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54.セドリックの贈り物は続く

 倉庫では単体のハーバリウム、セットのもの、ネックレスなどが作られ、種類に分かれて置かれている。


「あら、なんだか雰囲気が違うわね」

「はい。キャサリン様のお話を聞いて、包みというか、外側にもこだわってみようという話になりました」


 明るく応えるニック。ハーバリウムの瓶の蓋に、綺麗なリボンが巻かれ、小さなタグが付いている。見れば、作品のコンセプトや使われている花などが、簡単に書かれている。

 こんな風に説明が付くと、別の観点から作品の魅力を捉えられる。「ソルトレの包装が気になる」という私の勝手な言葉から、彼らはこうしたことを考えたらしい。


「素敵ね。タグも凝っていて、可愛らしいわ」

「考えたのは、彼女なんです」


 ニックに紹介され、働いている女性のひとりが、ぺこりと頭を下げる。新しい職人とも、ニックは上手くやっているようだ。


「アダムス商会の者が、製品を受け取りに上がりました」

「いいわ。通して」


 タマロ王国とのやりとりが忙しいのか、セドリックは最近贈り物を送りつけてくるだけで、滅多に屋敷に現れない。アダムス商会の使いの者は、私が居なくてもこの倉庫をしばしば訪れている。油断して通すと、しかしそこに顔を出したのは、セドリックだった。

 私がセドリックを避けているのは、ノアやリサなど、一部の者しか知らない。父に知れると厄介な問題に発展しそうだからなのだが、それが裏目に出た。


「あっ、お嬢様……」

「製品はあちらで御座います」


 私が何か言う前に、ニックが私とセドリックの間に入る。彼は随分と健康になり、堂々とするようになった。


「これを、お嬢様に」

「はい。……お返し致します」


 セドリックが差し出した包みをニックが検分し、そして返却する。あの綺麗な包みは今回も、アレクシアが手を入れたものだろう。

 あのお店の商品は、どれも可愛かった。エリックに貰ったブレスレットは気に入っていて、今日も着けている。あの中にもおそらく私好みの品が入っているのだろうが、それでも受け取れない。

 セドリックからの贈り物を受け取ってしまえば、彼のストーリーが進んでしまう。ストーリーを終わらせるには、彼の告白を受けなければならない。それは、ありえない話だ。

 早く飽きてくれればいいのに、連日連日何かを贈ってくる彼の執念には、敬服の意を抱きさえする。見返りもないのに、商人として、それで良いのだろうか。そう思いもするが、自分の立場など関係なくのめり込まされてしまうのが、ゲームの強制力だ。


「ありがとうございました」


 セドリックが帰っていくのを確認し、私はニック達に「今後もよろしくね」と声をかける。そして向かうのは、馬車だ。私は今日、「ミア達と食事をする」ということに「なっている」。

 実のところ今日は、アレクシアの店を再度訪れるのだ。彼女から、「続編」の話を聞かなければならない。でも、馬鹿正直に「アレクシアと会う」なんて言った日には、皆に心配され、反対されるだろう。だから、皆には申し訳ないが、嘘をつかせて貰った。


「本当に、俺が同乗して、よろしいのですか。妙な噂になったら……」

「目立ったら噂になるじゃない。大丈夫よ、馬車もうちのとはわからないようになっているから」


 ひとりでは心配なので、非番のエリックに頼み、同じ馬車に乗ってもらっていた。普段は馬で近くを走る彼だが、今日は同じ馬車。

 独身の男女が同じ馬車に乗るというのは、家族や婚約者でない限り、基本的には避けるべきことだ。わかってはいるが、外に馬に乗ったエリックが走っていたら、目立って仕方がない。「高位の貴族の馬車だ」と直ぐにわかるし、エリックの容姿はさらに目立つ。でも、アレクシアとの会話は、他の人には聞かせられない。

 ばれなければ、噂にもならない。エリックなら私を守ってくれるし、カミーユのように女性への興味が旺盛なわけでもないから、間違いは起こさないだろうという信頼感がある。

 とにかく今日の目的は、できるだけ目立たず、いかにアレクシアの話を聞くか、ということなのだ。


「ここですね」


 アレクシアの勤務先であるソルトレの近くに、馬車を停める。アレクシアが出てきたら声をかけ、馬車に乗せようという作戦だ。アレクシアの見張りを御者に頼み、私とエリックは馬車の中で、待ちの姿勢に入った。

 冬の日は落ちるのが早い。馬車は隙間風の抜けない構造になっているが、それでも外側からしんしんと冷えてくる感じがする。


「冷えるわね……」

「お嫌でなければ、俺の上着をお貸ししますよ」


 近頃、エリックはあまり遠慮なく、私の世話を焼くようになった。年がそんなに離れていないのに、世話を焼かれてばかり。それでいいのかと思う節はあるが、ありがたく受け取り、厚手の上着を肩から掛ける。ふわっと香る金属の香りは、エリックの匂いだ。


「エリック様は、寒くないの?」

「俺は寒さには慣れていますから」


 爽やかに微笑むエリックは、薄着なのに、全く表情を変えない。


「ここで、『まだ寒いわ』なんて言って身を寄せたら、すてきなのにね」

「キャサリン様は、そういうことができるんですか?」

「無理よ。ダンス以外で男性に触れることだってあんまりないから、誰にだって無理」


 そういうことをする可能性があったのは、一応婚約者であった、ベイルなのだろうか。「寒い」と甘えた声を出してベイルにしなだれかかる自分を想像して、背筋がぞっとする。


「お乗りください」


 嫌な想像に顔を顰めていると、馬車の外から御者の声。扉が開き、冷気とともに顔を出したのは、アレクシアである。

 御者には、不自然ではない程度に、話が終わるまで馬車を走らせておいてくれと頼んである。本来ならば馬車の中で話をするなど失礼なのだが、アレクシアは気にしないはずだ。

 エリックは私の隣に移動し、自分の向かいにアレクシアを座らせる。この距離感は、彼なりの警戒心の表れだろう。私は何があってもエリックに任せられるという安心感を胸に、アレクシアと向き合った。

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