表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
73/100

67.騎士は自由恋愛

「神妙な顔だな、エリック」

「あら、カミーユ様。お久しぶりです」

「どうも。お久しぶりです、オルコット公爵令嬢」


 癖毛のカミーユに、声をかけられる。私のような貴族の令嬢の前でも臆さない彼は、やはりずいぶん、女性慣れしているらしい。


「何か用か」

「用か、じゃないだろう。お前がオルコット公爵令嬢に呼ばれたって居なくなって、暫く姿が見えないから、探しにきたんじゃないか」

「そうなのですね。ごめんなさい。シャルロット様に会いにきたのですが、お会いした騎士の方が、エリック様を呼んでしまって」

「ああ……申し訳ない。うちの団では、オルコット公爵令嬢と言えば、エリックだから」


 エリックを見ると、むすっとした顔でカミーユを見ている。「余計なことを言うな」とでも言いたげだ。


「そんなふたりが神妙に話し込んでいるから、何かと思ったのですよ」

「大したことじゃない」

「何かあったらエリック様を頼りますね、って話です」


 私が言うと、カミーユは「はあ」と息が抜けるような相槌を打った。


「エリックは非番の日も、ずいぶん公爵家にお邪魔しているそうですが。こいつが何か、頼っているわけではないのですね」

「私が色々と頼っているのです。エリック様が我が家に来ていることを、ご存知なのですね」

「騎士団は、非番の日に出かける際でも、行き先を報告せねばなりませんので」


 秘密裏に進めていたつもりのことをカミーユが知っていることに驚いたが、エリックの説明に、納得する。仮にも武力を備えた、国の騎士団員だ。行き先を把握されることはあるだろう。


「じゃあ、今日は王女様に会いにいらしたのですね」

「そう。ミアーー私の友人に勧められたから。さっきまで、その子とお茶を飲んでいたの。ついでに顔を出してみたんだけど」

「入れ違いで、残念でしたね。今日も元気に飛び回っていましたよ」


 シャルロットの話をする時には、軽薄なカミーユも、穏やかな顔つきをしている。彼女はやはり、騎士団の面々に愛される存在なのだ。


「ご令嬢同士って、どんな話をされるんですか?」

「そんな個人的なことを聞くんじゃない、カミーユ」

「なんでだよ、気にならないのか? あ、答えられる範囲でよろしいですからね」

「そうねえ……」


 お茶会で話したことを、無闇に人に明かすのは難しい。特にミアに関わる話題を、ここで話すわけにはいかない。


「ああ、恋の話をしていましたわ」

「恋の?」

「ええ。私のような貴族は、恋というものが、よくわかりませんの。恋せずとも親が決めた相手と結婚するのが、一般的ですから」


 カミーユは不意をつかれたように、目をぱちくりさせている。いつもは余裕綽々な感じなのに、珍しい。その反応が面白くて、私は続けた。


「騎士の方なら、恋ってどういうものなのかも、よくご存知なのではないかしら……なんて、そんな話をしていましたわ」

「そうですか……恋の話を……」


 カミーユが、エリックをちらりと見る。


「その……不躾なことを伺いますが、今、恋をされてはいないのですか?」

「カミーユ! それは立ち入りすぎだろう」


 珍しく焦った様子のエリックを見て、私は首を傾げた。恋、と言われると、よくわからないのだ。「わからない」という答えしかないし、だから失礼な質問だとも思わない。


「ほら、エリックとは親しくされているじゃありませんか」

「まあ……少なくとも両親は、エリック様を、私の相手として扱っていますわ。私もその扱いに、不満はありませんけど」

「え……」

「だけど、騎士の方は自由恋愛なのですよね? きっとエリック様は、私に恋はしていないでしょうし……私も恋というものが、よくわかりませんから」


 恋というのは、その人のためなら何を捨てても惜しくはないような、セドリックやベイルのような、あの強烈な感情を指すのだろう。私はエリックからはそんな感情を感じないし……そんな風に思ってほしいとも思わない。怖いもの。


「それは」

「カミーユ! いつまで喋ってるんだ!」


 カミーユが何か言いかけた途端、怒号が響いた。飛び上がった彼は、即座に背を向けて呼ばれた先へ走って帰る。


「申し訳ない! 鍛錬に戻ります!」

「……俺も、戻ります」


 次いで、エリックも駆けて行く。その表情が少し強張っているのは、私との会話にうつつを抜かしたせいで、これからたっぷりしごかれるからだろうか。悪いことをした。

 結局、シャルロットには会えないまま、私は鍛錬場を去った。


 帰りの馬車で、エリック達との会話を思い返す。「エリックと親しくしているじゃないか」と言ったカミーユの発言は、私とエリックが恋愛関係にある、という前提のものだった気もする。

 私の家族といい、ミアといい、騎士団の人達といい。周囲の人は皆、私達を恋人扱いする。正直言って、私は何でもいい。恋愛感情なしに、男女としての付き合いがあるのが、当たり前だから。

 でも、騎士は自由恋愛。エリックの気持ちがないのに、このまま外堀を埋められて行くなんて、それでは駄目だろう。私はなんとも言えない気分であった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