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浸食されるこの世界で  作者: 林戸
第三章 雷鳴
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第三章 雷鳴(6)

「さて、ショータイムといきましょうかぁ!!」

 セシルは優未にそう煽った。

「おや? なんで生きているのか分からないって顔してますねぇ!」

「どうしてあなたが生きてるの……?」

 彼が生きていることに驚愕した優未は、震え声で彼に問う。

「何故かって!? それは簡単さ! あなたのお友達の真希ちゃんが、全力で炎をぶっ放したと同時に移動魔法を使って脱出したからさぁ!」

 優未は自分の胸の奥や頭の中、いや、身体全体にまるで黒いものが溢れるように感じている。

 親友の真希にあんな目に遭わせた彼がどうしても許せなかった。

「やああああぁぁっ!!」

 優未は普段は出さない怒号と共に、右手の手のひらから炎の塊を出現させる。その塊は杖の形に変化し、彼女の扱う木目の魔具が出来あがる。そして優未はその魔具で炎を吐き出す。

 その炎は切れかけのライターのような情けないものでも、周囲に多大な被害を及ぼす過剰に大きいものでもない、セシル一人を狙うには十分な丁度いいものだった。

 しかしセシルはそれをとっさに避ける。

 優未はさらに同程度の威力の炎を何発か吐き出すが、セシルはすべて避ける。

「ほう、これが真希ちゃんの魔法ですか。しかしこの短期間でよく制御できたものですねぇ」

 セシルは優未の魔法に感心するが、彼は彼女の左手首を見て、何かに気づいた様子を見せる。

「なるほど、拘束具を付けてますねぇ。それなら私一人に丁度いい炎が出せるわけか……」

 彼の言うことは正しかった。武雄が導き出した優未の魔法を制御する方法、それは「魔法の出力を拘束具を使って制限し、魔法を出しすぎないようにする」というものだ。

「しかし舐められたものですねぇ!力を制限して私を倒そうなんて」

 そう言うとセシルは右腕を禍々しいガスのようなものを肘まで放出し、グローブを出現させる。

 それを見た優未は、闇の魔法を出されると確信する。

「させない!!」

 優未は彼が魔法を使う前に炎で先制しようとする。


 しかし、炎は全く出すことが出来なかった。


「どうして……。今、全力で出そうとしてるのに……」

「それは私があなたの拘束具を弄って制限を強めたからですよ。そんなものを使うと悪用されるってことを頭に入れておくべきでしたねぇ」

 優未が魔法が使えないという事態に戸惑ってていると、セシルがグローブから闇の球体を作る。

「これで終わりですねぇ!」

 そう言ってセシルは、バレーボール大になった闇の球体を優未に射出しようとする。

 もう駄目だと優未は観念したが、その球体は射出されることはなかった。


 何故なら、セシルは彼の背後目がけて氷の矢が射出されることに気が付いたからだ。


 氷の矢はセシルがとっさの判断で避けたため当たらなかったが、彼の攻撃を防ぐ形となった。

 優未は矢の射線上に入ってしまっていたが、矢は優未に突き刺さることなく、彼女の目の前で砂のように崩れ去る。

「まったく、外に出るなと言いましたのに……」

 矢を放った主であるアリスは呆れ口調で呟く。

「セシルでしたっけ? うちの身内がお世話になりましたわね。ここで勝負してもよろしくてよ?」

 アリスはセシルに弓矢を構えながらそう言うと、セシルは高笑いを始めた。

「その必要はないですよぉ! 私の任務はもう終わらせましたからぁ! アッハハハハハ!!」

 そう言ってセシルは高笑いしながら闇を自分の身体に包み込む。

「ちょっと待ちなさい!!」

 アリスがそう言ったころにはすでに、セシルの姿は消えていた。どうやら彼は移動魔法を使って脱出したようだ。

 アリスは彼が消えたことを確認した後、説教しようとするのか、優未の方へ近づく。

 その時、路地裏の外から若い男女の悲鳴が響く。

「まさか……!!」

 アリスはとっさに手に吸い込むように弓矢をしまい、悲鳴がした方へ駆け出す。セシルの脱出によって、魔法制御が解かれた優未も、魔具を手の中にしまい、アリスを追うように駆ける。

