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23.リサとの思い出

「これを、新しく領地の生産品として売り出すつもりなの」


 呼びつけたセドリックに、いくつかのハーバリウムを示した。ニックやハンナ達、それから数人の使用人が、作ってくれたものだ。

 セドリックはまじまじとそれらを見つめ、「初めて見ました」と、嬉しい感想を述べる。セドリックが初めて見たなら、これは本当に、今までにない発想の商品なのだろう。


「お嬢様がお考えになったのですね」

「アイディアを見つけたのは、私よ。でも、作るまでには、そこのノアや、ハンナ達やーーいろいろな人の協力を得たけれど」


 セドリックと会う部屋に、リサだけでなくノアとライネルも控えている。私なりの警戒だ。セドリックは優秀な商人だし、我が家との繋がりも強いから、頼むなら彼しかいない。しかし、先日の妙な香りのことを考えると、警戒しておくに越したことはなかった。

 今日は、テーブルの向こうのセドリックから、妙な匂いはしなかった。この間の異国の香水は、本当にたまたま試したもので、他意はなかったのかもしれない。それなら、いいのだけれど。


「お茶会でご婦人達にお披露目して、アダムス商会を通して販売することをお伝えしたの。数も多くはないし、まずは問い合わせがあったら、お渡しする方向がいいかと思うの」

「それは良いですね」


 流行に敏感なご婦人達は、まだ遠くの人が知らない、新しいものというのに、大きな価値を置く。だから最初のうちは、「知っている人にしか売らない」という方針を提案してみた。作っているのはハンナ達で、飽くまでも仕事の片手間。それほど多くは作れないし、需給のバランスが良いだろう。

 私の案を聞いたセドリックが頷く。肯定的な反応に、自分の考えは合っていたのだ、と安心した。


「販売数や価格についてですがーー」

「ノア、お見せして」


 控えていたノアに、予め考えていた金額と、現在の個数を書いた紙を見せてもらう。これは、父と相談して決めたもの。

 今は、使わない空き瓶と使わないドライフラワーを使って作っているけれど、今後、瓶や花を購入して生産することも予想される。そこで、それでもしっかり利益が上がるよう、計算して決めた額だ。

 セドリックは数字を確認し、自分の手帳にメモする。

 完成品は、今では100個強にまで増えた。休憩中に地道に作り続けたのに加え、最近ではニックが、ハンナ達を待ちながら作ってくれていることが、その数に貢献している。


「承りました。この生産数というのは、既に完成しているものですか?」

「ええ。今朝までに出来上がっている数よ」

「それでは早速、お預かりしてもよろしいでしょうか」

「御案内致します」


 セドリックの言葉に応じて、ライネルがさっと動く。ふたりが出て行き、ノアも一礼して部屋から去る。残されたのは、リサと私。どちらからともなく、視線を合わせる。リサの目は、きらきらとした輝きを帯びていた。


「私達の作ったものが、売られるんですね、キャサリン様!」

「そうなの。わくわくするわね」


 ものを買うことはあっても、売ることなんて、当然ながら今までなかった。そんな価値のあるものを自らの手で生み出せることが、こんなに心弾む、楽しいことだなんて。与えられた課題をこなすだけの勉強とは全く違う、自主的に活動することの喜びが、そこにはあった。

 リサの表情と同じように、私も、嬉しさを押し隠したような顔をしているに違いない。リサだって、今まで、与えられた仕事や役目を果たすことに全てを打ち込んでいた。自分で考えて価値あるものを作る、その喜びは、ふたりに共通しているものだ。

 この喜びは、自力で得たものではなく、リサやノア、ハンナ達のおかげだ。手助けしてくれた人達の顔を思い浮かべ、ニックのことを考えたとき、リアンの件を思い出した。


「そういえば……リアンは、ニックに、冷たい態度を取るじゃない? それに比べて、私とリサは年が近いのに、どうしてこんな風に、身近な存在になったのかしらね」

「そうですねえ……」


 立場の差はあれど、小さい頃から共に育ったリサは、姉のような存在でもある。リサも、私のことを慕ってくれている。リアンとニックにはないこうした関係は、どこから生まれたものなのだろう。

 リサは暫く考え、「同じ苦労をしたからでしょうか」と言った。


「キャサリン様が必死にお勉強されている間、私も必死に勉強をしていた、そんな時期がありましたよね」

「……ああ、あったわね。あれは大変な日々だったわ」


 幼い頃、私は学園入学に向け、ノアに徹底的に勉強させられていた。勉強が楽しくなかったわけではないが、とにかく厳しく、怠けることが許されないのが大変だった。その頃リサはリサで、侍女としての教育を受けていた。公爵家の侍女に求められるものは多く、それはそれで大変だったらしい。


「リサは、半泣きになりながら勉強していたものね」

「キャサリン様もですよ」


 厳しいハードルを毎日課せられ、必死で乗り越えようと努力していた、あの日々。お互いが同じ苦労をしていたことで、仲間意識が芽生えたというのは、確かかもしれない。


「リアンとニックにも、同じ苦労をさせてみたら、仲良くなれるかしら」


 同年代の人と上手く話せないというリアンの課題は、入学前に解決してあげたい。私は、リアンとニックにいかに同じ苦労をさせるかについて、リサと話し合った。

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