訳者前書き
原初の無に音の波紋が広がった。世界は始まる。
本書は未だ力ある言葉が世界を覆い、夢幻にして未知、想像の産物にしてこの世ではないところの象徴たる地底と、神々と死後の世界への信仰の象徴たる天、そして人々が住む地上とにこの世が別れていた時代の叙事詩である。
多くは吟遊詩人の間で伝えられていたもので、私はこれを現代まで生きるとある人物から伝え聞きながら、日本語に翻訳している。翻訳にあたっては当時における共通語は可能な限り日本語に翻訳することを心がけたが、一部の慣用句や言い回しについてはわかりやすさを優先した部分もあることを予め断っておく。
さて、この物語群は超越の存在にして、所謂神と呼ばれるような存在である夜天の公主という存在が、彼の時代どれほど地上に干渉したか、また魔法という現代にない力ある約定が如何にして世から隠れることとなったのか、そして天と地底の終わりについて語られたものである。それぞれは独立しており、概ねどこから読んでも問題ない。
掲載順については聞き取った順に掲載しているため、時系列順にはなっていないこともご了承願いたい。全て聞き取った後には、時系列順に直す可能性があることは明記しておく。
神と人とが織りなす旋律に、少しでも琴線に触れるところがあれば幸いである。