第十四話 死闘
10mを優に越す巨大な体。
大木のように太い胴体に熟練の剣士の斬撃さえ弾く鋼の甲殻。
6本ある腕には剣よりも鋭い切れ味を持つ鎌が生えている。
そして頭部にある複眼は一度捉えた獲物を決して逃すことなく地の果てまで追い詰める。
これがA級モンスター、ギガマンティスの特徴だ。
『キィー! キィー!』
そのギガマンティスが怒り狂っていた。
ゆえに奴は怒りに身を任せ行動する。
己の破壊衝動を発散する対象をさがすため。
そんなギガマンティスの元へヒュン! と何かやら球体のような物が飛んでくる。
『キィ!?』
自慢の複眼でそれに気づいたギガマンティスはそれを避けるが、なんとその球体は途中で向きを変えギガマンティスの方へ向かっていく。
そしてその球体はなんと途中で形が変わり剣の形になりギガマンティスの体に突き刺さる!
「よし、上手くいった!」
その様子を見て声をあげたのは水色の鎧に身を包んだ人物。そう、スライム・ナイト状態の俺である。
その後ろにはアンディとバズもいる。
「よし、もういっちょ!」
俺は手にスライムを出すと力の限り投げつける!
投げられたスライムは高速回転しながらギガマンティスに向かって飛んでいく。
ギガマンティスはそのスライムを自慢の鎌で撃退しようとするがスライムは菊地がかけた回転のおかげで軌道が変わり鎌を避ける。
そしてギガマンティスに当たる瞬間、剣に姿を変えギガマンティスに突き刺さる!
『ギィーーー!』
ギガマンティスは怒りの雄叫びをあげると目の色を赤に変える。
これはギガマンティスが戦闘モードに入った証。戦闘モードに入ったギガマンティスの戦闘能力は今までの比ではない。
「来るぞ!」
「うん! もう補助魔法はかけてあるよ!」
「よし! じゃあ作戦通りにやるぞ!」
俺は二人と別れ単身ギガマンティスにつっこむ。
ギガマンティスはそれに応戦し目にも留まらぬ速さで鎌を振ってくる。さすがのスライム・ナイトもあれをくらえばタダでは済まないだろう。
だったら避けるまで。
「雷子! 頼む!」
「任せて!」
俺の呼びかけに応じスライム・ナイトの脚部分が黄色に光り始める。黄色粘体生物である彼女には電気を操る能力と速度を上げる能力がある。それを使えばスライム・ナイトの速力を極限まで上げることができる!
「行くぞ!」
俺の足にバチバチ! と電気が走り速度が急激に上がる。
まさに電光石火。ギガマンティスの鎌は空を切り俺を見失ってしまう。
その隙に俺は懐に潜り込みスライムソードを作る。しかしいつもの青色のスライムソードではない、燃えるように赤い色をしている。
「まかせなだんな!」
赤色粘体生物の紅蓮には火を操る能力と攻撃力を上げる力がある。その彼をスライムソードにしたことで刀身には熱が宿り攻撃力も上がる。
「うえからこうげき! よけてください!」
「了解!」
ヘルムに変化した緑がギガマンティスの攻撃を察知し教えてくれる。
その攻撃を避けた俺はレッドスライムソードで腕に斬りかかる。
「これで……どうだ!」
俺の放った渾身の斬撃は鋼の甲殻を物ともせずギガマンティスの腕を焼き切る!
『キイィーーーッ!!』
大きな腕がドスンと地面に落ちギガマンティスは苦悶の雄叫びを上げる。
よし、これならいける!
