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25.生産拡大のおはなし

「ミルブローズ伯爵領の別荘か。キャシーが小さい頃に行ったの、覚えているかな」

「ええ、うっすらと……」


 ミルブローズ伯爵領の別荘には、私も幼い頃に行ったきりだ。久しぶりに行ってみたいと、自分の計画も含めて、父に相談してみた。


「あそこは湖畔にあってね。遠いから皆あまり行かないけれど、美しいんだよ。皆を呼んであげるのも、いいかもしれないな。ライネル、あの屋敷なら、何家庭くらい入れるかね?」

「皆さまを除けば、3家庭でしょう。それぞれの使用人の場所も必要ですから。そもそもあの別荘は、大勢をお招きするようにはできていないので」


 父の了承を得て、今夏の避暑はミルブローズ伯爵領にある別荘へ行くこととなった。連れていけるのは、我が家を除いて3家庭。泊まりの旅行になるし、親しい人だけ誘うのなら、妥当であろう。

 セシリーのところに行くのならば、ミアを含めたローレンス公爵家は呼べると嬉しい。ミアにはリアンとひとつ違いの弟もいるので、丁度良い。ほかの2家庭は、両親と相談して決めたいと思う。ひとりでもふたりでも、学園入学前に仲の良い友達がいたら、リアンも心強いはずだ。


「……お話中失礼致します。アダムス商会の者が来ているそうですが」


 執事がそう声をかけてくる。父が「入れ」と合図をすると、セドリックが入室した。相変わらず、セドリックは惚れ惚れするほど美しい礼をする。今日も、妙な香りは漂っていない。


「早かったな」

「はい。先日、お嬢様からご紹介頂いた新製品についてのご報告に参りました」


 セドリックはよく使い込んだ様子の手帳を開き、売れ行きを父に伝える。先日持っていった100個弱のハーバリウムは順調に売れ、完売も目前とのこと。購入したご婦人のお茶会で目にした女性からの問い合わせもあり、販売数は右肩上がりだそうだ。


「また、出来上がった製品を取りに来てもよろしいでしょうか」

「構わないけれど……この間ほど、たくさんはできていないと思うわ。使用人が休憩中にしている内職だから」

「それなら、専属の職人をつけた方がいいかもしれないね。屋敷では手狭だ。領地から輸送するのでは瓶が割れる可能性があるし、倉庫を用意して、そこで生産するといいだろう」


 売れ行きが伸びているといっても、父の中での扱いは、私の趣味の一環のようだ。楽しくてやっていることを趣味と呼んでいいなら、そうとも言えるかもしれない。領の生産品として売り出しても名誉に傷のつかないものである、と判断した後は、好きにさせてくれ、応援してくれている。


「お父様、良いの?」

「ああ。せっかくキャシーが考えたものだから、たくさんの人の目に触れるようにしたいじゃないか」


 商売なら、倉庫を借りるなら借りたお金と収入が見合うかの検討も必要なのだろうと思うが、そういうことは気にしていないらしい。

 自分の考えたものを、たくさんの人が魅力を感じて購入してくれるというのは、それだけでわくわくする。求める人には、ぜひ届けたい。かと言って、生産量を増やすだけだと、休憩がてら作業している使用人達の負担が増えてしまう。採算を度外視すれば、専属の職人をつけた方が良い。屋敷の倉庫も残しておいて、使用人が作ったものも一緒に売れるようにしておけば、ハンナ達も困ることはない。

 ただ、私はどうせ売るのなら、利益もしっかり上げられるよう、計算するつもりだ。そもそも、ハンナ達のためにという動機で始まったハーバリウム作りだ。赤字になりながら続けて給金を払うことになってしまっては、ハンナ達は恐縮するだろう。それでは、当初の目的とずれてしまう。

 あくまでふたりが(そして、生活に困っている他の使用人が)堂々と稼げるようにするのが、私の目的なのだから。


「今夏はミルブローズ伯爵領に避暑に行くことにしたんだ」

「左様でございますか。素敵ですね」

「ああ。あそこは遠いから、道中泊まるところを見繕っておいてくれないか。詳しいことは、後でライネルに連絡させるよ」

「もちろんです。お任せください」


 父がセドリックに頼む。恭しく承るセドリック。セドリックは商会の伝手があり、王国各地のことに詳しいから、頼む相手として適切だろう。ただ、私はなんとなく、彼に任せることに一抹の不安を覚えた。

 不安に思ったところで、父が決めたことだから、私が口を出す部分ではないのだけれど。


「ところで、ヘランについての情報は知らないかい。最近一気に広まっているが、アダムス商会では扱っていないようだね」

「ええ。我が商会では、あれは扱わないことにしたのです」

「どうも随分良い薬だそうだな」

「そうですね……他の商会が取り扱っているものなので、詳しいことは私もわかりませんが、個人的にはあまりおすすめ致しません」


 父とセドリックが、私にはわからない会話をし始める。「ヘラン?」と首を傾げると、「お嬢様もお気をつけください」とセドリックに促された。


「そうか。タマロ王国の薬は陛下も絶賛されているから、気になっていたのだが」

「陛下がお飲みになったのは、当商会も扱っている薬です。当商会では、タマロ王国の薬の中でも、安全で効き目が高いものだけを選り抜いているのです」

「タマロ王国っていうのが、前に言っていた異国のことなのね」

「ええ。左様でございます」


 セドリックが身につけている目新しいアクセサリーや香水、陛下の命を救う薬や、話題の薬の出所であるタマロ王国。そして、それと繋がっているブランドン侯爵家は、どんどん王国内での力を増そうとしている。

 タマロ王国とブランドン侯爵家の繋がりに何か意味があるのか、また、タマロ王国ってどんな国なのか。気にかかって、もっと聞きたかったのに、父はセドリックを帰してしまった。

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