第六話 仲間が増えたよ
「飽きた」
出発から3時間くらい経ったころ、さっそく俺は飽きていた。
代わり映えしない景色。いっさい魔獣の現れない道中。
平和なのはいいことだがここまで何もないと飽きてしまう。
「まだ半分もいってないっすよキクチさん。行商人には向いてないっすね」
ロバートは荷車でぐでっとしている俺に笑いながらそう話す。
まだ半分もいってないのか……尻も痛くなってきたというのに。
「はやいはやーい!!」
ちなみに3時間の間ソラは荷車でずっとはしゃいでいる。
自動車に慣れた俺からすれば馬車は遅く感じるのだが生まれてこのかた乗り物に乗ったことのないソラからしたら十分早く感じるのだろう。
「はは、ソラっちは行商人に向いてるかもしれないっすね……ん?」
何かを見つけた様子のロバートは馬車を止める。
異変を感じ取った俺も体を起こしあたりを伺う。
「どうした?」
「いや、あるものを見つけたんで教えようと思ったんすよ。ほらあれ」
ロバートの指差す方向を見ると、そこには今や見慣れたぷるぷるした青い物体が茂みから顔を出していた。
「スライムだ!」
思わず俺は荷車から飛び出しスライムへ駆け寄る。
ソラ以外のスライムに会うのは初めて。このスライムも話せるのだろうか?
「こ、こんにちは。いい天気だね」
おずおずと話しかける。
新しいスライムは青色だがソラよりも深い青色だ。空というより海の色に近い感じだ。
「こんにちわ。ますたぁ」
なんとこのスライムも喋れるみたいだ!ソラと同じで舌ったらずな喋り方。この子もまだ子供なのだろうか?
「ほへーソラっちだけじゃなく他のスライムも話せたんすねえ。これもキクチさんの力のおかげなんすかねえ」
ロバートも後ろで感心しているが今はそれどころではない。もっと気になることがあるのだ。
「今俺のことを『マスター』って言ったか? どういう意味なんだ?」
「え? だってますたぁはすらいむますたぁなんでしょ?」
何を当然のことをとばりに野生のスライムは答える。
いやいやなんで野生のスライムが俺のことを、しかもスライムマスターのことまで知ってるんだ。
もしかして何者かが俺のことを広めてるのか?
「一体何で俺のことを知ってるんだ?」
「それはね、そらがおしえたんだよ!」
俺の質問になぜかソラが答える。
ソラが教えた? いったいどういうことだ、ソラは俺と出会ってから片時も離れていない。他のスライムと会う機会なんてなかったはずだ。
「キクチとあったひにみんなにじまんしたんだ! すらいむますたぁのキクチとともだちになったって!」
「俺と会った日……?」
俺とそらがあった日といえばグランドウルフと戦った日だ。
あの日は家に帰ってご飯を食べて部屋に戻ってそらとおしゃべりしながらそのまま一緒に寝たはずだ。
俺が寝てから外出したのか?
「ぼくたちはあわなくてもおはなしができるんだ! だからもうここらへんすらいむはみーんなキクチのことをしってるよ!」
「合わなくても話せる?」
「うん!」
そらから聞いた話によるとスライム同士はかなり離れていてもテレパシーで話せるらしい。その距離は俺が世話になってるタリオ村から今向かってる王国まで離れていても余裕らしい。
ちなみに距離に換算すると約100km。すげえ。
しかもその会話は1対1ではなく不特定多数と繋がりあってるようだ。
まるでネットワークみたいだ。
「ロバート、こんな能力持っている生物っているのか?」
「いやあ聞いたことないっす。魔族の中には長距離離れていても会話できる種族がいるってのは聞いたことありますがそれもかなりの魔力を使うと聞くっす。とてもそらっちの言うような万能な能力ではないっす」
「そうか……」
ということはスライムはやはり他の生物とは違う何か秘密があるみたいだな。
もしかしてスライムマスターってすごい能力なんじゃないか?