俺は攻撃が命中したことで一瞬、ほんの一瞬だけ気が緩んでしまう。
その隙をギガマンティスは見逃さなかった。
「危ねえキクチ!」
叫び声が瞬間、俺は誰かに突き飛ばされた。
「あ、アンディ!?」
俺を押した人物はアンディだった。
いったいなぜ? と思った瞬間目の前でアンディの腹部が裂かれ俺に血が降り注ぐ。
「なっーーーー!!」
理由は明白。
アンディは俺を庇ったのだ。慢心した俺の隙を突いた攻撃に気づいたアンディはその身を呈して守ってくれたのだ。
「くそおっ! ハード・プロテクション!」
アンディを守るようにバズが防壁を張ってくれる。
しかし相手は化け物。長くはもたないだろう。
「今のうちにアンディを!」
「ああ!」
俺は優しくアンディを抱きかかえると猛スピードでその場を離れバズの元へいく。
「アンディ! 大丈夫かアンディ!」
バズが必死に呼びかけ回復魔法をかけるがその間もアンディの腹部から流れ落ちる血は止まる気配がない。
素人目に見てもこのままでは助かりそうにない。
「くそ! 俺のせいだ! いったいどうすれば……」
「わたしにおまかせください」
地面を叩き己の不甲斐なさを嘆く俺の前に現れたのは桃色粘体生物の桃。
彼女はアンディの腹部にピョンと飛び乗ると優しいピンク色の光を放ち始める。
すると何ということだろうか。瞬く間にアンディの傷が塞がり、青くなっていた顔も元に戻っていく。
「……凄まじい回復能力。私の魔法よりもずっと強力!」
やがて容体が安定したのかアンディは「いちち……」と腹をおさえながら体を起こす。
どうやら命に別状はないようだ。本当に良かった。
「すまねえ。もっとカッコよく助けるつもりだったんだが迷惑かけちまったな」
「何を言ってんだ。悪いのは俺だ、もう二度と油断はしないと誓う」
そうこうしている間にギガマンティスは防壁を裂き近づいてくる。
もう様子を見たり手を抜いたりはしない。
持てる全力で倒す!!
「行くぞみんな!」
「「「「「「おう!」」」」」」
そらを含む96のスライムでスライムアーマーを構築。
更にカラーズも同時に変化させ装備する。
そして完成したのはカラフルなスライム・ナイト。
右腕は赤、左腕は青、頭は緑、そして桃色の胴体に黄色の脚となっている。
さながらスライム・ナイトver.2.0といったところか。
「行くぞ!」
雷子の力で俺は速度を上げ一気に近づく。
その間に紅蓮を剣に変え、更に桃の力で身体能力を向上させる!
『キィ!』
しかしギガマンティスもそれに合わせて鎌を振り下ろしてくる。
これが複眼の力か、この速度でも補足してくるとは流石だ。
しかしその攻撃は緑が見切っている。
「頼んだぞ氷雨!」
「おまかせあれ!」
左腕から巨大な青色の盾にが現れギガマンティスの鎌を弾き返す!
しかもおまけに凍結攻撃のカウンター付きだ。
昆虫系魔獣は寒さに弱い。倒すまではいかなくともギガマンティスの動きは鈍くなる。
更に緑が駄目押しと地面からツタを生やしギガマンティスの脚を縛りつける。
これなら攻撃を見切ったところで避けられまい!
俺はギガマンティスの頭部と同じ高さまで飛び上がり最後の攻撃を放つため相棒の名前を呼ぶ。
「これでトドメだ! 行くぞそら!」
「うん!」
そらがアーマーより飛び出しスライムソードに入る。
するとスライムソードがどんどん大きくなりギガマンティスの体長を越すほどになる。
そらは何故か普通のスライムのはずなのにドンドン成長しており普通のスライムの何倍も大きく硬く変身出来るのだ。
「スライム・ビッグ・エッジ!!」
振り下ろされた巨大なスライムソードはギガマンティスの頭部に当たり、そのままスパンッ!! と一刀両断にする。叫び声をあげる間もない一瞬の攻撃。
俺はその一撃で力を使い果たし、スライム・ナイトを解除し地面へ落下する。いくら物理半減があるとはいえこの高さから落ちたら助からないだろう。
これで俺もお終い……かと思いきや何やらむにょんと地面でバウンドした俺は一命を取り留める。
「ん? なんだこの心地よい感触は?」
俺はその落ちた地面を振り返り確認する。
そこにいたのは……
「キクチはそらがまもるよ!」
「さすがだんな! さいこうのいちげきだったぜ!」
「ますたー!」
「さすがです!」
「ますたーはわたしがまもります!」
「ますたぁおもい!」
「ぼくたちのしょうりだ!」
俺みたいのを慕い、一緒にいてくれる最高の相棒達だった。