第1章 プロローグ
世界は不思議で満ちている。
そんなことを一番初めに宣った人間が何処のどいつかは知らないが、概ねそいつが言ったことは的を射ているだろう。
世界が不思議で満ちていなければ、俺の髪の色は真っ白になんかならなかった。
世界が不思議で満ちていなければ、俺はこんなダサい眼鏡をかけて周りの人から「白髪のび〇君」なんて馬鹿にされることは無かった。
世界が不思議で満ちていなければ、生徒会でこき使われることは無かったし、痣だらけになるまで無理やり体を鍛えることもせず、今日の夕食何にしようかなどと、主婦のように頭を悩ませることもなかった。
そして。
世界が不思議で満ちていなければ、誰かのために己を賭することに対して、臆病になっていたかもしれない。
***
――どうして助けたの?
胸に空いた穴を中心に冷たくなる体とは裏腹に、握りしめられた手と、頬に降ってくる涙だけは、確かな暖かさを俺に伝えてきた。
この暖かさが、俺に生きている実感を与えると同時に、体は確実に死に近づいていることを教えてくる。
ああ……俺はもう死ぬんだな。
痛みはもはや感じない。痛みは感じないが、心臓の辺りで何かがチクチクと引っかかる。
この心臓に刺さる棘が、きっと俺が彼女を助けた理由なのだろう。
「……ぁ……ぅあ…………」
せめて助けた理由くらいは、死ぬ前に伝えようと思ったが、声なんて碌に出やしない。
それから一秒にも満たない刹那の間に、彼女の手と涙の温もりを感じることができなくなり、俺の意識は暗闇に閉ざされた。
この話は大幅に変更を行いたいあっぷ様に公開しております。