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『ハンドメイド・ジュリ』は今日も大変賑やかです 〜元OLはものづくりで異世界を生き延びます!〜  作者: 斎藤 はるき


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100部突破スペシャル ◇ハルトは夏の思い出作りに勤しむ◇

先日おかげさまで100部突破しました。

以前夏の単話を更新するかもと活動報告でちらっと予告していたので、祝突破をかねて掲載します。


本編はこの後更新します。


※あくまで単話なので、内容は深くありません。ただただ大人たちが夏の海を満喫するだけです。極めて平和なお話です。

本編とは繋がっていないのでご注意ください。

 


 俺たちがいる大陸、ラクタラール大陸の沿岸は魔物が生息している。

 つーか、いない土地が極めて珍しいな。

 ジュリのいるクノーマス領の海岸線はそれこそ魔物のメッカだ。俺が以前その事を口にすると。

「嬉しくないメッカだな」

 と、グレイは乾いた笑いでそう返してきたけど、実際問題、クノーマス領の海岸線は魔物だらけだ。

 ただ、ジュリが素材にしている魔物のかじり貝が圧倒的な割合を占めていて、強い魔物は陸から離れた所で発生して海岸線で見かけることは少ないし、他も弱い魔物が多いから危険海域というわけでもなく、だからこそトミレア地区は有数の港として栄えていられる。


「いえーい!! 海水浴!!」

 ジュリがテンション高く叫んだ。

「やっぱりビーチパラソル開発しておいて正解。日差しが強いわ、持ってきたパラソル全部開いちゃお」

 ケイティが上機嫌で砂浜に仁王立ち。

「綺麗な砂浜だね、リゾート地にも出来そうだ。あ、熱中症対策はしっかりしないとね」

 マイケルは敷物を広げ、荷物を置いた。

「面白い魔物いるかなぁ?」

 マイケルとケイティの息子ジェイルはキョロキョロしながら今にも走り出しそうな勢いだ。

「僕も見たい!」

 まだ幼いキリアとキリアの旦那ロビンの息子であるイルバは朝に遊び相手のジェイルがいると知ってからぴったりくっついて嬉しそうにはしゃいでいる。


 俺たちがいるのはクノーマス侯爵家の私有地の砂浜だ。港から離れた所ですぐ近くにはクノーマス家の小さな別荘もある。小さな別荘とは言うけど豪邸だから全員ここに今晩泊まれることにウキウキしてる。贅沢だ。

「ちょっと待って、なんでそんなに平気なの」

 俺たちの高めのテンションとは対照的に顔をひきつらせたキリアがジュリの腕を掴む。

「おおお、おかしい、あの二人おかしい」

 そして俺の彼女ルフィナはガクブルしてる。

「なにが?」

 ジュリは二人の反応に首を傾げる。そして少し離れた所ではキリアの旦那ロビンが俺たちに背を向けて膝を抱えている。

「見ちゃダメだ、あれは見ちゃいけない!」


 ……ああ、うん、そういう反応になるのは予測してたよ。

 なぜなら。

 ジュリとケイティが水着姿だからな。

 こっちの世界にも水着はある。ただ、海岸線に住んでいて海に慣れ親しんでいないと海で遊ぶことは少ない。魔物いるしな。だから必然的に水着になることが珍しい。

 しかも、こっちの水着ってのが。

 パレオのような体に布を巻くタイプなわけ。男は腰に巻く形で女は肩や首に結び目が来るようにして膝下まで隠れる。

 俺が海水浴行こうぜー! と誘ったらテンション上がって海で泳ぎたいと騒ぎ立てたジュリとケイティのためにグレイが全員の水着を仕立ててくれるって言うから喜んでたんだけど。

