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『ハンドメイド・ジュリ』は今日も大変賑やかです 〜元OLはものづくりで異世界を生き延びます!〜  作者: 斎藤 はるき


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9 * これもあると便利なもの

 レターセット。

 まだ拘るよ、拘り出すと止まらない (笑)。


 押し花の貼り付けはグレイから大好評、これは貴族がこよなく愛する、『特別』とか『限定』の品としてウケるだろうと。

 貴族のために作るわけじゃないけど、買いに来てくれるなら大歓迎よ、頑張って少しでも多く作れるように体制を整えるわ。

 それと一緒にメッセージカードも名刺タイプと見開きタイプを商品化することも決めた。

 レターセットは便箋と封筒を数枚ずつ入れるから高くなる。その代わり、メッセージカードなら一枚売りも出来る、誰かの誕生日に、お礼状代わりに、気持ちを込めたメッセージを伝える手段に誰でも買えるようにしたいの。

 文房具の専門店とかで、ずらりと並ぶメッセージカードや絵はがき。あれを見るのが結構好きだった。書く予定もない絵はがき、よく買ったなぁ (笑)。


 あそこまでは無理だけどね。それでもせめて、いくつかある中から選ぶ楽しみは用意したい。

 押し花の花の色、大きさ、紙の色と大きさで数種用意出来るけど、それだけではつまらないでしょ?

 だから、増やす!


 勤め先にいませんか? やたら文房具が好きな人。

 召喚前まで勤務していた会社でね、いたんですよ。

 文房具マニアが。

 男の先輩でね、お前の職業なんなの? って突っ込む上司がいる程に異常に詳しくて、私の所属する部署では会社の備品で古くて買い換えろよ!! って使い難くなった文房具とか業務用ゆえに重くて大きい、明らかに女子に反感を買うようなヤツが使いたくない時にこの先輩に一声かけるわけです。

「先輩、これの使いやすいの持ってます?」

「んじゃこれ」

 と、迷わず出してくれた。必ず出してくれた。

 そんな、先輩がホワイトデーに部署の女子にお返しと称してくれた物ももちろん文房具で。


「ねえ、なんでこれなの? 去年みたいなキラキラ系のボールペン欲しかったんだけど」

「お前が勝手に俺のデスクから持っていって俺が使いたい時いつもないから」

「……うちの部署の子たち、全員が、これ?」

「当たり前だろ。差別しないからな俺は」

「うわ、引くわ」

 というやり取りを見ながら、私たち女子全員が、自分の手に乗っている重みのあるラッピングされた中身がなんなのか理解したわけですよ。


(ああ、これ、穴開けパンチかぁ……)


 と。


 可愛かったけどね。パステルカラーで、小さくて、流石マニアが選んだだけのことはあって切れ味もすごくよくて、皆が愛用するくらいには使い勝手の良いものでした。先輩ありがとう。


 ですよ。

 穴開けパンチですよ。


 実は既にこちらでライアスに再現してもらって事務処理を一手に引き受けてくれているグレイとローツさんが愛用している。

 私の説明から数度の試作を経てライアスが作ったものは私の手の平より大きなものだけど切れ味抜群、ハンドル部分を押し込んだ後の戻りもよい、実にいい感じになったのよ。たかが紙に穴を開ける道具、されど開ける道具。あるとないとでは大違い。

 この世界の紙は厚めで粗いから、綺麗に開けたければせいぜいまとめて穴を開けられるのは二枚とか三枚、質が悪い繊維の目立つものだと一枚でも切り口がちょっとボソボソしちゃうんだよね。でも、グレイとローツさんはその穴に紐を通せば簡単な冊子になることに感激したのと、あの穴があく瞬間のカション! という音と感触に妙にハマって、初めて使用した日、使い古しの紙にひたすら穴を開けてたわ。


