第三章 雷鳴(4)
「全然ダメですわ。点数にするなら0点ってとこかしら」
アリスは優未の魔法に対しての評価は厳しいものだった。
「いやでも見たでしょ?あの火力はなかなか出ないよ」
「火力さえよければいい問題ではなくてよ」
武雄の弁論をアリスは否定した。
「私のどこがいけなかったの……?」
「あなた、魔法使うときにとりあえず炎を出せばいいのか考えてらしくて?」
「いや、制御とか今の優未ちゃんには難題だって……」
「あなたは黙って!!」
「でも一回だけでは分からないでしょ?」
武雄の言葉にアリスは少し考え込んだ。
「……それは一理ありますわね。少し考えなおしますわ」
「ありがとうございます!」
アリスの言葉に優未は安堵する。
「ただし、あなたが今その力をセーブ出来たらの話ですけど」
そう言ってアリスは、武雄に指示する。それは優未の前に杭を三本召喚させるようにというものだった。
武雄は指示通り、彼のナイフ状した魔具を用いて優未の目の前に杭を三本横並びになるように召喚させた。
「あなた、自分の魔法で真ん中の杭だけ潰せるかしら?」
「うん……」
優未は自分の杖を真ん中の杭に向けた。
(今度は力を控えめにしないと……。控えめに控えめに……)
優未は前より控えめに放つように念じ、炎を吐き出した。
しかし、吐き出された炎は優未が初めて炎を放った時のような小さいものが一瞬ついては消えるといったものだった。
「やっぱりね。あなた、力加減ができないのよ」
「そんな……」
「料理下手が調味料入れているのと同じなのよ。適量で出そうとしても出しすぎたりその逆になったり……」
「これじゃあ私……」
「自分を守るどころか、無関係の人間を傷つけることになりますわね。それかなにもできずに自滅するか」
アリスの言葉に対して優未は言い返すことが出来なかった。
それから何回も魔法を発したのだが、炎が強すぎたり弱すぎたりしてしまい、結局真ん中の杭だけを潰すことが出来なかった。
「やっぱりあなたは魔法を使えてもダメですわね」
優未は自分の不甲斐なさに落ちこんでいた。まるで、胸のあたりが重りで押さえつけられるように。
(やっぱり私はダメなんだ……。魔法が使えても私は私……)
「でも全くダメってことじゃないと思うんだけど……」
優未の暗い表情を見た武雄は励ました。
「お世辞はもういいです。心無いこと言うくらいなら貶された方がましです……」
優未は武雄の言葉に心が届かない。しかし武雄は諦めなかった。
「一つだけ優未ちゃんがまともに魔法を使える方法を知ってるんだけど」
クリスを含め、クリーナーのメンバー4人は廃墟となったビルの会議室にいる。
部屋の中央に机があり、前方にビデオ通話を繋げているパソコンが置かれており、それを挟むようにアンブランクが二人ずつ、左右に座っていた。
『これで全員か?』
パソコンから声が流れる。その声はマスターのもので、映像は流されていない。
「いえ、もう一人いるのですが、ここには参加しないとのことです」
クリスは流れたマスターの声に対してそう答える。
『そうか……。彼ならあり得るな』
「ところで要件は何でしょうか?」
『クリーナーと交戦した組織の詳細が分かった』
マスターの対応の早さにクリスは驚く。
「そうですか。彼らは一体なんなのですか?」
『その組織はAMTと呼ばれる組織だ。警察が作った組織で、我々に応戦できるほどの兵器も開発してるとのことだ』
「なるほど、警察も力を持つようになったってことですか?」
『そうだ。彼らの情報の詳細はメールで送った』
クリスたちは送られたメールを見る。そのメールには、組織の目的だけではなく、兵器の性能やメンバーの情報も添付されていた。
「まさかここまでの情報が得られるとは……」
『そこでだ。今後は、これらの情報を頭に入れて行動して欲しい』
「了解しました」
『後、我々に刃向かうアンブランクにも気をつけよ』
それは氷を扱うアンブランクのことを言っているのだろう、とクリスは考える。『紅眼の魔術師』もその一人だが最近は消息不明である。
『それでは日程なのだが……』
優未が魔具を使った数日経った。
優未は武雄の家にある客室のベッドに腰を掛けている。
武雄は他のアンブランク仲間の元へ外に出ている。
アリスも市民を脅かすアンブランクの制圧のために外に出たが、彼女が外に出る際、まともに魔法が使えないのなら外出しないようにと優未に忠告した。
「いつまでこうしているのかな……」
優未は退屈そうにしていたが、外に出ればアンブランクに狙われるだけではなく、アンブランクのように魔法が使えるせいでそれらを撃退する組織に狙われる可能性がある。自分が半端程度しか魔法が使えないことを考えてもアリスの忠告は優未には正しく感じられる。
優未が何もすることないから昼寝でもしようかと考えた
その時、彼女のスマートフォンから電話の着信音が鳴った。
優未は自分のスマートフォンを見ると宛先は非通知になっていた。
彼女は恐る恐る電話に出る。
電話の着信を受け入れたスマートフォンからは耳触りな声や口調が流れてきた。
優未はその声を聞くと外に出ずにはいられなかった。