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『ハンドメイド・ジュリ』は今日も大変賑やかです 〜元OLはものづくりで異世界を生き延びます!〜  作者: 斎藤 はるき


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8 * ポテンシャル高いよリザード様は

お待たせしました。再開です。

 



 白土は使わず疑似レジンを使った、フィンの思い付きに軽々しく乗って疲労困憊になるという苦行を強いられて完成した丸テーブル天板。枠は金属にしたのでテーブルとしての強度は十分だろうってライアスお墨付き。慣れた疑似レジンとガラス板を使って作ったから作業は細かくて時間がかかったけど大きな失敗もなく概ね納得の仕上がりに。白土を使ってテーブル天板を作るなら、少し数をこなして鱗との相性などを考慮しつつ試作を重ねるしかないね。

 それを考えると、ランプの前に置いて使ったり実際ランプシェードとして組み立てて使える四角いステンドグラス風の物はいい練習にもなるから早速商品化してもいいかもしれない。


 店の作品作りをキリアやおばちゃんたちに任せっきりにしたかいがあった。

 三日で作りたいものはもちろん、問題点も洗い出せたと思うからリザードの鱗はお店の商品として並ぶまで時間はかからない。いい素材の提供ありがとうございますリザード様。


「きれー、何これ。リザードの鱗ってこんなに薄い色もあったんだ? あたしはこっちの色のほうが好きかも」

 キリアは非常に食いついて、そのあと即席で私が作っておいた鱗のアクセサリーパーツの試作品を見ながら

「穴が開けられないなら、こんな風にパーツを接着か……でも、あえて針金巻き付けるのもありじゃない? うーん、これ、ボタンにも出来そう、研磨出来るならボタンパーツ付けるだけでいいし」

 ってブツブツ独り言。作品作りには彼女もいろいろアイデアが生まれてそうなので楽しみだね。

「いやぁ、これ、店の入り口においてたら客の目を引きそうだね!」

 おばちゃんが言った通り。私も似たことを考えてた。

「そうそう、これに合わせて背もたれにリザードの鱗使った椅子を二脚つくって外に置こうと思って」

「え? 外にかい?」

「うん、店頭のインテリアにね。殺風景だったから何か置きたいなと思ってはいたんだけど、どうせなら作品に関連するものを置きたかったんだよね。時々営業時間が変更になったり休業日の予定の看板出してるけど、あれ壁に掛けてたでしょ? 営業中はそれを置くにもいいなと。あとはテーブルそのものが宣伝になるしね。営業中は自警団の人たちが警備で常に横にいるから盗難にあうこともないでしょ」


 試作品第一号のランプシェードもどき二つとテーブル天板はグレイ個人の屋敷に既に持ち込まれているわよ (笑)。家族に見せたら黙って持っていかれるからって寝室に置いてる。夕べ二人で実際ランプの前に置いて夜に見たけど雰囲気いいわねぇ。形や大きさも工夫するとロマンチックよ。そしてテーブルが意外だった。

 夜に同じ部屋に置いていたんだけど、もちろん天板だけだから壁に立て掛けてたのよ、そしたらね、表からランプの光を浴びると実際の色より濃く見える。それが凄く絶妙な色合いで、壁の装飾にも使えそうだって話になったの。

 リザード様、まだまだ使い道はありそうです!! 伸び代半端ない!!


「宣伝ねぇ、また人をやたらと呼びそうな気配がするよこれ」

 レース編みのおばちゃんトリオの一人ナオが面白そうに笑う。

「リザードの鱗がどれだけ入手出来るか、価格がどれくらいに落ち着くかまだわからないけど、使い道はあると思うよ。一枚がそれなりに厚みがあって疑似レジンに閉じ込めるアクセサリーパーツとしては使えないけど、これそのものを上手く活用する方法はいくらでもあるしね。加工自体は研磨が一番の要になるから、それ用の道具さえ確保できれば多分そんなに製作に支障はないはず」

「そだね」

 キリアはまだテーブルをまじまじと見つめている。

「強度がなくても、ギジレジンと金属パーツの組み合わせでなんとかなるだろうし、鱗だから形がほとんど決まってるでしょ、扱いは難しく無さそうだね、てゆーかあたし早速これをボタンにしたいんだけど。ぜったい格好いいよ、あ! ねぇジュリ、これカフスボタンにいいじゃん! ギジレジンじゃ量産出来なかった青とか緑の男物小物に使えるよ?!」