 見本を見せられたジュリとケイティは。

「「ええぇぇぇぇ、無いわぁ」」

 と、ハモって全否定。


 で、今に至る。


 何が至るかというと。

 ビキニ。

 そう、この二人、グレイが金出すのを良いことに侯爵家のお針子巻き込みビキニを作らせた。

 恥も抵抗もなく、砂浜に到着した瞬間着ていた服をポーンと脱ぎ捨てた二人にルフィナとキリアとキリアの旦那ロビンが硬直。

 あ、ちなみにグレイは目の保養と言わんばかりにジュリを見て満足げだから無視。

 俺とマイケルもボクサータイプをつくって貰ったんだけど、ちゃっかりグレイも作っててさ。

「腰巻きより動きやすいな、単にズボンを切っただけではなく布にもこだわったから履き心地もいい」

 だと。


「せっかくキリアたちのも作ったのに、なんで着ないの?」

 ジュリが両手にキリアとルフィナ用にと作らせた水着をピラピラさせる。

「着れるかぁぁぁ!!」

「無理、絶対無理だから」

 キリアが叫び、ルフィナがまだガクブルしてる。うーん、残念。俺としてはルフィナの水着姿が見たかったんだけど。こればっかりは習慣の違いだしな。

 そしてロビンが憐れだ。

「別に見られても減るもんじゃないんだから気にしないでよ」

 って軽快に笑うケイティだけどな。お前な、お前が一番酷いぞ。

「ケイティが言っても説得力ないからね」

 ジュリが冷静にツッコミ入れた。それ正解。

 明らかにジュリのより面積がない。しかも何を食ったらそんなにでかくなるんだという乳の主張が凄い!!

「高確率でポロリしそうだけど? ポロリしなくてもはみ出しそうだわ」

冷静なツッコミしながら指でその乳をつつくジュリも凄いと思う。

「いいじゃない、見る人そんなにいないんだから」

「人数の問題?」

「そういうことにしておいて。私もアラフォーに足を突っ込んじゃったんだから今のうちだけなのよぉ、こんな水着を着れるのは」

「ケイティはアラフィフなっても着てそうだけどね」

「今のところプロポーション維持できるなら着るわよ? マイケル喜ぶし」

「だよね」

「ということでロビンも気にしないでよね!」

 笑顔で言うな、可哀想だ。


 ただ、慣れてくると不思議なものでロビンの視線が意図して二人から逸れることはあるものの、楽しく砂浜で夏を満喫してればカオスめいた空気は霧散。

 そして、ジュリが腕を組んで波打ち際に仁王立ち。

「……かじり貝様って、ああやって泳ぐんだ?」

 物凄い真顔だ。海水を水上バイクが上げる水飛沫さながらに吹き上げながら、猛スピードで海面を移動するかじり貝。

「ぜっっっったい私は勝てないわ」

 うん、お前はスライムしか倒せないからな。

 時々そんなかじり貝が確認出来るだけで、この砂浜は波も穏やか、まさに海水浴に最適だ!!


「擬似レジンでレンズ作ってゴーグル作ってみても良かったかも」

「ああ、それいいね、僕欲しいな。この海綺麗だし魔物も強いのいないみたいだから潜ったら楽しそうだ」

「今年は無理だけど来年迄には作りたいよね」

「本体部分はどうするんだい?」

「そこだよね、問題」

  なんてことをジュリとマイケルが真剣に話してるけど、その体勢がおかしい。

「お前らどっちも金槌かよ!!」

 ジュリはグレイに、マイケルはケイティに、それぞれの肩に腕を乗せて引っ付いてチャプチャプと波に揺られている。

「「泳げるよ」」

「はぁ?! じゃあなんだよ?!」

「「「ラブラブだから」」」

 なんじゃそりゃ!! そしてハモるな。

「いいじゃないか、別に」

「そうよぉ、そうしたいって言うんだから」

 甘いぞ、お前ら。

「単に疲れるのが嫌なだけだぞ、楽したいだけだぞこの二人は」

 ジュリとマイケルが目を逸らした。ほら見ろ、図星。

「そこが可愛いんだろ」

「私が困らないからいいじゃない」

「ほら、グレイは寛大だからオッケー」

「優しいだろ? 僕の奥さん」

 うるせぇ、ドヤ顔すんな。


「お母さん、お父さん、見てー!!」

 そんなやり取りをしていたら、ジェイルが大きな何かを波打ち際に持ってきていた。よほど見て欲しいのか両手を必死に振っている。俺たちは、まだ幼さの残る少年の小さな足が踏みつけているものを見てギョッとする。

