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『ハンドメイド・ジュリ』は今日も大変賑やかです 〜元OLはものづくりで異世界を生き延びます!〜  作者: 斎藤 はるき


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1 * スライム様

本日ここまで四話更新しました。





 突然ですが。

 やってきました、『イルラの森』


 イルラは私が住むクノーマス侯爵領西にある森の総称。ここについては召喚されてしばらく後に説明を受けてる。

 侯爵領の区画の一つイルラ区が近いことからそう呼ばれてる。小規模ながら森の中心にダンジョンがあるので、土地勘がなければ魔力も戦闘能力もない私は絶対に近寄らないようにと言われてた場所です。近寄ろうなんて思わないです。怖い。


 そう思ってたんですけどね。

 私の求めていた 《ハンドメイド》素材になりうるお方がいらっしゃるのなら話は変わります。


 それにグレイセル様の話ではここの森のダンジョンは弱い魔物がほとんどだそうで。

 侯爵様が代々定期的にダンジョン内に冒険者を派遣して討伐しているそうです。

 それの影響で地下の魔石から得られる魔素が多く溜まり魔物が狂暴化することがほとんどなくて、経験が浅めの冒険者数人のパーティーでも中盤まで進めるんだそう。なので、私も護衛さえしてもらえば大丈夫。


 そして、地域によって魔物の分布が違い、このイルラの森含む侯爵領ではスライム、ラビット系、そしてハルトがしょっちゅう狩りにくる『和牛』ことブラックホーンブルも属するブル系の魔物が出没する魔物の大半を占めるそうな。

 同郷の【英雄剣士】なる称号持ちのハルトに食べさせてもらったけど、あれは美味しい。和牛だった。しかもいいやつ。

 また食べさせてもらおう。


 そして。


 スライム。

 これが、私が探していたレジンの代用品になるかもしれないんですよ。


 行くでしょ!! この目で確かめなきゃ!!

 ということで、グレイセル様直々に案内してくださることに。

 申し訳ないと思ったんですこれでも。でも護衛として必ず誰かは付かなきゃならなかったし、討伐とは違う特殊な事情であること、信頼している冒険者パーティーが今別の依頼を受けていて護衛出来ないということで、侯爵家の人間が良いだろうとグレイセル様と見知った執事さん二人に使用人さん三人の計六人でここに来たわけです。

 侯爵家の執事さんと使用人さん、みんな、戦闘能力あるそうです。武装系貴族って、怖い気がする。


 取り敢えず今日は()()()()()()()()()()のでそれが優先。

 そしてグレイセル様には

「生息数が多いんだ。討伐しても討伐しても沸いて出てくる代表格なのがスライム。だからすぐに見つかるはず」

 といわれ、地面を注意深く観察することおよそ数分。

 本当にあっさり見つかる。


 それは、スライムの死骸と言われる物体。


「どうだ? ジュリ」

「触っても、大丈夫ですか?」

「ああ、問題ない」

 まず、毒などの問題はクリア。

 そして恐る恐る触ってみる。

 レジンって、ガラスともプラスチックとも違う独特の質感がある。

 まずは指先、そして爪でそれを押して、つついてみる。

 うーん、これは予想外によいかも。レジンとはまた違う、アクリル樹脂とかに近い? かも。すごい。

 そして、若干ガラスに似ている気も。触感がひんやりしてるから、明らかにプラスチック寄りではない。指の関節で叩いてみると、ガラスを叩いたときに感じる硬質感に類似しているかも。

硝子とアクリル樹脂の中間なんて素材はないけけど例えるならそれが一番しっくりくる。さすがは異世界。


 質感は問題なし。次は重さだね。

 そして、思いきって両手で持ち上げて、と思ったのに持ち上がらない!! これは問題だね、こんなに質量のあるものだと身につけられない。と思うとすぐさま。

「ああ、ちょっとそれは大変ですね、お任せください」

 え? なにが?

 と首をかしげたら、使用人さんの一人が私を少し下がらせるとスコップをそれの下に差し込んで土ごと掘り起こすようにしてちょっと強引に剥がした。

 あ、その為のスコップでしたか。

 なんでも、スライムが死ぬと溶けるように形が崩れてその場で時間をかけて固まるんだとか。

 スライムは弱い魔物の代表だけど、ダンジョンから出て来てたまにこうして場所を選ばず死骸となって固まってることがあるそうで、このイルマの森でも採取出来る中級ポーションの材料になる貴重な植物の上で溶けて固まってしまったりする結構厄介な存在として認識されてるらしい。なるべく貴重な植物の群生地ではスライムが入り込まないように対策してるらしいけど、ダンジョン周辺ではいちいちそんなことに構ってられないとのことで、そのまま放置されてしまうんだね。


 じゃ、植物そのまま? 森の生態系大丈夫? なんて心配はご無用。ここは侯爵領。そういうことにならないように定期的に自警団が森の見回りしてるし、定期的な討伐をしてるから問題なく、こうして固まっているものは剥がして土に埋めて自然に返すらしい。


