第四章 闇路(2)
遥香は二川中学校にいる。理由は、この学校の生徒で万引きした生徒が続出したからだ。万引きのような軽犯罪は普通、殺人のような重犯罪を担当する捜査一課ではなく、捜査二課の仕事ではあるが、魔術師に目を付けられたくないのか、重犯罪が減少し、魔術師による事件はAMTの管轄になったため、捜査一課の仕事が減少し、こうして捜査二課の仕事を手伝うことも少なくなくなった。
「店側が許してくれたから情状酌量になったけど、もうしないでね」
遥香はそう言って万引きした生徒を開放すると、廊下で女子生徒二人の話し声が聞こえた。
「愛原と菅田さんが同時にいなくなってから、しばらく経つんだねー」
「愛原はまあ、引きこもりになっただけだろうけど、菅田さんまでとねー」
「菅田さんは愛原が引きこもって、ショック受けたからじゃないの? ほら、あの二人仲良かったし」
「それだったら、愛原が引きこもってるの確認してからになるし、同時はあり得ないんじゃないの?」
「もしかして死んでたりして」
「馬鹿!冗談でもそういうこと言わないの!」
それを聞いた遥香は、物騒な気配を察知した。
(いなくなった二人、もしかしたら魔術師に巻き込まれたのかな? あっ、魔術師といえば先輩も心配ですね……)
遥香は賢太郎がAMTに異動になって以降、全く彼に会えていない。そのため、遥香は先輩に対する不安が、まるで雪が積もるように増していっている。
(私も、何かできることがあればいいのだけど……)
遥香がそう考えていると、誰かが彼女を呼ぶ声が聞こえた。
遥香はその声の主の方へ向いた。
武雄の家は優未一人になっている。優未は真希のいる結界に入っている。ルーンは通常、作った本人にしか使えないと武雄に教えられていたが、アンブランクの中には、誰にでも使えるルーンを作ることが出来る者がいるらしく、結界に入るルーンも、その人が作ったものだと武雄が言っていた。
そこには、真希がベッドで眠っている。今も起きる様子が全く感じられない。
「真希ちゃん、これから私どうすればいいのかな……」
優未は彼女にそう呟くと、結界の中であることに気づく。
ペンションの部屋のような結界には、一見ベッドしか置いていないように見えるが、ベッド付近の床には四角い扉のようなものを見つける。いわゆる床下収納というものだ。
優未は意識を失っている真希に謝ってから、その床下収納の中の物を取り出す。
そこには、数冊のノートのようなものが入っていた。
ノートはそれぞれナンバリングされていたが、どのノートにもタイトルに『クリーナーとの交戦日誌』と書かれていた。
優未はそのノートを読むことを決心した。