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スライムマスター菊地 〜最強粘体生物伝〜  作者: 熊乃げん骨
第四章 王国大防衛戦線
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第七話 すれ違い

「我らが主人の準備が整ったようです」


 メイドの一人が突然そう発言し、城内に緊張が走る。


 彼女は誰かと話したようには見えなかった。

 いったいどのようにして来ることがわかったのか?


 フロイ王子はそのことが気にかかるが、そのことに脳のリソースを割いている暇はない。

 今大事なのはスライムマスターの機嫌を損ねることなく、部下と自分が五体満足で国に帰ることだ。

 お願いを聞いてもらえるかも大事だが、欲をかきすぎるのは身を滅ぼす。

 フロイは若いながらもそのことをわきまえていた。


「それではキクチ様の登場です」


 騎士団達が入ってきたドアとは逆にある重厚な扉を、二人のメイドがかしこまった様子で開ける。

 ギギギギ、とこれまた重厚な音を鳴らしながら扉は開き、この城の主が姿を見せる。


「遠路遥々来ていただき感謝の言葉もない。私がここの城の主、キクチだ」


 現れたのは全身を透明な水色の鎧を身にまとった人物。

 その立ち振る舞い、言葉遣い、そして滲み出る強者のオーラは、フロイが王国で出会った人物と同じとは思えなかった。

 フロイは正直王国でキクチと接触した時はたいした人物のようには見えず肩透かしをくらっていたのだ。


 しかし目の前の人物から放たれるオーラは歴戦の戦士と同等か、それを上回るほどのものだ。

 フロイは王国であったのはもしかしたら別人なのではないのかとすら思い始めていた。


 王子が緊張していることなど露知らず、鎧姿のキクチはゆっくりと歩きながら机に近づきいて騎士団と向かい合うように座る。

 その威圧感に王子だけでなく騎士団長含む騎士団の面々も緊張し手に汗を握らせる。


(みんな固まっちゃってる、このままじゃまずいね……)


 このままでは萎縮してしまい会話にならないと思ったフロイは自分から会話を切り出すことにする。


「あの……」


「久しぶりだなフロイ王子。王国で会って以来だな」


「っ!」


 やられた。

 フロイはここに来て相手が知略においても自分を上回る存在なのだと認識した。


(僕を目にしてこの落ち着き、間違いない。彼は王国で初めて会った時から僕が王子だと気づいていたんだ……! ということは僕の目的も既に筒抜けというわけか!)


 フロイはそう認識したが、もちろんこれは盛大な勘違いだ。

 キクチは緊張して何か世間話でもしようとしただけであり、フロイ達の目的など見当もついていない。


(やべ、向こうも何か話そうとしてたのに遮っちゃったな。王子の機嫌を損ねてなきゃいいけど)


 鎧の下の本心はこんな感じである。

 しかしフロイは既にキクチが全て理解しているという前提で話を始める。


「久しぶりです、また会えて光栄ですキクチ殿。あの時は身分を隠して近づいて申し訳ないです」


「いいんだ。そちらにも色々事情があるんだろう」


 フロイはその言葉にホッと胸をなで下ろす。

 ひとまず相手にそれほど悪い感情を与えてないみたいだ。


「聡明なあなたにこれ以上無駄な会話は不要でしょう。私が今回来たのはあの件(・・・)を解決するのにあなたの力をお借りするためです」


「あの件……か」


「はい、あの件です」


 ゴクリ、と生唾を飲込む音が城内に反響する。

 フロイは騎士団の誰かが鳴らしたのだと思うがそれを咎めない。この尋常じゃない緊張感が充満する状況で逃げるそぶりを見せない彼らをむしろ褒めてやりたいくらいだった。


 そしてその生唾を鳴らした本人はパニックに陥っていた。


(あ、あの件ってなんだよおぉっっ!?)


 さも知ってて当然のように王子は言っているが当然キクチに心当たりなど一つもない。

 しかし今ここで「あの件ってなに?」とでも言おうものなら王子に幻滅されかねないとキクチは考え口に出すことができない。


(いったいどうすりゃいいんだ?)


 キクチは鎧の下を汗でびしゃびしゃにしながら知恵を振り絞るのだった。

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― 新着の感想 ―
[一言] 四年前なのかこれ……。 まあ、確認せずに読み始めたからなー。 とりあえず流行りアニメのガーデンマスターさん同様に誤魔化せばいいよ。 「それで、何処までを話し合うのだね?」とか。 「そち…
[良い点] スライムが可愛い強い!いろいろな種類のスライムが活躍! [気になる点] 続きは...スライムちゃんは...
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