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スライムマスター菊地 〜最強粘体生物伝〜  作者: 熊乃げん骨
第四章 王国大防衛戦線
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第三話 進軍

 約束の2日後。

 タリオ村と王国を繋ぐ街道を進む一団がいた。


 派手さこそ無いが堅牢そうな馬車を中心に、騎兵隊が周囲を囲んでいる。

 もちろんこれはエクサドル王国の第三王子一行だ。


 今回のタリオ村訪問は国王にすら秘密の極秘訪問である。王子はわざわざ秘蔵の影武者を立て、騎士団の大森林調査の任務に合わせて共に王国を出たのだ。


 そんな一行の先頭を走る王国騎士団長エッケルは、馬車に近づき戸を叩く。


「フロイ王子、間も無くタリオ村に到着いたします」


 エッケルがそう言うと、馬車の窓が開き中から第三王子フロイが顔を見せる。


「……そうか、ご苦労」


 長旅で疲れたのか顔色が少し良く無い。

 しかしそれも無理のない話だ。

 この馬車は普段王族の乗るような揺れを和らげる機能を持った乗り心地の良い馬車ではなく、騎士団がよく使う頑丈さに重点をおいた馬車だからだ。

 長旅に慣れてない者ではすぐに気持ち悪くなってしまうだろう。


 エッケルはそんな様子の王子を心配しながらも質問する。


「しかし本当なんでしょうか。タリオ村が様変わりしていると言うのは」


 エッケルは今回の訪問にあたり、部下を先行させ封書を届けさせていた。

 部下は問題なく帰ってきたのだがその様子がおかしかった。

 部下は興奮した様子で「し、城みたいな壁があった!」などと騒ぎ立てたのだ。


 当然タリオ村にそのようなものは存在しない。最初は部下が洗脳や幻覚にかけられたのだと思ったが、検査をしてもその形跡は発見できずにいた。


「さあね。もしかしたら城壁とまではいかなくとも本当に巨大な柵で村を囲んでいるのかもしれないよ。でもそれくらいできないと僕たちの依頼(・・)は達成できないかもしれないけどね」


「左様ですな。スライムマスター……期待はずれではないといいのですが」


 二人がこれから出会う人物のことを想像する。

 そんな中、突如隊の先頭がざわつき始める。兵たちは混乱している様子だ。

 異変を察知したエッケルは「む、失礼します」とフロイに頭を下げると部下の元へ馬を走らせる。


「どうした! 静まれ!」


「し、しかし隊長! あれを!」


 エッケルは取り乱す部下の指先に目を向ける。

 そこにあったのは、王国の城壁に匹敵するほどの見事な城壁だった。

 戦闘のプロのエッケルだからこそ分かる。あの城壁は見掛け倒しなどではない。王国にも負けない硬さを誇ると見ただけで理解できた。


「これほどのものを作るとは……!! いったい奴は何者なのだ!?」


 エッケルはスライムマスターを品定めに来たのだが、もしかしたら品定めされるのは自分なのかもしれないという恐怖に襲われる。

 そもそも自分は無事で帰れるのだろうか? 王国で見かけたときは大した男では無いという印象だったので完全に油断していた。


 エッケルは自分の浅慮さを呪う。

 もしスライムマスターと敵対してしまったら王子だけは守らなければならない。

 エッケルとその部下たちは警戒度を限界まで上げ、歩を進める。


「ふふ、まるで魔王城にでも行くみたいな空気だね」


 圧倒される兵を見ながらフロイは笑う。


「しかしフロイ様、撤退も視野に入れたほうがよろしいのでは?」


「馬鹿を言わないでよエッケル。どうせ逃げ帰ったところで王国は近い内に滅びる(・・・)。だったら例え相手が魔王であったとしても逃げ帰ることなど出来ない」


 そう言い放つフロイを見て、エッケルはこの人について正解だったと確信する。

 他の二人の王子は王位を受けつぐ事に固執し大局を見ていない。

 しかしこの王子だけは大局を見据え、更に国のためなら己の身を削る覚悟も持ち合わせている。


 絶対に守り抜いてみせる。


 エッケルは再び胸の中でそう誓い、謎多きタリオ村へと歩を進めるのだった。

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― 新着の感想 ―
[一言] あ、斥候居ないんだ。 しかも、確認せずに王子連れてきちゃう。 ……余程困ってるんだね。
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