表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
スライムマスター菊地 〜最強粘体生物伝〜  作者: 熊乃げん骨
第一章 スライムマスター
2/57

第二話 スライムとの出会い

「ふう……ふう……」


 くわを振り上げ、下ろす。

 一歩後退し再び振り上げ、下ろす。

 しばしそれを繰り返した俺は日がすっかり昇っていることに気づき、いったん手を止める。


「はあ、今日もいい汗かいたな」


 俺は自分の耕した大地を満足げにながめながらつぶやく。


 このファンタジーな世界に来てから早三日。この村にも少しづつ慣れてきた。

 職無し宿無し甲斐性無しと散々だだった俺はエイルの厚意に甘えて教会の一室に住まわせてもらっている。

 流石に何もせずに居候するわけにもいかない。かといってこれといった特殊技能も持っていなかった俺は教会裏手の畑を耕す手伝いをしてるってわけだ。


 しばらく肉体労働とは無縁だったので初日は筋肉痛で死ぬかと思ったが三日も経てば人間は慣れてくる者で今は心地よいくらいの痛みしかない。


「おはようございますっス、キクチさん」


 俺が仕事の余韻に浸っていると馬車に乗った青年に話しかけられる。


「おう、おはよう。今から王国か? お前も働き者だなロバート」


 彼の名前はロバート。このタリオ村に住む青年だ。

 若いながらも行商人見習いとして立派に働いており、この村とエクサドル王国を行き来し商売している。利発的で人当たりがいい彼とはこの世界に来てすぐに仲良くなり、こうして世間話をするようになった。


「今年の王国は作物が不作だったらしいすからね、今が稼ぎどきなんすよ! うちの村の物をバンバン売りさばいてきてきますよ!!」


 ロバートは白い歯をニカっと光らせそう言う。

 たくましい奴だ。


「あ、そうそう。不作の影響が王国周辺の魔物にも影響を与えているみたいで凶暴化してるらしいっす。うちの村は大丈夫だと思うんすが気をつけてくださいっス」


「そうなのか。まあ俺なんか役には立たないと思うが気をつけるよ」


 魔物が来たら俺なんかとても太刀打ちできないだろう。

 ゴブリンにだって惨殺される自信があるぞ。


「まあそうっすね! じゃあ俺はもう行くっす! キクチさんも頑張ってくださいっす」


「ああ、達者でな」


 なかなか辛辣な言葉を残しロバートは馬車を走らせ去っていった。商人は冷たい人が多いと聞いたがあいつも影響されてしまったのだろうか。


 まあ何はともあれまずは飯だ。

 魔物に関しては問題ないだろう。この村は特殊な魔法がかけられた柵に囲まれているらしく、その効果で魔物は近づいてこないのだ。そのおかげでこの村は豊富な自然の中にありながら平和に生活できるのだ。


「よいしょっ……と!」


 手頃な岩に腰を下ろしエイルが作ってくれた昼飯を広げ始める。シンプルなおにぎりだが味付けが上手でありコンビニの物とは桁違いに美味い。今日も楽しみだ。


「さて、いただきま……ん?」


 口に入れようとした瞬間、足に何やらぷにぷにしたものが当たる感触がした。

 村で飼われている犬だろうか。俺の昼食を奪いに来たのか? 


「悪いがこれをあげるわけにはいかないんだ……」


 丁重に断ろうとした瞬間、俺は信じられないものを目にする。


「……え?」


 なんと俺の足をぷにぷにと押しているのは綺麗な水色のまんまるのぷにぷにな物体。

 いわゆる『スライム』と呼ばれるモンスターだった。


「お、おわあああああっ!!」


 俺はおにぎりを死守しながら転がりまわって退避する!

 な、なんでこんなところにモンスターがいるんだ!? モンスターは柵を越えられないんじゃないのか!?


 ビビり倒す俺をよそにスライムはその場でぷにぷにしながら動こうとしない。

 目や口がないのでどこを向いているのかわからないが何となく俺を見ている気がする。

 い、いったいどうしようか。スライムはもっとも弱いG級モンスター。俺でも十分に倒せるはずだ。


 待て、しかしこれはチャンスでもある。

 今まで俺は村の外に出てこなかったから魔物にもあったことはない。だから俺の唯一の特殊能力スキル『スライムマスター』を使ったことがなかったのだ。


 知りたい。

 俺が唯一手に入れたこの能力の力を。


「こ……こんにちは」


 俺は思い切ってスライムに挨拶をしてみる。

 しかしよく考えると挨拶が返ってくるわけがない。

 なぜならスライムには知能がないと言われているからだ。教会にあった俺の現在の愛読書「魔物大全」にそう書いてあった。


「そうだな、じゃあ次はなにを……」


『こんにちは!』


 考え込む俺の耳に突然小さい子の声が飛び込んできた。

 まずい。魔物と一緒にいるところを見られたらパニックになりかねない。何とかして隠さなければ!


 俺はバッと振り返り子供を探そうとするが、なんとそこには誰もいなかった。

 あれ? どこから話しかけてきたんだ?


『こっちだよ』


 逆方向から聞こえる声。

 それに導かれるまま正面へ向き直るがやはり人っ子一人いやしない。どうなっているんだ?


『むう、もっとしただよ』


「下?」


 言われるまま視線を下にスライドさせるとさっきのスライムがいる。

 ま、まさか……!


「も、もしかして君が喋っているのかい?」


「うん! ぼくはスライムなんだ。よろしくね!!」


 そういってぽよぽよ跳ねる水色のスライム。

 このスライムが後に最高の相棒になるとは、その時の俺は知る由もなかった。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[一言] 何を言うのか、寝ている時に攻撃されたら死にますよ。 赤ちゃんなんか起きてても無理ぞ。
[一言] どんだけビビりなんだよ(笑)
2019/11/14 03:18 退会済み
管理
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