「ということで」

「なにが、ということで、なんだ」

「じゃーん! 私とライアス共同開発品の御披露目したいと思いまーす! 穴開けパンチに引き続き特別販売占有権に登録するための書類もすでに作成済み、万全よ!」

「唐突だな。……これも、穴開けパンチだろう? 私が貰った物より、大きいな」

「ふへへへへ、まぁまぁ、試して頂戴」

 紙と、ちょっと武骨な穴開けパンチをテーブルに乗せてグレイに試して貰う。

「紙は好きな所でいいよ、とにかくやってみて頂戴な」

「好きなところ? こうか?」

 そして、カション! と穴を開けた音がしてから、グレイはその紙を引き抜いて目を丸くする。

「これは!」

「これはね、通称『クラフトパンチ』」










 そう。

 クラフトパンチ。

 穴ではなく、星や、花、蝶や動物、と色々あった気がする。

 文房具マニアの先輩がそれを会社に持ってきていたときは私もドン引きした。仕事で使わないじゃん、という他の先輩のツッコミの後ろで黙って頷いた記憶がある。


 私が今回ライアスにお願いしていたのはレースを連想させる形のもの。第一号なので単純なデザインになったけど、作り方次第で種類は増やせるとライアスからお墨付きを貰えたの。

 ただの穴じゃないし、こちらの世界はどうしても部品が手作りゆえに大きくなりがちなのでパンチ自体は大きくなってしまう。でもくり貫く刃の部分はライアスの職人魂に火を着けたらしくて、絶賛開発中。柄はたくさん増やせそうよ。

 そして驚いているグレイの前にもうひとつ。

「はいこっちも御試しくださーい。これは穴開けパンチじゃないけど、似たような構造でまた違った物になるからね」

「……似た構造で、違うもの? 意味がわからないんだが」

「あははは、まあ、試してみてよ。あ、グレイが力任せにやると壊す可能性があるわね。私が一回やって見せるね」

 そして、紙をもうひとつテーブルに出した穴開けパンチらしい物に挟み、私はぐっと力を込めてハンドルを下げる。

「ん? 穴が開く音がしないな」

「穴は開けないよ、でもそれでいいのよ。紙の質にもよるけど、昨日この紙で試したら綺麗に出てたから大丈夫だと思うんだけど、どうかなぁ? あ、綺麗綺麗。ほら」

「これは、また……驚いたな」


 私が見せた紙には、花の形をした跡が付いている。


 エンボスパンチ。

 穴を開けるんじゃなく、凹凸をつけて模様にするためのもの。

 トイレットペーパーによく見かける細かな凹凸、あれがエンボス加工。トイレットペーパーのはふんわり感を出すためにやっていると聞いたことがある。

 このエンボス加工は、紙の性質上向かないものもあるだろうけれど、少し固めで厚みのあるこちらの世界のものならわりと向いていると思うのよ。


「押し花だけじゃなく、クラフトパンチとエンボスパンチでレターセットやメッセージカードを作れば、選ぶ楽しみは増えるよね。価格的にも幅が広がるから、買いやすくなると思うのよ。どうかな?」

「……どうも、なにも、これはいいと思う」

「そう?」

「絵ではなく、紙に穴や跡を付けて模様にするなんて、今までなかったからな」

「組み合わせ次第で、かなり高級志向のレターセットとメッセージカードが作れるわよ」

 事前に作っておいた、レターセット。

 それは、レース柄のクラフトパンチで四隅に模様の穴を開け、上真ん中に小さな押し花をあしらい下中央に上より華やかに多くの押し花を貼り付けた便箋と、封筒の封を閉じる部分に同じ柄のエンボスパンチで模様を付け、表の右下に便箋につかった花を同じように貼り付けた封筒。

「かなり手間が掛かるレターセットだけどねぇ」

 そう、これ。ものすごい手間がかかる (笑)。

 ホントに高級品よ、これだと。

「まあ、金持ちなら買うでしょ」

「買うな」

 あ、即答頂きました。


「でね、グレイに相談なんだけど」

 カション、カションと、一心不乱に穴を開けるグレイのことは気にせず、相談を持ちかける。

「このレース柄のクラフトパンチを使って、 《レースのフィン》の開店のお知らせ出したいんだよね」

 グレイの手が止まる。

「意図してレース柄を先に作ったわけじゃないけど、刃の型の試作が出来た時にフィンがこれで侯爵家が用意するプレオープンの招待状を出せたらいいんじゃないかい? って言ってたから。それで私もそれはアリだな、ってね。どうかな? そうなるとすぐにはこのレターセットは売り出せないんだけど、 《ハンドメイド・ジュリ》と 《レースのフィン》の繋がりがよく分かるものになるし、宣伝効果も高いと思うし、なにより一番最初に侯爵家がこの新しいレターセットを使うことになるでしょ? 侯爵家と私どちらにも得はあって、損はないはずよね」

