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浸食されるこの世界で  作者: 林戸
第二章 烽火(のろし)
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第二章 烽火(1)

 菅田真希は優未にとっては唯一の親友だった。もしかすると親友という域を超えていたのかもしれない。優未にとってはそのくらいかけがえのない存在であった。

 彼女が二川中学に転入し、彼女に声をかけられた後の中学生活は優未にとっては今まででは考えられないくらい充実したものだった。


「はぁ……。シャトルランで最下位だったよ……」

 真希が転入して二週間経った頃、優未は学校の体育館で行われた体力テストの結果に憂いていた。

「どうした優未? なんか浮かない顔してるけど」

 そう言って近づいてきたのはシャトルランで一番最後に抜けた後の真希だった。

「この体力テストもそうだけど、私って何も出来ないんだなって……」

 優未が真希に弱音を吐いた。

「別にそんなことないだろ。優未と話してて楽しいし」

 優未と真希は真希が転入して以来、様々な会話を交わしていた。

 優未は最近見たテレビの話や、二川市に新しくできた店の話などを真希に話していた。

 真希の転入後に初めて交わした会話は優未が身に着けていたキーホルダーの話だった。

 それらの会話を思い浮かんだのか、真希は優未にそう言って励ましたが、彼女の表情は変わらなかった。

「話してて楽しいか……。でも家族以外だと真希ちゃんとしかまともに話せていないし……」

 優未は親友の励ましの内容に実感が湧かなかった。なぜなら目の前にいる親友以外と楽しい会話ができる自信が彼女には無かったからだ。

「うーん……。そこが優未のいいとこだと思うんだけどなー」

 真希は頭を抱えていた。

 しかし、しばらくすると彼女は妙案を思いついたのか、真希の曇った表情が一瞬にして晴れた。

「そうだ、優未が納得する取柄がないと言うのなら、今から見つけてみるってどうかな?」

「取柄を、見つける?」

 優未は真希の言っていることが理解できていなかった。なぜなら、自分の取柄というあるはずもないものを探しても意味がないと彼女は思ったからである。

「ほら、今はなくても探せば見つかるかもしれないだろ?」

「もし見つからなかったら?」

 真希の台詞に対して優未は意地悪をするような返答をする。しかし、真希は引き下がろうとしなかった。

「見つからなかったらまた探せばいい。私は見つかるまで優未に付き合うよ」

 真希のこの言葉は優未の言葉に対するアンサーとしては粗悪すぎるものだった。しかし優未は不思議なことにこう思った。


 真希ちゃんとなら自分の取柄が見つけられるかもしれないと。


 そのくらい彼女の粗悪なアンサーは何故か信頼できると優未は思った。




 優未は意識が落ちた状態から目を覚ました。優未は部屋のベッドでずっと寝かされていたようだった。

 その部屋は優未の記憶にはない場所であり、ベッドの他にはクローゼットとテーブルしかない簡素なものだった。

「真希ちゃんと体力テストで駄弁っていたことが夢に出てきたな……」

 そう呟いた途端、傍にはもう自分の親友がいない絶望感を感じ、再び泣き出した。

「ひぃ……ぐっ……。まぎちゃん……」

 優未が泣いていると、一人の男が部屋に入ってきた。

「あっごめん……。今ここに入るべきではなかったな……」

 その男は優未が知っている人ではなかった。

 身長は170センチくらいで体格は標準より少し太っており、髪は短く、真ん中あたりが禿げている中年男性だった。

 自分の知らない場所で寝かされ、そこに見知らぬ中年男性が入ってくるシチュエーションではあったが、優未は何故か全く嫌悪感を抱かなかった。

「あの……あなたは誰ですか? あと、ここは何処ですか?」

「そうだよね、こんなおじさんがいきなりやってこられたら困っちゃうもんね……」

 中年は頭を抱えた後、自己紹介を始めた。

「僕の名前は、そうだなぁ……。『菅田武雄』といった方がいいかな」

 優未は中年男性の自己紹介の仕方に違和感を覚えた。

「ああそうそう、おじさんは()()()()の人間じゃないから、こうしてここに見合う名前で生活してるんだ。ちなみに本名はライアンだよ」

「ということは真希ちゃんもそうだったのですか?」

「そうさ。ちなみに彼女の本名はフレヤ」

「そうなんだ……」

「まあ、優未ちゃんはいつも通り真希と呼んでくれてもいいよ。僕のことはおじさんと呼んでもらえば」

 その方がこっちでは都合がいいし、と武雄は言った。

「あっ、そうそうここは真希と僕の家だよ。この部屋はお客さん用で使ってるやつ」

「ということは、あなたがお父さんなのですか?」

()()()()()()かな? 僕は真希の本当のお父さんではないし」

 優未は真希の本当のお父さんについて聞き出そうと考えていたが、聞いてはいけない情報の可能性を彼女は感じたため、聞くのをやめた。

「そうだ、一つ言っておかなくてはならないことがあったな」

「何でしょうか?」

「真希ちゃんのことなんだけれど、()()()()()()()()()

 それを聞いた優未はまるでつっかえていたものが取れたように安堵したが、それは一瞬で終わった。

「でも、意識が戻らないんだ。あの時君と真希ちゃんをここに連れていくことはできたけれど、真希の損傷が深刻でね」

 それを聞いた優未は不安の波が押し寄せられた。しかし、それと同時に彼女が生きているという事実に対しての喜びは消えることはなかった。

「真希ちゃん、死んでなかったんだ……」

「真希は自分の部屋で寝かせてあるよ。正直奇跡でも起きないと目が覚めない状態だけれども、僕は諦めないよ」

「私と真希ちゃんを助けていただき、ありがとうございます」

「いや、今はその言葉は受け取れないよ。まだ完全に真希を助けられたわけではないからね」

「おじさん。聞きたいことがあるのですがよろしいでしょうか?」

「なにかな?」

「おじさんと真希ちゃんはこの世界の人じゃないと言っていましたが、おじさん達は何者なのでしょうか? そして、おじさんの世界では何が起きているのでしょうか?」


「そっか、それも言わなくてはならなかったね。じゃあ話しましょうか。僕達の正体と僕達の世界についてを」

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