「捕まえた! これ何て言うの?」

「捕まえた? どうやって?」

「手だよ」

「素手で? 凄いなぁ」

「へへっ! カニさん美味しいかな、と思って」

「うちの息子天才だわ」

  両親、そうじゃないぞ。

「ねぇ、グレイ、あれなに?」

「魔物。……『殺人赤蟹』」

「名前が物騒」

「実際に物騒だ。臆病で自ら襲ってくることはないんだが、手を出すと攻撃的になる。動きが俊敏になって、冒険者でもちょっとの油断で腕や足の一本簡単に切断されるし、上に乗っかられたら一瞬で首を切られておしまいだ。漁師もよほど身体能力に自信があるか経験豊かでなければ手を出さない」

「……素手で捕まえたって言ってるけど? しかも、死んでるっぽいけど?」

「……ジェイルは将来大物だな」

「そうだね……」

 イルバは。

「にいちゃん、カッコいいっ!」

 って目をキラキラさせてたけど。

 両親を除いた俺たち大人は、己よりも大きい厳ついカニを踏みつけている末恐ろしい八歳児の得意気な笑顔に顔をひきつらせた。


「海水浴ってこんなのだった?」

 ルフィナが非常に悩ましげな顔で首を傾げるのには訳がある。

「クノーマス侯爵令息がいるからな」

「ああ、うん……そういうこと、かな?」

 本家の使用人たちを数人グレイが連れてきていたんだけど、それはきっと別荘に皆で一晩泊まるからその準備のために連れてきてるんだろうなと俺は思ってた。

 俺はナメてた、侯爵家令息ってのを。

「昼御飯の準備に決まってるだろ? 別荘にはちゃんと別に連れてきている」

 グレイはさも当然にそう言ってのけて、ビーチパラソルの下で、シートに寝そべり、一泳ぎ後の休憩だと優雅に酒を飲んでいる。

「こんな大掛かりなバーベキューとか、する必要あるか?」

「ジュリが食べたいというから」

「ホント、ジュリ中心にも程がある」

 特注だという大きなバーベキューコンロで肉やらジェイルが討伐? した蟹を含むシーフードやら野菜が焼かれているんだけど、焼いてるのが侯爵家の料理人。しかもバーベキューの他に折り畳みのテーブルがいくつも持ち込まれて、その上にはサラダやおつまみ、ジェイルとイルバそしてジュリのためだろうお菓子がずらりと並べられる。お祝い事でもあるのか? と言わんばかりに酒とジュースまでたんまりと。ラフな格好はしてるけど使用人たちがいるお陰でなに一つ不自由ないバーベキュー。

「海辺でのバーベキューの醍醐味が薄れてねぇか?」

「僕に聞かれても困ります、楽しんだ者勝ちということでいいんじゃないですか?」

 ロビンが諦めたような達観した笑顔だな。


「水着だから食べ過ぎ厳禁! って決意したけど無理だった」

 と、後悔なんて全くしてない笑顔のジュリは食べ過ぎて膨れたらしい腹を隠すのにパレオに着替えた。グレイがかなり寂しそうな顔をしたのは全員で無視しておいた。









 食後は海水浴の定番スイカ割りだ。

 と言ってもスイカ割りを知ってるのは俺とジュリだけだから説明しながら準備をする。これは初体験ということと人数が多ければそれだけ盛り上がるから使用人たちにも混じってもらう。

 試しにどんなものかやって見せることになって、グレイが目隠しをして棒を持たされる。

 この時、こいつに棒を持たせることが如何に危険か、皆頭から抜けていた。夏の日差し、海の解放感、大人数で過ごす賑やかな一時に、俺たちは浮かれていた。

 うん、おもいっきり浮かれてた。


「もっと右ー!」

「違う、左だよ!」

 真面目な誘導ふざけた誘導が飛び交って、グレイも『だからどっちだ?』なんて笑って。

「あ、そこです! グレイセル様」

「よーし、いいよ、ベストポジション!」

 コツン、と棒の先がシートの上にあるスイカに当たり、グレイは距離を確かめスイカの真上に棒を当てる。

「で、これをたたけばいいんだな?」

 スッと棒を掲げた時。

「グレイセル様、おもいっきり!!」

 キリアがそんな声をかけた。

「やっちゃって下さいー! グレイセル様!」

 ルフィナも楽しそうに。

「空振りしないでよぉ?」

 ケイティは面白そうに。

「あれ? グレイが割るって、大丈夫?」

 ジュリがふと、そんな事を言ったのを聞き逃さなかったのは俺とマイケル。

「「あ」」

 気づいた時、既に遅しで。

 振りかぶった棒をスイカ目掛けて振り落としあと数ミリというその瞬間だったから止めようがなかった。


 ズパァァァァッ!!