「ああ、それはいい案だ。だが」

「だが?」

「それまで母やルリアナが我慢出来るだろうか?」

「……あー、そこは、大変申し訳ないけどもはや脅すしかないんじゃない?『恩恵が弱まってしまうかも』とか。そんなことで弱まったりしないと思うけど一応抑止力としては有効かと。セラスーン様とシルフィ様たちには申し訳ないけどそういうことにしておこうよ。こちらにも融通してほしい都合というものはあるし」

「そうだな、それでいこう。後で本宅にあるセラスーン様の祭壇をしっかり私が磨いておく」

「よろしくお願いいたします」

大真面目に頭を下げておいた。










 そして翌日、仕事よりもある意味大事な用事ということでグレイが自分の屋敷の祭壇を私と二人で磨き上げた後、一人侯爵家の祭壇を磨きに行った。

「お前、なにか懺悔するようなことをしたのか?」

「どうでしょうね? ただジュリから『しっかり磨いてきてね!!』とは言われたので」

「……二人で何をしているんだ」

「そのうち名前をお借りすることになるので、そのご報告、とでも思っていただければ」

 侯爵様がオロオロする側で、グレイが熱心に祭壇を磨く姿はなかなかに異様だった、と後からシルフィ様が教えてくれた。


 本当に申し訳ないです、セラスーン様。

 都合よくお名前お借りします。












「いいわよぉ、あなたたちがドタバタしてるのを見るのはとっても面白いもの。そしてジュリの役に立つなら大歓迎よ」

「なんだよ、お前利用されるの嫌いなくせにジュリならいいんだな?」

「私が守護しているのだから当然でしょう。そして私が嫌なのはこちらの都合も考えずこの神界にハルトを呼んでおきながらそこら中手当たり次第に破壊を楽しむあなたとハルトの後始末をするためだけに私たち高位四柱が呼び出されることよ」

「いやぁ、ハルトと遊ぶの面白くって! それに俺修復って面倒で好きじゃないし。俺がやると神界広がっちゃうし、適材適所でやれるヤツがやればいいわけだ!」

「ライブライト、あなた消滅したら? 三十年ぶりにちょっと消えて。目障り」

「ひど!!」

「ひどいのはあなたのその頭の中。なんでこんなのが最上位であり唯一神の【全の神】なのかしら」

「そんなこと言われても、なってしまったもは仕方ない。俺って凄いから」

「……やっぱり一回消滅してくれる? 大丈夫よ、ちゃんと復活させてあげるわ、得意だから。私たち四柱なら絶対失敗しないから安心でしょ? うん、そうしましょう、うふふっライブライトが消滅してもハルトがいるからあの世界は大丈夫よ、何も心配ないわ」

「怖い怖い、セラスーン目が怖い」











 遊びにきたハルトが穴開けパンチで使い古した紙に穴を開けまくっていたとき突然。

「あ」

「なに、どしたの?」

「【ライブライト】が上位の神四柱にボコボコにされてるっぽい」

「なにその衝撃的な発言」

「こりゃ、消されるな。あいつ」

「……え、それ、サラッと発言することじゃないよね?」

「んー、なんかたまにあるらしい。あいつ超自由神だからさ、他の神の逆鱗に触れて怒られるの日常茶飯事。消されても結局は必要な神だから暫くすると復活させられるらしいんだよな。だからこそ自由度マックスな神なんだろうけど」

「神界の日常茶飯事が理解できないんだけど」

「俺も出来ねぇから大丈夫、あはは!」

「何が大丈夫なのよ……」


 ハルトのもたらした情報に、私とグレイがこの後聞かなかったことにして忘れようと努力したのは言うまでもない。









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