「キリア!! 天才!!」

「特別報酬出る?!」

「グレイ! 出してあげて!!」

「はいはい」

 なんてやりとりもありつつ、色々やりたいことが出てきましたよ。










 小物は早速キリアや見習いさんたちに任せたわよ!! キリアがどんどん案を出してくれたの、相性がいいのかね? ボタンにカフスボタン、それからアクセサリーパーツはもちろん、なんと私が白土を使って作りたいランプシェードの作り方を口頭で教えたら低価格のガラスビンにそれを施して花瓶を作ると言い出し、さらにはギジレジンでコーティングしてテーブル天板作れるなら工夫次第で皿も作れるでしょ、って。てか待って、まだ素材がそんなにないよ。今日早速バケツ十杯分は届けてもらったけど、素材を置く場所も作品置く場所も確保してないし (笑)。

 いやはや、頼もしい重役 (すでに皆そう呼んでる)ですよ、ほんとに。


「……倉庫、新たに確保だな」

 グレイが面白そうに言ってたわ。

 あ、ちなみに、港では今リザード系の廃棄鱗がかき集められていて、見習い職人さんたちが師匠の指示の下、割ったり傷つけたりしないよう素早く皮から剥ぎ取る指示を受けながら今か今かと買い取りを待っていてくれているそうな。

 元は廃棄される、割れやすい鱗だし、研磨の際に多少のロスも必ず出るだろうからと規定のバケツ一杯で四十リクルとクノーマス侯爵家の管財人さんが当面の間の価格を決めてくれた。安いかな? とも思ったけど、高すぎても今度正規の鱗の価格に影響を出しては不味いだろうということで決まったし、加工をする職人さんたちはむしろそんな価格で買い取ってくれるし、皮の廃棄も減るからと喜んでくれたらしいので、その辺は私はもう口出しはしないことにした。

 安く手に入るに越したことはないしね。


 という訳で、私は当初の目的に沿ってランプシェードを作る。

 白土を流し込む、四角い平面に仕上げることはおばちゃんたちでも問題なく出来ることがわかって、これについては色合いや大きさ、枠の素材を決めていくだけで作り手はどうにかなりそうだね。

 問題はやっぱり、曲面のものよ。

 工房で考えてたらふと目についたものが。


 あれ、キリアと同じでガラスの皿とか器使えばいいのか。


 と、今さら気づきまして。

 いやぁ、素材に夢中になってるとそういうのすっぽり頭から抜けるね。そして時間差で思い出す。

 上手く抜き取るためには表面の滑らかな品質のいいガラスのビンや器が必要だけど、大きい物はまだ作るつもりはなかったからちょうどいい。小振りなものだと懇意にしているガラス工房が今まさに上質なものを作り出せるようになってきているからね。

 いずれは型として使うんじゃなく、トルコのランプみたいに直接張り付けて作れたら最高だね、今は勿体なくてそう出来ないけど。

「うちにもガラスの器はいくつかあるから持ってこさせよう」

 ってグレイが侯爵家に使い出してくれました。


 ……ん?

 侯爵家に使い出す?

 あれ?

 なにか忘れてる気がする。


「あ」

 しまった、と言いたげにグレイが声を出した。

「何か新しいものを作るとバレるな、誰か来そうだ……」

 だよね。

 うん、来るよね。

 私もそう思う。

 思うっていうか、決定事項だよね。


 そうか、来るのか。

 作品作りに没頭したかったけどなぁ。

「……すまない」

「うん、いいよ、大丈夫」

 そしてもちろん、暫くして侯爵家の方々がいらっしゃった。しかも何故か四人揃ってた。

「父上は事業の一部見直しをするんじゃなかったんですか?」

「お前こそ土地開発の件で管財人たちと打ち合わせだったろう」

 侯爵様とエイジェリン様が不穏な空気を纏いつつ工房に入って来たら、グレイがそんな二人を捕縛して馬車に突っ込み送り返してた。男三人ギャアギャアと騒がしく口論してたけど、今回はグレイが力業でねじ伏せて勝利をもぎ取ってた。どう考えてもただの口喧嘩とは思えないドカン! ガタン! という音は聞かなかったことにしておくわ。

