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46.新作のネックレス

「このようなものができました。ご覧いただけますか」


 セドリックはノアにそれを渡し、ノアが私の目の前に差し出す。小瓶で、蓋に穴空きの突起が付いたもの。注文していた、ネックレスにできる瓶の蓋だ。


「ニック、どう思う?」

「拝見させていただきます」


 ニックは小瓶を手に取り、角度を変えてゆっくりと観察する。

 彼のハーバリウム製作はますます板についてきて、最近では組み合わせに凝ったセット販売も好評である。色や花言葉、イメージにテーマ性をもたせたハーバリウムの組み合わせは、眺めているだけで、見る者の心を楽しくさせる力がある。

 そして今度は、この小さな瓶の中に、花が咲くわけだ。思い浮かべるだけで、心がうきうきする。


「僕の想像していた通りのものです。ありがとうございます」

「では、この瓶の生産をお願いするわ、セドリック。金額についてはもうある程度目処をつけているから、ノアと相談してください」

「畏まりました。……お嬢様、これをどうぞ」

「キャサリン様は、あなたからの贈り物は、一切受け取らないと仰っていますよ」


 あまりにも繰り返されるので、最近では私はノアに、代わりに断ってもらっている。それでもめげずに毎日何か買って贈るセドリックの、神経がわからない。

 今日も恭しくプレゼントを差し出すセドリックを無視して倉庫を出ようとしたが、その包みが、目に留まった。

 円柱形の箱を紙で包んでいる。それ自体は珍しいことではないが、包装紙が美しく、隙間なく、貼りついたようになっている。包装紙の上から巻かれたリボンの結び目も、花びらみたいにふわふわしていて、それ自体可愛らしい。こんな包み方を見たことがない。

 ハーバリウムの瓶を贈るなら、こんな風に包んでみたい。リボンを解いて開けてしまうのが、惜しくなるだろう。それほどの綺麗さだ。


 ……いけない。セドリックの贈り物は、無視すると決めている。

 決して、ストーリーを進めてはいけない。そう心に決めて、気になる包装から強引に視線を逸らす。


「キャサリン様、できました」


 持ってきたプレゼントをセドリックが持ち帰ると、ニックは早速、作業を始めた。小さなカスミソウを器用に瓶に入れ、洗濯のりを混合した液体を溢さず流し込む。蓋を閉め、突起に紐を通す。カスミソウが小瓶の中で咲き、ニックが軽く振ると、ゆらゆら揺れた。


「綺麗だわ」


 小さな瓶で健気に咲くカスミソウは、乙女心をくすぐる。この素敵な花を、胸元に下げて持ち歩けるのだ。

 生花を髪に散らすお洒落はあるが、使い捨てになってしまうし、壊れやすい。その点これなら、花が崩れる危険は低い上に、何度も使うことができる。気に入った花を繰り返し使えるのは、嬉しい。


「これ、貰って行ってもいい? 宣伝してくるわ」

「もちろんです。よろしくお願いします」


 ニックの許可を得て、新作のハーバリウムネックレスを倉庫から持ち出す。暫くはこのネックレスに合わせて、服を選んでもらおう。

 気に入ったものを手に入れると、着飾るのが楽しくなる。普段はお茶会を少し鬱陶しいと思う私だけれど、今日はいつもより、出かけるのが楽しみになった。

 ニックのアイディアは、素晴らしい。私のように、お洒落やお出かけが楽しくなる女性は、他にもきっといるだろう。人を幸せにするものを作れる人は、本当に才能があるのだと思う。


 案の定、ニックの作ったハーバリウムネックレスは、好意的な反応とともに受け入れられた。

 お茶会やパーティのテーマに合わせて作ってほしいという、オーダーメイドの依頼も入るようになった。近頃はニックや休憩中の使用人だけではどうにも手が足りず、ついにライネル主導の元で、ハーバリウムを作るための人員が雇われている。短時間で集中して勤務し、商品製作にあたるのだ。

 ニックのアイディアと、ライネルが採用した手先の器用な従業員により、安定的な生産が可能になりつつある。そのぶんセドリックが来る回数も増えるのが問題だが、彼は販売方法や価格設定などについて適切な助言をくれる。今のところ、セドリックはアドバイザーとして、必要な存在なのだった。

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