 スイカ割りの音としてはあり得ない音がした。

 ついでに砂とスイカの汁と種と粉砕された皮が俺たちを襲った。

「きゃはははっ! グレイセル様凄い!!」

「僕もやりたい! それやりたい!!」

 無垢な年頃のイルバとグレイのバカみたいな強さに憧れる年頃のジェイルだけが楽しそうだった。

「……砂浜でスイカを割るとこうなるのか」

 目隠しを外したグレイは、砂とスイカにまみれてはしゃぐ子供と煽て過ぎたことを無言で後悔する俺たちを一瞥してから、自分の目の前、スイカの姿がなく、砂が吹き飛ばされて抉れた砂浜を見て感心していた。

 そこ、感心するところじゃない。

「グレイは爆散させるの得意だね……」

そういう問題でもない。

 結局、もう一つ持ってきたスイカは爆散回避のためイルバとルフィナ、ロビンの三人がやった。イルバとルフィナでは割れなかったがロビンが三人目としてやったらようやく割れた。これが正しいスイカ割りの楽しみ方だと俺とジュリが説明したけれど、何人が納得したかは不明。











「浮き輪欲しいわね」

「来年までに用意出来るかな?」

 午後には別荘に入り、上質な魔石に冷気を放つ魔法を付与した物を贅沢に各所に使用されている快適な屋敷で過ごす。

 子供たちははしゃぎ過ぎてお昼ねタイムだ。俺たちはまだまだ夏の一時を満喫していて、気が急いて来年あったらいい物の話で盛り上がる。

「お店連休にして皆で来てもいいかな、流石に別荘にみんなは泊まれないから日帰りになるけど翌日休みなら大丈夫だよね?」

「あ、それいいかも。他の子も一緒ならイルバも遊び相手に困らないし」

「じゃあ私たちも混ぜてー。ジェイルがもっと大きい魔物捕まえるって意気込んでるから」

「捌くの大変なのは困るな」

「そういう問題?」

 下らない話も交え、話は尽きない。


「なあに? ニヤニヤして」

 ルフィナが俺の顔を見てそんなことを言ってきた。

「ニヤニヤしてたか?」

「してる」

「……楽しいからな」

「そう? よかったね」

「うん」

 転移で自由にどこにでも行ける。

 でも今日は早朝から馬車に揺られて、『まだかよ?』なんて言いながら道を進んだ。転移できない奴等は不便で可哀想だといつも思ってた。

 準備して、集合して、皆で馬車道乗って。肩がぶつかりながら会話して。

 悪くないと思った。

 楽しいと思った。

 たまにはこういうの、いいなって。


 仲いい奴等とこうして時間を過ごすなら、不便さも楽しい思い出になる。


 不思議だな、朝から騒いで夏の日差しにあてられた体は少しだけ気だるいのに。


 気持ちはフワフワしていて心地いい。


「あー、俺もちょっと昼寝する」


 ソファーに体を投げ出す。


「今から実家から持ってきたワインを一本開けるか」

「侯爵家のって高そうよね?」

「父の秘蔵から持ってきた」

「それ、持ってきていいやつ?」

「たぶん」

「あ、グレイのそのパターンはダメなやつ」

「怒られたくないなぁ」

「や、止めましょう。別のにしましょう」

「今さらよぉ、飲んじゃえ!」

「ええっ?! それはマズイでしょ?!」

「怖い怖い、誰か止めて」

「飲もー! おつまみカモーン!」


 賑やかを通り越した騒がしい明るい声を聞きながら目を閉じる。

 寝れるか? これ。

 まあ、いいや。


 クノーマス領の短い夏がもう終わる。

 この喧騒も短い夏の思い出だ。

 明日ちょっと寝不足でも、後悔なんてしないんだから。


本編の更新はこのあと11時予定です。

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