「うるさくてごめんなさいね? これからも押し掛けるようであればグレイセルに遠慮なくやってもらってちょうだい」

「工房が狭くなるからちょうどいいでしょう?」

 シルフィ様とルリアナ様が何事もなかったかのような笑顔だけど。

 ……あの、押し掛けたのは、お二人も。とは死んでも言えない私。

「押し掛けてるのは二人も一緒だ」

 と、私の後ろで言ったのはもちろんグレイ。


 ガラスの器をいくつかお借りすることにし、預かったそれらを別の場所に置いてから、お二人の前に私とキリアが試作した物をいくつか並べた。

 四角い木枠と金属枠それぞれに白土もしくは擬似レジンで固めたランプシェードもどき。これはブックスタンドをヒントに作った。T字を逆さにしたあの安定感のある形を利用して、ランプの前に置くだけでいいように。これなら価格も抑えられて作りやすい。そしてヤスリで形を整えた鱗を使った、金属台座に張り付けただけのアクセサリーパーツ。ネックレスやイヤリングに即席で仕上げたのよ。

「綺麗だわ」

 ほう……と、感嘆のため息を漏らしてシルフィ様が笑みを溢しながら呟いた。

「素敵、薄い色合いがいいわ」

 目を輝かせ、ルリアナ様も興味津々といった様子で覗き込んでいる。


「量産できるかどうかは別として、可能性を秘めた素材ですよ、リザードの鱗は」

「そうなの?」

 ルリアナ様が顔を上げ、真っ直ぐ見つめてきた。

「はい。この廃棄部分は『カットと穴を開けることが出来ないだけ』なんですよ、こうして貼り付ける、固めることは出来るんです、今のところスタンラビットの角のように不和反応を起こす素材もないので扱いやすい部類になりますね。アクセサリーだって台座のデザイン次第で他にも作れるかもしれません。薄い色しかありませんが、その色合いを活かせるかどうかは作り手次第ですから今後は試行錯誤あるのみです」

 すると、ルリアナ様はもちろんシルフィ様も急に苦笑する。

「簡単に言うのね」

「え?」

「普通なら、『カットも穴を開けることもできない』って相当のハンデじゃないかしら?」

「そうですか? 私の場合は寧ろそれが出来るとしても私が扱えなければ意味がない、と思いますけど……」

「着眼点の違い、ね。あなたがそうだからこそ、【知識と技術】なのかもしれないわ」


 どうなんだろうね?

 単に私は自分が楽して作りたいだけなんだけども (笑)。


 ふと思う。

 グレイとリザード様の使い途について話しているキリアに私は視線を移す。

 もし、シルフィ様が言うように私の考え方、価値観がこの世界では珍しい、ずれているとするならば、彼女はやはり『特別』だ。

 私が作りたいものを説明するだけでキリアは凡その想像が出来る。これはレース関連で突出して恩恵を受けているフィンと同じ。キリアはレースも編めるけど、単に私が作りたいものへの興味の方が大きいからレースを手掛けることがないだけ。

 彼女の価値観や想像力は極めて私のものに近い。それゆえ私が忘れていることや見落としていることを隣で引き出し拾い上げる能力があるように思う。

 彼女本来の性質として手先が器用、物を作るのが好き、という部分に『天才』という一言が見え隠れしている。

 それがわたしとの出会いで開花してこれからも成長していく気がする。


『恩恵』。

 その目に見えない不可思議な神様からのギフトは、今後キリアを見守ることで私にどんな影響を及ぼすのか、キリアをどう成長させるのかを見ることで解明できることがあるかもしれない。


「ねえジュリ」

「うん?」

「これでヘアピン作ったらシンプルで大人でも使いやすいわよ絶対」

「あ、うん。グレイ、キリアの次の給料に特別報酬ちゃんと入れてあげてね。今回数が多いから確認忘れずに」

「了解」


 これからもどんどん特別報酬 (デザイン料)を稼いで欲しいわね。


本編には載せられなかったくだらない日常のヒトコマ。


「ねえ、すっっっっっごい気になってたんだけど」

「なんだ?」

「リザード様の肉って美味しいの? 肉の話って聞いたことないからもしかして美味しくないのかな? でもドラゴンは美味しいんでしょ、ちょっと見た目似てるんだから食べれそうだよね? あ、そうそう、この前食べたなんとかスネーク、次は照り焼きにして食べたいわ。あとピラニア見たいな恐ろしい顔をしたのなんだっけ? フライ美味しいよねぇ、次は塩焼きもいいよね」

「ジュリは」

「うん?」

「絶対魔物に嫌われる質だな」

「え、なんでよ。それ前も言われたけど」

「嫌われるというか、逃げられる」

「だからなんでよ? そしてリザード様は食べれるの食べれないの?」


グレイセルとジュリのこの実に無益な会話は新しい魔物の知識を得る度になされています。

ちなみにリザード類はあまり食用に向いてないようです。

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― 新着の感想 ―
 ワニ美味しかったけどな…リザード様食えないのか…。
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