第五話 出迎え
城門が開いた先、そこで王子一行を出迎えたのは何百人もの人、そしてそれを超える数のスライムだった。
しかも集まっている人間、その全員が強者のオーラを放っているではないか。
この時点でフロイは早々に武力行使のプランを諦める。
(下手したらこの村だけで王国と渡り合える戦力を持っているんじゃないか!? いったいどうなってんだこの村は!?)
フロイは気が遠のき倒れそうになるが、歯を食いしばり踏みとどまる。
ここで倒れては面目丸つぶれだ。
そして人も気になるが、スライムも異様だ。
見たことも聞いたこともないようなスライムがこれでもかと並んでいる。建物より大きな巨大なスライムに色とりどりなスライム。変な形のスライムに飛んでいるスライムなんてのもいる。
そんな多種多様な人とスライムが、まるで道を作るように左右に列を作っている。
「まさかここまで統率が取れているとは!」
「ふふふ、驚きましたか?」
驚く騎士団長エッケルに親衛隊の一郎が話しかける。
「これこそ我らの忠義の証。忠誠心でしたら騎士団にも負けませんよ」
一郎は得意げにそう言いながら歩き出す。
続いて騎士団もついていくが、両脇をキクチの配下に囲まれている為圧迫感が凄く萎縮してしまう。
騎士団は団長入れて12人。もし今両脇を固める者が襲いかかってきたら抵抗する間もなく全滅してしまうだろう。
先程までの礼儀を重んじる態度を見ればそんなことは起きないと思いつつもやはり不安感は抜けない。
しかしそんな中でも王子だけは毅然と歩く。
その姿を見た騎士団のメンバーは「やはりこの人についてきて正解だった」と思う。
他の二人の王子だったらこうはいくまい。戦闘力という点で見ればフロイは兄たちに劣るが、その知性と勇気においては遥かに兄を凌駕する。
そんなフロイを信頼しているからこそ騎士団はこんな極秘の行動を共にしているのだ。
「さて、あちらでキクチ様がお待ちです。どうぞ中へ」
そう言って一郎が指したのは小さなお城のような建物だった。
三階建てとそれほど大きくはないがその城はしっかりとした作りだ。
もちろんこれもスライムたちが今日のために急ごしらえで作った物なのだが、事情の知らない者から見たらとても一朝一夕で作ったものとは思えないだろう。
しかしスライムたちは少し不満が残っている。
時間が足りなかったのとキクチが反対したのでこのサイズに止まっているが、実は王国の城並みの大きな城を建てる気だったのだ。
王子一行は圧倒されながらも城に入っていく。
その中で待ち受けていたのは6人の見目麗しいメイドたちだった。
「城壁に城、更にメイドまで……!? 本当に小さな国じゃないか!」
エッケルが驚くのも無理がないほどメイドたちは完成されていた。
全員が王国で働いているメイドと同等、いやそれ以上に容姿が優れており、更にその所作も完璧だ。
王子たちは一体どこからこんなに人材を集めたのかと恐怖すら覚える。
彼女たちはカラーズの桃がリーダーを務める『メイド隊』だ。
親衛隊がキクチの護衛を担当し、メイド隊はキクチの身の回りの世話を担当する。
メンバーは桃と桃が厳選したスライム5人により構成されている。
メンバーに選ばれるには桃による厳しい審査に合格しなければならず、合格するには美貌と世話スキルの両立が求められる。
この審査には女性型スライムのほとんどが参加した。みんなキクチの世話係がしたく気合が入っていたのだが、桃の鬼の審査によりそのほとんどが落とされ倍率はなんと100倍にまでなった。
そして見事選ばれた5人のスライムだが、合格した彼女たちを待っていたのは桃の地獄の特訓だった。
礼儀作法から掃除に食事、更に最低限の先頭訓練までみっちりと彼女たちは叩き込まれた。
その訓練を彼女たちは見事脱落者なく乗り切った。
それも偏に自分たちの敬愛するキクチへの愛がなせる技と言えよう。
ゆえに彼女たちに王子たちが驚くのも無理はないのだ。
「どうぞおかけ下さい。間も無くキクチ様がいらっしゃいます」
メイドたちに案内され、王子たちは大きな長方形のテーブルに案内される。
「このテーブルも椅子も一体どこから仕入れたんだか……」
用意されたテーブルと椅子は見るからに最高品質の石や木でできていた。
もちろんこれも買った物ではなくスライムたちが一から作った物だ。
「さて、いよいよご対面か……」
額から流れ落ちる汗を拭い、フロイはキクチを待つのだった。




