 で、彼らの共通点。

 頻繁に私と接点があること。

 そこにはおばちゃんトリオのデリア、メルサ、ナオも含まれる。


 じゃあ、接点のあまりないおばちゃんトリオの直属の彼女たちに起こった超速正確編みの恩恵は何故?











『それは単に人間の欲の質の違いね』











 あ。

 いきなり?

 セラスーン様だ。

 今周りに誰もいないからかな?


「……あの、それってどういうことですか?」

『それはね、上手くなりたい、負けたくない、認められたいという気持ちの強さや質のこと』

 セラスーン様は愉快そうに軽やかな声。

『そして彼女たちの欲望は相性がいいわ』

「相性が、ですか?」

『ええ。その欲で誰かを傷つけたいとか、陥れたいなんて微塵も考えていない。ただただ、自分の技術の向上を望んでいる。その先にはお金を得て、家族にもっといい暮らしをさせたい、良いものを作って喜んで貰いたい、そういう想いがある。質のいい欲望は、あなたが知らずに放っている恩恵と相性がよくて融合しやすくなってるの』

「……つまり、離れていても、恩恵が与えられるってことですか?」

『うーん、離れていても、というよりは……近くても離れていても、あなたが世に送り出す【技術と知識】を受け入れ、あなたの理念や思想を否定しないなら、一度でもあなたと接点があれば誰でも恩恵を授かる可能性があるのよ』


 うえっ?!

 距離とか人間関係無視?!

 そんなに広範囲?!


『そりゃ、私の力だもの、それくらいの影響はあるわよ?』


 ……あぁぁぁぁ、ですよね、神様の力ですもんね。

 でもちょっと恩恵が簡単に発動しすぎの気がしますけど。


『あなたの場合、【スキル】はおろか【称号】もないでしょ?』

 はい、ないですね。ついでに魔力もないです。

『たぶん、それが影響しているの』


 え?


『あなたが【スキル】も【称号】も魔力も得ていないのは私のせいではないのよ?』


 は?


『あなたにはね、与えられなかったのよ』


 はっ?


『正確には、あの【全の神:ライブライト】ですら、出来なかった。【スキル】と【称号】は魂に直接融合するものなのだけど、何度試みてもあなたの魂が【スキル】と【称号】の核となる『神の欠片』を受け入れなかったのよ』


 自分のせいだった!!

 まさかの自分!!


『でもまぁ、気にしないで?』


 えぇぇ……そんなこと言われましても。


『その事で最近変化が見られるの。あなたには相変わらず付けられないんだけれど、その代わり……他の兆候が見られるから、気にしないで』


 ……気にするなと言われても。


『【スキル】と【称号】がない分、あなたを加護している私の力も『神の欠片』を持たないあなたにはあまり影響が与えられないの。【神の守護:選択の自由】の強制力はあなたの、というより私の力だし。だから加護することであなたが受けるはずの恩恵は、あなたが受け取れない無駄になっている分が外に向かって流れ出ている、とでも言えばいいかしら。それを周囲の人たちが受けているのよ』


 なんと。

 恩恵が駄々漏れしてたらしい。

 てゆーか、私セラスーン様の恩恵すらあんまり受けられてないの?!


『そうね、あなたはあまり』


 楽しそうに言わないでくれますか。


『あらごめんなさい』


 軽い、軽いですよ!!


『でもいいじゃない? あなた、ちょっと嬉しそうだわ』


 ……ムムッ、気づかれた。

 楽しいです、いや、嬉しいですよそりゃ。


 だってねぇ。

 私のすることを、それだけたくさんの人が受け入れてくれてる証拠。そしてこれからもっとそんな人たちが増える可能性が。

 それは私の【技術と知識】がここで役に立っているってこと。


 嬉しいですよ!!


「なに一人でやってるんだ?」

 あ、ガッツポーズしてるのをグレイに見られた。

「うん、今セラスーン様とおしゃべりしてていい話聞けたから」

「……」

「なに?」

「神様と話したことをそう事も無げに言うのはさすが【彼方からの使い】だな、と」

「グレイの【変革】に遭遇した時のあの冷静っぷりも大概だからね?」

「そうだろうか?」

「そうでしょうとも」












「ホントに特例よね、ジュリってば」

 お祝いに来てくれたケイティに笑われた。

「そっかぁ、恩恵を撒き散らしてるんじゃなく、駄々漏れだったか」

 マイケル、そんなに愉快そうに笑わないでくれる?

「ジュリのどこから何が漏れてるの?」

 ジェイル君よ、目に見えるものじゃないから私の周りをウロウロして何か探すの止めて。

「いいじゃないか、それで皆幸せなんだから」

 ローツさんまで笑うんじゃない!

「しかし、ジュリが撒いていたのではなく、駄々漏れ……ジュリが恩恵をほとんど受けていない事に驚いたんだが」

 グレイも笑ってるけど、そうなのよ。

 あれ、これ恩恵じゃん! っていう実感はいくつもしてるの。勘で不良品を見つける率が極めて高いとか、思い描いているデザイン画をかなり忠実に描けるとか、明らかに地球にいた頃にはなかった能力を私も得ている。編み物だってフィンに負けるかもしれないけど、いい勝負する自信あるよ。

 でも、それでも本当に、本当に微々たるものらしい。

 そりゃねぇ、ハルトやマイケル、ケイティ見てると次元が違う。


「でも凄いことよ、ジュリほど恩恵を人に与えてる【彼方からの使い】はいないんだから」

 ケイティ、慰めになってないわよ。私だってもうちょっと恩恵欲しいんだけど。

「にしても、原因不明ってところが気になるかな。どうして、ジュリは『神の欠片』が融合出来ないんだろう?」

 マイケルの疑問。


 それについて、セラスーン様も分からないらしいけど。


 なんとなく、気づいてはいるんじゃないかと。


 他の兆候。


 それが何なのか分かれば原因がはっきりするんじゃないかなと私は踏んでいる。

 それはとても重要なことだと思う。私にとって、この世界で生きる為に必要ななにかだと。












 《レースのフィン》の開店は驚くほど幸先のよいスタートになった。


 でも私にとっては、疑問が生まれた瞬間にもなった。


 なぜ私には【スキル】【称号】そして魔力がないのだろうか?


 なぜ守護神であるセラスーン様はおろか最高神【全の神】ですら、その原因が分からないのか?


 それらは何か意味のあることなのか?


「……ま、今悩んでも仕方ないか」


 とりあえず、ため息で誤魔化しておこう。

 そんな事で立ち止まってもそれこそ無意味。

【技術と知識】、そして【変革する力】。チートな能力がなくてもその二つでなんとかなってる今の私。

「プレオープンで何が売れたか詳細の確認でもしよっと」


 そのうち分かればいいのよ、そのうち。






余談ですが。

セラスーンはキャラ設定に悩んでいた当初、男嫌いという設定にしていました。

ただそうするとグレイセルもハルトも、なにより一番凄いはずの神様であるライブライトすら彼女に常に理不尽に痛め付けられる構図しか想像できなくなり(笑)、それではあまりにも男性陣が可哀想になったのでセラスーンはライブライトにだけは容赦ないという設定に落ち着けた経緯があります。

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― 新着の感想 ―
[良い点]  >セラスーンはライブライトにだけは容赦ないという設定に落ち着けた経緯  つまりライブライトは避雷針(笑)
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