Part1 プロローグ
1話~4話くらいを書き直しております(´・ω・`)
彼の名は長谷川龍平、
39歳独身のやさ男で、有名なメーカーで機械設計をしていたのだが、
2年ほど前、過労が祟り職場で倒れてしまった。
その時の検査入院で悪性腫瘍が見つかってからは病院暮らしをしている。
母は若くして亡くなっており、男で一つで育ててくれた父も、
5年程前に他界した。
最初は見舞いに来ていた職場の上司も、この一年顔を見ていない。
仲の良かった後輩も、時折設計図面をもってアドバイスを受けに来ていたが、
仕事を覚えたのか、ぱたりと会いに来なくなった。
今でも時折会いに来てくれるのは、旧友くらいなもので、
暇つぶしに持ってきてくれる小説や漫画は、この病室の中では唯一の娯楽だ……
病室の中には8つのベッドがあり、周りはすべて爺さん婆さんばかりだった。
彼はもともと手先が器用だったため、最近はリハビリを兼ねて、
千羽鶴づくりを日課としている。
そして今日、ようやく8つ目の千羽鶴の束が出来上がったので、
同じ病室の爺さん婆さんにプレゼントしたのだが……
残酷なことに、この日彼は医者からの余命宣告を受けてしまった。
診察室から戻ってきた彼の様子が、いつもと違うことを察して、
病室の仲間がやたらとお菓子やお茶をごちそうしてくれた。
そのやさしさが嬉しくて感情が高ぶり、自然と涙がこぼれた……
それから彼は、努めて明るく振舞った。みんなに心配をかけまいと、
自分の病気の事には一切触ずに日々をすごしている。
仕事をするふりをしてパソコンを開き、
最近見つけたオンラインゲームをするのが、彼の日課だった。
ゲームのタイトルは"エルフ転生記"というシンプルなもので、
制作会社は"オーディン"という新会社らしい。
美麗なグラフィックを眺めながら、自由にフィールドを駆け巡り、
冒険をしたり、クエストをこなすのは、ゲームならではの楽しみかただ。
「はぁっ、俺もこんな世界に生まれたかったな……」
そうつぶやいた瞬間、彼はまばゆい光に包まれて意識を失った……
『オーディン様、これで宜しいのですね?』
『うむ、辺境の大天使アリエルよ、この男ならば問題あるまい、
そなたに預けることにしよう』
『ありがとうございます、これでこの世界の情勢が少しは改善できるでしょう』
『目覚めよ、長谷川!』
彼が夢から覚める様に目を覚ますと、毎日見ていた病室の天井ではなく、
真っ白い空間の中だった。
「あっ、あれっ? 病室じゃない!? それにあなたは……石神さん!?」
『長谷川よ、我は石神ではなく、この世界をつかさどる神"オーディン"である』
「……神…様…ですか?」
『うむ、突然連れ去ってしまったが、お前ならばこの状況、理解できるな?』
白い部屋と神、このキーワードで彼が連想したのは"異世界転生"だ。
友人が病室に持ってくるのは、決まって異世界転生ものの小説や漫画であり、
直前までプレイしていたゲームのタイトルも"エルフ転生"だったからだ。
「もしかして、異世界…転生ですか?」
『左様、お前を異世界転生させることにしたのだ!』
「……どうして俺なんですか?」
『ふむ、しいて言うならば"優しさ"である。お前が折った千羽鶴は、
身寄りのない老人にとって、孫からの贈り物のように嬉しいものだ。
我の為に作った千羽鶴が、いわば"ドラ〇ンボール"のようなものとなり、
老人たちの願いがお前を転生させるきっかけとなったのだ』
『オーディン様、ここからは私が説明致します』
そういって現れたのは、見目麗しい天使様だった。
どうやら地球とは別の世界を管理していた担当の天使が、ミスを犯し、
種族のバランスが崩れてしまったらしい。
異種族の救済を行うため、現代日本の知識と良識をもった彼を、
異世界に送り込むことに決めたそうだ。
事前に"エルフ転生記"というゲームを彼にプレイさせることで、
適性を診断していたので、大天使も了承している。
転生特典として、5つまで希望を叶えてくれるという事なので、
彼は願いをこう決めた……
・ エルフに転生したい
・ 強い体がほしい
・ 魔法を使ってみたい
・ 嫁が欲しい
・ 初期装備と武器がほしい
神の力をもってすればこれくらいの願いは容易い事であり、
二つ返事で了承してくれた。
『エルフに転生してくださるのは嬉しいですわね! 私はエルフが好きです』
どうやら大天使様はエルフ萌えらしい……
名前はゲームで使っていた"ハーゼル"と名乗る事になり、
肉体年齢は、エルフの20歳くらいになるそうだ。
これは大天使様の趣味で、『一番その年齢が美しいから』だそうな……
ふと、ハーゼルが疑問に思ったことを聞いてみた。
「オーディン様や大天使さまが直接手を下さないのでしょうか?」
『我が地上に降りることは可能だが、力を振るったとたん、世界が滅ぶ』
『私の場合は地上に降りることを許されておりませんので、
天啓を与えたり、能力を与えたりすることしかできません』
どうやら神様の力は大きすぎるようで、使い勝手が悪いらしい。
見目麗しい女神様との異世界大冒険の夢は潰えた……
『前任者があまりにも干渉しすぎた為、種族のバランスが大きく崩れました。
今回は可能な限り手を出さないようにするつもりです。
もし、どうしてもお困りのようでしたら"天啓"を授けますので、
安心して転生なさってください』
『我も時折お前を見守ることにしよう、一つ加護を授けておくぞ』
その後、簡単な説明をいくつか受けて、彼は異世界に旅立った……
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
眼前に広がるのは広大な大地……
彼がプレイしていた"エルフ転生記"によくにた風景が見える。
「あぁ、本当に異世界転生したんだ……これからどうしよう……」
とりあえず深呼吸してみると、萌え立つ草の匂い、日を浴びた土の匂い、
そして風に乗って飛んでくる森の木々の匂いがした。
降り注ぐ太陽を手でつかむように腕を伸ばすと、筋骨隆々とした腕が見える。
長い入院生活でやせ細った足は、大木のように力強く地面を踏みしめていた。
ハーゼルが草原を走り出すと、その体はグングンと加速していく。
暖かい風を全身に纏い、彼はどこまでも走り続ける。
「あはははっ! すげぇ! めっちゃ速いよ! あははははっ!」
綺麗なプラチナブロンドの長い髪が、陽の光に照らされて、
草原に一筋の光を描いていた……
美しく輝く青い目に、透き通った白い肌、凛々しい顔立ちはエルフの中でも
特段美しい部類に入るだろう。
……ただし、肉体においてはエルフというよりは、オーガのようだった。
これは彼が希望した"強い体が欲しい"という希望を、
オーディンが叶えたものなのだが、この先苦労することになるのを、
ハーゼルはまだ知る由もなかった……
初めて書いた小説なので拙い文章で見苦しい部分も多数ありますが、
何卒ご容赦ください。
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ありがとうございます。