 優未たちが路地裏を出ると、悲鳴の主は高校に残っていた生徒ということが判明する。


 そこには数人の高校生の死体が転がっていた。


 死体はそれぞれ身体が二つに切断されており、この世界の方法ではありえない死に方をしていた。

 アリスは、アンブランクによるものだと判断したのか、周りを見渡している。

「いないですわね……。すでに逃げたって感じですわね」

 目の前の惨状を見て優未は、その場から逃げ出した。


(私が関わったからこんなことになったんだ。私のせいで……)

 高校から離れた優未は自己嫌悪する。


 もし、自分がセシルの口車に乗っていなかったらこんなことにならなかったと。


「ガハッ! オエッ! ゲホッゲホッ!」

 優未は高校での惨状と自分が犯してしまった罪に耐え切れず、ついに四つん這いになって嘔吐してしまった。

(なんで……。なんで私は何もできないの……。それは魔法が使えても同じ……)

 優未は立ち上がって周りを見渡すと、自分はがむしゃらに逃げたため、セシルと戦闘していた路地裏に戻ってしまっていることに気づく。

「こんなとこ長居したらまずいよね……。そろそろ出ないと。あっ、そうだ」

 優未はそう言って、自分の右手の手のひらから魔具を取りだす。

「いつ敵来るか分からないから一応出さないと……。どうせ役立たずになりそうだけど……」

「そこを動くな!!」

 優未の背後から男の声がした。

 振り向くとそこには二人の男がいた。

 二人ともショートヘアーではあったが、一人はビジネスマンとしては模範的なもので、もう一人はモデルに出てきそうなおしゃれなものだった。

 すると、おしゃれなショートヘアーは、模範的な方にこう言った。


「幼い女の子には見えるけどマルMってことでいいっすかね? ()()()()




 賢太郎は一人の少女を見つけた。

 見た目は中学生ほどで、髪は短く、模範的に整えられた賢太郎とは真逆で、何日も散髪していないのかボサボサになっている。

 一番の特徴としては杖状のものを持っていたということだ。

 賢太郎は彼女が魔法のようなもので杖を取りだした様子を見ており、この少女はマルMではないかと推測した。

「しかしあの通信の後、目の前のマルMで手こずったせいで遅れてここに来たら、この少女がいたってわけか。どうします?」

「彼女が無害とは限らない。やるしかない」

 浅木がモデルのようなショートヘアーの後頭部をかきながら問うと、賢太郎はそう答え、少女に銃を構える。

「待って! 私は違う!」

 銃を構えた途端、少女は自分は無実だと訴える。

「私は愛原優未! 二川中学の二年生! アンブラ……魔術師とは違うの!」

「ならばなぜ魔法が使える?」

『優未』と名乗った少女の訴えに動じず、賢太郎は問う。

「それは……」

「そこでどもるってことは黒ですかねー」

 浅木が口を挟む。

「でも、例え私が魔術師だとしても人を殺したりしないから……」

『優未』は続けて訴えるが、二人に追い詰められたことによって、口調が弱くなっていた。

「それでは始末する」

 賢太郎は『優未』に向かって拳銃の引き金に手を引こうとする。


 しかし賢太郎はどうしても引き金を引くことが出来なかった。


(何故だ……。見た目は少女だとしても人を殺そうとした奴だぞ……)

「おいどうした藤元!」

 浅木が呼びかけるが、賢太郎の耳には届かない。

(少女だけではない……。他の連中も殺してもいい気はしなかった。俺は弱い人間なのか……?)

「仕方ない。俺が撃つとするか」

 銃を持った手が震えている賢太郎を見て浅木は『優未』に銃口を向け、撃とうとする。

 その時、二人の目の前に一本の矢が飛び出してくる。

 その矢は二人のどちらかに突き刺さることはなく、手前で爆発し、ドライアイスのような煙幕が現れ、二人の視界を遮る。

「うわっ!」

 賢太郎は突然の出来事に驚いて我に返る。

「――――」

 賢太郎は、煙幕の中の『優未』の声に耳を傾けたが、煙幕が晴れると、そこには『優未』の姿はなかった。


「しっかし少女もマルMとはなー。撃ちにくいのも無理ないから気にすんな」

 浅木は賢太郎にそう励ます。

「すまない……」

「あっそうそう、前に撤退命令来てたから、俺らも引き上げますか」

「ああ……」

 賢太郎は煙幕の中で聞いた声について考えている。

 はっきり聞こえた状態ではなかったが、賢太郎にはこう聞こえていた。


 ごめんなさいと。








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