第三章 雷鳴(5)
『マルMが確認された。出動を要請する』
AMT宛にこのような通信が届き、賢太郎たちはAMTの車に乗って出動していた。今回の場所は、前に廃工場で殺された学生が通っていた学校近くとのことだった。
「しっかし、マルM確認するの早いっすね」
浅木は軽口を叩いた。
「つか、最初の出撃の時と大分日が離れてないか? なんか対策立てられそうでこわいなー」
「でもやるしかない」
浅木の台詞に賢太郎が返す。
「まあなんか、新しい武器が開発されてるって聞いてるしやられっぱなしにはならないとは思いたいね。おっと着いたみたいだ」
賢太郎たちは改めて作戦内容を聞き、車を降りた。
「前と同様、スナイパーと俺らで連携するっぽい感じかな。スナイパーはもう準備終わってるみたいだな。さて、俺たちも行きますか」
浅木がそう言った瞬間、路地裏で爆発音が鳴り響いた?
「何!? スナイパーたちが爆発でやられただと!?」
車に乗っていた神野は、通信機を持ちながらうろたえている。
「早速対策してきたわけか……」
賢太郎は今起きている状況を見てそう判断した。
「あの人たちには罪はないですけど仕方ないですわね」
アリスは自分の魔法の発動を確認した後、そう呟いた。
彼女は、路地裏の壁の高い部分に、あらかじめルーンを貼っておいていた。そのルーンには、アリスの指示で氷の爆発するように、呪文が書き込まれていた。氷の魔法と魔法の遠隔操作は、彼女が最も得意としているものだ。目的は爆発を起こし、前の戦いで障害となったスナイパーを無力化することだ。
「一応死なないように調整したのですけどね。あいにく、殺しは趣味ではありませんもの」
「お前は我々を阻害するアンブランクか!?」
アリスの目の前に、ナイフを持った紺のジャケットを着た男が現れた。
「あなたは『クリーナー』のアンブランクですのね。それなら……」
そう言ってアリスは、あらかじめ用意した弓矢をジャケット男に放った。
「ふん、射撃系か。対策はAMTって奴らと変わらんな!」
そう言ってジャケット男は手のひらを突き出して、防御のための魔法陣を出現させた。
「甘いですわね!」
アリスは指を鳴らすと、矢は上方に曲がり、ジャケット男の頭上を通り過ぎた。彼女がさらに指を鳴らすと、通り過ぎた矢はUターンし、ジャケット男の背中に向かい、突き刺した。
「がぁっ!!」
ジャケット男は悲鳴をあげ、そのまま倒れた。
「さて、おとなしくしてもらおうかしら」
そういってアリスが取りだしたのは、アリスが使っているものとは違う、白いルーンだった。それをジャケット男に投げ込むと、そのルーンは彼の身体へ吸い込まれた。
「これでもう彼の記憶が消え、魔法を封じられますわね」
アリスはそう言って他のアンブランクを探そうとしていると、目の前に戦闘服を着た40代の男二人が現れた。
「角刈りに丸坊主……。この前の二人に間違いありませんわね」
「また会ったな。他の奴らとは雰囲気違うようには見えるが、油断するつもりはない」
丸坊主の方はそう言って、アリスに銃口を向ける。角刈りも同じく彼女に銃口を向けている。
「いくぞ!」
角刈りの怒号と同時に、二人はアリスに突撃する。丸坊主は彼らから見て左、角刈りは右と彼女を挟むように回り込み、銃を放つ。
(挟む形にして焦点を合わせないつもりね……)
放たれた銃弾は何発か放たれたが、それをアリスが両手から防御魔法を発動させて左右を防ぐことで被弾を防ぐ。
(このまま続くとまともに攻撃できませんわね……。スナイパーを無力化してなかったら終わりでしたわね……)
しかし、二人は何発か撃った後に発砲をやめ、マガジンの交換を始めた。どうやら二人は弾切れを起こしたようだ。
(この程度わたくしに勝てると思いまして!?)
アリスは右手から新しい矢を魔法で出現させ、それを弓で放つ。放った方向は丸坊主にでも角刈りにでもなく、その間に。
彼女が指を鳴らすと、放った矢が二つに分裂する。分裂した矢はそれぞれ別々の方向へ軌道修正し、一本は丸坊主の方へ、もう一本は角刈りの方へ突き進む。
二人は自分の方に突き進んだ矢をとっさに避けた。しかし、完全に避けきれず、丸坊主は左太もも、角刈りは右脇腹に矢がかすった。矢は氷で出来ており、かすった部分で凍傷を起こしていた。
「これを避けられるなんて大したものですわね」
アリスは、凍傷でうずくまっている二人を眺めてそう言う。
彼女は二人から去ろうとすると、二人の通信機から声が流れ始める。
『こちら、藤巻。強大なマルMを発見した。少人数ではかなわない相手だ!応援をがあああぁ!!』
通信機は藤巻と名乗った男の悲鳴が聞こえた後に途絶えた。
ある者からの電話を出た優未は、とある場所に向かっていた。優未は胸の奥は、黒いものが押し付けられるように苦しくなっていた。
(こんなこと……あっていいはずがないよ)
優未は目的地に向かいながら、自分の右手の手のひらを眺める。あらかじめアリスたちにその手のひらからの魔具の取りだし方は伝授してもらっている。
(魔法の扱いはまだ未熟だけど……。やるしかないよね)
優未はようやく目的地に着いた。電話の主には、そこで待ち合わせるように言われていた。
あたりは静かであり、主が来る様子がしないと優未は思った。
「やっぱいたずらだったよね……。あっ、早く帰らないとアリスちゃんに……」
「おやおやまた会えるなんて嬉しいですねぇ!!」
彼女はその声の主をどうしても忘れることが出来なかった。
男では珍しい長い髪
整ったタキシード姿
漂う高貴なオーラ
彼はかつて菅田真希を昏睡状態に追い込んだセシルだった。
「さて、ショータイムといきましょうかぁ!!」