「まあとにかくお前も俺とくるか? 無理にとはいかないが」
「うん! ますたぁのそばにいるとなんだかいいきもちになるからぼくもいくよ!」
どうやら俺にはスライムを癒す力があるようだ、スライムマスターの効果だろうか。
そらがすぐ俺に懐いたのもこの力のおかげってわけか。
「そうか、じゃあ荷車の空いたところに」
俺が新たに仲間になったスライムを持ち上げ荷車に積もうとした瞬間、それは起こった。
とぷん。
不思議な音とともになんとスライムが俺の手より消え失せてしまった!
一体どこへ行ったんだ!?
「お、おい! 大丈夫か!?」
思わず掴んでいた右手に話しかけてしまう。
なにやってんだそんなとこにいるわけ……
「だいじょうぶだよますたぁ」
とぷん、とまた音を立ててスライムは俺の右手に現れる。
嘘だろ? 俺の見間違えじゃなきゃ今……
「い、今俺の体から出てこなかったか?」
「うんそうだよー」
うんそうだよて……。
軽く言ってくれるが俺の体はどうなってるんだ!?
「はへーこれもスライムマスターの力なんすかねえ。荷物も体内に入ったら嬉しいんすけど」
「おいおい人を収納アイテム扱いすんな……ん? そう言えば」
ある事を思い出した俺は懐より二枚の紙を取り出す。
「ん? なんすかそれは」
「これは俺とそらの能力値表だよ」
「へえ、そらっちのもあるんすね」
俺とそらは昨日、エイルの能力値開示を受けていたのだ。
なんでも初日に情報をあまり引き出せなかったことを気にしていたらしく、急遽特訓し少しだけ上達したらしい。なんと健気な娘だろうか。
「収納って聞いてこれを思い出したんだ。ここを見てくれ」
「えーとなになに……」
ロバートに見せたのは俺の特殊能力欄だ。
最初はスライムマスターとしか書かれてなかったがエイルの努力のおかげで少しだけ詳細が明らかになっていた。
それがこれだ。
特殊能力:スライムマスター『粘体生物意思疎通』『スキル共有(粘体生物)』『粘体生物収納×100』
共有特殊能力:粘液体質『物理半減』
「おお……これは盛りだくさんっすね」
紙を見たロバートは感嘆の声を上げる。
俺もそれを見た時はビビったものだ。まさかスライムマスターにそんないっぱい効果があるとはな。
「てことはこの『粘体生物収納』ってスキルの効果でスライムちゃんがキクチさんの中に入ったんすかね」
「多分な。もし本当にそれ通りだとしたらあと99体も入ることになるな」
物理法則完全無視だな。
さすがファンタジー世界だ。
「ちなみにそらのがこれだ」
俺はそらの紙もついでに見せる。
エイルが言うにはスライムの能力値開示はおそらく世界初だそうだ。
なぜなら能力値開示をするにはその者の名前を術者が知らなければいけないからだ。
「へえ、これがそらっちの能力値っすか」
対象者:そら
種族:粘体生物
階級:Ⅾ
魔法適性:ナシ
特殊能力:粘液体質『物理半減、体積変化』
「ふむふむ……って、ええっ!! 階級Ⅾ!?」
ロバートが驚くのも無理はない。
スライムはずっと最弱の階級Gだと思われていたのだ。それが階級Dとは驚きだろう。
「それに何か強そうな特殊能力まで持ってるとはそらっち恐るべしっす。子どもでこれじゃあ大人のスライムはもっと強いんすかね?」
「かもな。そこらへんも知りたいからまたスライムを見つけたら教えてくれ」
「ういっす。じゃあそろそろ出発しますか」
「ああ」
俺はスライムを右手で再び収納すると荷車に再び飛び乗る。
ん? なんだかさっきより少し体が軽い気がするな、気のせいだろうか。
まあいいか。まだまだ旅は始まったばかり。慌てず行こう。