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浸食されるこの世界で  作者: 林戸
第二章 烽火(のろし)
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第二章 烽火(3)

 神野に初めて出会った日の翌日、賢太郎は警察署の会議室にある長机の席についている。なぜなら、今日配属になる対魔術師班の説明会があるからだ。

 会議室の中は、まるで塾の教室のように長机が丁寧にならべられており、70人ほどの人がそこに座っている。二川警察署の人間はほんの1割ほどであり、警視庁を中心に他の警察組織から派遣された者がほとんどといったところだ。

「いやぁ~、警視庁は予想出来ていたけどまさか元SAT(サット)まで来てるとはな……」

 賢太郎が座っていた席の隣から声をかけたのは、モデルのようにセットされたショートヘアーが目立つフランクな青年、浅木(あさき)圭真(けいま)だ。彼は賢太郎の同期であり、同じ警察署の捜査一課に配属していた。しかし、賢太郎とは違う班であった。

 浅木が言っていたSATというのは警察の特殊部隊で、ハイジャックやテロなどの組織的な犯行や強力な武器を使った犯行を鎮圧する組織のことである。

「そこまでしないと収拾がつかないことになってるからだろ」

「そうだよな……。これ、気を抜いてやってたら命何個あっても足りなさそうだよなー」

「今まで気を抜いてやってたのか」

「たとえ話だよたとえ話!! 全く冗談が通じないのは相変わらずだな……」

 浅木がため息をつくと、会議室に人が入ってきた。賢太郎は神野が入ってきたのかと思ったが、その予想は外れた。

 入ってきたのは、身長140センチ前半と遥香より小柄で、眼鏡をかけたポニーテールの女性だ。中学生のような見た目の上、服装はキャラものの白シャツとジーンズといった軽装の上に白衣だったため、スーツや制服を着た男性ばかりの会議室ではかなり目立った見た目だ。

「あの、お嬢ちゃん、どこから入ってきたのかな? ここは関係ない人は入っちゃ駄目だよ」

 そんな女性が入ってきたことに驚いたのか、警視庁から派遣された男性は声をかけた。

「それでは対魔術師班、通称AMTの説明会を始めます」

 女性はそんな声かけを無視して演台に立ち、淡々と口を開き始める。その瞬間、会議室が少しざわつく。

「私の名前は大隈(おおくま)瀬莉華(せりか)と申します。武器開発を担当しています。班長は用事があって遅れるとのことで代わりに私が説明します」

「まさかあんなちっちゃい子がうちの配属とはな……」

 浅木は思わず目の前の彼女に対してそう呟いた。

「あっ、歳は28です」

 元警視庁の発言に対してなのか、浅木の呟きに対してなのか不明ではあったが、大隈は含みのあるような発言をした。

「ひゃーこえー。あの子の逆鱗に触れないようにしよ……」

 あたふたしている浅木を見て賢太郎はため息をついた。

「今からこの班についての説明の予定でしたけど、それは班長の口からの方がいいでしょう。ということで私からはあなたたちが扱う武器について説明します」

 そう言って大隈は持ってきたホチキスでまとめられた書類を一番前の席の者全員に渡し、彼らにその書類を後ろに回すように指示した。後ろに回された書類は、賢太郎や浅木にも届いた。

「おいなんだこの書類は!! 我々を馬鹿にしているのか!!」

 元SATである男は急に立ち上がり、書類の二枚目を大隈に見せて怒鳴りだした。

 そこには『お間抜け事件48発目!! 魔術師が電線に絡まって感電死(笑)』というタイトルで始まった本の記事だった。

「それは『抱腹絶倒!! 日本のお間抜け事件100連発!!』のページだけど?たぶん近辺のコンビニに行けば売っていると思うけど、それが何か?」

 大隈は無礼な人間に堅苦しい口調で話すことに嫌気が刺したのか、今までの口調とは打って変わり、フランクになっていた。

「それが何かじゃねぇよ!! ふざけるのも大概にしろ!!」

 怒声をあげる元SATに対して大隈はひるむ様子は見られない。

「私は今から紹介する武器を説明にあたって必要と感じてこれを入れてるんだけど。もし私がふざけていると思ってるなら抜けてくれてもいいけど?」

「チッ……」

 元SATは舌打ちして、抜けるのが嫌だったのかそのまま席に座った。

「んじゃ話し戻すよ~」

 大隈は口調を戻さずに本題に戻った。

「知ってる人いるかもだけど、魔術師って通常の武器は効かないんだよね。原理はまだ解明できてないけど」

 通常の武器が効かないことは、賢太郎は繁華街で起きた襲撃事件の事情聴取を行った際、事件の様子を目撃していた者から聞いていた。

「なんだけど、とある事件で魔術師は無敵ってわけではないって判明したのよ。それがこの書類の2ページ目」

「つまり、電気系統によるものなら通用するということですか?」

 賢太郎は思わず大隈に問いを出す。

「まっ、やや正解かなー。あの事件がたまたま電気だったから、電気が効くって分かったけど、もしかしたら他のものも効くのかもしんないってのが私の仮説。例えば火とか氷とか」