 では、あらためて。

 何やら謎の草やら土やら石を固めてしまったスライムさん。

 わたしはそれを持ち上げて、目の前に近づける。太陽の光を十分当てて、向こうを見透かすように、覗きこむ。


 うーん。

 これは。

 ……微妙かも。


「どうだろう? 透明度が重要らしいが」

「ちょっと、難しいですね」

 透明度自体は悪くない気がする。でも、土に触れていないところにも、何やら細かい不純物が結構みうけられる。これを濾しとるにしても、その手間はどれだけかかるか、そもそも濾しとることが出来るのかいろいろ考えなきゃならなそうだ。

「これ、土とか草じゃない不純物が混じってます。これがスライムの通常の状態だとすると私の探している代用品として使えるまで濾過する手間とか、大変かもしれません。そうなると素材として扱えるようになるまではかなり試行錯誤が必要ですね」


「あの、もしかしてそのスライム、何かを取り込んで消化の途中で死んだやつじゃないかと」

 使用人さんの一人の言葉に、グレイセル様も確かに、と呟いた。

 なんでも、スライムは私の元いた世界でチラリとかじったゲームとかマンガの知識と一致している部分があって、雑食でありとあらゆるものを取り込んでしまうんだとか。そして、食べるというより取り込んでそれを溶かしたり粉砕したりして吸収する、といった性質。

 その途中のスライムが何らかの理由で死んでしまって、不純物がまじっているのでは? というのですよ、これは期待出来そうですよ、透明度が。


「……生きてるスライムですか、これが」

「ああ」

 あれから、みんなでスライム探し。

 やっぱりほどなくして難なく見つけたそいつは、『掴める水』。

 一時メディアで話題になったとあるものを思い出した。特殊な物質で水が掴めるようになるってSNSへの投稿がきっかけで広まったやつ。

 透明で、プルンとしてる、掴める水。

 目の前にはバレーボール程の大きさのそれそっくりなのが。

 岩の上にいたスライム。目とか口はなく、まさしく水分の塊。おまんじゅうみたいなぷっくりとした半円の姿をしていた。動くときはもう少し丸みがでて、転がったり弾んだりして移動するらしい。ただ、非常に警戒心が弱い魔物で、見慣れぬ物が近づいても逃げない個体が多いらしい。現に私たちの見つけたスライムもこうして岩の上で鎮座したまま、プルン!と一度だけ大きく一揺れしただけで特に動こうともしない。スライム特有の動きというユラユラと揺れる動きをしているだけ。


「それ、素手で持って大丈夫なんですか?」

 グレイセル様が、いきなり両手で抱えたからびっくりしたのよ。素手で。さすがにスライムも逃げようとしてるのかジタバタ? してるようなそんな動きでグレイセル様に捕まれたまま形を変えてブルンブルン揺れている。

「ああ、中に物体が見える?」

「はい、白く濁った、楕円形のですよね。あれなんですか?」

「それがスライムの核。さらに中には極小の魔石がある。スライムがなにかを取り込むときはその核が吸盤の役割をする。物に核そのものが近づいて接触して吸い付いてこの水体と呼んでいる外側に引き込んで分解吸収するから、核の動きに注意すれば簡単に持ち上げられる」

 へー。

 勉強になりました。


 私は、そのスライムを隅々まで観察。

 不純物はこの段階では見当たらない。

 なので。予定通りやることにします。


「いきますよ」

 執事さんが、グレイセル様が捕獲したスライムをバケツにいれると、ナイフをスライムに突き立てた。表面は見かけによらず丈夫なのか、両手で握ったナイフにちょっとだけ体重を乗せてた。

 ぐぐっと、ナイフの先がめり込んで、スライムの形が変形した瞬間突然にナイフがすーっと飲み込まれるように刺さって、そして、ナイフが刺さったところからみるみるうちに透明の液体が溢れるようにバケツを満たしていく。初めはクラッシュゼリーのような、ちょっと形が残っていたのに、瞬く間に質が変わっていく。

「すごい」

 そしてすぐさま執事さんが、綺麗な金属の棒でかき混ぜて見せてくれた。核の部分はまた別に潰さないと溶け出すには時間がかかるみたいで、簡単に取り出せた。

 そして。

 わずかに粘性のある、透明な液体がそこにはあった。


「ふ」

 全員の視線が私に集中した。

「ふふふ、うへへへへっ、これは、うふふふふふふ」

 ちょっと驚いてる。


「スライム様!! えへへへ、あはははは!! 使える、これ絶対つかえる!! うはは!!」

 奇妙な笑い声と共に、そう叫んだのに私のことを誰一人として変な目で見ませんでした。

 さすがは侯爵家の執事さんと使用人さん。デキる人たちです。

 ただ一人、グレイセル様だけは正直に苦笑していた。

このようにオリジナルの 《ハンドメイド》素材が出て来てジュリが気ままに作りたいものを作る、そんなお話です。

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