 大隈は書類の2枚目を裏返すように指示した。

 そこには拳銃とライフル銃の写真が掲載されている。賢太郎は、写真だけでは普通の銃とさほど変わらないように思えた。

「てことで出てくるのがこの銃ってわけ」

 そう言って大隈はポケットから写真に映っていた銃を取り出した。

「この銃、見た目は普通の銃なんだけど、この銃から放たれる弾丸にはある細工をしていてね。今回は弾丸に静電気を帯びさせて射出するようになってるわけよ」

「静電気……」

 その言葉を聞いて賢太郎含むメンバーが困惑する。

「まあ本当は電気をもっと付与したかったけど、コストがかかるからね……。あっ、でも()()()()()()()()()()()()()()()()()()()安心して」

 それを聞いた賢太郎は、神野が言っていた魔術師の捕虜に使用したのか、捕獲する際に使ったのかのどちらかだろうかと考察した。

「ほんで私はこの拳銃タイプと、ライフルタイプを開発したわけよ。名前はMB01とMB02」

 大隈がそう言った瞬間、神野が会議室に入ってくる。

「君たちにはこれらを使って任務に取りかかってもらうわけ。んじゃ、班長が来たのでバトンタッチするね」

 大隈は演台から外し、代わりに神野が演台に立った。

「班長の神野です。説明会に遅れてしまい、申し訳ありません」

「あの人が班長? ずいぶん若いんだな……」

 浅木は想像していた見た目と違ったのか、自分が所属する班のリーダーを見て思わず小言が漏れた。

「対魔術師班、通称AMTの活動内容についてなのですが、これは単刀直入に言った方がいいでしょう。それは魔術師の全てを制圧し、()()することです」

「班長待ってください!!」

 賢太郎は、神野の発言に対して思わず叫ぶ。

「確かに魔術師は市民の危機を脅かす存在です!! しかし、我々市民を守っている魔術師も存在しています!!」

「それは「『紅眼の魔術師』のことですか? あなたはあれが市民を守る存在だと確信がつきますか?」

「それは……」

 そう言いわれると賢太郎は、『紅眼の魔術師』が何故このようなことをしているかを本人から聞いているわけではなかったので、素直に肯定できなかった。

「彼らを人間だと思わない方がいいと昨日言ったはずです。在来種の生態系を脅かす外来種が駆除対象になっているのと同じです」

 その発言を聞いた時、会議室が騒ぎ出した。なぜなら魔術師を犯罪者ではなく、外来種のような扱いに違和感を覚えたからだ。

「そうですね。彼らについての説明がまだでしたね。失礼しました」

 神野は魔術師についての説明を始めた。

 魔術師は異世界から来たこと、その異世界の壊滅で、この世界に共存を果たすと同時に、生産性の高い世界を作るために将来性のない人を殺していることといった昨日聞かされた話ばかりだった。

「確かによそ者だから抹殺した方がいいのかもしれないな」

「この世界の人間を平気で殺してるなんて人間とは思えない……」

 それを聞いたメンバーはこのように、神野が言っていたことに理解を示した。

 賢太郎も神野の説明に反論する余地が見つからなかったのか、最初の発言の時と打って変わり、静かに聞いていた。

「ということで明日の夜、魔術師の抹殺に取り掛かってもらいます。それまでに大隈が作った武器を扱えるようにしておいてください」

 神野そう言って説明会は終わりになった。




 優未は武雄に貸してもらったお客様用の部屋のベッドで朝を迎えた。武雄曰く、優未は魔術師に狙われている身だから外に出すわけにはいかないとのことで、この部屋で泊まることになった。

「そういえば気を失った時も一晩眠ったままになってたとおじさん言ってたな……」

 おじさんが言っていたことが正しければ、二日前の夕方あたりから今日までここで過ごしていたことになる。

 優未は昨日見た真希のことを思い出す。

 優未の見た真希は、頭の傷は武雄の治癒魔法によるものなのか、既に塞がってはいたのだが、起きる様子のない姿ではあった。その姿は優未にとっては不安を募るものだった。

「私、いつまでここにいることになるのかな……」

 そう思って居ても立っても居られなかったのか、武雄の忠告を無視して外に出た。


 武雄は出かけていたため、脱出するのは容易だった。しかし、外の景色は見慣れないものばかりで、行き先考えずに歩いている。

「出てみたのはいいけど、どこに向かえばいいのかな……」

 優未は彼女なりに魔術師の手掛かりを探そうと目論んでいたが、この状況だと手掛かりどころではないと彼女は実感した。

「やっぱり思い立って出るのは間違ってたよね……」

 優未は元の部屋に戻ろうかと考えていると、男が近づいてきた。


「あんたが相原優未か。()()()()()()()()()()()()()




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